突然ニートになった俺

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「どうかされましたか?」

 雪夜は怪訝というよりは心配そうな表情で空良を見てくる。そこには空良の脳内で勝手に展開されていった邪な様子は当然と言えば当然だが見て取れなかった。

「え、あ、いや! 何でもない」

 言えない。妹の愛読書であるBL本が過り、雪夜にあれやこれと散々されてしまう自分が浮かんだなどと。
 空良の恋愛対象はこれでも女だし、いわゆる腐男子でもない。男同士の恋愛という名の性行為を本や映像や音声で楽しむ趣味は全くない。
 ただ実家に住んでいた頃にうっかり妹の本を読んでしまい、それなりのショックに何故か妹が持っている本を全て読破するという異業を成し遂げていた。多分、大混乱したのだと思われる。
 妹には最初物凄く罵倒されたが、その後は新刊を手に入れると空良にも勧めてくるようになった。どうやら仲間認定をされてしまったらしい。妹のことはそれなりに、いや、結構好きなのでつい、いい兄ぶりたくて受け取ってしまう。読んだふりをしようにも「どうだった?」と聞かれるのでできない。泣く泣く読んでは性行為を流すためにも「あの二人のこういうやり取りがよかったかも」「あそこで堪えるところがよかったかも」とストーリーに目線を移してなんとか答えると「それ! そーなのよね」と妹が嬉しそうにしてくるので尚更断れない流れを作ってしまっていた。
 今でも男同士の性行為に関しては引いている。特に妹が好んでいるらしいがっしりとした男らしい男たちの絡み愛は空良にとって辛すぎる。男の娘とか可愛らしい顔をした男なら脳内変換もできそうだしエロさも感じられそうなので、そういったもののほうがまだ……と言えば「お兄ちゃんの傾向はそっちかぁ……」と残念な顔をされてしまった。傾向と言われてもわからない。とは言え「そーいうのならまだエロ本ぽいだろ」と妹に言うのは憚られる。あと何故妹に残念に思われなければならないのか解せない。
 とにかくそういった経緯のせいか、先ほどの雪夜の様子に対し脳が勝手に暴走してしまったらしい。空良自身はもちろん、雪夜だろうが誰だろうが男同士のリアル絡み愛はごめん被りたい。
 ただ、それにしては雪夜の様子はあまり普通っぽくなかったように思うし、どこかで聞いたことのある言い方だなと思ったが気のせいかもしれない。

「す、凄い広い家だな」

 だが誤魔化すためにも笑って言えば「……天使か……」という呟きが聞こえてきたように思う。

「えっ?」
「いえ、空良先輩が嬉しそうで何よりです。寮にある先輩の荷物は明日取りにいきましょうね」
「でもさすがに車ないと無理だけど……」
「俺、持ってるから大丈夫ですよ」
「お前が神か……!」
「っえ?」
「いや、何でもない。いいのか?」
「もちろん」

 雪夜は相変わらずニコニコとしている。自分の脳が起こした勝手なBL展開妄想のせいで多少酔いが覚めてきた空良は、今さらながらに怪訝に思えてきた。

「なぁ、何で久しぶりに会った、それも面識がほぼないっつーか俺は覚えてもいないってのにさ、そんなにしてくれんの?」

 まさかやはり雪夜は俺を……?

「憧れてるからですよ?」
「あぁ、そっか。そうだな、なるほど!」

 憧れって凄いんだな。

 未だに何故自分に憧れているのか謎で仕方がないが、とりあえずさらりと返ってきた言葉に納得し、空良はしみじみと頷いた。

「空良先輩、お風呂入りますよね。使い方教えましょうか」

 だがまた風呂というワードに過剰反応してしまう。

「ふ、風呂っ? あの、まさか一緒に入ろう、とか……」
「そ、そんな……っ、空良先輩と風呂だなんてそんな……無理です」
「だ、だよな!」

 考え過ぎているだけだと改めてホッとしつつも無理だと断言されたことは何というか、気持ち切ない。もちろん一緒に入りたいのではないのだが、拒否という反応はやはり心持ち寂しさのようなものを感じてしまうものだなと空良は思った。

「憧れの可愛い、尊い存在と一緒に風呂とか、そんな、空良先輩を冒涜するようなことほんと無理……」
「そっちっ? っていうか何それ怖い」

 憧れが過ぎないか、とさすがに微妙になる。そして気づいた。聞いたことのある言い方だと思ったのはあれだ。妹の様子に少し似ている。
 たまに妹も「推しが尊い」だの「可愛いが過ぎて無理……」だの言っていたような記憶がある。
 だが待て、と空良は微妙な気持ちになる。雪夜の言葉や流れからすると、推しという対象は自分になってしまう。いくら憧れているからといってそれはおかしくないだろうか。

 ……妹と似てるって思ったけど……そんな訳ないわな。多分こいつの話し方がたまたま変なんだ、うん、多分。

 自分を納得させると、ホッとしたのか無性に熱い湯に浸かりたくなったので「お湯張ってもいい?」と聞く。すると雪夜は口を手で覆い、少し顔を逸らしてきた。今度は何だと思っていると「可愛い……」と呟いてくる。

「……あの、俺、そこそこ背、あるしその、可愛くないと思うし……その、雪夜、大丈夫……?」

 空良も微妙に顔、というか目を逸らせながら言えば「優しい……!」と今度は返ってきた。

「いや、引いてたんだけど優しいのか……?」
「……というか、すみません、つい。えぇ。じゃあ湯を張るついでに使い方教えますので一緒に来てください」
「……そのまま風呂場で何かしてくる、とかはない……?」
「はい?」

 可愛い、というのがやはり引っかかり、つい口にしてしまったが、雪夜は何の話だといった風に本当に怪訝そうな顔をしてきた。
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