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19話
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これほど火曜日って楽しくなかったっけ、と聖恒は思った。いつもは放課後が楽しみ過ぎて、待ち遠しいながらもそれまでの間すら楽しかった。
昼休みに真和と喋っていると、教室へやってきてしばらく仲がいいのであろう女子と話していた利麻が近づいてきた。
「何の話? カズが女装してた話?」
「してねーよ!」
「何それ、俺聞いてない」
「だからしてねーの!」
真和が思い切り引いたような顔をしている。
「あはは、ごめん。昔の話」
「あー、小さい頃のか。かわいそうに。こん、トラウマになってんぞ」
生ぬるい表情を浮かべつつも楽しげに聖恒は言い返す。
「そうなの?」
「そうだよ、あやまれよな俺に」
「ごめんごめん」
「軽いなっ?」
「でも、カズに女装させて遊んだの懐かしいなあ」
サラッと謝った後に利麻が昔を思い出したように目をつむりながら言う。その後すぐに目を開けたところまで、真和は唇を尖らせたまま黙って見ていた。ずっと気が晴れなかった聖恒は少し笑う。
「哀れだとは思うけど、俺も見てみたかったかも」
「やめて」
黙っていた真和が即言い返してきた。
「何なら私の制服着ればいーし」
「だからほんと、やめて? つか、今着たら俺犯罪にしか見えねぇし!」
その言葉に利麻だけでなく聖恒まで「……くっ」と笑いを堪える。
「きょー? 利麻?」
ポカンとした真和に、二人そろって「ごめん、想像した」と告げ、引き続き笑いを堪えた。
「お前らほんっと、ヤダ!」
そんなやりとりしていたら随分と気は晴れた。それでも合間にはどうしても恵のことが浮かんでくる。間隙を縫うかのように、わずかな隙間すら見逃してくれなかった。ずるいよ、と聖恒は思う。
何でそんなに出てくるの。おかげでこっちは落ち込むわ考えはまとまらないわで。
連絡先のことは本当に後悔しかない。数日前に気づいた時は「まあ、次の授業の時でいいか」などと気楽に思っていた。次の授業なんてもう来ない。
もちろん、二度と会えないわけではない。大学は分かっている。しかも兄の遥希と同じ大学だ。自分で恵を探そうと思えば探せないこともないし、遥希に聞いてみてもいい。クラスどころか学年すら違うからわからないかもしれないが、そういった可能性を考えると二度と会えないのではない。なのに今は妙に力が出なかった。
好きだと気づいたばかりだった。男同士だということに悩まないわけはない。それでも好きだと自分の心の中でも確信したばかりだった。そしてキスして、これからもしかしたらという時に会えなくなった。約束した週末のデートも駄目になったのではないだろうか。第一待ち合わせを決めていない。先生でなくなった恵が、時間も何も決めていないというのに家まで来て待っていてくれるとは思えない。そもそも親に気を使いそうだ。
そう思うと、絶対に会えないわけではないのでそれほど悲観する必要ないだろうが、どうしても力が出なかった。
もちろん、家庭教師終了を受け入れた恵に対して文句などない。むしろそういう契約だったにしろ、いきなりでごめんなさいと思う。
テンション、上がらないなぁ。
ため息こそつかなかったがそう思っていたら、放課後に真和が声をかけてきた。
「きょー、何か落ち込んでる?」
「何で」
「だってそういう風に見える」
「お前、俺のこと観察でもしてんの?」
「うん、してる」
冗談で言うとサラリと返ってきて聖恒は微妙な顔を向けた。
「キモイぞ」
「冗談だよ。それより、どうしたんだよ」
今日は本来なら家庭教師のあった日だ。部活もないため、聖恒はそのまま真和と帰りながら話した。
「俺の好きな人、今日から来ない」
「それって、あれ? カテキョ終わったの?」
「うん。俺の成績も大丈夫だろうって終了した」
「マジか」
真和は心配そうに聖恒を見てきた。普段よくふざけ合っているし適当なことばかり言っているが、こういう時はちゃんと話を聞いて一緒になって悲しんでもくれる。この間、恵が好きだと打ち明けた時も最初は戸惑いつつも真剣に聞いてくれていた。
「連絡先交換してねーの?」
「してない。すればよかったって多分もう千回は後悔してる」
後悔しても無駄なのはわかっている。ただ感情は理性の通りに中々動いてくれない。今も初めて自分の中だけでなく口に出したことで、後悔を本気で感じていた。恵のことは遥希と大学が同じということと車が趣味ということ以外、何も知らないんだなとそして思い知った。そう思うことでますます悲しくなる。
真和はそんな聖恒を見て、何故か複雑そうな顔をしてきた。
「きょー……」
「ああ、悪い。まあ、いざとなったら大学押しかけるよ」
「そっか……」
そのまま真和は俯いて黙ってしまった。聖恒が「こん?」と呼び掛けるとだがバッと顔を上げ「わりぃ、俺用事思い出したから、先、帰ってて!」と聖恒の肩をつかんできた。
「ぉ、おう」
「元気出せなんて言っても仕方ねーこと言わねーけどな、あんま考えすぎんなよ!」
真和はそう言うと、ポカンとしている聖恒にニコニコ手をあげ、その場から走ってどこかへ行ってしまった。
昼休みに真和と喋っていると、教室へやってきてしばらく仲がいいのであろう女子と話していた利麻が近づいてきた。
「何の話? カズが女装してた話?」
「してねーよ!」
「何それ、俺聞いてない」
「だからしてねーの!」
真和が思い切り引いたような顔をしている。
「あはは、ごめん。昔の話」
「あー、小さい頃のか。かわいそうに。こん、トラウマになってんぞ」
生ぬるい表情を浮かべつつも楽しげに聖恒は言い返す。
「そうなの?」
「そうだよ、あやまれよな俺に」
「ごめんごめん」
「軽いなっ?」
「でも、カズに女装させて遊んだの懐かしいなあ」
サラッと謝った後に利麻が昔を思い出したように目をつむりながら言う。その後すぐに目を開けたところまで、真和は唇を尖らせたまま黙って見ていた。ずっと気が晴れなかった聖恒は少し笑う。
「哀れだとは思うけど、俺も見てみたかったかも」
「やめて」
黙っていた真和が即言い返してきた。
「何なら私の制服着ればいーし」
「だからほんと、やめて? つか、今着たら俺犯罪にしか見えねぇし!」
その言葉に利麻だけでなく聖恒まで「……くっ」と笑いを堪える。
「きょー? 利麻?」
ポカンとした真和に、二人そろって「ごめん、想像した」と告げ、引き続き笑いを堪えた。
「お前らほんっと、ヤダ!」
そんなやりとりしていたら随分と気は晴れた。それでも合間にはどうしても恵のことが浮かんでくる。間隙を縫うかのように、わずかな隙間すら見逃してくれなかった。ずるいよ、と聖恒は思う。
何でそんなに出てくるの。おかげでこっちは落ち込むわ考えはまとまらないわで。
連絡先のことは本当に後悔しかない。数日前に気づいた時は「まあ、次の授業の時でいいか」などと気楽に思っていた。次の授業なんてもう来ない。
もちろん、二度と会えないわけではない。大学は分かっている。しかも兄の遥希と同じ大学だ。自分で恵を探そうと思えば探せないこともないし、遥希に聞いてみてもいい。クラスどころか学年すら違うからわからないかもしれないが、そういった可能性を考えると二度と会えないのではない。なのに今は妙に力が出なかった。
好きだと気づいたばかりだった。男同士だということに悩まないわけはない。それでも好きだと自分の心の中でも確信したばかりだった。そしてキスして、これからもしかしたらという時に会えなくなった。約束した週末のデートも駄目になったのではないだろうか。第一待ち合わせを決めていない。先生でなくなった恵が、時間も何も決めていないというのに家まで来て待っていてくれるとは思えない。そもそも親に気を使いそうだ。
そう思うと、絶対に会えないわけではないのでそれほど悲観する必要ないだろうが、どうしても力が出なかった。
もちろん、家庭教師終了を受け入れた恵に対して文句などない。むしろそういう契約だったにしろ、いきなりでごめんなさいと思う。
テンション、上がらないなぁ。
ため息こそつかなかったがそう思っていたら、放課後に真和が声をかけてきた。
「きょー、何か落ち込んでる?」
「何で」
「だってそういう風に見える」
「お前、俺のこと観察でもしてんの?」
「うん、してる」
冗談で言うとサラリと返ってきて聖恒は微妙な顔を向けた。
「キモイぞ」
「冗談だよ。それより、どうしたんだよ」
今日は本来なら家庭教師のあった日だ。部活もないため、聖恒はそのまま真和と帰りながら話した。
「俺の好きな人、今日から来ない」
「それって、あれ? カテキョ終わったの?」
「うん。俺の成績も大丈夫だろうって終了した」
「マジか」
真和は心配そうに聖恒を見てきた。普段よくふざけ合っているし適当なことばかり言っているが、こういう時はちゃんと話を聞いて一緒になって悲しんでもくれる。この間、恵が好きだと打ち明けた時も最初は戸惑いつつも真剣に聞いてくれていた。
「連絡先交換してねーの?」
「してない。すればよかったって多分もう千回は後悔してる」
後悔しても無駄なのはわかっている。ただ感情は理性の通りに中々動いてくれない。今も初めて自分の中だけでなく口に出したことで、後悔を本気で感じていた。恵のことは遥希と大学が同じということと車が趣味ということ以外、何も知らないんだなとそして思い知った。そう思うことでますます悲しくなる。
真和はそんな聖恒を見て、何故か複雑そうな顔をしてきた。
「きょー……」
「ああ、悪い。まあ、いざとなったら大学押しかけるよ」
「そっか……」
そのまま真和は俯いて黙ってしまった。聖恒が「こん?」と呼び掛けるとだがバッと顔を上げ「わりぃ、俺用事思い出したから、先、帰ってて!」と聖恒の肩をつかんできた。
「ぉ、おう」
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