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13話
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同じ陸上部とはいえ、自分がどの走者であるかによって鍛え方は違う。例えば短距離走だとスピードや瞬発力が勝負の分かれ目になる。そしてそのスピードは筋肉によって引き出される。そのため、短距離走者はスピードを出すための筋肉を増やす必要があり、多くの走者が比較的がっちりとしている。走るトレーニング以外にもしっかりした筋トレが欠かせない。
とはいえ持久力を必要とする長距離走者も、走るのにあまり必要でない筋肉をつけると負荷がかかってしまうとはいえ、筋肉をつけること自体は有効とされているので短距離走者程ではないが鍛えはする。
そして持久力と瞬発力の両方が必要となる中距離走はかなり過酷であり、精神力も必要となってくる。そのため短距離や長距離走者よりも一番心拍トレーニングに力を入れているかもしれない。
心拍トレーニングは心拍数を管理しながら行うトレーングで、自分の心拍数を管理することで負荷調整を行っている。
日陽がこの中距離走者で、ハートレートモニターでチェックしつつのメニューをこなしている。
「つかさ、このモニターは腕につけるやつだからいいけどさ、胸につけるやつもあるらしーぞ」
同じく中距離走者の智充が笑いながら言ってくる。丁度休憩を取っていて、自動販売機まで飲み物を買いにきていた。
「胸? どやってつけんの」
「バンド」
「マジで。なんか苦しそうだろそれ」
「しかもさーブラつけてるみたいにも見えるらしーからヤベーよな」
「腕でよかった……」
日陽は心底しみじみ思った。倒錯趣味は自分にはない。
「つか管理とか面倒だよな!」
「智充は短距離のがそれっぽいのになんで中距離やってんだよ。改めて思うわ」
「だって短距離だとタイム伸び悩むもん」
「もん、言うなよ」
「あと日陽とお揃いだし」
「語尾にハートつけてくるような言い方してくんなよ」
小さな頃からの幼馴染だけに、気軽さは半端ない。そんなやりとりをしながら飲み物を買い、戻ろうとしたらテニスコートの方から掛け声が聞こえてきた。
「そいやテニス部って結構掛け声デカイよなー」
ペットボトルを既に口にしつつ、智充が言ってきた。日陽は頷きながら自転車置き場の方へ向かった。
「ちょっと覗いてくる」
「え、じゃあ俺も」
「何で」
「何だよー別にいーだろ」
グラウンドから見ると正面に校舎があり、右手にテニス部や陸上、野球部など主に外で部活をしているクラブの部室がある。そこの自動販売機を利用していたのだが、さらに進んで自転車置き場がある辺りからかなり広い範囲で右手にテニスコートがあった。日陽はその自転車置き場の影になっている辺りで涼みながらテニスコートを見る。
丁度「ラストー!」という掛け声が上がったところで、練習をしていた皆が一斉にボールをアップし集合を始めているところだった。
「何かきびきびしてんなー」
智充が感心したように言う。テニス部は特に強い選手を集めているのではないが、毎年それなりの成績を大会で収めているらしい。こういう動きにも反映しているのだろうかと日陽が思っていると、テニス部員はすぐに次のメニューに取り掛かっていた。
ふと那月の姿が見える。普段は柔らかい印象でニコニコしているが、部活中は比較的引き締めたような表情をしていた。正直、恰好いいなと日陽は思ってしまい、そんな自分が乙女のようで微妙になりながらも嫌いではない。
「那月、普段明るくてほわほわした感じなのにテニスしてるとイケメン臭強くなるよな」
ペットボトルの中身を飲み切ったらしい智充がニッと笑いながら言ってくる。
「イケメン臭ってなんだよ……いい意味なのになんかヤバイ匂いって感じしかしないんだけど」
「突き詰めんなよ。褒めてんだってば」
「……。なあ、智充から見ても那月って明るい印象?」
「へ? むしろちげーの? お前からしたら」
「いや……」
確かに明るいしほわほわしている。友人も多い。なのに何故違和感があるのだろうなと日陽は自分に対して首を傾げた。前からほんのりあった違和感は、つき合うようになってからまた少しだけ大きくなった気がする。
「あ、いる! いるよ」
「マジ? ほんとだ。黒江くんヤバい」
ふとそんな声が聞こえてきた。日陽が声のしたほうを見ると、知らない女子二人がフェンスの先をじっと見ながら楽しげに騒いでいる。それがまた結構かわいらしい子なだけに日陽は少しムッとした。
「はる、何変な顔してんだよ」
「してねーよ、失礼な」
「つか今の聞いた? チキショウ、那月の野郎、おモテになりますよね! つかお前もわりと好かれるタイプだったよな、あーヤダヤダ」
両手のひらを上に掲げるような大袈裟なポーズを取りながら言ってくる智充に、日陽はニッコリ笑いかけた。
「お前もモテてただろ」
「えっ、いつっ?」
「こないだ、別の学校の子に声かけられてただろ」
「っちげー……! あれおかしい。納得いかない。意味わからない」
日陽の言葉を聞いた途端、智充がとてつもなく微妙な顔をしてきた。
この間、智充に声をかけてきたのは他校の男子生徒だった。確かに煩いのを抜いたら智充はわりとかわいらしい顔をしているのかもしれない。それにしても災難だなと言いながらも友人皆で笑っていたのだが、考えなくとも日陽は笑える立場ではない。
「なぁ、お前ってやっぱ男同士とか無理?」
「ねえ、何聞いてくれてんの? 俺、そんなつもりないからねっ?」
「ああいや、別にお前にあの男子とつき合えよとか言ってないし。そーじゃなくて例えば俺がさ、男とつき合ったらどう思う?」
「……? ネタ? マジなやつ?」
マジなやつ、と言おうとして日陽はやめた。
「どっちでもいーけど」
「何だよそれ。でも女子におモテになられてる日陽が男とつき合うとか、俺すげー応援するわ」
「嫌な意味にしか聞こえねーんだけど」
「そんなことないって! 男の敵が減ることは喜ばしいだろ」
「何だそれ。全然そんなことなくないだろ」
やめたせいで、智充は冗談と受け取ったようだった。まあいいやと日陽も智充と一緒になって笑った。
「そろそろ戻ろーぜ」
智充がペットボトル用のゴミ箱に捨てながら言う。日陽も全部飲み切ると同じように捨て、グラウンドへ向かった。
とはいえ持久力を必要とする長距離走者も、走るのにあまり必要でない筋肉をつけると負荷がかかってしまうとはいえ、筋肉をつけること自体は有効とされているので短距離走者程ではないが鍛えはする。
そして持久力と瞬発力の両方が必要となる中距離走はかなり過酷であり、精神力も必要となってくる。そのため短距離や長距離走者よりも一番心拍トレーニングに力を入れているかもしれない。
心拍トレーニングは心拍数を管理しながら行うトレーングで、自分の心拍数を管理することで負荷調整を行っている。
日陽がこの中距離走者で、ハートレートモニターでチェックしつつのメニューをこなしている。
「つかさ、このモニターは腕につけるやつだからいいけどさ、胸につけるやつもあるらしーぞ」
同じく中距離走者の智充が笑いながら言ってくる。丁度休憩を取っていて、自動販売機まで飲み物を買いにきていた。
「胸? どやってつけんの」
「バンド」
「マジで。なんか苦しそうだろそれ」
「しかもさーブラつけてるみたいにも見えるらしーからヤベーよな」
「腕でよかった……」
日陽は心底しみじみ思った。倒錯趣味は自分にはない。
「つか管理とか面倒だよな!」
「智充は短距離のがそれっぽいのになんで中距離やってんだよ。改めて思うわ」
「だって短距離だとタイム伸び悩むもん」
「もん、言うなよ」
「あと日陽とお揃いだし」
「語尾にハートつけてくるような言い方してくんなよ」
小さな頃からの幼馴染だけに、気軽さは半端ない。そんなやりとりをしながら飲み物を買い、戻ろうとしたらテニスコートの方から掛け声が聞こえてきた。
「そいやテニス部って結構掛け声デカイよなー」
ペットボトルを既に口にしつつ、智充が言ってきた。日陽は頷きながら自転車置き場の方へ向かった。
「ちょっと覗いてくる」
「え、じゃあ俺も」
「何で」
「何だよー別にいーだろ」
グラウンドから見ると正面に校舎があり、右手にテニス部や陸上、野球部など主に外で部活をしているクラブの部室がある。そこの自動販売機を利用していたのだが、さらに進んで自転車置き場がある辺りからかなり広い範囲で右手にテニスコートがあった。日陽はその自転車置き場の影になっている辺りで涼みながらテニスコートを見る。
丁度「ラストー!」という掛け声が上がったところで、練習をしていた皆が一斉にボールをアップし集合を始めているところだった。
「何かきびきびしてんなー」
智充が感心したように言う。テニス部は特に強い選手を集めているのではないが、毎年それなりの成績を大会で収めているらしい。こういう動きにも反映しているのだろうかと日陽が思っていると、テニス部員はすぐに次のメニューに取り掛かっていた。
ふと那月の姿が見える。普段は柔らかい印象でニコニコしているが、部活中は比較的引き締めたような表情をしていた。正直、恰好いいなと日陽は思ってしまい、そんな自分が乙女のようで微妙になりながらも嫌いではない。
「那月、普段明るくてほわほわした感じなのにテニスしてるとイケメン臭強くなるよな」
ペットボトルの中身を飲み切ったらしい智充がニッと笑いながら言ってくる。
「イケメン臭ってなんだよ……いい意味なのになんかヤバイ匂いって感じしかしないんだけど」
「突き詰めんなよ。褒めてんだってば」
「……。なあ、智充から見ても那月って明るい印象?」
「へ? むしろちげーの? お前からしたら」
「いや……」
確かに明るいしほわほわしている。友人も多い。なのに何故違和感があるのだろうなと日陽は自分に対して首を傾げた。前からほんのりあった違和感は、つき合うようになってからまた少しだけ大きくなった気がする。
「あ、いる! いるよ」
「マジ? ほんとだ。黒江くんヤバい」
ふとそんな声が聞こえてきた。日陽が声のしたほうを見ると、知らない女子二人がフェンスの先をじっと見ながら楽しげに騒いでいる。それがまた結構かわいらしい子なだけに日陽は少しムッとした。
「はる、何変な顔してんだよ」
「してねーよ、失礼な」
「つか今の聞いた? チキショウ、那月の野郎、おモテになりますよね! つかお前もわりと好かれるタイプだったよな、あーヤダヤダ」
両手のひらを上に掲げるような大袈裟なポーズを取りながら言ってくる智充に、日陽はニッコリ笑いかけた。
「お前もモテてただろ」
「えっ、いつっ?」
「こないだ、別の学校の子に声かけられてただろ」
「っちげー……! あれおかしい。納得いかない。意味わからない」
日陽の言葉を聞いた途端、智充がとてつもなく微妙な顔をしてきた。
この間、智充に声をかけてきたのは他校の男子生徒だった。確かに煩いのを抜いたら智充はわりとかわいらしい顔をしているのかもしれない。それにしても災難だなと言いながらも友人皆で笑っていたのだが、考えなくとも日陽は笑える立場ではない。
「なぁ、お前ってやっぱ男同士とか無理?」
「ねえ、何聞いてくれてんの? 俺、そんなつもりないからねっ?」
「ああいや、別にお前にあの男子とつき合えよとか言ってないし。そーじゃなくて例えば俺がさ、男とつき合ったらどう思う?」
「……? ネタ? マジなやつ?」
マジなやつ、と言おうとして日陽はやめた。
「どっちでもいーけど」
「何だよそれ。でも女子におモテになられてる日陽が男とつき合うとか、俺すげー応援するわ」
「嫌な意味にしか聞こえねーんだけど」
「そんなことないって! 男の敵が減ることは喜ばしいだろ」
「何だそれ。全然そんなことなくないだろ」
やめたせいで、智充は冗談と受け取ったようだった。まあいいやと日陽も智充と一緒になって笑った。
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