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14話
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「ありがとうございました」
最後の客に会釈すると、柚斗は店を閉め始めた。戸締まりをしてから最後にざっと掃除していると扉がガタガタと鳴る。多分その時点でわかっていたのかもしれない。閉店前の時間で戸締まりしていない状況ならまだしも、明らかに閉店後の店の扉をガタガタ鳴らすような相手など、一人しか浮かばなかった。
「うス」
扉を開けると、やはりそこには桜太郎が立っていた。久しぶりに顔を見て、正直なところかなり嬉しく思う自分がいるのを感じつつも、相変わらずだなと微妙な気持ちにもなる。
「……せめてノックできなかった?」
「あ?」
「……ったく。でも、まぁ、久しぶり。もしくはおかえり、か?」
桜太郎の前に立っていた柚斗は通り道を遮って体を横へ避けて笑いかけた。
「……っおかえり、がいっス」
多分嬉しそうにそわそわとした様子で、桜太郎は中に入ってきた。
「おかえり。そこへ座るといい。コーヒーを淹れてくる」
インテリアとして置いているテーブルを指し示すと、柚斗はコーヒーを用意するためにカウンターの中へ引っ込んだ。ちらりと見ると、桜太郎は大人しく言われた通りに座っている。つい柚斗の口元も綻んだ。
コーヒーを淹れながら、柚斗は自分のテンションがやたら向上しているのを感じる。別に今日一日低かった訳ではないが、高くもなかった。
何だろうな、と自分に微妙な気持ちになる。七歳も年下の、それも全然タイプの違う男相手に単純過ぎるだろうと呆れる。
「……兄さんがあのクッソムカつくやつのこと、好きだからだろ」
灯央に言われたことが頭を過った。
好き? いやでもこいつだぞ。
うーんとまた唸りつつ、灯央の「クッソムカつくやつ」という言葉に笑いが込み上げてきた。やはり少しテンションが高いのかもしれない。
コーヒーとカヌレを持っていくと、桜太郎はまだ大人しく座ったままだった。口の悪さや態度をよく知っている分、こういうところはやはりかわいく思えてしまう。
「あれからどうしてたんだ」
「クソ親父と話し合いっス」
「ちゃんと話せたのか?」
「クソ親父だから中々納得してくれなかったっス」
「でも許してもらえたんだな、独り立ちというか……」
確かに桜太郎に一人暮らしをさせたり普通の仕事に就かせるのは心配でならないだろうなと、改めて密かに桜太郎の父親に同情する。
「ここで働くのはでも中々許してもらえねーで、めちゃくちゃ喧嘩したっス」
「あー、そう」
洋菓子店だからだろうか。チャラそうに感じられた、とかだろうかと少し残念に思いつつ柚斗は考えた。
「本気なら資格ぐらい取りやがれとか言われて」
「そこまで? いや別にそんなのなくても……」
製菓衛生師と菓子製造技能士なら柚斗が持っている。菓子作りの仕事をするなら菓子製造技能士は持っておきたかったので開業してから取得したし、そもそも製菓衛生師か食品衛生責任者の資格がないと自分の店は開けない。柚斗は高校、大学時代に祖父のところでアルバイトをしていてその後祖父の勧めで製菓衛生士を取得していたため、開業する際に必要な食品衛生責任者は届けるだけで済んだ。
「んじゃ取ってやんよって言い返したんスけど、何ちゃら技能とか衛生何ちゃらとか取るの、ちょっとヤバくて」
「そりゃ衛生士とか専門学校行くか菓子製造業の仕事を最低二年はしてないと受験資格ないからな……」
「そしたら、お菓子作りインストラクターっつー資格検定見つけてよ。クソ親父唸らせるためにクソほど勉強したっつーんスよ」
「え」
「むちゃくちゃがんばって取ったっス。親父もすげー褒めてくれたっス。その代わりこっちすぐ来れねーでイライラしたっスけどね」
だから時間がかかったのかと柚斗は納得した。
お菓子作りインストラクターという資格は本当にある。国家試験ではないのもあり受験資格は特になく、在宅受験で合格率はだいたい七割だっただろうか。桜太郎を思えばそれでもかなり真剣にがんばったと思われる。
ちなみに資格取得後は、お菓子作りインストラクターとして自宅やスクールで講師活動ができる。要は洋菓子店での仕事にあまり関係ないというのだろうか。
「それは、えっと、おめでとう……」
困惑顔にならないよう努め、柚斗はお互い椅子に座った状態で桜太郎を見上げ笑いかけた。
「あんたの言うとおり、ちゃんと親父に話したっス。伝えたっス。ウゼーけど話し合って認めてもらったっス」
「うん、偉かったね」
「これ、書いてきたっス。親父にも見せた」
笑みを向けると桜太郎が紙を差し出してきた。履歴書だ。
「うん。貰おう」
それを受け取り、柚斗は中を確認した。
住所の下に学歴や職歴を書く欄がある。学校は高校まで書かれていた。以前桜太郎が口で言ってきた学校に間違いない。しかし職歴の下には「任侠の手伝い」と書かれていて吹きそうになった。父親はこれを見て止めなかったのだろうか。
だが右の欄を見て、任侠どころではないと柚斗は唖然とした。いや、免許や資格の欄は自動車免許や先ほど言っていたインストラクターについて書かれていて少し微笑ましくなったし、志望動機の欄も「興味あるから」と書かれていてそれはそれでよかった。趣味や特技のところに「クラブ」とあるのは多分部活動のことではなく踊ったり飲んだりのほうのクラブだろう。そんなこと書くなよと普通なら思うが、本人希望欄に書かれている内容に比べれば気にもならない。
「これ、何。……これ、ほんとにお父さんも見たの……」
「あ? 見せたっつっただろ」
希望欄には「恋人希望」「タチ希望」と書かれていた。
最後の客に会釈すると、柚斗は店を閉め始めた。戸締まりをしてから最後にざっと掃除していると扉がガタガタと鳴る。多分その時点でわかっていたのかもしれない。閉店前の時間で戸締まりしていない状況ならまだしも、明らかに閉店後の店の扉をガタガタ鳴らすような相手など、一人しか浮かばなかった。
「うス」
扉を開けると、やはりそこには桜太郎が立っていた。久しぶりに顔を見て、正直なところかなり嬉しく思う自分がいるのを感じつつも、相変わらずだなと微妙な気持ちにもなる。
「……せめてノックできなかった?」
「あ?」
「……ったく。でも、まぁ、久しぶり。もしくはおかえり、か?」
桜太郎の前に立っていた柚斗は通り道を遮って体を横へ避けて笑いかけた。
「……っおかえり、がいっス」
多分嬉しそうにそわそわとした様子で、桜太郎は中に入ってきた。
「おかえり。そこへ座るといい。コーヒーを淹れてくる」
インテリアとして置いているテーブルを指し示すと、柚斗はコーヒーを用意するためにカウンターの中へ引っ込んだ。ちらりと見ると、桜太郎は大人しく言われた通りに座っている。つい柚斗の口元も綻んだ。
コーヒーを淹れながら、柚斗は自分のテンションがやたら向上しているのを感じる。別に今日一日低かった訳ではないが、高くもなかった。
何だろうな、と自分に微妙な気持ちになる。七歳も年下の、それも全然タイプの違う男相手に単純過ぎるだろうと呆れる。
「……兄さんがあのクッソムカつくやつのこと、好きだからだろ」
灯央に言われたことが頭を過った。
好き? いやでもこいつだぞ。
うーんとまた唸りつつ、灯央の「クッソムカつくやつ」という言葉に笑いが込み上げてきた。やはり少しテンションが高いのかもしれない。
コーヒーとカヌレを持っていくと、桜太郎はまだ大人しく座ったままだった。口の悪さや態度をよく知っている分、こういうところはやはりかわいく思えてしまう。
「あれからどうしてたんだ」
「クソ親父と話し合いっス」
「ちゃんと話せたのか?」
「クソ親父だから中々納得してくれなかったっス」
「でも許してもらえたんだな、独り立ちというか……」
確かに桜太郎に一人暮らしをさせたり普通の仕事に就かせるのは心配でならないだろうなと、改めて密かに桜太郎の父親に同情する。
「ここで働くのはでも中々許してもらえねーで、めちゃくちゃ喧嘩したっス」
「あー、そう」
洋菓子店だからだろうか。チャラそうに感じられた、とかだろうかと少し残念に思いつつ柚斗は考えた。
「本気なら資格ぐらい取りやがれとか言われて」
「そこまで? いや別にそんなのなくても……」
製菓衛生師と菓子製造技能士なら柚斗が持っている。菓子作りの仕事をするなら菓子製造技能士は持っておきたかったので開業してから取得したし、そもそも製菓衛生師か食品衛生責任者の資格がないと自分の店は開けない。柚斗は高校、大学時代に祖父のところでアルバイトをしていてその後祖父の勧めで製菓衛生士を取得していたため、開業する際に必要な食品衛生責任者は届けるだけで済んだ。
「んじゃ取ってやんよって言い返したんスけど、何ちゃら技能とか衛生何ちゃらとか取るの、ちょっとヤバくて」
「そりゃ衛生士とか専門学校行くか菓子製造業の仕事を最低二年はしてないと受験資格ないからな……」
「そしたら、お菓子作りインストラクターっつー資格検定見つけてよ。クソ親父唸らせるためにクソほど勉強したっつーんスよ」
「え」
「むちゃくちゃがんばって取ったっス。親父もすげー褒めてくれたっス。その代わりこっちすぐ来れねーでイライラしたっスけどね」
だから時間がかかったのかと柚斗は納得した。
お菓子作りインストラクターという資格は本当にある。国家試験ではないのもあり受験資格は特になく、在宅受験で合格率はだいたい七割だっただろうか。桜太郎を思えばそれでもかなり真剣にがんばったと思われる。
ちなみに資格取得後は、お菓子作りインストラクターとして自宅やスクールで講師活動ができる。要は洋菓子店での仕事にあまり関係ないというのだろうか。
「それは、えっと、おめでとう……」
困惑顔にならないよう努め、柚斗はお互い椅子に座った状態で桜太郎を見上げ笑いかけた。
「あんたの言うとおり、ちゃんと親父に話したっス。伝えたっス。ウゼーけど話し合って認めてもらったっス」
「うん、偉かったね」
「これ、書いてきたっス。親父にも見せた」
笑みを向けると桜太郎が紙を差し出してきた。履歴書だ。
「うん。貰おう」
それを受け取り、柚斗は中を確認した。
住所の下に学歴や職歴を書く欄がある。学校は高校まで書かれていた。以前桜太郎が口で言ってきた学校に間違いない。しかし職歴の下には「任侠の手伝い」と書かれていて吹きそうになった。父親はこれを見て止めなかったのだろうか。
だが右の欄を見て、任侠どころではないと柚斗は唖然とした。いや、免許や資格の欄は自動車免許や先ほど言っていたインストラクターについて書かれていて少し微笑ましくなったし、志望動機の欄も「興味あるから」と書かれていてそれはそれでよかった。趣味や特技のところに「クラブ」とあるのは多分部活動のことではなく踊ったり飲んだりのほうのクラブだろう。そんなこと書くなよと普通なら思うが、本人希望欄に書かれている内容に比べれば気にもならない。
「これ、何。……これ、ほんとにお父さんも見たの……」
「あ? 見せたっつっただろ」
希望欄には「恋人希望」「タチ希望」と書かれていた。
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