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1話
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気づけば自分の周りでは彼氏彼女を作って皆浮足立っている。
正条 生智(せいじょう いち)はムッとした顔で隣の席の友だちを足蹴にしていた。
「ちょっといっちゃん! いってーんだよ」
「るせぇ、どいつもこいつも頭に花咲かせやがって」
「おま、それ完全に八つ当たりだろ……!」
八つ当たりと言われても仕方がない。まごうことなき八つ当たりだった。生智は丁度先週、彼女と別れたばかりだった。
「八つ当たりじゃない。お前のそのだらしなく緩んだ存在を調教してやろうとだな……」
「待って。緩んだ顔ならまだしも俺の存在全否定じゃねーの……! つか調教ってなんだよ!」
「何か腹減った」
「はぁっ?」
相変わらず合間に足蹴にしながらそんなやり取りをしていると、いつの間にチャイムが鳴っていたのか先生が入ってきた。
英語だ。英語の授業だ。
見た目は真面目とかけ離れているが、生智の頭は実際のところ悪くはない。そもそもこの学校に入っている時点で、どの生徒も少なくとも中学まではかなり成績がよかったか、とてつもない運が味方したかだと思われる。
ただ英語は無理だ、と生智は授業を始め出した教師をぼんやりと見ながら思う。
何故日本人が英語を理解し喋らないといけない?
将来仕事に必要かもしれない、どこでも通用するから云々だというなら、それこそ世界で一番沢山の人口に使われている中国語はどうなのだ、と思う。世界の人口の七分の一が中国語で、最も使われている言語だ。
次に多いのは英語ではなくスペイン語だ。スペインだけでなく中南米はほぼこの言語のはずだ。
次が英語だが、例えばヨーロッパで英語を使ってくれない地域がどれだけあるか。アジアで通じない地域がどれだけあるか。
なのになんで俺はこうして英語の勉強をさせられてんだよ。っつっても全部受け売りだし、じゃあ中国語やスペイン語を勉強しろと言われても無理だけどな。
だるいといった表情を抑えることもなく生智はそんなことを考えながらも授業に集中する気もなく、ぼんやりと教師を見る。
英語教師は生智のクラスの副担任でもあるが、未だにまだ名前をちゃんと覚えていない。
……あが、何とかだっけ?
生智も高校二年にしては身長がある方だが、教師は男の割に綺麗な顔立ちをしている上に生智よりもさらに少しだけ高い。それもあってか、やたらと女子に人気がある。
だが真面目なのか堅いのか、勉強のこと以外に関しては淡々と素っ気なかった印象はある。あるが、それがまたいいと言っている女子を見たこともある。
そいや別れたばっかのあいつも「あのセンセーいいよね」とか言ってたな。
ふと思い出すとイライラとして生智は小さく舌打ちをした。
教師は最初にプリントを配り、それにそって何やら話をしていた。生智たち生徒はそれを聞きながらプリントに目を通し、問題を授業中に解くという流れのようだ。
「もうすぐ終わりの時間だな。じゃあ出しておいた課題と一緒にして後ろから前の席に戻していってくれ」
ふと腕時計を見た後で教師が皆を見渡して言った。後ろからプリントが回ってくる。
生智も白紙という訳ではない。というか課題のことを綺麗さっぱり忘れていたので代わりにプリントは何か書こうと思った。だが一切話は聞いていなかったし、聞いていても恐らく分からなかった気がする。
英語で回答を書く内容に対し、生智はとりあえずローマ字読みの日本語で書いておく。面倒だし白紙よりもマシだろと思いつつ、生智は自分の用紙を重ねて前に回した。
放課後、ようやく終わったとばかりに立ち上がったところで、副担任であり英語担当であるその教師が教室に入ってきた。
「正条」
帰ろうとしていたところで名前を呼ばれる。
「何すか」
「お前、居残りな」
「は? イヤっすよ。何で」
「何でもへったくれもあるか。いいから残る!」
呆れたようにため息を吐かれたが、心当たりしかないので生智はムッとすることもできない。
だがクラスの女子から「英賀谷センセーと二人で居残りとか羨ましすぎ」などとふざけたことを言われ、それに対して生温い顔をした。
「じゃあ変わってよ」
「変わっていいなら変わりたいわよ。センセー、だめ?」
「帰りなさい」
ニ、三人の女子がふざけてそんな風に言いながら教師の腕に腕を絡めているが、教師はやはり淡々と答えている。素っ気ない言われ方をされたにも関わらず、だが女子たちは嬉しそうに「はーい」と素直に帰っていった。友だちの徳田 将(とくた たもつ)からは「俺に酷いことするから罰が当たったんだぜ」などとニヤニヤしてくる。
「煩い」
「じゃあ俺はかわいいかわいい彼女と一緒にかーえろ」
「クソ、とっとと帰れ」
わざと楽しげに言ってきた将に対し生智がシッシッと追い払うようにして言っている間、教師は相変わらず淡々と他の生徒の対応をしながらこれから居残りで使うのであろう課題を準備している。
追い払った後生智は何気にその様子を見て、淡々と素っ気ない様子ではあるがその教師が生徒を蔑ろにするような態度は取っていないことに気づいた。
ただのクソ真面目で融通の利かない冷たい野郎かと思ったけど。
そんなことを思っていると「正条」とまた呼ばれた。
「なんすか」
「座ってこれ、解いて」
机の上に置かれたプリントを見て、生智はうんざりとした。
「何で俺だけ」
「お前くらいだからな、課題未提出の上にふざけた用紙提出してきたの」
「……ッチ。だってやってらんねーめんどくせー……」
「なんだって?」
「聞こえなかったらいっすよ。つか今こんなのすぐできないっすけど」
「今日の授業を聞いていたら解けるものばかりだけど?」
「ぅ。俺、日本人だから無理っす」
「そうか。でも俺も日本人だよ。いいから四の五の言わず解く」
きっぱりすっぱりと言われ、どうにも逃れられないとわかった生智は渋々着席し、やり始める。
「わからなかったら聞いてこい」
「しょっぱなからわかりません」
「……お前そういえば前のテストも散々だったな……。いいだろう、一つ一つ教えていく。ここしばらくはちょくちょく居残りな」
呆れさせ、諦めるかせめて宿題にさせようとした行動が裏目に出た。
「はっ? 何それ無理」
「俺もお前の成績の悪さが無理だよ」
淡々とため息を吐きながら返され、生智は思い切りやる気をなくしつつ恨みがましげに教師を見た。何が悲しくて嫌いな英語を、男教師とマンツーマンでやらなければならないのか。嫌がらせとしか思えない。ますます英語が嫌いだとその後の居残りで実感していたが、次のテストでは意外にも少し点がよくなっていた。
正条 生智(せいじょう いち)はムッとした顔で隣の席の友だちを足蹴にしていた。
「ちょっといっちゃん! いってーんだよ」
「るせぇ、どいつもこいつも頭に花咲かせやがって」
「おま、それ完全に八つ当たりだろ……!」
八つ当たりと言われても仕方がない。まごうことなき八つ当たりだった。生智は丁度先週、彼女と別れたばかりだった。
「八つ当たりじゃない。お前のそのだらしなく緩んだ存在を調教してやろうとだな……」
「待って。緩んだ顔ならまだしも俺の存在全否定じゃねーの……! つか調教ってなんだよ!」
「何か腹減った」
「はぁっ?」
相変わらず合間に足蹴にしながらそんなやり取りをしていると、いつの間にチャイムが鳴っていたのか先生が入ってきた。
英語だ。英語の授業だ。
見た目は真面目とかけ離れているが、生智の頭は実際のところ悪くはない。そもそもこの学校に入っている時点で、どの生徒も少なくとも中学まではかなり成績がよかったか、とてつもない運が味方したかだと思われる。
ただ英語は無理だ、と生智は授業を始め出した教師をぼんやりと見ながら思う。
何故日本人が英語を理解し喋らないといけない?
将来仕事に必要かもしれない、どこでも通用するから云々だというなら、それこそ世界で一番沢山の人口に使われている中国語はどうなのだ、と思う。世界の人口の七分の一が中国語で、最も使われている言語だ。
次に多いのは英語ではなくスペイン語だ。スペインだけでなく中南米はほぼこの言語のはずだ。
次が英語だが、例えばヨーロッパで英語を使ってくれない地域がどれだけあるか。アジアで通じない地域がどれだけあるか。
なのになんで俺はこうして英語の勉強をさせられてんだよ。っつっても全部受け売りだし、じゃあ中国語やスペイン語を勉強しろと言われても無理だけどな。
だるいといった表情を抑えることもなく生智はそんなことを考えながらも授業に集中する気もなく、ぼんやりと教師を見る。
英語教師は生智のクラスの副担任でもあるが、未だにまだ名前をちゃんと覚えていない。
……あが、何とかだっけ?
生智も高校二年にしては身長がある方だが、教師は男の割に綺麗な顔立ちをしている上に生智よりもさらに少しだけ高い。それもあってか、やたらと女子に人気がある。
だが真面目なのか堅いのか、勉強のこと以外に関しては淡々と素っ気なかった印象はある。あるが、それがまたいいと言っている女子を見たこともある。
そいや別れたばっかのあいつも「あのセンセーいいよね」とか言ってたな。
ふと思い出すとイライラとして生智は小さく舌打ちをした。
教師は最初にプリントを配り、それにそって何やら話をしていた。生智たち生徒はそれを聞きながらプリントに目を通し、問題を授業中に解くという流れのようだ。
「もうすぐ終わりの時間だな。じゃあ出しておいた課題と一緒にして後ろから前の席に戻していってくれ」
ふと腕時計を見た後で教師が皆を見渡して言った。後ろからプリントが回ってくる。
生智も白紙という訳ではない。というか課題のことを綺麗さっぱり忘れていたので代わりにプリントは何か書こうと思った。だが一切話は聞いていなかったし、聞いていても恐らく分からなかった気がする。
英語で回答を書く内容に対し、生智はとりあえずローマ字読みの日本語で書いておく。面倒だし白紙よりもマシだろと思いつつ、生智は自分の用紙を重ねて前に回した。
放課後、ようやく終わったとばかりに立ち上がったところで、副担任であり英語担当であるその教師が教室に入ってきた。
「正条」
帰ろうとしていたところで名前を呼ばれる。
「何すか」
「お前、居残りな」
「は? イヤっすよ。何で」
「何でもへったくれもあるか。いいから残る!」
呆れたようにため息を吐かれたが、心当たりしかないので生智はムッとすることもできない。
だがクラスの女子から「英賀谷センセーと二人で居残りとか羨ましすぎ」などとふざけたことを言われ、それに対して生温い顔をした。
「じゃあ変わってよ」
「変わっていいなら変わりたいわよ。センセー、だめ?」
「帰りなさい」
ニ、三人の女子がふざけてそんな風に言いながら教師の腕に腕を絡めているが、教師はやはり淡々と答えている。素っ気ない言われ方をされたにも関わらず、だが女子たちは嬉しそうに「はーい」と素直に帰っていった。友だちの徳田 将(とくた たもつ)からは「俺に酷いことするから罰が当たったんだぜ」などとニヤニヤしてくる。
「煩い」
「じゃあ俺はかわいいかわいい彼女と一緒にかーえろ」
「クソ、とっとと帰れ」
わざと楽しげに言ってきた将に対し生智がシッシッと追い払うようにして言っている間、教師は相変わらず淡々と他の生徒の対応をしながらこれから居残りで使うのであろう課題を準備している。
追い払った後生智は何気にその様子を見て、淡々と素っ気ない様子ではあるがその教師が生徒を蔑ろにするような態度は取っていないことに気づいた。
ただのクソ真面目で融通の利かない冷たい野郎かと思ったけど。
そんなことを思っていると「正条」とまた呼ばれた。
「なんすか」
「座ってこれ、解いて」
机の上に置かれたプリントを見て、生智はうんざりとした。
「何で俺だけ」
「お前くらいだからな、課題未提出の上にふざけた用紙提出してきたの」
「……ッチ。だってやってらんねーめんどくせー……」
「なんだって?」
「聞こえなかったらいっすよ。つか今こんなのすぐできないっすけど」
「今日の授業を聞いていたら解けるものばかりだけど?」
「ぅ。俺、日本人だから無理っす」
「そうか。でも俺も日本人だよ。いいから四の五の言わず解く」
きっぱりすっぱりと言われ、どうにも逃れられないとわかった生智は渋々着席し、やり始める。
「わからなかったら聞いてこい」
「しょっぱなからわかりません」
「……お前そういえば前のテストも散々だったな……。いいだろう、一つ一つ教えていく。ここしばらくはちょくちょく居残りな」
呆れさせ、諦めるかせめて宿題にさせようとした行動が裏目に出た。
「はっ? 何それ無理」
「俺もお前の成績の悪さが無理だよ」
淡々とため息を吐きながら返され、生智は思い切りやる気をなくしつつ恨みがましげに教師を見た。何が悲しくて嫌いな英語を、男教師とマンツーマンでやらなければならないのか。嫌がらせとしか思えない。ますます英語が嫌いだとその後の居残りで実感していたが、次のテストでは意外にも少し点がよくなっていた。
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