月と太陽

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3話 ※

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「日陽、あのさ」
「あ?」
「その、……やっぱ、いいや」

 いいと言いながら那月がニコニコ笑ってきた。日陽は「んだよそれ」と笑い返しながらも内心怪訝に思う。
 最近こういうことが多い。言いかけて止められるととても気になるが、言おうとして躊躇した後で止めるということはあまり言いたくないということなのだろうかと思って聞けない。とりあえず何か悩みでもあるのだろうかと那月は首を傾げる。

「どう思う? お前」

 部活を終えた帰り、智充と一緒にファーストフード店へ入り、勢いであっという間にハンバーガーを食べた後、日陽はのんびりポテトフライを齧りながら聞いた。

「勉強教えろ?」
「そもそも絶対あいつのが頭いい」
「腹が痛い」
「何で何度も言いかけて止める必要あんだよ……」
「俺実は女なんだ、とか?」
「意味わからねえよ」

 ふざけんなと日陽が微妙な顔で智充を見れば、智充は「やっぱ本人に聞きゃーいいじゃん」と言いながら日陽のポテトフライを二、三本かすめ取る。

「あ、テメ、俺の!」
「わり、俺成長期だから」
「だったら俺もそうだわ……!」

 成長期とはお互い言っているが、身長は多分もう伸びない気がする。というか二人してすでに高校一年から二年の間で一気に伸びている。一気に伸びる前も、今と同じようにお互い似た身長だった。どちらかというとあまり高くなかったことすら似ている。
 小学生の頃などはかかとや膝が痛んだが、高校では二人して腰にきて、周りから「年寄りくさい」などと言われていた。幸いというか陸上部の顧問がそういうことに詳しく「成長痛の一種だからとりあえずオーバーユースに気をつけつつ、ストレッチに気合入れろ」と言ってくれ、故障するには至っていない。
 そんな話を那月にすれば「俺はあまりそこまで痛くならなかったなあ」と言っていた。

「マジで。俺らよりもちょい高いくせにずりーぞ」

 智充が言えば「それを言うなら智充だってそんなとこまで那月と仲よく一緒とかずるい」などと言いながら笑っていた。
 家へ帰り、風呂に入った後またしっかり晩御飯を食べる。運動をしているからか、放課後の間食くらいでは夕食が食べられないなんてことは今のところ一度もない。
 夕食を終えたら日陽は自分の部屋へ向かい、ベッドの上にどかっと乗り上げながら携帯を見た。那月からメッセージが届いている。見ると、今度の日曜に遊ばないかという誘いだった。

「……そういや二人で遊ぶの、久しぶりかもな」

 何となく嬉しくなり、日陽は嬉々として返信した。送るとたまたま向こうも携帯電話を手にしていたのかすぐに返信が来る。

『よかった。じゃあ日曜は昼にファミレスで落ち合うの、どう?』
『了解』

 那月が悩んでいるのは取り越し苦労かもしれない。だが気にはなるのでやはり智充が言うように日曜にでも直接聞いてみるか、と横になりながら日陽は思った。
 遊ぶ約束で気持ちが満たされたからか、何となくムラムラとしてくる。

 男ってのは繊細かつ、単純だよな。

 そんなことを冗談ぽく思いながらも、日陽はもぞもぞと手をズボンの中へ入れる。そこはまだ完全に硬くはなっていないものの、少し気がかりが解消されたせいか、湧いた欲情のせいで擡げてきてはいる。

 ……何か本かネットか……んーでも動くの面倒くさい……。

 あまり得意ではないが、今はこのまま妄想して抜くことにした。

 そいやこの前見たAV、中々……。

 おぼつかない脳みそで必死になって妄想しつつ、日陽は手を動かした。先が濡れてくると想像だけでは補いきれない煽情的な気分も煽られた。

「……ん、く」

 そろそろかなと思っていると、ふと那月に触れられた時のことが頭に浮かぶ。最終的に痛いだけではあったが、途中までは男同士だろうが予想以上に気持ちよかった。普段自分が女性に対してする側の行為をされるということも悪くなかった。それでもさすがにその行為を思い出して抜くのは悔しいから嫌だ。そう思ったが遅かった。
 中を指で弄られながら扱かれた時の感覚を思い出してしまい、日陽はそのままビクンと体を震わせる。堪らなくなり、先走りで濡れた指を後ろへ回した。そして自分で入れられる範囲で指をゆっくりと中へ忍ばせる。そうしながら前を扱くとさらに興奮した。想像しながら抜くのは苦手だったのに、気づけばもう我慢できないところまで来ていた。

「……っ、ぁ……。……ちきしょ、ざけんな、冗談じゃねーだろ」

 自分の手に吐き出した白いものを生温い目で見ながら、日陽は誰にともなく突っ込んだ。
 翌日、教室で那月がニコニコ話しかけてきた。

「日曜、どっか行きたいとこある?」
「特にないよ」

 本当に久しぶりだから、那月と休日を一緒に過ごすだけでも嬉しいからなと日陽は内心思いながら笑みを浮かべた。

「そっか。じゃあ昼食べた後、適当にブラブラするか」
「まあ、何もすることなければ俺んちでもいいし。もしくはお前んち?」

 自分で言っておきながら、日陽は那月とのあの日の出来事を思い出し、微妙な気持ちになった。昨夜やらかしてしまったからなおさらだ。
 日陽が思い出していることなど知る由もないであろう那月は笑顔で頷いてきた。

「うん、いいな。ゲームとかできるし」

 何となく気まずくなり、日陽は話を逸らす。

「そいや日曜だろ。お前、部活休み?」
「そりゃね。休みだからこそ遊ぶんだろ? 日陽も休みでよかったんだよね?」
「あ? ああ」

 頷きながら、日陽は少し憮然とした。何かこう、理不尽だと思う。何故自分だけこうして焦ったり微妙になったりしなければならないのか。
 恐らく那月にとってはどうでもいいこと、もしくは忘れたいことなのだろう。だが自分は違う、と日陽は思った。
 むしろあんなことをする前のほうが気楽でいたし、何でもない、どうということもないことだった。
 童貞でもないのに、体の関係をたった一度持ったってだけで全くもって自分は緩いヤツだよなと日陽は自分に対して生温い気持ちになる。たった一回の、それもおふざけでやらかしたことに対して、しかも相手は男であり友人だ。おまけにその相手はそのおふざけでやらかした行為を忘れたいと思っているか、どうでもよすぎてなかったことにしている。

 いてぇ、俺、すげーいてぇぞ。

 そんな風に思っていると「おーっす。昨日お前から奪ったポテトの分、晩飯きっつかったわー」と智充がやって来て抱きついてきた。こちとら余裕で食った上におかわりまでしたわ、となおさら日陽は自分が痛々しくなる。
 おまけに日陽と智充を、何故か那月は生温そうな微妙な顔で見てきた。意味はわからないが、さらに追い打ちかけられた気分だった。
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