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35話
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「いくら俺でもわざわざ近寄らないよ」
苦笑している寿也を鈴はじっと見た。確かに普通は嫌なものにわざと近寄ったりはしないだろう。だが気づいていなければどうだろうか。
「例えば、ね」
「うん?」
「九郎のとこは稲荷神社って言うんだよね?」
「そうだな」
「あいつのとこはあれでもちゃんと管理されてるからいくらでも信仰してくれていいけどさ。いや、オレは気に食わないけど」
「その前に信仰とまではいかないからね?」
「でも、稲荷だからってどこでも参っていいわけじゃないから気をつけて」
「別に稲荷神社だから行くってわけじゃないけど……どういう意味?」
人間社会のことはまだまだ無知である鈴もこういったことならまだ一応知っている。稲荷神は古来から穀物神や農耕神であり別に狐を祀っているわけではない。そんな稲荷神社の中には管理されていないところもある。
神奈備が鎮座する鎮守の森もないような無人神社であっても神主が在住していないだけで、実はちゃんと管理されている神社は多いかもしれない。しかしそんな中、人間が誰も面倒を見ず掃除もされなくなったようなところがある。そんなところには動物霊の巣窟になっていたり野狐ほどではなくともはぐれ狐が居座っていたりする。
そういった場所でも誠意をもって参っている間は利益をもたらしてくれるかもしれないが、管理されているところと違ってそのような場所では参るのをやめた途端、祟ってくる可能性もある。
「だから、こんなところにも末社神社がある、とか気軽に参ってその後放置とかしたら祟られることもあるよ。その上寿也はそういうあやかしの目に留まりやすいかもしれないから。……オレのせいで」
「そ、そうなのか。それは気にしたことなかった。あと鈴のせいでもなんでもないからな。それに関してはもう言わないようにしないと怒るよ?」
「……うん、わかった。ありがとう寿也。……にしても人間って変なとこで神経質だったり怖がりだったりするのに、肝心なとこでいい加減だったりするの、何で?」
「うーん。それは俺がそもそもそういうヤツなんだろうし……答えはわからないかな……。あ。あのさ、俺も聞きたいんだけど。マッシャ神社って何。あとカンナビとかチンジュノモリとか」
鈴はぽかんと寿也を見た。
何でも鈴よりよく知っていると思っていたが、改めてそういうわけでもないのだなと思った。それにしてもこういう日本古来から存在するものをむしろ知らないことが不思議でならない。
「特別な神とかが祀られてるわけじゃない社で……あれ、ほら、えっと、神社の中にたまにちっちゃい神社あるよね」
「ん? ああ、あるある。つい、ついでにお参りしてしまうやつだろ」
「……。ああいう境内の中にある小さな社のこととかを言うよ。神奈備は神霊が宿る依り代のある領域のことだよ。もしくは自然そのものを依り代にした神か。鎮守の森は神社とか参道とかを囲むようにある森林だよ。神代ともいうかも」
「……鈴、すごいな。もしかして俺のすずはものすごく頭がいいのかな」
少しぽかんとしながら聞いていた寿也が嬉しそうに笑いかけてきた。主である寿也にそんな風に言われると照れ臭いが嬉しい。とはいえ、いくら大好きな存在だとしても、本当に何故知らないのかと再度不思議に思う。
「寿也はもしかして日本人じゃないの?」
「どこからどう見てもまごうことなき日本人だろ……何で」
苦笑しながら聞いてくる寿也を鈴はじっと見た。
「日本古来の神についての、むしろ日本人が作ってきた難しくもなんともない基本的なことだよ」
「そうなのか? でもそうだなあ、すずを初めて飼っていたリツコさんの時代ならわからないけど、今の日本人でそういうことに詳しい人はそう多くない気がするなあ」
「なるほど」
寿也が言う「なるほど」と違って、すずがなるほどと口にする際は大抵なるほどと思っておらず、寿也に言われたのでそういうことにしようという鈴の心意気の現れだ。
「とにかく、気をつけて。日本人だけなのか知らないけど、オレからしたら何でそんなに祈りたいのかよくわかんないくらい、人間って何でも拝んでるイメージある」
「俺はさすがにそこまでじゃないよ……」
「九郎の神社行く途中にある石の地蔵にも拝んでる人いるの、見かけた」
「そりゃお地蔵さんだしなあ」
「? 地蔵は大抵その場所や人の鎮魂のために置かれてるから、供養を求める霊が集まるんだよ。九郎の神社近くのはまあ、あいつの管轄でもあるし危険じゃなさそうだったけど、自死が多い場所とか事故が起きやすい場所に地蔵が置かれてることも多いから下手に拝むと憑りつかれる場合あるよ」
「え、ほんとに?」
「昼間はそうでもないかもだけど、特に夜は気をつけて」
「ま、まあ夜にお地蔵さんを拝むことってそうないと思うけど……」
寿也が目を白黒させながら呟いている。
どのみちどんな霊やあやかしだって寿也に憑かせてなんかやんないけどね。寿也はオレのだから。変なヤツに憑りつかせるくらいならオレが憑りつく。……しないし、できないけど。
「寿也はあまりそういうの、気にしないんだね」
「元々幽霊とかその、あやかしとかも信じてなかったしな」
あやかし、と言いながら寿也は鈴をちらりと見てきた。鈴は笑いかける。
「今は信じてる?」
「そうせざるを得ない状況にばかり、最近あってるしな」
「じゃあついでに言うけど夕方にも気をつけてね」
「は? 何で?」
「昼が夜に変わる時ってオレたちが好きな時間だから」
「なるほど……」
寿也の言う今回の「なるほど」には特に気持ちがこもっているようだった。
苦笑している寿也を鈴はじっと見た。確かに普通は嫌なものにわざと近寄ったりはしないだろう。だが気づいていなければどうだろうか。
「例えば、ね」
「うん?」
「九郎のとこは稲荷神社って言うんだよね?」
「そうだな」
「あいつのとこはあれでもちゃんと管理されてるからいくらでも信仰してくれていいけどさ。いや、オレは気に食わないけど」
「その前に信仰とまではいかないからね?」
「でも、稲荷だからってどこでも参っていいわけじゃないから気をつけて」
「別に稲荷神社だから行くってわけじゃないけど……どういう意味?」
人間社会のことはまだまだ無知である鈴もこういったことならまだ一応知っている。稲荷神は古来から穀物神や農耕神であり別に狐を祀っているわけではない。そんな稲荷神社の中には管理されていないところもある。
神奈備が鎮座する鎮守の森もないような無人神社であっても神主が在住していないだけで、実はちゃんと管理されている神社は多いかもしれない。しかしそんな中、人間が誰も面倒を見ず掃除もされなくなったようなところがある。そんなところには動物霊の巣窟になっていたり野狐ほどではなくともはぐれ狐が居座っていたりする。
そういった場所でも誠意をもって参っている間は利益をもたらしてくれるかもしれないが、管理されているところと違ってそのような場所では参るのをやめた途端、祟ってくる可能性もある。
「だから、こんなところにも末社神社がある、とか気軽に参ってその後放置とかしたら祟られることもあるよ。その上寿也はそういうあやかしの目に留まりやすいかもしれないから。……オレのせいで」
「そ、そうなのか。それは気にしたことなかった。あと鈴のせいでもなんでもないからな。それに関してはもう言わないようにしないと怒るよ?」
「……うん、わかった。ありがとう寿也。……にしても人間って変なとこで神経質だったり怖がりだったりするのに、肝心なとこでいい加減だったりするの、何で?」
「うーん。それは俺がそもそもそういうヤツなんだろうし……答えはわからないかな……。あ。あのさ、俺も聞きたいんだけど。マッシャ神社って何。あとカンナビとかチンジュノモリとか」
鈴はぽかんと寿也を見た。
何でも鈴よりよく知っていると思っていたが、改めてそういうわけでもないのだなと思った。それにしてもこういう日本古来から存在するものをむしろ知らないことが不思議でならない。
「特別な神とかが祀られてるわけじゃない社で……あれ、ほら、えっと、神社の中にたまにちっちゃい神社あるよね」
「ん? ああ、あるある。つい、ついでにお参りしてしまうやつだろ」
「……。ああいう境内の中にある小さな社のこととかを言うよ。神奈備は神霊が宿る依り代のある領域のことだよ。もしくは自然そのものを依り代にした神か。鎮守の森は神社とか参道とかを囲むようにある森林だよ。神代ともいうかも」
「……鈴、すごいな。もしかして俺のすずはものすごく頭がいいのかな」
少しぽかんとしながら聞いていた寿也が嬉しそうに笑いかけてきた。主である寿也にそんな風に言われると照れ臭いが嬉しい。とはいえ、いくら大好きな存在だとしても、本当に何故知らないのかと再度不思議に思う。
「寿也はもしかして日本人じゃないの?」
「どこからどう見てもまごうことなき日本人だろ……何で」
苦笑しながら聞いてくる寿也を鈴はじっと見た。
「日本古来の神についての、むしろ日本人が作ってきた難しくもなんともない基本的なことだよ」
「そうなのか? でもそうだなあ、すずを初めて飼っていたリツコさんの時代ならわからないけど、今の日本人でそういうことに詳しい人はそう多くない気がするなあ」
「なるほど」
寿也が言う「なるほど」と違って、すずがなるほどと口にする際は大抵なるほどと思っておらず、寿也に言われたのでそういうことにしようという鈴の心意気の現れだ。
「とにかく、気をつけて。日本人だけなのか知らないけど、オレからしたら何でそんなに祈りたいのかよくわかんないくらい、人間って何でも拝んでるイメージある」
「俺はさすがにそこまでじゃないよ……」
「九郎の神社行く途中にある石の地蔵にも拝んでる人いるの、見かけた」
「そりゃお地蔵さんだしなあ」
「? 地蔵は大抵その場所や人の鎮魂のために置かれてるから、供養を求める霊が集まるんだよ。九郎の神社近くのはまあ、あいつの管轄でもあるし危険じゃなさそうだったけど、自死が多い場所とか事故が起きやすい場所に地蔵が置かれてることも多いから下手に拝むと憑りつかれる場合あるよ」
「え、ほんとに?」
「昼間はそうでもないかもだけど、特に夜は気をつけて」
「ま、まあ夜にお地蔵さんを拝むことってそうないと思うけど……」
寿也が目を白黒させながら呟いている。
どのみちどんな霊やあやかしだって寿也に憑かせてなんかやんないけどね。寿也はオレのだから。変なヤツに憑りつかせるくらいならオレが憑りつく。……しないし、できないけど。
「寿也はあまりそういうの、気にしないんだね」
「元々幽霊とかその、あやかしとかも信じてなかったしな」
あやかし、と言いながら寿也は鈴をちらりと見てきた。鈴は笑いかける。
「今は信じてる?」
「そうせざるを得ない状況にばかり、最近あってるしな」
「じゃあついでに言うけど夕方にも気をつけてね」
「は? 何で?」
「昼が夜に変わる時ってオレたちが好きな時間だから」
「なるほど……」
寿也の言う今回の「なるほど」には特に気持ちがこもっているようだった。
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