月と太陽

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4話

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 当日、二人はファミリーレストランで待ち合わせ、そのままそこで昼食をとった。セットでついてくるライスを、日陽は当然といった様子で大盛りにしていた。那月は普通だ。

「お前のがちょっとだけデカイのにな」
「あまり変わらないだろ。それに日陽は運動いっぱいしてるから別にいいんじゃないのかな」

 変な顔しながら那月のライスを見てくる日陽に、那月はおかしく思い、笑う。

「そう? ならいいけど、智充は俺と同じ部活だし体型も似てるのに俺より食ってない感じだしさ」

 苦笑しながら言う日陽に、那月はさらに笑みを向けた。だが内心では笑顔を引きつらせている。また智充だ、と。
 別に特別何かあるから日陽が今、智充を出してきた訳ではないことくらい、那月にもわかる。確かに体型は似ているのかもしれない。というか身長が似ているのであって、那月から見れば日陽の最高に素晴らしい具合な体のバランスと智充が似ているなどと到底思わないが、それはさておき実際部活も同じだし比較対象としておかしくはないだろう。
 それでもこうして日陽が当たり前のように智充を出してくるこの感じが、那月を落ち着かなくさせる。そこにそういう意味合いがなくとも嫌だ。

「きっと日陽は燃費がいいんだよ」

 嫌だが、那月はただニコニコしながら言った。
 店を出た後はその辺をぶらぶら目的もなく歩く。久しぶりに二人で買い物をしたりゲームセンターで遊んだりした。もちろん凄く楽しい。
 楽しいのだが、那月が今日、日陽を誘ったのには訳がある。それを思うとまた落ち着かないというか、非常に不本意ではあるが心の底から楽しめない。
 前へ進む、と決めた。だから那月は日陽に話そうと思っていた。

「見ろよ! まさか取れるとは思ってなかった。俺すげー」

 クレーンゲームでなにやらわけのわからない不思議な生き物にしか見えない小さなぬいぐるみを落としたらしく、那月が改めて決意しているところへ日陽が嬉しそうにそれを見せてきた。

「凄いな! でも……これ、何」

 隠す必要のない部分に関しては那月も普通に遠慮なく出す。今も心底微妙な顔でぬいぐるみと日陽を見比べた。

「え、今テレビでやってるショートアニメのキャラだよ、知らねーの? 皆に微妙なツキをくれる、その名も『ツキくん』!」
「知らないな……!」

 速攻で返すも、日陽は「取れるとはなー」とまだ喜んでいる。ゲームで取れたのが嬉しいのか、とてつもなく微妙な生命体ぬいぐるみを手にしたことが嬉しいのか、何ともわからなくて苦笑しつつも、そんな日陽も那月にとっては凄くかわいいと思えた。
 ゲームセンターを出たところで、那月はようやく切り出すことにした。

「なあ、日陽。うち、来ない? 俺、お前に話したいことあるんだ」
「え? ああ」

 日陽はポカンとした後に迷わず頷いてくれた。
 あの日以来、那月は家などで二人きりにならないようにしていた。日陽はあのことを気にしていないということなのか、それともすでに忘れてどうでもよくなっているのかはわからないが、迷わず頷いてくれたことで、少なくとも避けられていないだけマシだと那月は思うことにする。
 家へ向かうと、一旦二階にある那月の部屋へ一緒に入る。そして「飲み物持ってくる」と断り、部屋を出て階下へ下りた。
 何だかとても緊張する。中学の頃から今まで、邪な気持ちを持つようになってしまっているが、ずっと仲よくやってきている相手だというのに、那月は今とても緊張していた。

「……そもそも俺はあの日、日陽に好きだとも言ってないんだっけ」

 ああなるような流れを作っておきながら、肝心なことは言わずに逃げたとか、どんな最低な奴だよと那月は微妙になりながら部屋へ戻った。
 今から話を切り出す。そしてはっきり振られたらそれまでだ。
 日陽は親しみやすいだけでなく懐の深い男で、だからこそ那月は知れば知るほどいつの間にか好きになるしかなかった。
 だが、だからといって男から「好きだ」と言われても笑って「そうか」で済ませられるとは思っていない。他人事ならいいのではないかと思えるようなことも、自分の身に降りかかればそんなことを言っていられないだろう。今のこの友人関係すら、終わってしまうかもしれない。そう思うとトレーを持つ手が震えた。
 告白はこれほど緊張するものなのかと実感した。過去に何度か那月は女子から告白されたことがある。日陽のことを何とも思っていなかった時や、まだ認められなかった頃は別だが、日陽を好きだと自覚してからは当然ながらずっと断っていた。その時の彼女たちはきっと、とても勇気を振り絞ってくれてのことだったのだろうなと那月は実感した。中には泣いていた子もいた。その時はただ困っていたが、今頃になって本当にごめんという気持ちが湧いた。
 扉の前で、すぅっと深呼吸をしてから日陽の待つ部屋へ入る。

「那月? 何か顔が変だぞ?」

 部屋に入ると、振り返ってきた日陽がからかっているのか心配しているのか、そんなことを言ってくる。

「部屋に戻ってそうそう変とか、酷くない?」

 那月はニコニコいつもの笑顔のまま返す。入った時から笑顔になっていたつもりだったが、顔に出ていたのだろうかと内心思った。とはいえ、この流れはきっかけとして悪くないかもしれないとも思う。
 ずっと言えなかったのはもちろん臆病だったからだ。関係が悪い方へ変わることばかり考え、前へ一歩踏み出すことすらできなかった。
 逃げることしかできていない那月だが、誰かに「そんなで本当に好きなのか」と問われたら首がもげても尚、そうだと頷いているだろう。

 好きだ。

 たかが中学生の恋、高校生の恋といえばそれまでだが、それでも那月は日陽のことを本当に好きだと思っている。
 何故、どこが、と聞かれたら上手く説明できない。聞かれた相手に「日陽を見てたらわかるだろ、好きにならないほうがおかしいだろ」としか言えないかもしれない。実際は聞かれることもなければ、聞かれても言うつもりもないが。
 明るくて屈託のない性格や表情を見ているだけで那月の何もかもが洗われるような気持にさえなる。男らしくてはきはきとしたところも恰好がいい。そのくせ今日も変なぬいぐるみを得て大喜びしたりと、どこか変だったりする。
 そして、男前で適当な感じだというのに、今のように人をちゃんと見てくれている。
 那月は自分のことを情けないろくでもないヤツだと自覚している。そんな自分のこともぞんざいな風でありながらもまるで包み込んでくれるかのように受け入れてくれる。
 総じて日陽のどんな部分も恰好がいいしかわいいし優しいし好きだと思っている。

「那月? ほんとどうかしたのか?」

 改めて言われ、那月はハッとしたように「ごめんごめん」と笑いながら日陽に淹れてきた炭酸ジュースを差し出す。
 那月は基本、炭酸系の飲み物は好まない。炭酸水ならまだ飲めるが、ジュースになると那月にしてみたら甘すぎる。ただ日陽が好きだから、つき合えるようたまに飲んで慣らしている。
 慣らすというのは大げさかもしれないが、たまに飲むようにしているので最近多少は飲めるようになってきた。相変わらず甘すぎるとはだが思っている。
 日陽も基本的に甘い物は食べないわりに、炭酸ジュースだけは好んでよく飲んでいた。

「炭酸ってさ」

 受け取った後ごくりと飲む日陽の喉を見ていると、グラスから口を離して日陽が那月を見てきた。

「え、あ、うん」
「甘いはずなんだけど、この喉にくる刺激が甘いの打ち消してくるんだよなー。そんでスッキリする」
「日陽、糖尿病になるぞ」
「炭酸だけでっ?」

 ええっという顔をしてきた日陽に、那月は笑う。そして、笑みを引っ込めるとじっと日陽を見た。集められる限りの勇気をかき集める。

「あの、さ。俺、……お前のこと、……好き、なんだ」
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