ラインの向こう側

Guidepost

文字の大きさ
11 / 20

11話

しおりを挟む
 どうにも隙があまりない。
 生智は珍しくため息を吐きながら思った。
 初めてのデートは想像を絶するほどに健全だった。もちろんそんなことすら問題ないくらい嬉しかったし楽しかったのだが、びっくりするほど早くに帰らされ、ふと我に返るとキスどころか手すら握っていないことに気づいて唖然とした。
 平日は中々二人きりになれない。当然と言えば当然だが、向こうは仕事をしている訳だ。生徒たちが休み時間であっても教師たちは次の授業の準備といった何らかの仕事をしている。
 昼休みはさすがに衛二も休み時間になるが、元々生徒と昼食をとるタイプではないからか、生智が「一緒に昼食おう」と誘ってもあっさり断ってくる。

 エロ漫画とかだとめっちゃ軽率に先生、生徒とヤってんのにな。休み時間だろうが授業中だろうが誰もいねー教室とか体育倉庫とかなんかそーゆとこで。

 微妙な気持ちで思いつつ、現実が甘くないことを実感する。
 唯一可能性があるのが放課後の居残り授業だが、昨日その最中に生智がいきなり衛二を引き寄せキスをした後「もう次から居残り授業なしな」と言われてしまった。抵抗されなかったし、生智としてはかなり気持ちよかったから衛二もそれなりに受け入れてくれたのではと思っていただけに唖然となった。

「え、なんでだよ……!」
「なんでもクソもあるか。こんなことするためにやってんじゃないんだぞ。それにお前の今の成績だったら居残る必要もない」
「はぁっ? んなもん、真面目に授業受け損じゃねーの」
「……正条。お前は何のために義務教育でもない学校へ来てるんだ」
「え? そりゃ高校とかくらいは出とくもんだからだろ?」
「まぁ、間違ってるとは言わないけどな。でも俺目当てで形だけ真面目に授業受けても最終的にお前の身につかないし、俺だって心は動かされないからな」
「う、受け損ってのは言葉のあやっつーか、思わず出ただけだし……」

 つい苦しい言い訳をすると微妙な顔でため息を吐かれた。どうみてもその直前に恋人とキスをしていた風に見えない。

「……なー」
「何だ」
「俺、キス下手? それなりに自分では上手いと思ってたけど」
「お前な。英語の質問しろ」
「えー。えっと、い、Is the kiss I do……」
「違う」
「マジか。簡単な質問すら英語難しいな」
「そうじゃない。お前のキスがどうこうっていうのを英語で聞けって言ったんじゃない」
「んだよ、違うのかよ」

 チッと舌打ちすると、また微妙な顔をされた後で笑われた。

「なんで笑ってんの? 俺に惚れた?」
「そんな訳あるか。本当にお前は馬鹿だなって思ったんだよ」

 結局ようやく二度目のキスをしたというのにそんなやりとりで終わってしまった。
 とはいえ初めの頃に比べたら何となく、衛二が生智に対して本当に何となくだが気を許してくれているような気もする。隙がなくて中々関係性を深められないのだが、それでも少しずつ前進できている気がするのだ。
 衛二を本気にさせるには、相手が大人だから到底言葉で惚れさせるなんて無理だと思っていた。そのため、抱きしめたりキスをしたりしてこちらを向かせるものじゃないかと何となく思っていたのだが、そういう訳でもないのだろうかと生智は首を傾げる。

 ま、キスしたいのは先生振り向かせるためっつーより俺がしたいからだけどな。

 キスどころかそれ以上のこともしたい。そういうことがしたいのはもちろん自分が青い春真っ盛りの発情期だからというのもある。だが衛二のことが好きだからであって、誰でもいいというのは本当にない。ただやりたいだけなら気にせず誰か見繕っている。
 発情期のガキと言えども、生智は両想いになった衛二としたい。

「……でもやり方、ちゃんとはわかんねーな。そーゆーのってネットとか調べたら載ってんのかな」

 その前にちゃんとした両想いになるべきではあるが、知っておくに越したことはない、と生智は家に帰ったら調べることにした。
 翌日、多少のショックに休み時間も自分の席でぼんやりしていると将が「いっちゃんどうしたんだよ」と話しかけてくる。

「あ? なんつーか、男ってキモイよな」
「は? え、なんの話? いっちゃんだって俺だって男だけどっ?」
「いやー、女っていいよな……って話」
「ああ! それならわかる。女いいよな。すげーいい匂いしそうだし柔らかそーだし」
「たもの言い方は童貞くさいな」
「うるせーよ! つか結局いっちゃん、どーしたんだよ」
「結局? ああ、別にどーもしない」

 ぼんやりとはしていたが、さすがにポロリと漏らすほど生智はうっかり者ではない。寝る、とだけ呟くとそのまま机に突っ伏した。
 男同士の行為に関してなんとなくはわかっていたが、実際調べると色々と引いた。文章だけでも尻の穴がひゅっとなったが、画像を見てしまうと引くどころではなかった。
 だが不思議なことに、自分と衛二として考えるとむしろ興奮してきた。思い切り引いていたくせに、結局その後衛二で抜いた。

 でもマジ、俺、少なくとも受け入れるんだけは無理。マジ無理。

 未だにショックと引き具合にぼんやりとしつつも、やはり衛二相手だと思うと全然平気そうだった。それでも自分が男を受け入れる勇気はない。自分は思っていたよりもヘタレだなと、生智は苦笑した。
 ぼんやりはしたが、トラウマになるとかそういうレベルではないのは、調べた後に衛二のことを思って抜いているのでもわかる。むしろやはり自分は衛二のことが好きなんだなと改めて実感した。
 やっぱり好きだし、引くに引けない。絶対後悔だけはしねーように、もっと積極的に行こう。
 気合いを新たにして日々挑むようにしているとあっという間に日々は過ぎていった。
 キスは結局数えるほどしかできていない。舌すら入れられていない。それでも最近はますますいい感じになってきたのではないかと思えるようになっていた。
 相変わらず衛二は基本的に素っ気ないが、主に接するのが学校でだから仕方がない。それでも、もしかしたら衛二も少しは生智のことを好きになってくれているんじゃないかと多少の期待をする程度には二人で話す時の態度とかが軟化している気がする。
 ただ、衛二は相変わらず余裕といった様子だった。

『最近さらにしつこくなったな』

SNSでメッセージを送った後にそう返ってきた。

『そりゃあ。俺、先生好きだからな。で、次の休みは何する?』
『何もしない』
『駄目。こないだの休みは映画館行って終わったし、何だかんだで次の休みの日が期限の最後なんだからな! ざけんな』
『ふざけてない』
『なぁ、ほんとさ、最後だろ? お願い。先生の家で過ごさせて。人目とか気にせずゆっくり二人で過ごさせて。お願い』

 頑なに家へ入れてくれない衛二に、だめもとで頼み込む。文字を打ちながら頭さえ下げていた。すると返事が返ってこなくなる。
 駄目か、と思い切りがっかりしていると通知が来た。

『仕方ない。わかった』
『いいの?』
『お前が頼んどいて何だそれは』
『びっくりした。やった。もう取り消しなしな!』

 わかったという文字を見た瞬間、生智はものすごくテンションが上がった。
 二人きりだ。
 恋人期間の筈だったのに、ほぼ恋人らしいことをしていないまま終わるのかと思っていたが、可能性が出てきた。せめてゆっくり過ごして抱きしめるくらいはしたい。
 本当ならあわよくばもっとそれ以上のこともしたい。調べた成果を生かしたい。とはいえ本当の恋人ではないのだ。さすがにそれは許してもらえなさそうだとは生智もわかっている。
 それでも嬉しくて堪らなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...