金の鈴

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30話

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 どうやら自分は死にかけていたらしい。
 寿也は意識を取り戻した後もしばらくぼんやりしていたが、次第にはっきりしていくとそれを知った。知らせを聞いてやってきた親や妹には泣かれてしまい、とても申し訳なく思う。とはいえ寿也自身、何故それほど危険なくらい高熱が出ていたのか把握できていなかった。
 意識がはっきりしてからも数日は様子を見るためと検査のため入院を余儀なくされた。すずのことがとても気になったが寿花いわく「すずちゃんは家で大人しゅう過ごしちょるよ。お利口さんちゃね」らしい。すずのことだから寿也の状況が把握できないはずはないだろうし多分心配しているだろうと思いつつ、夢の中ですずがここへやって来て寿也をどうにかして助けてくれたことが気になっている。夢だった気がするものの、現実にあったことのような気もしていた。
 ようやく退院できた時には大学の冬休みは既に終わっていた。すぐに戻らないとと思っていたが、母親が大学へ連絡してくれていたらしい。家族からは病み上がりだからゆっくりしろと言われた。

「すず!」

 あまりゆっくりするつもりはないものの、とりあえずはすずだとばかりに寿也は実家の玄関を開けるなりすずの名前を呼んでいた。だがすずも帰って来るのを把握していたようで、すでにその場に座って待っていた。

「ニャア!」
「お帰りしてくれてたんだな、ありがとう」

 抱き上げるとすでにゴロゴロ喉を鳴らしている。とりあえずホッとした。
 寿也としては高熱が出ていたことは覚えているが、その挙句本当に死にかけたのかと首を傾げたくなるくらい今は何ともなかった。だが家族が通常通りの生活を許してくれず、ストーブとともに部屋に押しやられ、せめて今日一日は大人しく寝ているようにと言われた。多分寿也も親や妹がそうだったなら同じことをしていたと思うので反論せず素直に部屋に籠るものの本当に何ともないため、横になったとしても眠れる自信がない。とはいえテレビもない部屋なので携帯で何か動画でも見るかと思っているとすずが鈴に化けてきた。

「寿也」
「鈴、改めてただいま。留守番してくれていたんだってね。お疲れ様。心配かけてごめんね」
「そんなのは全然構わない。……その、とりあえず本当にもう、大丈夫?」
「うん、めちゃくちゃ元気だよ俺。高熱は何だったんだってくらい」

 ニコニコと言えば、鈴がホッとした後にどこか困惑したような表情をしてきたかと思うと少し目を逸らしてくる。

「どうかしたのか?」
「……寿也が元気になったって知ったら多分、九郎が謝りにくる」
「え、何で? 貰った狐の置物が役立たずで、俺が熱で死にかけたらしいから?」
「……そういえば貰ってたね、そんなの」

 一旦微妙な顔で寿也を見てきた鈴がまたふと目を逸らし気味にしてきた。

「本当にどうしたんだよ鈴」
「オレ、知らないなら知らないままでいいと思ったんだけど……九郎がわざわざ謝るっていうから……」
「?」
「寿也の熱ね、野狐のせいなんだ」
「ヤコ? って誰」
「名前じゃなくて……じゃないな、阿保九郎、名前もそれにしてたな……もっと他に何かなかったのか」
「鈴? さっきから俺、全然わからないんだけど」

 どうにも様子がおかしいのはわかるが、何が言いたいのかはさっぱりだ。九郎が関係している何かだとは思うのだが、熱とどう関係があるのか。
 だが次の瞬間、ふと頭に浮かぶものがあった。

「え、もしかして神様か神様の部下的な狐が俺を呪ってきたとか?」

 まさかなと思いつつも、そもそも寿也も最初は九郎に対して祟りなどが怖くて強く出られなかった。基本的に不思議なことに対して信じていないのだが、いい意味でも悪い意味でも奇跡はあるとどこかで思っていたりもする。
 とはいえ口にした後で実際そんなことあるはずないよな、と即打ち消そうと思いつつも鈴や九郎が存在している時点ですでに奇跡は起きている。

「いや、でもまさか、なあ」

 あはは、と苦笑しながら鈴を見ると、いつも基本的に淡々としている鈴の表情がめちゃくちゃ動揺しているのがわかった。状況が状況でなかったら少し面白いなと思えていただろう。

「え、本当に?」

 自分から口にしたものの、実際に呪われていたのだと思うと正直怖くないわけがない。

「で、でも阿保狐がやったんじゃない。あとあいつについてる元々の眷属でもない。……九郎のせいでもあるとオレは思ってるけど」
「どういう意味?」
「最近、迷い込んできた野狐……あ、狐のあやかしって言ったほうがわかる? そのあやかしを九郎は受け入れていたらしくて。で、変に懐いた野狐は勝手に寿也やオレに対して反感を持ったみたい。ハツモウデに行った時にそいつが術、使ってきた」

 そういえば、と寿也は鳴宮神社からの帰りのことを思い出した。
 鈴の様子も少し変だとは思っていたが、帰る途中山での雰囲気にどことなく違和感があった。おどろおどろしいと言えばいいのだろうか。とてつもなく寒いのにどこか生温く生臭い風が時折吹いていた気がして、だが過敏そうな鈴が生温いとも生臭いとも言わなかったし気のせいだと思うようにしていた。
 そうしたら少しして鈴が突然「ギャッ」と叫んだかと思うと黒猫の姿に戻っていた。そして寿也の足元で噛みついてきたりやたら鳴いてきたりする。やはり何か、どこかおかしいとほんのり恐怖を覚えて落ち着かなくなり、寿也はすずを抱え、慌てて山を下りたのだった。
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