ラインの向こう側

Guidepost

文字の大きさ
5 / 20

5話

しおりを挟む
「いっちゃん、早く行こーよ」

 将が痺れを切らしたように言っている。生智は「あー」とも「うー」ともつかないような声を出し、のそのそと立ち上がった。
 衛二は生智の告白をとてつもなく軽く流してきた。男同士だから全く本気に受け取らず、冗談と受け止めているのかとも思ったが、そういう訳でもないようだった。
 生智が告白をしていると理解した上で流してきたのだ。
 どうせすぐ他に目移りするだろうとでも思ったのだろうかと生智はイライラした。

 先生がそういう気なら、俺まじですげーガンガンいってやるからな!

 本人にもそう告げた。だが告げたところで「そうか。でもお前は生徒で俺は先生だから」としか言ってくれなかった。
 学校を将と一緒に出ると、そのままファミリーレストランへ向かう。この辺は都会とは言い難く、周りも大して店はない。学校から駅へ向かう途中にはコンビニエンスストアくらいしかない。
 駅の周辺になるとカラオケ店やファミリーレストラン、他には学校の女子に人気のイートインが出来る洋菓子店やちょっとしたショップはあるが、繁華街に比べると寂しい。

「つか、いっちゃん最近勉強がんばってんのな。すげー。いっちゃんとは思えねー」
「たもは俺をなんだと思ってんだよ。俺だってやりゃーできんだよ」

 歩きながらニコニコと言ってくる将に、生智は微妙な顔をした。

 そう、多分やればできるはずだし、やる。

 特に、一番苦手だった英語の成績はめちゃくちゃ上げてやると思っている。その上でガンガンと行く。本気だってことを全力で伝えるつもりだ。
 ファミリーレストランに着くと、既に将の彼女は先に到着している様子だった。一緒に知らない女子が居る。将曰く「いっちゃんのこと気になってる子がいるらしくてさ、仲よくなる機会設けてくれって彼女に言われた」らしい。
 それを言われた時、生智はまず微妙になった。

「普通そういうことって俺にあからさまに言わないもんじゃないの?」
「マジかよ。じゃあ聞かなかったことにしてくれ」
「……了解。じゃあ俺聞いてないから、付き合わずに帰るわ」
「そこは執行猶予くれよ!」
「使い方間違ってねえ? つか、別に俺今そーゆーのいらねーんだけど」

 面倒くさげに言えば、将はつり目をパチクリとして生智を見てくる。

「え、お前いっちゃんの振りした誰か?」
「んな訳ねーだろ。俺は俺」
「だって! いっちゃんこないだまで俺に八つ当たりで蹴ってくるくらい彼女欲しがってただろ!」
「そんなことあったっけ」
「あったよ! ったく。どっちにしても頼むよいっちゃん。俺の彼女からの頼みなんだよー」
「……今回だけだからな」

 そんなやりとりをした上で、やっぱり気が進まないと思いつつも約束は約束だしと生智は将に付き合った。
 生智のことが気になっているらしい女子は整った綺麗な顔立ちだったが、今の生智にしてみれば衛二のほうがいい。
 もちろん、衛二のことを好きだと気づいた時はなにかの間違いだとまず自分が思った。将の「好きな子でもできたん?」という言葉で、自分が今までなにか気になりモヤモヤとしていた理由がはっきりしたのだったが、はっきりしたところでさらに理解できなかった。
 ひたすら「意味がわからねえ、意味がわからねえ」と反芻してもどうにもならず、生智はまず一旦受け入れてみるところから始めた。
 衛二が好きというのはもうどうしようもない。気づいてしまったからだ。好きだと気づいた瞬間から「相手を好きだと思う」瞬間が始まるとどこかで聞いたことがある。
 そう思うと一瞬将を恨みたくなったが、ずっと気づかず受け入れられずのままだったらモヤモヤとし続ける自分がきつかったかもしれない。
 好き、を受け入れた上で、何故衛二なのか考えてみた。
 確かに顔は本当に綺麗だ。性格は生智にとっては少々真面目が過ぎるようなきらいがあるが接してみると案外話のわかる、下手とはいえ乗ってもくれる人だともわかった。何より生智みたいに救いがたい成績の生徒を見捨てずむしろ居残り授業をしてくれている。
 最初は嫌がらせかとさえ思ったが、考えてみれば教師からしても余計な仕事が増えている訳だ。残業代が出るのかどうかは知らないが、手間をかけてくれているということだ。
 知れば知る程いい人だとは思えたが、それらを全部ひっくるめても好きになる理由として認めにくい。

 ……だって先生、男だぞ。

 意味がわからないのはまさにそこだ。好きだと受け入れた上で考えてもやはり意味がわからない。そういう性癖ではなかったはずだけに、意味がわからない。元々性別に拘らないとか男が好きとかならすぐに受け入れられていただろう。
 ここまで考えたところで、逆に考えると元々男でも大丈夫だったら受け入れられるのか? と自分に突っ込みたくなった。
 考え方によれば「今から男も好きになった」という発想でもじゃあいけるということじゃないのか? と思えたのだ。
 正確には、やはり基本的に男は無理で、でも衛二なら何かいけるしもうそれでいい、だ。

 いけるなら、何かだってもういいじゃん別に。

 納得してしまえば「意味」なんてどうでもよくなった。
 好きだと恐らく意識したであろう瞬間ならわかる。寝顔だ。衛二の寝顔を見てから落ち着かなくなった。恐らくあの時から意識したんだろうと思われる。
 意味も理由も結局わからないが「好き」だと思う気持ちに誤作動はないようだと納得し、生智は完全に自分の中で受け入れた。
 ファミリーレストランで食べながら話している今も、生智は目の前の女子よりも衛二だった。かといって将の顔をつぶしたい訳ではないし、元々女の子が好きなので邪険にするつもりもない。なので適当ではあるが、それなりに受け答えはしたつもりだった。
 ある程度そこで過ごした後、別に場所を移すでもなくそのまま女子を残して生智は将と店を出た。別に置き去りにしたのでも何でもなく、女子から「私たちはもうちょっとここで喋ってくから」と言われただけだ。

「なぁ、どーだった? 結構美人じゃね、さっきの子」
「まーな」
「お! じゃあ……」
「でもいい。あと俺ほんと今そういうのいいから、次からは断って」
「……わかったけど、お前マジでいっちゃん?」

 将がとてつもなく怪訝な顔で生智を見てくる。

「俺は俺だっつってんだろ。……こないださ、たもが言っただろ」
「何」
「好きな子でもできたのかって」
「あー、うん。……え。……え? マジだったの?」
「だからいらないからな」
「わかったよ、そりゃ仕方ねーよな! で、誰」
「今狙い始めたとこだから言わない」
「えーなんだよそれ。……って、彼女からだ。……何で?」

 将が携帯を取り出し、ポカンとしている。

「どうかした?」
「いや、いっちゃんが乗り気じゃなかったの気づいてるっぽくて、友だち慰めてたらしー。何でそーゆーのわかんの? 親友の俺がわかんなかったのに。女こえー」
「こえーとか言いながら女好きのくせにな。つかさっきも言ったけど俺に報告することかそれ。まあ、彼女と友だちには悪いって言っておいて」

 そういえば将のことは衛二とは全然違う意味で好きだわ、と生智は笑いながら将を小突いておいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...