月と太陽

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27話 ※

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 最近の那月はますます明らかにおかしい。やはり何かあったのではないだろうかと日陽は思う。
 日陽も那月が好きだし、那月だからこそ触れたり触れられたりしたい。セックスするのは多少体に負担があっても嫌いじゃない。だが昼休みの度にこれでは、どう考えてもお互いによくないとしか思えない。
 それに、だんだん那月は大胆になっている。これではいつ誰に見つかってもおかしくないのではないかと怖い。
 日陽ももっと抵抗するべきなのだろう。だが回を重ねる毎に抵抗できなくなっていく自分がいた。快楽に体が慣れ過ぎてしまったのだろうか。情けないことに考えられる。
 だがこのままでは駄目だと日陽は思う。あまりにも不健全過ぎる。いくら好きな相手でも、いくらつき合っていても、毎日それも学校でとか罪悪感さえ湧き起こる。休みの日は休みの日で、会うのはいつも那月の家になっている。そしてひたすらベッドの上だ。

 こんなじゃ駄目だ。

 日陽は授業中なのも忘れて頭を大袈裟に抱え込み、唸った。
 休日ですらセックスばかり。少し前までは出かけて一日外で過ごしたり、家にいても違うことをして笑い合っていた。その頃でも那月に対してたまにどうしたのだろうと思うことはあったが、今の状態を思えば大したことなかった。ひたすらシーツを乱すことしかしていないのを思い出し、日陽は赤面しながらも「ほんと駄目だろ」と思う。
 学校でだけでなく、休日も那月は日陽と離れたがらなかった。この間の週末もそうだった。

「別に帰るって言ってんじゃない。せっかく天気がいいんだ。ほら、前みたいに公園ぶらぶらでもいい、出かけないか」
「日陽は何でそんなに出かけたがるの? 俺が好きなら俺とこうして一緒にいられるほうがよくない?」

 行為が終わった後、息を整えてから「出かけよう」と持ちかけてもそんな風に返される。

「お前のことは好きだよ。だから一緒に……」
「俺も日陽が大好きだよ。だからこうして繋がってたい……」

 背中の胸椎あたりに唇を這わせながら那月が囁いてくる。達したばかりだというのに、もしくは達したばかりだからだろうか。そんなささやかな刺激にすら日陽の体は敏感に反応するようになっていた。一瞬ふるりと震えたのは那月にも気づかれたようで、背後から「こんなところまで気持ちいいの?」とどこか嬉しそうに囁きながら手を日陽の胸元へ持ってくる。

「やったとこだろ、やめろ……」

 そういって逃れようとするが抱きとめられる。そして那月の指が胸の先に触れると小さな声が漏れた。

 こんなのは間違っている。

 だがすぐに体ごと蕩かされ抵抗できない。二度目のそこは最初から受け入れる状態になっていて、あっという間に那月のものを飲み込んだ。学校と違ってコンドームをつけてくれないまま中で達してくるせいで、ローションを足さずとも肉がぶつかり合う音とともに恥ずかしくなるような音を立ててきた。

「ぁ、あ……、あっ、あっ」
「堪んない……好き。大好き……日陽、好き、好きだよ――」

 ひたすら好きだと言う那月の言葉が途中からちゃんと聞こえなくなってくる。いや、聞こえているのだが、脳に届かない。
 那月のことは好きだし気持ちいいことも好きだ。だが――
 結局その日も帰るまでベッドから出ることはほぼなかった。下手したらトイレすら行かれないのではないかと思う勢いだった。

「……どこ、行くの?」
「トイレ!」
「あー……。……バケツ持ってこようか?」
「ネタならそれ、面白くも何ともねーからな!」

 那月の言葉にドン引きしつつも日陽は部屋を出た。一瞬部屋を出して貰えないのではないかと何故か思ったがそういうことはなく、何となくホッとしながらトイレで用を足した。
 正直このまま帰らせてもらえない気、すらほんのりする。昔から知ってる那月相手に何を馬鹿なことをと思いながらも、自分の考えに笑えなかった。
 もちろんちゃんと帰ったし「帰る」と言った時に寂しそうな顔をしてきたが「帰らせない」といったことは何も言われていない。

「うん、また明日な」

 そう言ってニッコリ笑ってきた。
 だというのに家に帰ってからも何となく、すんなりと帰ってきた実感があまり湧かないほど、あのまま出してもらえないような気になった。それくらい、那月の様子がおかしいと自分は思っているのだと、改めて日陽は実感した。那月が監禁すらしそうだと怯えるよりも何よりも、監禁すらされそうだと頭に浮かぶ自分が嫌だった。

「ここ、テストに出るからなー」

 ふと先生の声が耳に届き、日陽はハッとなって慌ててノートをとった。そして小さくため息つき、次こそは抗わなくては駄目だ、と自分に言い聞かせる。
 次の昼休みになると、やはり那月は日陽を連れ出した。最近はいつもの流れみたいになりつつあり、智充も特に気にしていないようだ。とはいえ最初の頃から「那月が俺を仲間に入れてくれない」などと冗談を言いつつも大して気にしていなかった。部活中に「そういえば昼休み……」と何気に話を振ろうとしてみたら「あいつ、何だかんだで周りからワイワイ絡まれるタイプだもんなー」などと返ってきたことがある。

「え?」
「那月だろ? 休み時間でもよく女子だけじゃなくて男子にすら何かと絡まれてるだろ」
「まぁ……」

 それは間違っていない。今のように明らかに那月の様子が日陽にとっておかしくても、相変わらず他の相手には愛想がいいし楽しげな様子で話しかけられたりしている。だが次に智充が笑いながら言ってくる言葉に、日陽は目を軽く見開いた。

「でも那月ってわりと一人でいるのも好きそうじゃん」
「え」
「ん? まさに一人っ子ってタイプだよな、那月って。明るいヤツだけど一人も好きってやつだろ。だからせめて昼休みはお前相手にゆっくりぼんやりしたいとかなんだろ?」
「え、あ……ああ、うん、そう」
「あ、つかそれよりさー……」

 智充の話を聞きながら、日陽は内心少し戸惑っていた。一人でいるのが好きそうだという内容に戸惑っているのではない。それは言われてみればそんなに意外ではないとすぐに思った。明るいけれども、前からどこか物静かそうなところもあると日陽が思っていたイメージとも合う。そうではなく、それを智充が指摘したことに戸惑っていた。

 ……もしかして、俺より智充のがずっと那月のこと、わかってる?

 智充だったら今の那月になっていなかっただろうか、なっていても那月をわかってやれるのだろうかと思わず考え、胸にチリッとした違和感があった。
 日陽を連れ出した那月は、今日はまた空き教室へ連れ込むことにしたようだ。廊下じゃなくてよかった、と思った後で日陽は自分に対して微妙になる。

 何ヤる前提でいるんだよ俺。今日こそ抗うんだろうが。

 いつものように抱きしめてきた那月を、日陽は黙って引き離す。

「日陽?」
「もうやめよう。何度も言ってるけど、学校は嫌だ」

 日陽は那月の目を見ながらはっきりと口にした。
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