たまらなく甘いキミ

Guidepost

文字の大きさ
15 / 20

15

しおりを挟む
 拓に言われたからというよりは「フォークかもしれない」という懸念により、結弦はなるべく旭日を避けることにした。今までなら旭日がやって来たかなと気づいても特に気にしなかったが、早々に気づいた時は気づいていない振りしてその場から離れる。ただ、あからさまにしたらむしろ刺激してしまうのではと少し心配だったので、拓が言うように逃げるほどでもない。
 それもあり、結局面と向かうことも少なくなかったが、旭日からは少なくとも結弦を食ってしまおうとしている様子は感じられない気がした。

 俺の考えすぎかな。だってそもそもフォークなんてそんないる? 世界中で考えたならそりゃ多少いるんだろけど、割合的に俺の周りにそんないるわけ、なくない?

 顔を合わせ会話するたびに「この人いい人だな」という感想しか浮かばない。にこやかで優しくて、先輩だけに頼りになる感じもあり、おまけに顔がいい。

 いや、顔がいいって何。

 思わず自分に突っ込んだものの、実際旭日の顔は整っている。同性だろうが異性だろうが見た目がいい人を目の当たりにするのは悪くない。同性だとやっかみもあったりするが、同じ年の拓に対してと違い、先輩である旭日に対してはそのやっかみも特にない。

 あいつは俺とタメだから何かちょっと羨ま……じゃなくてムカつ……じゃなくて。ひがんでねえから。苦手ってだけで。

 ただその苦手意識は最近なくなった気がする。拓がフォークで結弦がケーキだけに、食べられてしまう時は苦手というか、ひどく落ち着かないものの、どう接していいかわからないといったことはなくなった。

 じゃなくて。と、にかく。結崎さんってやっぱフォークでもないし問題ないんじゃ……?

 自分を助けてくれた人だけにできれば疑いなど持ちたくない。だから違うのではと思えてくると、素直に嬉しくなった。

「佐野くん、何かいいことあったの?」
「え? 何でですか」
「だって何だか嬉しそう」

 顔に出やすいかよ……!

 思わず両手を両頬に当てて横に伸ばしていると、旭日に笑われた。

「そんな変な顔、しました? 俺」
「何で?」
「だって笑うから」
「ああ。ううん。むしろかわいい」
「は?」

 変な冗談言われても戸惑うだけなのでやめてもらえると助かるが、拓ならまだしも恩人であり先輩の旭日にはさすがに言えない。

「……っていうか、よかった」
「え? 何がです?」
「何となく俺、避けられてるかなって思ってたから」
「……そ、んなことは」

 顔に出やすいだけでなく、態度にも出やすかったようだ。逃げはしなかったしあからさまにしていないつもりだっただけに、微妙な気持ちになる。

「そう? 確かに今の佐野くんはそんなことないように見えるけど。……あ、ねえ」
「はい」
「今日、まだ講義残ってる?」
「ああ、はい。あと一つ」
「そっか。俺もあと一つなんだ。よかったら終わってからお茶でもしない? おごるよ」
「いいですね! でもおごってくれなくていいですよ」
「うーん、でも俺、先輩だから」

 にこにこ言ってくる旭日からは、やはり拓のように「今すぐにでも食ってしまいたい」といった欲は見えなかった。

 何だよ、やっぱ考えすぎだろ。

 拓も多分、自分の唯一である食料が脅かされるかもしれないといった余計な心配から、妙な独占欲が強くなっただけだろう。そう思えば思うほど、間違いないような気がする。

 獲物奪われるのひどく嫌う熊っぽいな、何か。

 見た目は全然熊っぽくはないが、何となくそう思えて結弦はそっと笑った。

「俺の家、学校から近いし、よかったら家に来る?」

 講義終わって旭日と待ち合わせてからそう提案された。別に問題ない気がするが、拓に「近寄るな、会うな、逃げろ」と言われ面倒な気分もあり「わかった」と答えただけに、多少罪悪感に近い何かが湧く。

「そ、れは何か申し訳ないし、どこかカフェへ行きましょう」
「別に申し訳なくなんかないのに。遠慮深いね。カフェなら……そうだね、この間見つけたカフェが結構雰囲気あって……」

 結弦が断っても旭日は嫌な顔しないどころか強要もしてこなかった。ますます結弦も拓も単に考えすぎなだけだと思えてきた。
 ただ、火のない所に煙は立たぬということわざが存在するのには意味はあった。

「結崎、さん……?」

 連れていってくれたカフェは、学校から近いわりに閑静な住宅地に佇む隠れ家のようで、確かにレトロな感じもあり落ち着いた雰囲気の店だった。コーヒーもおいしかった。いい店を知ったとほくほくもした。アルバイト先とそう離れてもいないようだが、こんな店があるのは知らなかった。
 だが店を出て、静かな通りを歩いているうちにいつの間にか気づけば路地裏のようなところへ来ていて、そして同じく気づけば旭日に抱き寄せられていた。結弦のみぞおち辺りがひゅっと水でも浴びたように冷え込む。

 え、待って。嘘だろ。え、マジで? ええ、だってそんな……。立て続けに俺のそばにフォークいたとか、そんなこと、ある?

 だが人のいないような路地裏で平凡な男である結弦を抱き寄せる行為に対し、他に理由づけられない。

「ちょ、待っ」
「ごめんね、佐野くん。我慢しようと思ってたんだけど……どうしても……」

 我慢。
 どうしても。

 ああもうこんなの決定だろ……! 俺、食われる。いや、駄目。無理。無理だって。

「結崎さん、待って……」
「……かわいい。ほんとかわいい。俺、君みたいな子、タイプで」
「俺を食わないで……!」

 同時に口にして、くっついたままお互い「え?」と顔を合わせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...