29 / 45
29話
しおりを挟む
試験の結果は今回もばっちりだった。聖恒はニコニコ恵にも報告した。恵は自分のことのように喜んでくれた。
その恵だが、今はもう新しい家庭教師のアルバイトを始めている。今度は女子高生らしい。
「どんなって……そりゃかわいい子だよ。自分でできるからいらないとも言われなかったし」
「む……。どんな感じ? そんなにかわいいの?」
恵もニコニコと、聖恒にとってはそこそこ悪質な冗談を言ってきたがそれには誤魔化されず、女子高生について追及する。
「きよ、怒らない?」
え、何だよそれっ?
即座に思ったが、ぐっと飲み込んで「……怒らない……と思う。けど聞かなきゃわかんない」と正直に答えた。
「うーん。できれば怒らない方向で。……その、俺にとって基本的に高校生は皆、かわいいんだ」
「え?」
「もちろん、きよは別だよ? でもごめん、元々は年下とつき合ったことないし、年下の高校生たちはどうしてもかわいく見える」
予想していたのとは違う答えが返ってきた。その子についてのかわいさを聞くつもりが、年下について聞かされてある意味とても微妙な気持ちだ。
「って、もしかして前から俺のことかわいいって思ってたのも……?」
「ああ、きよはまた別だってば。きよに対しては弟みたいにかわいいなって思ってたから、一般の高校生に対してと少し違う」
弟。それだって少々複雑だと聖恒は思う。もちろん今はちゃんと好きでいてくれるのはわかっているので怒るに怒れないが、微妙だ。
「じゃあその女子高生と、どーにかなるとかは……」
「えっ? 君とどーにかなっておいて言う資格ないかもだけど、ないよ」
驚かれた後に苦笑された。その様子には「そんなこと思いもよらなかった」といった恵の気持ちがありありと出ている。
思いもよらなかったからこその、ああいった返答だったのだろうなと安心しつつも、やはり微妙だ。だからといって「年下とか関係ない」などと言えば本末転倒というか、その女子高生を少しでも対象に思わせてどうする、と自分に諌める。
「だ、だからといって油断しちゃ駄目だからね?」
「何の?」
「めぐちゃんは綺麗な顔してるから。普通に女にも下手したら男にもモテるから」
「それはきよだろ」
何言っているんだと恵がまた苦笑する。もしかしてこの人は本気でそう思っているのだろうかと聖恒はため息つきそうになった。
顔が整っている自覚ない人は多々いるかもしれないが、恵にだけは多少なりとも自覚していて欲しかったと思う。恵の顔が整っていると思うのは決して惚れている聖恒の欲目だけではない。少なくとも真和も「綺麗な顔してるよな」と言っていた。
「は?」
「喫茶店でラテ奢ってもらったから言ってんじゃねーぞ。近くで見てて思った」
「思わなくていーけど」
「おやおや、俺が取るんじゃねーかって心配してんの?」
「イラっとするからその言い方と顔やめろ。つか、めぐちゃん年上だけど、おねーさんじゃねーからお前対象じゃねーだろ。だいたいお前に取られる心配はさすがにしない」
「きょー」
「俺のが絶対めぐちゃんの好みだろーし」
「そこは親友のお前がそんなことするわけないの知ってるし、とかだろ!」
そんなやり取りをしたのを思い出しつつ、そういえば恵の好みって知らないなと気づいた。
「自覚なくてもいーから、気をつけて。わかった?」
「わかったって言われても……何に油断しなければいいんだ?」
「誘惑とか」
「いやないだろ」
「いいから気をつける!」
「……わかった」
恵がまた苦笑している。ああ、押し倒したいなあと聖恒は不意に思う。
二人がいるのは、周りは木々に囲まれた木陰のベンチだ。蝉が懸命になって求愛しているこの時期、さすがに人の気配は他にない。聖恒たちも先ほどまでアイスを食べていたとはいえ、木陰の風だけではそこまで快適とは言えない。それでも二人きりではある。
ただ、問題はここが恵が在学している大学の中ということだ。こんなとこで押し倒した日には、恐らく恵はしばらく口を利いてくれなくなるかもしれない。
聖恒が何故大学にいるかというと、夏休みに入っているからだ。高校生が夏休みであっても大学生はまだらしい。ある日、恵にお願いして紛れ込まさせてもらった。真面目な恵は駄目だと言うかと思えば、意外にもあっさり「いいよ」と言ってくれた。
先ほどは授業も受けた。聖恒が紛れ込んでも周りも何も言わない。
「バレないの?」
「まあ、広いとこだしね」
授業はさっぱりわからなかった。
とりあえず押し倒すのは我慢して、聖恒は気づいたことを聞いてみた。
「そういえばさ、めぐちゃんの好みってどんなの?」
「好み?」
「うん、タイプの子」
ポカンとしていた恵が笑った。
「ああ。……んー……好み、かぁ」
「そんな考えること?」
「まぁ、ね。俺、あまりそういうの、なくて」
「え、でも今までつき合ってきた子とかは……」
「告白されたり、好意を周りから聞かされてついその気になっちゃったりとかで……」
軽……!
聖恒は微妙な顔で恵を見る。
「適当につき合ってたの?」
「そういうわけじゃないよ。いやまあきっかけは受け身だけど、つき合ったら俺もちゃんと相手のこと、好きになってたよ。だいたい苦手な子だったらさすがに俺もつき合わない」
「じゃあやっぱ好みあるってことだろ」
「好みっていうか……例えば明らかに性格が悪そうとかだったら多分苦手だろうなって」
「漠然としてるなあ」
聖恒が言うと、恵は少し困ったような、落ち込んだような表情をした。
「……こんなだからつき合っても続かなかったのかもなあ。でも俺は俺なりに相手の子、大事にしてきたんだけどな」
恵の表情を見て、聖恒は慌てて手を振った。
「別に駄目だとかそんなことは言ってないよ? その、ただめぐちゃんの好みが俺、知りたかっただけだから。それに今もちゃんとめぐちゃん、俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
そう言うと、何故か恵が今度は少し嬉しそうな顔をしてきた。困った顔のままか照れるくらいかもと思っていたので嬉しそうな表情は意外だった。
「……ありがとう、きよ。うん、俺、きよが好きだし大事だよ。そうだな、好みはきよ、かな」
優しい声で恵が穏やかに言ってくる。思わず聖恒は真っ赤になってしまった。
その恵だが、今はもう新しい家庭教師のアルバイトを始めている。今度は女子高生らしい。
「どんなって……そりゃかわいい子だよ。自分でできるからいらないとも言われなかったし」
「む……。どんな感じ? そんなにかわいいの?」
恵もニコニコと、聖恒にとってはそこそこ悪質な冗談を言ってきたがそれには誤魔化されず、女子高生について追及する。
「きよ、怒らない?」
え、何だよそれっ?
即座に思ったが、ぐっと飲み込んで「……怒らない……と思う。けど聞かなきゃわかんない」と正直に答えた。
「うーん。できれば怒らない方向で。……その、俺にとって基本的に高校生は皆、かわいいんだ」
「え?」
「もちろん、きよは別だよ? でもごめん、元々は年下とつき合ったことないし、年下の高校生たちはどうしてもかわいく見える」
予想していたのとは違う答えが返ってきた。その子についてのかわいさを聞くつもりが、年下について聞かされてある意味とても微妙な気持ちだ。
「って、もしかして前から俺のことかわいいって思ってたのも……?」
「ああ、きよはまた別だってば。きよに対しては弟みたいにかわいいなって思ってたから、一般の高校生に対してと少し違う」
弟。それだって少々複雑だと聖恒は思う。もちろん今はちゃんと好きでいてくれるのはわかっているので怒るに怒れないが、微妙だ。
「じゃあその女子高生と、どーにかなるとかは……」
「えっ? 君とどーにかなっておいて言う資格ないかもだけど、ないよ」
驚かれた後に苦笑された。その様子には「そんなこと思いもよらなかった」といった恵の気持ちがありありと出ている。
思いもよらなかったからこその、ああいった返答だったのだろうなと安心しつつも、やはり微妙だ。だからといって「年下とか関係ない」などと言えば本末転倒というか、その女子高生を少しでも対象に思わせてどうする、と自分に諌める。
「だ、だからといって油断しちゃ駄目だからね?」
「何の?」
「めぐちゃんは綺麗な顔してるから。普通に女にも下手したら男にもモテるから」
「それはきよだろ」
何言っているんだと恵がまた苦笑する。もしかしてこの人は本気でそう思っているのだろうかと聖恒はため息つきそうになった。
顔が整っている自覚ない人は多々いるかもしれないが、恵にだけは多少なりとも自覚していて欲しかったと思う。恵の顔が整っていると思うのは決して惚れている聖恒の欲目だけではない。少なくとも真和も「綺麗な顔してるよな」と言っていた。
「は?」
「喫茶店でラテ奢ってもらったから言ってんじゃねーぞ。近くで見てて思った」
「思わなくていーけど」
「おやおや、俺が取るんじゃねーかって心配してんの?」
「イラっとするからその言い方と顔やめろ。つか、めぐちゃん年上だけど、おねーさんじゃねーからお前対象じゃねーだろ。だいたいお前に取られる心配はさすがにしない」
「きょー」
「俺のが絶対めぐちゃんの好みだろーし」
「そこは親友のお前がそんなことするわけないの知ってるし、とかだろ!」
そんなやり取りをしたのを思い出しつつ、そういえば恵の好みって知らないなと気づいた。
「自覚なくてもいーから、気をつけて。わかった?」
「わかったって言われても……何に油断しなければいいんだ?」
「誘惑とか」
「いやないだろ」
「いいから気をつける!」
「……わかった」
恵がまた苦笑している。ああ、押し倒したいなあと聖恒は不意に思う。
二人がいるのは、周りは木々に囲まれた木陰のベンチだ。蝉が懸命になって求愛しているこの時期、さすがに人の気配は他にない。聖恒たちも先ほどまでアイスを食べていたとはいえ、木陰の風だけではそこまで快適とは言えない。それでも二人きりではある。
ただ、問題はここが恵が在学している大学の中ということだ。こんなとこで押し倒した日には、恐らく恵はしばらく口を利いてくれなくなるかもしれない。
聖恒が何故大学にいるかというと、夏休みに入っているからだ。高校生が夏休みであっても大学生はまだらしい。ある日、恵にお願いして紛れ込まさせてもらった。真面目な恵は駄目だと言うかと思えば、意外にもあっさり「いいよ」と言ってくれた。
先ほどは授業も受けた。聖恒が紛れ込んでも周りも何も言わない。
「バレないの?」
「まあ、広いとこだしね」
授業はさっぱりわからなかった。
とりあえず押し倒すのは我慢して、聖恒は気づいたことを聞いてみた。
「そういえばさ、めぐちゃんの好みってどんなの?」
「好み?」
「うん、タイプの子」
ポカンとしていた恵が笑った。
「ああ。……んー……好み、かぁ」
「そんな考えること?」
「まぁ、ね。俺、あまりそういうの、なくて」
「え、でも今までつき合ってきた子とかは……」
「告白されたり、好意を周りから聞かされてついその気になっちゃったりとかで……」
軽……!
聖恒は微妙な顔で恵を見る。
「適当につき合ってたの?」
「そういうわけじゃないよ。いやまあきっかけは受け身だけど、つき合ったら俺もちゃんと相手のこと、好きになってたよ。だいたい苦手な子だったらさすがに俺もつき合わない」
「じゃあやっぱ好みあるってことだろ」
「好みっていうか……例えば明らかに性格が悪そうとかだったら多分苦手だろうなって」
「漠然としてるなあ」
聖恒が言うと、恵は少し困ったような、落ち込んだような表情をした。
「……こんなだからつき合っても続かなかったのかもなあ。でも俺は俺なりに相手の子、大事にしてきたんだけどな」
恵の表情を見て、聖恒は慌てて手を振った。
「別に駄目だとかそんなことは言ってないよ? その、ただめぐちゃんの好みが俺、知りたかっただけだから。それに今もちゃんとめぐちゃん、俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
そう言うと、何故か恵が今度は少し嬉しそうな顔をしてきた。困った顔のままか照れるくらいかもと思っていたので嬉しそうな表情は意外だった。
「……ありがとう、きよ。うん、俺、きよが好きだし大事だよ。そうだな、好みはきよ、かな」
優しい声で恵が穏やかに言ってくる。思わず聖恒は真っ赤になってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる