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5話
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「いっちゃん、早く行こーよ」
将が痺れを切らしたように言っている。生智は「あー」とも「うー」ともつかないような声を出し、のそのそと立ち上がった。
衛二は生智の告白をとてつもなく軽く流してきた。男同士だから全く本気に受け取らず、冗談と受け止めているのかとも思ったが、そういう訳でもないようだった。
生智が告白をしていると理解した上で流してきたのだ。
どうせすぐ他に目移りするだろうとでも思ったのだろうかと生智はイライラした。
先生がそういう気なら、俺まじですげーガンガンいってやるからな!
本人にもそう告げた。だが告げたところで「そうか。でもお前は生徒で俺は先生だから」としか言ってくれなかった。
学校を将と一緒に出ると、そのままファミリーレストランへ向かう。この辺は都会とは言い難く、周りも大して店はない。学校から駅へ向かう途中にはコンビニエンスストアくらいしかない。
駅の周辺になるとカラオケ店やファミリーレストラン、他には学校の女子に人気のイートインが出来る洋菓子店やちょっとしたショップはあるが、繁華街に比べると寂しい。
「つか、いっちゃん最近勉強がんばってんのな。すげー。いっちゃんとは思えねー」
「たもは俺をなんだと思ってんだよ。俺だってやりゃーできんだよ」
歩きながらニコニコと言ってくる将に、生智は微妙な顔をした。
そう、多分やればできるはずだし、やる。
特に、一番苦手だった英語の成績はめちゃくちゃ上げてやると思っている。その上でガンガンと行く。本気だってことを全力で伝えるつもりだ。
ファミリーレストランに着くと、既に将の彼女は先に到着している様子だった。一緒に知らない女子が居る。将曰く「いっちゃんのこと気になってる子がいるらしくてさ、仲よくなる機会設けてくれって彼女に言われた」らしい。
それを言われた時、生智はまず微妙になった。
「普通そういうことって俺にあからさまに言わないもんじゃないの?」
「マジかよ。じゃあ聞かなかったことにしてくれ」
「……了解。じゃあ俺聞いてないから、付き合わずに帰るわ」
「そこは執行猶予くれよ!」
「使い方間違ってねえ? つか、別に俺今そーゆーのいらねーんだけど」
面倒くさげに言えば、将はつり目をパチクリとして生智を見てくる。
「え、お前いっちゃんの振りした誰か?」
「んな訳ねーだろ。俺は俺」
「だって! いっちゃんこないだまで俺に八つ当たりで蹴ってくるくらい彼女欲しがってただろ!」
「そんなことあったっけ」
「あったよ! ったく。どっちにしても頼むよいっちゃん。俺の彼女からの頼みなんだよー」
「……今回だけだからな」
そんなやりとりをした上で、やっぱり気が進まないと思いつつも約束は約束だしと生智は将に付き合った。
生智のことが気になっているらしい女子は整った綺麗な顔立ちだったが、今の生智にしてみれば衛二のほうがいい。
もちろん、衛二のことを好きだと気づいた時はなにかの間違いだとまず自分が思った。将の「好きな子でもできたん?」という言葉で、自分が今までなにか気になりモヤモヤとしていた理由がはっきりしたのだったが、はっきりしたところでさらに理解できなかった。
ひたすら「意味がわからねえ、意味がわからねえ」と反芻してもどうにもならず、生智はまず一旦受け入れてみるところから始めた。
衛二が好きというのはもうどうしようもない。気づいてしまったからだ。好きだと気づいた瞬間から「相手を好きだと思う」瞬間が始まるとどこかで聞いたことがある。
そう思うと一瞬将を恨みたくなったが、ずっと気づかず受け入れられずのままだったらモヤモヤとし続ける自分がきつかったかもしれない。
好き、を受け入れた上で、何故衛二なのか考えてみた。
確かに顔は本当に綺麗だ。性格は生智にとっては少々真面目が過ぎるようなきらいがあるが接してみると案外話のわかる、下手とはいえ乗ってもくれる人だともわかった。何より生智みたいに救いがたい成績の生徒を見捨てずむしろ居残り授業をしてくれている。
最初は嫌がらせかとさえ思ったが、考えてみれば教師からしても余計な仕事が増えている訳だ。残業代が出るのかどうかは知らないが、手間をかけてくれているということだ。
知れば知る程いい人だとは思えたが、それらを全部ひっくるめても好きになる理由として認めにくい。
……だって先生、男だぞ。
意味がわからないのはまさにそこだ。好きだと受け入れた上で考えてもやはり意味がわからない。そういう性癖ではなかったはずだけに、意味がわからない。元々性別に拘らないとか男が好きとかならすぐに受け入れられていただろう。
ここまで考えたところで、逆に考えると元々男でも大丈夫だったら受け入れられるのか? と自分に突っ込みたくなった。
考え方によれば「今から男も好きになった」という発想でもじゃあいけるということじゃないのか? と思えたのだ。
正確には、やはり基本的に男は無理で、でも衛二なら何かいけるしもうそれでいい、だ。
いけるなら、何かだってもういいじゃん別に。
納得してしまえば「意味」なんてどうでもよくなった。
好きだと恐らく意識したであろう瞬間ならわかる。寝顔だ。衛二の寝顔を見てから落ち着かなくなった。恐らくあの時から意識したんだろうと思われる。
意味も理由も結局わからないが「好き」だと思う気持ちに誤作動はないようだと納得し、生智は完全に自分の中で受け入れた。
ファミリーレストランで食べながら話している今も、生智は目の前の女子よりも衛二だった。かといって将の顔をつぶしたい訳ではないし、元々女の子が好きなので邪険にするつもりもない。なので適当ではあるが、それなりに受け答えはしたつもりだった。
ある程度そこで過ごした後、別に場所を移すでもなくそのまま女子を残して生智は将と店を出た。別に置き去りにしたのでも何でもなく、女子から「私たちはもうちょっとここで喋ってくから」と言われただけだ。
「なぁ、どーだった? 結構美人じゃね、さっきの子」
「まーな」
「お! じゃあ……」
「でもいい。あと俺ほんと今そういうのいいから、次からは断って」
「……わかったけど、お前マジでいっちゃん?」
将がとてつもなく怪訝な顔で生智を見てくる。
「俺は俺だっつってんだろ。……こないださ、たもが言っただろ」
「何」
「好きな子でもできたのかって」
「あー、うん。……え。……え? マジだったの?」
「だからいらないからな」
「わかったよ、そりゃ仕方ねーよな! で、誰」
「今狙い始めたとこだから言わない」
「えーなんだよそれ。……って、彼女からだ。……何で?」
将が携帯を取り出し、ポカンとしている。
「どうかした?」
「いや、いっちゃんが乗り気じゃなかったの気づいてるっぽくて、友だち慰めてたらしー。何でそーゆーのわかんの? 親友の俺がわかんなかったのに。女こえー」
「こえーとか言いながら女好きのくせにな。つかさっきも言ったけど俺に報告することかそれ。まあ、彼女と友だちには悪いって言っておいて」
そういえば将のことは衛二とは全然違う意味で好きだわ、と生智は笑いながら将を小突いておいた。
将が痺れを切らしたように言っている。生智は「あー」とも「うー」ともつかないような声を出し、のそのそと立ち上がった。
衛二は生智の告白をとてつもなく軽く流してきた。男同士だから全く本気に受け取らず、冗談と受け止めているのかとも思ったが、そういう訳でもないようだった。
生智が告白をしていると理解した上で流してきたのだ。
どうせすぐ他に目移りするだろうとでも思ったのだろうかと生智はイライラした。
先生がそういう気なら、俺まじですげーガンガンいってやるからな!
本人にもそう告げた。だが告げたところで「そうか。でもお前は生徒で俺は先生だから」としか言ってくれなかった。
学校を将と一緒に出ると、そのままファミリーレストランへ向かう。この辺は都会とは言い難く、周りも大して店はない。学校から駅へ向かう途中にはコンビニエンスストアくらいしかない。
駅の周辺になるとカラオケ店やファミリーレストラン、他には学校の女子に人気のイートインが出来る洋菓子店やちょっとしたショップはあるが、繁華街に比べると寂しい。
「つか、いっちゃん最近勉強がんばってんのな。すげー。いっちゃんとは思えねー」
「たもは俺をなんだと思ってんだよ。俺だってやりゃーできんだよ」
歩きながらニコニコと言ってくる将に、生智は微妙な顔をした。
そう、多分やればできるはずだし、やる。
特に、一番苦手だった英語の成績はめちゃくちゃ上げてやると思っている。その上でガンガンと行く。本気だってことを全力で伝えるつもりだ。
ファミリーレストランに着くと、既に将の彼女は先に到着している様子だった。一緒に知らない女子が居る。将曰く「いっちゃんのこと気になってる子がいるらしくてさ、仲よくなる機会設けてくれって彼女に言われた」らしい。
それを言われた時、生智はまず微妙になった。
「普通そういうことって俺にあからさまに言わないもんじゃないの?」
「マジかよ。じゃあ聞かなかったことにしてくれ」
「……了解。じゃあ俺聞いてないから、付き合わずに帰るわ」
「そこは執行猶予くれよ!」
「使い方間違ってねえ? つか、別に俺今そーゆーのいらねーんだけど」
面倒くさげに言えば、将はつり目をパチクリとして生智を見てくる。
「え、お前いっちゃんの振りした誰か?」
「んな訳ねーだろ。俺は俺」
「だって! いっちゃんこないだまで俺に八つ当たりで蹴ってくるくらい彼女欲しがってただろ!」
「そんなことあったっけ」
「あったよ! ったく。どっちにしても頼むよいっちゃん。俺の彼女からの頼みなんだよー」
「……今回だけだからな」
そんなやりとりをした上で、やっぱり気が進まないと思いつつも約束は約束だしと生智は将に付き合った。
生智のことが気になっているらしい女子は整った綺麗な顔立ちだったが、今の生智にしてみれば衛二のほうがいい。
もちろん、衛二のことを好きだと気づいた時はなにかの間違いだとまず自分が思った。将の「好きな子でもできたん?」という言葉で、自分が今までなにか気になりモヤモヤとしていた理由がはっきりしたのだったが、はっきりしたところでさらに理解できなかった。
ひたすら「意味がわからねえ、意味がわからねえ」と反芻してもどうにもならず、生智はまず一旦受け入れてみるところから始めた。
衛二が好きというのはもうどうしようもない。気づいてしまったからだ。好きだと気づいた瞬間から「相手を好きだと思う」瞬間が始まるとどこかで聞いたことがある。
そう思うと一瞬将を恨みたくなったが、ずっと気づかず受け入れられずのままだったらモヤモヤとし続ける自分がきつかったかもしれない。
好き、を受け入れた上で、何故衛二なのか考えてみた。
確かに顔は本当に綺麗だ。性格は生智にとっては少々真面目が過ぎるようなきらいがあるが接してみると案外話のわかる、下手とはいえ乗ってもくれる人だともわかった。何より生智みたいに救いがたい成績の生徒を見捨てずむしろ居残り授業をしてくれている。
最初は嫌がらせかとさえ思ったが、考えてみれば教師からしても余計な仕事が増えている訳だ。残業代が出るのかどうかは知らないが、手間をかけてくれているということだ。
知れば知る程いい人だとは思えたが、それらを全部ひっくるめても好きになる理由として認めにくい。
……だって先生、男だぞ。
意味がわからないのはまさにそこだ。好きだと受け入れた上で考えてもやはり意味がわからない。そういう性癖ではなかったはずだけに、意味がわからない。元々性別に拘らないとか男が好きとかならすぐに受け入れられていただろう。
ここまで考えたところで、逆に考えると元々男でも大丈夫だったら受け入れられるのか? と自分に突っ込みたくなった。
考え方によれば「今から男も好きになった」という発想でもじゃあいけるということじゃないのか? と思えたのだ。
正確には、やはり基本的に男は無理で、でも衛二なら何かいけるしもうそれでいい、だ。
いけるなら、何かだってもういいじゃん別に。
納得してしまえば「意味」なんてどうでもよくなった。
好きだと恐らく意識したであろう瞬間ならわかる。寝顔だ。衛二の寝顔を見てから落ち着かなくなった。恐らくあの時から意識したんだろうと思われる。
意味も理由も結局わからないが「好き」だと思う気持ちに誤作動はないようだと納得し、生智は完全に自分の中で受け入れた。
ファミリーレストランで食べながら話している今も、生智は目の前の女子よりも衛二だった。かといって将の顔をつぶしたい訳ではないし、元々女の子が好きなので邪険にするつもりもない。なので適当ではあるが、それなりに受け答えはしたつもりだった。
ある程度そこで過ごした後、別に場所を移すでもなくそのまま女子を残して生智は将と店を出た。別に置き去りにしたのでも何でもなく、女子から「私たちはもうちょっとここで喋ってくから」と言われただけだ。
「なぁ、どーだった? 結構美人じゃね、さっきの子」
「まーな」
「お! じゃあ……」
「でもいい。あと俺ほんと今そういうのいいから、次からは断って」
「……わかったけど、お前マジでいっちゃん?」
将がとてつもなく怪訝な顔で生智を見てくる。
「俺は俺だっつってんだろ。……こないださ、たもが言っただろ」
「何」
「好きな子でもできたのかって」
「あー、うん。……え。……え? マジだったの?」
「だからいらないからな」
「わかったよ、そりゃ仕方ねーよな! で、誰」
「今狙い始めたとこだから言わない」
「えーなんだよそれ。……って、彼女からだ。……何で?」
将が携帯を取り出し、ポカンとしている。
「どうかした?」
「いや、いっちゃんが乗り気じゃなかったの気づいてるっぽくて、友だち慰めてたらしー。何でそーゆーのわかんの? 親友の俺がわかんなかったのに。女こえー」
「こえーとか言いながら女好きのくせにな。つかさっきも言ったけど俺に報告することかそれ。まあ、彼女と友だちには悪いって言っておいて」
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