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34話
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寿也は引いたような顔をして辺りを見ている。
「寿也、やっぱり霊とかあやかしって怖い?」
「え? うーん、怖くないといえば嘘だけど、今まではそういうの全然信じてなかったからなあ。それが突然実在するってわかって……そうだな、当惑してるってのが強いかな」
「そっか。でも、怖がってるくらいのがいいのかも」
「何で? 鈴だってあやかしだろ。俺に怖がられるほうがいいのか?」
「まさか。寿也はオレのことは全然怖がらずにちゃんと猫として可愛がってくれてるの、オレわかるし大丈夫。オレが言いたいのは他のあやかしに対して」
「他の?」
九郎に会って野狐と関わったのもあり、今鈴は何となく嫌なことが浮かんでいた。気のせいであればいいと思うのだが、だからといって気のせいだと無視するわけにはいかない。
九郎がやたら寿也に絡んでいたのは寿也やすずをからかって楽しんでいたというのが大半だろうが、もしかしたらそれ以外にも理由があるかもしれないとすずは今思っていた。
人間にとっての普通などわからないものの、多分普通の人間はあやかしと直接関わることなどあまりないのではないだろうか。あやかしたちも人間の前に姿を現すことはそんなにないはずだ。大抵のあやかしは下手に関わると自分の損にしかならない場合があることを考慮し警戒する。よって無差別に人間で遊んだり人間を襲ったりはしない。基本的には向こうから無防備にやってくるような人間や、理由などがあって、この人間なら大丈夫だろうと思える相手に手を出す。力の強いあやかしならそういった警戒も不要かもしれないが、そういう存在は大抵の場合は低能なことをしないのもあって結局不用意に人間と関わらない。
だが寿也の場合はどうだろうか。あやかしからすれば「あやかしの匂いのする人間」ということで警戒心も薄れるのではないだろうか。
ずっと何度も何度も莉津子の魂と出会ってはそばにいたすずは意識していなかった。だが今さら気づくことになった。自分がずっとそばにいるということは匂いだってつくだろう。すずは猫又としてそれなりに生きて力をつけているかもしれないが、全体的に見ればそれほど力の強いあやかしではない。そんなすずの匂いがついた寿也に寄ってくるあやかしが、良し悪し関わらずいるかもしれない。寿也として生まれてきてからすずに出会うまでは普通の人間だったはずだろうに、すずのせいで多少あやかしに見つかりやすい人間になってしまった可能性はある。
九郎がそんな寿也と絡むことでそれこそ神の御利益かのごとく、強い力を持つ存在を匂わせることになったかもしれない。ということは害のないあやかしならまだしも、寿也に害を与えるようなあやかしは九郎の存在を感じて警戒し、近寄ってこない可能性が高い。その九郎から離れることで匂いは薄まるかもしれないが、寿也の手元には九郎が寄越してきた狐の置物がある。あれは九郎の匂いがするし、九郎とそれなりに関わった寿也にとっては事実お守りみたいなものになるのかもしれない。そう思うと感謝すべきだろうか。正直、九郎だけにあまり感謝などしたくない。
「他の。とりあえず寿也」
「うん?」
「ごめん」
「え、いや何で……?」
寿也がまた困惑したような微妙な表情で鈴を見てきた。今考えていたことを寿也にも言うべきだろうかと鈴は首を傾げた。
「何で鈴が首傾げてるんだ。傾げたいのは俺だけど」
「……オレは猫又だから」
「え? あ、うん。……、……だから?」
「……オレの匂いが寿也についちゃってるのかも。ずっとそばにいるからオレは気づかなかったけど」
「ああ、それはあるかもだね」
「えっ?」
そういうことを知っていたのかと、鈴はぽかんとして寿也を見る。
「猫の匂いだろ? あるかもだよ。聞いた話だと外歩いてても他の猫が懐いてきたり警戒したりすることあるっぽいし」
ああ、違う。いや、とても似てるけど、うん、違う。
「えっと、そうじゃなくて、ね。猫の匂いってよりあやかしの匂いがついてるかもしれない、ってこと。似てるけど寿也が言うように猫がそうなるみたいに他のあやかしが寄ってきたりする、かもしれない、か、も」
「え、そうなのか」
「……わからないけど。……だから、ごめんなさい」
「ああ、なるほど……。でも謝らないで欲しい」
頭を垂れていた鈴を寿也がそっと撫でてきた。撫でられるのは人間の姿であっても気持ちがよくて好きだ。鳴らない喉を気持ちゴロゴロさせながら鈴は頭を上げて寿也を見た。
「すずと一緒に生活するの、俺好きだからさ。今まで猫を飼う生活なんて想像もしたことなかったのにな。今じゃすずがいない生活なんてそれこそ想像できないよ。だから謝らないでくれ。それにそんなに危なくはない、だろ? それとも危険なのか?」
何て嬉しいことを言ってくれるのだろうと目を輝かせつつ、鈴は首を振った。
「基本的には危険そんなないとは思う。寄ってくるのは大抵無害だったりあまり影響もないようなやつらじゃないかな。野狐の場合は特殊だったから……。結局のところ気をつけないといけないのは寿也が無防備に寄って行く場合だと思う」
「ええ? そんなことしないよいくらなんでも」
「……。わざとじゃなくても近寄ること、もしかしたら寿也もあるかもしれない」
鈴より何でも知っていると思っていた寿也だが、ここにきて少し心配になってきた。
「寿也、やっぱり霊とかあやかしって怖い?」
「え? うーん、怖くないといえば嘘だけど、今まではそういうの全然信じてなかったからなあ。それが突然実在するってわかって……そうだな、当惑してるってのが強いかな」
「そっか。でも、怖がってるくらいのがいいのかも」
「何で? 鈴だってあやかしだろ。俺に怖がられるほうがいいのか?」
「まさか。寿也はオレのことは全然怖がらずにちゃんと猫として可愛がってくれてるの、オレわかるし大丈夫。オレが言いたいのは他のあやかしに対して」
「他の?」
九郎に会って野狐と関わったのもあり、今鈴は何となく嫌なことが浮かんでいた。気のせいであればいいと思うのだが、だからといって気のせいだと無視するわけにはいかない。
九郎がやたら寿也に絡んでいたのは寿也やすずをからかって楽しんでいたというのが大半だろうが、もしかしたらそれ以外にも理由があるかもしれないとすずは今思っていた。
人間にとっての普通などわからないものの、多分普通の人間はあやかしと直接関わることなどあまりないのではないだろうか。あやかしたちも人間の前に姿を現すことはそんなにないはずだ。大抵のあやかしは下手に関わると自分の損にしかならない場合があることを考慮し警戒する。よって無差別に人間で遊んだり人間を襲ったりはしない。基本的には向こうから無防備にやってくるような人間や、理由などがあって、この人間なら大丈夫だろうと思える相手に手を出す。力の強いあやかしならそういった警戒も不要かもしれないが、そういう存在は大抵の場合は低能なことをしないのもあって結局不用意に人間と関わらない。
だが寿也の場合はどうだろうか。あやかしからすれば「あやかしの匂いのする人間」ということで警戒心も薄れるのではないだろうか。
ずっと何度も何度も莉津子の魂と出会ってはそばにいたすずは意識していなかった。だが今さら気づくことになった。自分がずっとそばにいるということは匂いだってつくだろう。すずは猫又としてそれなりに生きて力をつけているかもしれないが、全体的に見ればそれほど力の強いあやかしではない。そんなすずの匂いがついた寿也に寄ってくるあやかしが、良し悪し関わらずいるかもしれない。寿也として生まれてきてからすずに出会うまでは普通の人間だったはずだろうに、すずのせいで多少あやかしに見つかりやすい人間になってしまった可能性はある。
九郎がそんな寿也と絡むことでそれこそ神の御利益かのごとく、強い力を持つ存在を匂わせることになったかもしれない。ということは害のないあやかしならまだしも、寿也に害を与えるようなあやかしは九郎の存在を感じて警戒し、近寄ってこない可能性が高い。その九郎から離れることで匂いは薄まるかもしれないが、寿也の手元には九郎が寄越してきた狐の置物がある。あれは九郎の匂いがするし、九郎とそれなりに関わった寿也にとっては事実お守りみたいなものになるのかもしれない。そう思うと感謝すべきだろうか。正直、九郎だけにあまり感謝などしたくない。
「他の。とりあえず寿也」
「うん?」
「ごめん」
「え、いや何で……?」
寿也がまた困惑したような微妙な表情で鈴を見てきた。今考えていたことを寿也にも言うべきだろうかと鈴は首を傾げた。
「何で鈴が首傾げてるんだ。傾げたいのは俺だけど」
「……オレは猫又だから」
「え? あ、うん。……、……だから?」
「……オレの匂いが寿也についちゃってるのかも。ずっとそばにいるからオレは気づかなかったけど」
「ああ、それはあるかもだね」
「えっ?」
そういうことを知っていたのかと、鈴はぽかんとして寿也を見る。
「猫の匂いだろ? あるかもだよ。聞いた話だと外歩いてても他の猫が懐いてきたり警戒したりすることあるっぽいし」
ああ、違う。いや、とても似てるけど、うん、違う。
「えっと、そうじゃなくて、ね。猫の匂いってよりあやかしの匂いがついてるかもしれない、ってこと。似てるけど寿也が言うように猫がそうなるみたいに他のあやかしが寄ってきたりする、かもしれない、か、も」
「え、そうなのか」
「……わからないけど。……だから、ごめんなさい」
「ああ、なるほど……。でも謝らないで欲しい」
頭を垂れていた鈴を寿也がそっと撫でてきた。撫でられるのは人間の姿であっても気持ちがよくて好きだ。鳴らない喉を気持ちゴロゴロさせながら鈴は頭を上げて寿也を見た。
「すずと一緒に生活するの、俺好きだからさ。今まで猫を飼う生活なんて想像もしたことなかったのにな。今じゃすずがいない生活なんてそれこそ想像できないよ。だから謝らないでくれ。それにそんなに危なくはない、だろ? それとも危険なのか?」
何て嬉しいことを言ってくれるのだろうと目を輝かせつつ、鈴は首を振った。
「基本的には危険そんなないとは思う。寄ってくるのは大抵無害だったりあまり影響もないようなやつらじゃないかな。野狐の場合は特殊だったから……。結局のところ気をつけないといけないのは寿也が無防備に寄って行く場合だと思う」
「ええ? そんなことしないよいくらなんでも」
「……。わざとじゃなくても近寄ること、もしかしたら寿也もあるかもしれない」
鈴より何でも知っていると思っていた寿也だが、ここにきて少し心配になってきた。
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