2 / 20
2話
しおりを挟む
職員室では現在授業中のため、ほとんどの教師が不在だった。回収した一人一人の課題とプリントをチェックしていく。たまたま授業のないコマであってもこうしてやることは沢山ある。
英賀谷 衛二(あがたに えいじ)は一枚のプリントを見て、ため息を吐いた。名前の欄を確認すると「正条 生智」とある。またこいつか、とさすがに少々イラっとする。
普段から授業をあまり聞いていない上に英語の成績も悪い。今回も課題が未提出の上に英語で書く解答欄にローマ字読みの日本語を書いている。
「……馬鹿にしてんのか」
ボソリと呟くと「やだやだ、英賀谷センセーがお怒り?」と軽いノリの声が聞こえてきた。
「森永先生、体育の授業は?」
「ねぇからここにいんだろ」
「……口調」
「えー、煩いセンセー方もいねーんだしいーじゃん」
「そんなだから他の先生方とあまり合わないんだろ、全く」
「合うセンセー結構いんぞ。つかここの学校のセンセーはやりやすい人が多い。前の学校じゃ教官室に引きこもるほうがマシだったくらいだわ」
森永 基一(もりなが もとかず)は保健体育の教師をやっている。そのせいもあるが、衛二からすれば主に軽い性格のせいで前の学校では教師の中で浮いていたらしい。
おまけにやることや拘束時間は多いのに、他の教師からは「楽でいいですね」と言われたこともあるらしく、この学校に転任してきた時の歓迎会で速攻、大いに憤慨していたようだ。
「つか、その解答ひでーな」
話を聞きながらも衛二が先ほどのプリントを見ていたら基一が覗き込んできた。
「笑える」
「笑いごとじゃない。だいたいお前が担任だろ」
「まぁ教師の立場からしたら笑いごとじゃねーけど。でもまあ、わからねーでもない」
クックと抑えるように笑いつつ言っていた基一だが、途中からは堪えることもなく笑ってきた。
「笑い過ぎだよ」
「だって。で、どーすんの、英賀谷センセー」
「まぁ、居残ってもらうしかないな」
「がんばれ」
ポンと衛二の肩を叩くと、基一は元々あった用事を済ませに行く。
衛二はこのろくでもない回答用紙を提出してきた生徒のクラスの副担任であるが、基一は担任だった。
……居残りなんて俺が生徒だとしても嫌だろうけど、仕方ない。
ため息を吐くと、衛二は残りのプリントもチェックしていった。
放課後、その生徒が帰ってしまう前に急いで教室へ出向く。
案の定、生徒である生智はとてつもなく嫌そうだった。しかもその気持ちを隠そうともしない。だが思っていたよりは素直に言うことを聞いてきた。課題を出さなかったり授業を真面目に聞かない割に、文句を言いながらも居残り授業もサボることはない。
派手な金に近い茶色に染めている髪に反抗的な言動、おまけに成績もあまりよくないために少々問題児かと思っていた衛二は妙に微笑ましく思えた。
この学校の学力レベルは高いが校則が緩い分、髪の色は問題児まではいかなくとも皆わりと自由にしている。ピアスを開けたりもしているが、よほど派手じゃない限り教師もあまり何も言わない。なので見た目だけで問題児かそうでないかという判断を他所の学校よりはしない分、態度が決め手となる。
派手な恰好をしていても大抵の生徒は成績がいいし授業も真面目に受ける。出された課題もきちんとこなす。
生智は違った。見た目も真面目でない上に態度も真面目でない。そのため衛二も何となく自分の中での問題児の枠に生智を入れていた。
「意外にもちゃんと来るんだな」
「は? 先生が来いっつっときながら何それ。来なくていーなら喜んで来ねーよ」
英語を本当に嫌いなのか衛二のことが何か気に食わないのか、生智とは今までほぼ接触することはなかった。
居残りを言い渡してから暫くは全然丁寧でもなんでもない、体育会系とでも言うのかわからないが取って付けたような敬語もどきで話されていたが、最近は慣れてきたのか敬語もどきすらなくなった。だが変な話し方をされるよりは、むしろこちらの方が衛二としてはいい。
「お前にとっちゃ迷惑かもだけど、ちゃんとお前の身につくものだ」
「つか英語の成績悪い俺に恨みでもあんのかと思ったけど」
「そりゃ恨みたくもなる成績だしな」
「ぁあ?」
衛二が頷くとムキになって睨んでくる。問題児というか、子どもだなと衛二は内心そっと笑う。
「じゃあやっぱマンツーマンで嫌がらせしてんの」
「俺も暇じゃない。お前に嫌がらせする暇があったら家でゆっくりしてるよ」
「っち。んだよそれ。じゃあゆっくりしてなよ。俺もゆっくりするから」
「お前がちゃんと真面目に授業聞いて成績も上がったらな」
少し笑みを見せながら答えると生智はとてつもなく微妙な顔で衛二を見てきた。
成績に関してはだが既に少しずつ結果が出ているような気がする。この間行った小テストでも、まだまだ他に比べるとこちらが泣きたくなるような点ではあったがそれなりに理解しての回答という感じがした。
恐らく元は悪くないはずだと衛二は思う。まだまだ授業中は心ここにあらずといった感じだし、英語の成績の危うさからは脱してはいないが、このまま定期的に居残り授業を続けていたらなんとかなりそうだ。
全く。こちとらサービス残業みたいなもんなんだぞ。
そう思いつつも提案したのは自分だし、生徒にとってはありがた迷惑でしかないのだろうとは思う。
「まーそりゃ迷惑だわな」
居残り授業のない日、学校帰りに基一と寄った居酒屋でニヤリと言われた。
「お前だって学生の頃思い出したらそーなるだろ」
「……あいにく俺は居残りしたことないんでね」
微妙な顔で言えば「俺、めっちゃさせられたことある!」と基一は楽しげに笑う。
大抵の教師は真面目にやってきた者が多いと思うので、こういうタイプは普通だと珍しいのかもしれない。ただ衛二と基一が今勤めている今の学校は、わりと変わった教師が多い。基一は「いい同僚が揃ってる」と嬉しそうだ。
衛二はよくいる真面目にやってきたタイプの教師なので他人事のように「よかったな」と言えば「大丈夫、英賀谷もその内の一人だから」と肩を組まれ笑って言われた。
ちなみにあまり酒は強くない。そのため飲みに行くと翌日に少々響いてしまう。
それを考慮して途中からは飲むのを基一に任せ、衛二はウーロン茶と共にひたすら焼き鳥に専念していたのだがやはり翌日、少々だるかった。
今日も幸いとでも言うのだろうか、居残り授業の日ではないのでよかったとは思う。というか居残り授業がある前日には行かないようにしている。
案の定、副担任をしている教室で一人、放課後に課題のプリントを作成していたらもの凄い眠気に襲われてしまった。
早く片付けて職員室へ戻り、コーヒーを飲もう。
そう思っていたが、あまりに眠くてついウトウトとしてしまった。
英賀谷 衛二(あがたに えいじ)は一枚のプリントを見て、ため息を吐いた。名前の欄を確認すると「正条 生智」とある。またこいつか、とさすがに少々イラっとする。
普段から授業をあまり聞いていない上に英語の成績も悪い。今回も課題が未提出の上に英語で書く解答欄にローマ字読みの日本語を書いている。
「……馬鹿にしてんのか」
ボソリと呟くと「やだやだ、英賀谷センセーがお怒り?」と軽いノリの声が聞こえてきた。
「森永先生、体育の授業は?」
「ねぇからここにいんだろ」
「……口調」
「えー、煩いセンセー方もいねーんだしいーじゃん」
「そんなだから他の先生方とあまり合わないんだろ、全く」
「合うセンセー結構いんぞ。つかここの学校のセンセーはやりやすい人が多い。前の学校じゃ教官室に引きこもるほうがマシだったくらいだわ」
森永 基一(もりなが もとかず)は保健体育の教師をやっている。そのせいもあるが、衛二からすれば主に軽い性格のせいで前の学校では教師の中で浮いていたらしい。
おまけにやることや拘束時間は多いのに、他の教師からは「楽でいいですね」と言われたこともあるらしく、この学校に転任してきた時の歓迎会で速攻、大いに憤慨していたようだ。
「つか、その解答ひでーな」
話を聞きながらも衛二が先ほどのプリントを見ていたら基一が覗き込んできた。
「笑える」
「笑いごとじゃない。だいたいお前が担任だろ」
「まぁ教師の立場からしたら笑いごとじゃねーけど。でもまあ、わからねーでもない」
クックと抑えるように笑いつつ言っていた基一だが、途中からは堪えることもなく笑ってきた。
「笑い過ぎだよ」
「だって。で、どーすんの、英賀谷センセー」
「まぁ、居残ってもらうしかないな」
「がんばれ」
ポンと衛二の肩を叩くと、基一は元々あった用事を済ませに行く。
衛二はこのろくでもない回答用紙を提出してきた生徒のクラスの副担任であるが、基一は担任だった。
……居残りなんて俺が生徒だとしても嫌だろうけど、仕方ない。
ため息を吐くと、衛二は残りのプリントもチェックしていった。
放課後、その生徒が帰ってしまう前に急いで教室へ出向く。
案の定、生徒である生智はとてつもなく嫌そうだった。しかもその気持ちを隠そうともしない。だが思っていたよりは素直に言うことを聞いてきた。課題を出さなかったり授業を真面目に聞かない割に、文句を言いながらも居残り授業もサボることはない。
派手な金に近い茶色に染めている髪に反抗的な言動、おまけに成績もあまりよくないために少々問題児かと思っていた衛二は妙に微笑ましく思えた。
この学校の学力レベルは高いが校則が緩い分、髪の色は問題児まではいかなくとも皆わりと自由にしている。ピアスを開けたりもしているが、よほど派手じゃない限り教師もあまり何も言わない。なので見た目だけで問題児かそうでないかという判断を他所の学校よりはしない分、態度が決め手となる。
派手な恰好をしていても大抵の生徒は成績がいいし授業も真面目に受ける。出された課題もきちんとこなす。
生智は違った。見た目も真面目でない上に態度も真面目でない。そのため衛二も何となく自分の中での問題児の枠に生智を入れていた。
「意外にもちゃんと来るんだな」
「は? 先生が来いっつっときながら何それ。来なくていーなら喜んで来ねーよ」
英語を本当に嫌いなのか衛二のことが何か気に食わないのか、生智とは今までほぼ接触することはなかった。
居残りを言い渡してから暫くは全然丁寧でもなんでもない、体育会系とでも言うのかわからないが取って付けたような敬語もどきで話されていたが、最近は慣れてきたのか敬語もどきすらなくなった。だが変な話し方をされるよりは、むしろこちらの方が衛二としてはいい。
「お前にとっちゃ迷惑かもだけど、ちゃんとお前の身につくものだ」
「つか英語の成績悪い俺に恨みでもあんのかと思ったけど」
「そりゃ恨みたくもなる成績だしな」
「ぁあ?」
衛二が頷くとムキになって睨んでくる。問題児というか、子どもだなと衛二は内心そっと笑う。
「じゃあやっぱマンツーマンで嫌がらせしてんの」
「俺も暇じゃない。お前に嫌がらせする暇があったら家でゆっくりしてるよ」
「っち。んだよそれ。じゃあゆっくりしてなよ。俺もゆっくりするから」
「お前がちゃんと真面目に授業聞いて成績も上がったらな」
少し笑みを見せながら答えると生智はとてつもなく微妙な顔で衛二を見てきた。
成績に関してはだが既に少しずつ結果が出ているような気がする。この間行った小テストでも、まだまだ他に比べるとこちらが泣きたくなるような点ではあったがそれなりに理解しての回答という感じがした。
恐らく元は悪くないはずだと衛二は思う。まだまだ授業中は心ここにあらずといった感じだし、英語の成績の危うさからは脱してはいないが、このまま定期的に居残り授業を続けていたらなんとかなりそうだ。
全く。こちとらサービス残業みたいなもんなんだぞ。
そう思いつつも提案したのは自分だし、生徒にとってはありがた迷惑でしかないのだろうとは思う。
「まーそりゃ迷惑だわな」
居残り授業のない日、学校帰りに基一と寄った居酒屋でニヤリと言われた。
「お前だって学生の頃思い出したらそーなるだろ」
「……あいにく俺は居残りしたことないんでね」
微妙な顔で言えば「俺、めっちゃさせられたことある!」と基一は楽しげに笑う。
大抵の教師は真面目にやってきた者が多いと思うので、こういうタイプは普通だと珍しいのかもしれない。ただ衛二と基一が今勤めている今の学校は、わりと変わった教師が多い。基一は「いい同僚が揃ってる」と嬉しそうだ。
衛二はよくいる真面目にやってきたタイプの教師なので他人事のように「よかったな」と言えば「大丈夫、英賀谷もその内の一人だから」と肩を組まれ笑って言われた。
ちなみにあまり酒は強くない。そのため飲みに行くと翌日に少々響いてしまう。
それを考慮して途中からは飲むのを基一に任せ、衛二はウーロン茶と共にひたすら焼き鳥に専念していたのだがやはり翌日、少々だるかった。
今日も幸いとでも言うのだろうか、居残り授業の日ではないのでよかったとは思う。というか居残り授業がある前日には行かないようにしている。
案の定、副担任をしている教室で一人、放課後に課題のプリントを作成していたらもの凄い眠気に襲われてしまった。
早く片付けて職員室へ戻り、コーヒーを飲もう。
そう思っていたが、あまりに眠くてついウトウトとしてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる