20 / 45
20話
しおりを挟む
平日はどうしてもなかなかゆっくり会う時間がない。那月もそれは仕方ないとは思っている。お互い違う部活をやっている。それにどちらかというと那月がやっているテニス部のほうが活動に熱心というか、拘束される時間が長い気がする。それを日陽に言うと「俺んとこも熱心は熱心だぞ」とまるで対抗心でも燃やしているかのように言われ、かわいいなあと思ったりした。
「ただわりと顧問が管理タイプのセンセーだからか、あまりぎゅうぎゅう練習しないだけ」
「別にテニス部もぎゅうぎゅうじゃないよ?」
「でも休みそんな多くないし放課後いつも俺らより遅いだろ?」
「ん」
おまけに平日そういったすれ違いがあるだけでなく、部活が終わった後に日陽はよく同じ陸上部の友人と帰りにどこかへ寄ったりする。別に聞きたくもないが、言われなかったらそれはそれでモヤモヤするのだろうなと思いつつ、那月は「あいつらとどこそこへ寄った」という報告を日陽からSNSで聞かされたり直接聞かされたりする。聞く度に「へえ」とニコニコ頷きつつも那月の中で何かが崩れ、何かが溜まっていく。
もちろん、日陽が大好きなことだけは変わらない。そんな大好きな日陽を本当は独占したくて堪らない。だが日陽が浮気をしているならまだしも、楽しそうに友人と遊んでいることにまで、さすがに口を挟めない。
せめて休日は二人きりで過ごせたら嬉しいが、日曜なども部活があったりする。幸い陸上部もテニス部も、毎週末練習するわけではないのでよかったと思っている。考えなくても顧問は教師で、そして教師も休みくらい欲しいだろうし、他の部活でも皆もっと休んでいいんじゃないかなと那月はそっと思ったりはしている。口にしても「やる気がない」と言われそうなことはいちいち言わない。
今日も那月にとって嬉しいことに二人とも休みで、そして日陽は家へ遊びに来てくれていた。
ただここへ来ることになった時「智充も呼ぶ?」などと言われ「呼ばない」とニコニコ言ったが、またその際に那月の中で崩れたり溜まったりした。
「何で家デートに智充いる状態? おかしくない?」
「まぁ、そう言われたらそうだけど。人多いほうが賑やかだろ?」
日陽は冗談を言っているようではなかったので、恐らく本当に賑やかだろうと思ったのであろうし、そこに悪意も含みもないこともわかる。ただ、何故賑やかなのがいいと思うのかわからない。
「別に賑やかさ求めてないよ?」
「そう? ならいいよ。ほら、前にお前、自分の家が基本的にシンとしてるって言ってたから」
むしろ善意で言ってくれたのだろうなと思うと少し嬉しい気持ちにはなったが、心底余計なお世話でもある。
「二人きりがいい」
「そ、そう?」
二人きりがいいと那月が言うと、日陽は顔を赤らめてきた。それがかわいかったので「まぁいいや」と那月は思った。
「昼飯さー」
「ああうん。どっか食べに行く? 出前もできるけど……」
「いや、家デートだろ? だから俺らで作らね?」
昼前にやって来た日陽は少し寛いだ後にそんなことを言ってきた。
「え? 面倒だろ」
「何で。楽しいかもだろ」
「でも日陽、料理できんの?」
「できないけど」
「できないのによく俺らで作ろうって言ったよな」
さすがに那月が微妙な顔で苦笑していると「やってみたらできるかもだろ」と軽くムッとしている。こんなささやかなやりとりがとても嬉しくて楽しい。ひたすら日陽を求めるあまり気づけば体を繋げようとしてはいるが、大好きな日陽とのやりとりだけでも本当は幸せだ。
「じゃあ、何作る?」
「え、っと……ラーメン?」
「待って、それインスタントじゃないの?」
那月が笑いながら言うと日陽が微妙な顔してきた。
「何作るって聞かれたら思いつかないんだよ。何作ればいいんだろ」
「じゃあさ、日陽は何食べたい?」
「……煮込みハンバーグ?」
「昼間から……?」
「肉欲に夜も昼間もねーよ!」
「肉欲って」
「じゃ、じゃあオムライス」
これならどうだ、とばかりに得意げな顔をしてくる日陽を、那月はやはり今すぐ押し倒したくて仕方ない。
「それならまだできそうだな」
「おう。……どうすんだっけ? ご飯にケチャップ混ぜて、焼いた卵乗せたらいいんだよな?」
何だかまさに男の料理だなと那月はニコニコする。確かに何となく楽しくなりながら、那月は日陽とキッチンへ向かった。
「チキンライスをまず作るんだよ。鶏肉と玉ねぎと卵……それとケチャップあればいいね。卵とケチャップはあるから、今から鶏肉と玉ねぎ買いに行こう」
「……おう」
米をとぎ、炊飯器のスイッチを入れてから一旦家を一緒に出て、近所にあるスーパーへ向かう。買い物カゴを手にして二人で食料品売り場を歩いているとますます嬉しくなってきた。
「新婚みたい」
「へ、変なこと言うなよ……」
日陽は微妙な顔をしながらも少し赤くなってくれた。
「なあ、ももとむねって肉の場所以外どう違うんだろな。どっちも同じ? じゃないよな」
「そうだね。オムライスならむね肉でいいだろけど、もも肉のがおいしいと思う」
「そっか。……お前ってさ、もしかして料理、できるの?」
「しないよ?」
できるけれども、と思いつつ那月は「しない」と答えた。どのみちできるとはいえ、何でも作らはしないし普段一人なので作る気がしない。親が忙しいので代わりに自分が作ろうかと思ったことはあるが、いつ家にいるかわからないのでこれはこれで難しい。それでも作ってみたことはあるが、かえって親に気を使わせたような気がしたので結局今はほぼ作っていない。
夕食はそれこそ母親が何か作ってくれていることもあるのでそれを見つけたら食べるか、もしくは惣菜を買うか出前するかだ。不便ではないし嫌だと思わない。ただ弁当やインスタント食品は楽だがすぐに飽きる。
金の心配はない。いつでも使えるよう親が置いてくれている。これに関してもむしろ自分を信用してくれているのだなと思っているので嫌な気持ちになることはない。
「しない、か」
「うん」
ついでにサラダ用としてレタスやトマトも買う。
「じゃあ帰って作ろうか。お腹空いてきた」
「だな」
二人で笑い合った。ああ、幸せだなと実感する。ただ「そいやオムライスって智充が好きだったよな」と日陽が笑いながらサラリと言ってきて、幸せな気持ちがかなりしぼんだりもした。
「ただわりと顧問が管理タイプのセンセーだからか、あまりぎゅうぎゅう練習しないだけ」
「別にテニス部もぎゅうぎゅうじゃないよ?」
「でも休みそんな多くないし放課後いつも俺らより遅いだろ?」
「ん」
おまけに平日そういったすれ違いがあるだけでなく、部活が終わった後に日陽はよく同じ陸上部の友人と帰りにどこかへ寄ったりする。別に聞きたくもないが、言われなかったらそれはそれでモヤモヤするのだろうなと思いつつ、那月は「あいつらとどこそこへ寄った」という報告を日陽からSNSで聞かされたり直接聞かされたりする。聞く度に「へえ」とニコニコ頷きつつも那月の中で何かが崩れ、何かが溜まっていく。
もちろん、日陽が大好きなことだけは変わらない。そんな大好きな日陽を本当は独占したくて堪らない。だが日陽が浮気をしているならまだしも、楽しそうに友人と遊んでいることにまで、さすがに口を挟めない。
せめて休日は二人きりで過ごせたら嬉しいが、日曜なども部活があったりする。幸い陸上部もテニス部も、毎週末練習するわけではないのでよかったと思っている。考えなくても顧問は教師で、そして教師も休みくらい欲しいだろうし、他の部活でも皆もっと休んでいいんじゃないかなと那月はそっと思ったりはしている。口にしても「やる気がない」と言われそうなことはいちいち言わない。
今日も那月にとって嬉しいことに二人とも休みで、そして日陽は家へ遊びに来てくれていた。
ただここへ来ることになった時「智充も呼ぶ?」などと言われ「呼ばない」とニコニコ言ったが、またその際に那月の中で崩れたり溜まったりした。
「何で家デートに智充いる状態? おかしくない?」
「まぁ、そう言われたらそうだけど。人多いほうが賑やかだろ?」
日陽は冗談を言っているようではなかったので、恐らく本当に賑やかだろうと思ったのであろうし、そこに悪意も含みもないこともわかる。ただ、何故賑やかなのがいいと思うのかわからない。
「別に賑やかさ求めてないよ?」
「そう? ならいいよ。ほら、前にお前、自分の家が基本的にシンとしてるって言ってたから」
むしろ善意で言ってくれたのだろうなと思うと少し嬉しい気持ちにはなったが、心底余計なお世話でもある。
「二人きりがいい」
「そ、そう?」
二人きりがいいと那月が言うと、日陽は顔を赤らめてきた。それがかわいかったので「まぁいいや」と那月は思った。
「昼飯さー」
「ああうん。どっか食べに行く? 出前もできるけど……」
「いや、家デートだろ? だから俺らで作らね?」
昼前にやって来た日陽は少し寛いだ後にそんなことを言ってきた。
「え? 面倒だろ」
「何で。楽しいかもだろ」
「でも日陽、料理できんの?」
「できないけど」
「できないのによく俺らで作ろうって言ったよな」
さすがに那月が微妙な顔で苦笑していると「やってみたらできるかもだろ」と軽くムッとしている。こんなささやかなやりとりがとても嬉しくて楽しい。ひたすら日陽を求めるあまり気づけば体を繋げようとしてはいるが、大好きな日陽とのやりとりだけでも本当は幸せだ。
「じゃあ、何作る?」
「え、っと……ラーメン?」
「待って、それインスタントじゃないの?」
那月が笑いながら言うと日陽が微妙な顔してきた。
「何作るって聞かれたら思いつかないんだよ。何作ればいいんだろ」
「じゃあさ、日陽は何食べたい?」
「……煮込みハンバーグ?」
「昼間から……?」
「肉欲に夜も昼間もねーよ!」
「肉欲って」
「じゃ、じゃあオムライス」
これならどうだ、とばかりに得意げな顔をしてくる日陽を、那月はやはり今すぐ押し倒したくて仕方ない。
「それならまだできそうだな」
「おう。……どうすんだっけ? ご飯にケチャップ混ぜて、焼いた卵乗せたらいいんだよな?」
何だかまさに男の料理だなと那月はニコニコする。確かに何となく楽しくなりながら、那月は日陽とキッチンへ向かった。
「チキンライスをまず作るんだよ。鶏肉と玉ねぎと卵……それとケチャップあればいいね。卵とケチャップはあるから、今から鶏肉と玉ねぎ買いに行こう」
「……おう」
米をとぎ、炊飯器のスイッチを入れてから一旦家を一緒に出て、近所にあるスーパーへ向かう。買い物カゴを手にして二人で食料品売り場を歩いているとますます嬉しくなってきた。
「新婚みたい」
「へ、変なこと言うなよ……」
日陽は微妙な顔をしながらも少し赤くなってくれた。
「なあ、ももとむねって肉の場所以外どう違うんだろな。どっちも同じ? じゃないよな」
「そうだね。オムライスならむね肉でいいだろけど、もも肉のがおいしいと思う」
「そっか。……お前ってさ、もしかして料理、できるの?」
「しないよ?」
できるけれども、と思いつつ那月は「しない」と答えた。どのみちできるとはいえ、何でも作らはしないし普段一人なので作る気がしない。親が忙しいので代わりに自分が作ろうかと思ったことはあるが、いつ家にいるかわからないのでこれはこれで難しい。それでも作ってみたことはあるが、かえって親に気を使わせたような気がしたので結局今はほぼ作っていない。
夕食はそれこそ母親が何か作ってくれていることもあるのでそれを見つけたら食べるか、もしくは惣菜を買うか出前するかだ。不便ではないし嫌だと思わない。ただ弁当やインスタント食品は楽だがすぐに飽きる。
金の心配はない。いつでも使えるよう親が置いてくれている。これに関してもむしろ自分を信用してくれているのだなと思っているので嫌な気持ちになることはない。
「しない、か」
「うん」
ついでにサラダ用としてレタスやトマトも買う。
「じゃあ帰って作ろうか。お腹空いてきた」
「だな」
二人で笑い合った。ああ、幸せだなと実感する。ただ「そいやオムライスって智充が好きだったよな」と日陽が笑いながらサラリと言ってきて、幸せな気持ちがかなりしぼんだりもした。
0
あなたにおすすめの小説
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる