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33話
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寿也の実家から帰る時は人間の姿でいたおかげで、鈴は狭い中で退屈する必要はなくなった。向かう時に正体を明かしていたら喋ったり一緒に食べたりできたのにと思ったことが何だか懐かしく感じる。人間に比べると長年生きてきた鈴としては、たった一か月にも満たない長さだというのに不思議な感覚だった。
「デンシャの中で弁当食べるの、おいしい」
「美味いよな。あと一人よりやっぱ二人のが美味いかも」
「そうなの? ああでもオレも入れ物の中でカリカリ一人で食べるよりこうして寿也と一緒に弁当食べてるほうが断然おいしい」
「あはは」
相変わらず電車の外を見ても景色はどんどん流れていくのでゆっくり堪能というわけにはいかなかったが、寿也と一緒の視点で見るとそれでも楽しい気がした。単に早い乗り物に乗っているだけだというのに、行きと違ってずっとワクワクしていた。思いがけず寿也を危険な目に遭わせてしまい、申し訳なさと辛さで落ち込んでいた鈴の気持ちは勝手ながら浮上していた。
「……」
ふと寿也がニコニコと鈴を見ていることに気づく。
「どうしたの」
「うん、元気、出た?」
「それは寿也のほうだよ。オレは死にかけてない」
「あはは、違うよ。確かにそうだけどさ。鈴、俺が起き上がれるようになってからずっとどこか元気なさそうだったから」
「……オレ、そんなこと、寿也に言った?」
言うつもりなどなかったというか、折を見て自分も寿也に謝らないととは思っていたが、落ち込んでいる素振りを出した覚えはなかった。
「まさか。言ってくれてもいいのに鈴はあまり自分のこと、言ってくれないからなあ」
「……じゃあ、何でわかるの?」
「そりゃあ。鈴だって俺が元気ないと足、顔に乗せてくれたりするだろ? って、今の鈴と話していたらちょっとどういう状況だろって、誰か聞いてたら思われそうだけど」
「あれは……単に構ってあげないとってなるだけだよ」
「似たようなものだよ」
「そうなの?」
「うん。一緒だよ」
「そっか」
人間の寿也と一緒だと言われると勝手に口元が綻んだ。
あやかしと人間は生態などが違うだけでなく、考え方や感情も多分違うのだろうと鈴は思う。鈴も元々はあやかしではない生き物だったが、人間ではなく猫だったので一応ずっと人間のそばで生きてきてはいるものの、人間の感情などがどういったものかちゃんと知っているわけではない。
だから寿也から少しでも「似ている」「一緒」と言われたら嬉しかった。
「どうしたの? 何か嬉しそうだけど」
「寿也と一緒なのが嬉しい」
「……そ、そっか」
ぽかんとした後に寿也が困惑しているような表情で苦笑してきた。
「鈴はあまり口数多くはないし自分のことはあまり言ってくれないわりに、けっこう思ってることさらっと言うよな」
「オレ? そうかな」
「たまに戸惑うことあるよ」
「何で? オレ……困らせてるの?」
「いや、そんなことないよ。戸惑うけど困ってない。どちらかというと戸惑いつつも嬉しかったり、かな」
それを聞いて鈴はホッとした。だが、と寿也をじっと見る。
「鈴?」
「あのね、もしオレが何か困らせるようなこと言ったりしたりしたら言ってね。……オレは何だかんだ言ってもあやかしだから、人間の気持ちとかわかんなかったりするし……気づかないうちに寿也を困らせること、あるのかもしれない」
「そんなことないと思うけど……」
また少し困惑している寿也を鈴はさらにじっと見る。
「あるよ。だってオレは人間じゃない」
「……、……わかった。その時は言うよ」
「うん。ありがとう」
「ちなみにお願いする時とか不満ある時とかにやたら俺をじっと見てくる鈴は……」
「な、何か変? 困らせた?」
「いや、あやかしってより猫っぽいなあって思った」
ふふ、っと寿也がふんわり笑ってきた。鈴は拍子抜けしながらも「……猫だからね」と唇を尖らせた。
「そういえば神様も人間じゃないから? あの人こそ散々俺を困らせてくれたけど」
「あいつは別。阿保狐だから」
「神様に対して相変わらずだな、鈴は」
「さすがにあいつが神だとは否応なしにわかったけど……そんなのオレ知ったことじゃないし。阿保狐は阿保狐だ」
「鈴は、っていうかあやかしは呪いとか祟りって怖くないの?」
「……まぁ、どっちかと言えば起こす側だし」
「なるほど。鈴もそういうこと、できるのか?」
寿也を見ると怖がってではなく、完全に好奇心といった表情をしている。鈴はため息をついた。
「オレたちは力を使うことでその力を見られることはあっても、基本的に自分がどんな力を持っているかを誰かに言ったりはしないんだよ」
「そうなのか? 何で?」
「知られると弱点にもなりかねないから」
「……それは俺相手にも?」
今度は少し悲しそうな顔になった。基本穏やかな顔をしている寿也はわりと表情豊かだと思う。
「寿也がってわけじゃないよ。でもどこで誰が聞いてるかわからないから」
「えっ」
鈴の言葉に寿也が慌てて周囲を見回している。
「誰もいないよ」
ホッとしながら鈴を見てくる寿也に今度は鈴が苦笑した。
「人間のことじゃないよ」
「……えぇ……?」
「デンシャの中で弁当食べるの、おいしい」
「美味いよな。あと一人よりやっぱ二人のが美味いかも」
「そうなの? ああでもオレも入れ物の中でカリカリ一人で食べるよりこうして寿也と一緒に弁当食べてるほうが断然おいしい」
「あはは」
相変わらず電車の外を見ても景色はどんどん流れていくのでゆっくり堪能というわけにはいかなかったが、寿也と一緒の視点で見るとそれでも楽しい気がした。単に早い乗り物に乗っているだけだというのに、行きと違ってずっとワクワクしていた。思いがけず寿也を危険な目に遭わせてしまい、申し訳なさと辛さで落ち込んでいた鈴の気持ちは勝手ながら浮上していた。
「……」
ふと寿也がニコニコと鈴を見ていることに気づく。
「どうしたの」
「うん、元気、出た?」
「それは寿也のほうだよ。オレは死にかけてない」
「あはは、違うよ。確かにそうだけどさ。鈴、俺が起き上がれるようになってからずっとどこか元気なさそうだったから」
「……オレ、そんなこと、寿也に言った?」
言うつもりなどなかったというか、折を見て自分も寿也に謝らないととは思っていたが、落ち込んでいる素振りを出した覚えはなかった。
「まさか。言ってくれてもいいのに鈴はあまり自分のこと、言ってくれないからなあ」
「……じゃあ、何でわかるの?」
「そりゃあ。鈴だって俺が元気ないと足、顔に乗せてくれたりするだろ? って、今の鈴と話していたらちょっとどういう状況だろって、誰か聞いてたら思われそうだけど」
「あれは……単に構ってあげないとってなるだけだよ」
「似たようなものだよ」
「そうなの?」
「うん。一緒だよ」
「そっか」
人間の寿也と一緒だと言われると勝手に口元が綻んだ。
あやかしと人間は生態などが違うだけでなく、考え方や感情も多分違うのだろうと鈴は思う。鈴も元々はあやかしではない生き物だったが、人間ではなく猫だったので一応ずっと人間のそばで生きてきてはいるものの、人間の感情などがどういったものかちゃんと知っているわけではない。
だから寿也から少しでも「似ている」「一緒」と言われたら嬉しかった。
「どうしたの? 何か嬉しそうだけど」
「寿也と一緒なのが嬉しい」
「……そ、そっか」
ぽかんとした後に寿也が困惑しているような表情で苦笑してきた。
「鈴はあまり口数多くはないし自分のことはあまり言ってくれないわりに、けっこう思ってることさらっと言うよな」
「オレ? そうかな」
「たまに戸惑うことあるよ」
「何で? オレ……困らせてるの?」
「いや、そんなことないよ。戸惑うけど困ってない。どちらかというと戸惑いつつも嬉しかったり、かな」
それを聞いて鈴はホッとした。だが、と寿也をじっと見る。
「鈴?」
「あのね、もしオレが何か困らせるようなこと言ったりしたりしたら言ってね。……オレは何だかんだ言ってもあやかしだから、人間の気持ちとかわかんなかったりするし……気づかないうちに寿也を困らせること、あるのかもしれない」
「そんなことないと思うけど……」
また少し困惑している寿也を鈴はさらにじっと見る。
「あるよ。だってオレは人間じゃない」
「……、……わかった。その時は言うよ」
「うん。ありがとう」
「ちなみにお願いする時とか不満ある時とかにやたら俺をじっと見てくる鈴は……」
「な、何か変? 困らせた?」
「いや、あやかしってより猫っぽいなあって思った」
ふふ、っと寿也がふんわり笑ってきた。鈴は拍子抜けしながらも「……猫だからね」と唇を尖らせた。
「そういえば神様も人間じゃないから? あの人こそ散々俺を困らせてくれたけど」
「あいつは別。阿保狐だから」
「神様に対して相変わらずだな、鈴は」
「さすがにあいつが神だとは否応なしにわかったけど……そんなのオレ知ったことじゃないし。阿保狐は阿保狐だ」
「鈴は、っていうかあやかしは呪いとか祟りって怖くないの?」
「……まぁ、どっちかと言えば起こす側だし」
「なるほど。鈴もそういうこと、できるのか?」
寿也を見ると怖がってではなく、完全に好奇心といった表情をしている。鈴はため息をついた。
「オレたちは力を使うことでその力を見られることはあっても、基本的に自分がどんな力を持っているかを誰かに言ったりはしないんだよ」
「そうなのか? 何で?」
「知られると弱点にもなりかねないから」
「……それは俺相手にも?」
今度は少し悲しそうな顔になった。基本穏やかな顔をしている寿也はわりと表情豊かだと思う。
「寿也がってわけじゃないよ。でもどこで誰が聞いてるかわからないから」
「えっ」
鈴の言葉に寿也が慌てて周囲を見回している。
「誰もいないよ」
ホッとしながら鈴を見てくる寿也に今度は鈴が苦笑した。
「人間のことじゃないよ」
「……えぇ……?」
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