金の鈴

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37話

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 翌日、奏流が押しかけてきて顔を手で覆いながら「ほんと心配したんだぞ」などと言って寿也を困らせている。友人をやっているくせに寿也を困らせるなんてと、すずは思い切り威嚇しながら珍しく自ら近づいて噛みついてやった。

「いっ、た。って、すずちゃん! すずちゃんから俺に近づいてくれるなんて、ちょっと気持ち上昇したなあ!」

 だが奏流はむしろ喜び出した。人間で言う変態だろうかと引いていると逃げるタイミングを失い、すずは抱き上げられてしまった。

「すず、ものすごくシャーシャー言ってるぞ……」

 寿也が呆れたように言っているが、奏流は気にすることもなく「すずちゃん可愛い」などとふざけたことをほざいている。すずを抱えたままくるくる回りそうな勢いすらあるため、何とかもがき倒して奏流の手から逃れ、すずは床に着地した。そして距離を取る前に思い切り奏流の足に爪を立てておく。

「いったーっ」
「お前、そろそろ懲りたら……?」
「それはない。っていうかほんっと心配したんだからな。何いきなり死にかけてんだよ」
「大学休んだし心配かけたかもだけど、何で俺が死にかけたって知ってるんだ」
「心配だったから寿花ちゃんにSNSで聞いた」
「待て。何でお前が寿花の連絡先知ってんだよ?」

 寿也もとてつもなく引いたような顔で奏流を見ている。

「俺の魅力の成せる業かな」
「お前の魅力はさておき、魅力だけでどうやって遠く離れた俺の! 妹の連絡先を知るっていうんだよ!」
「寿也、そいつのことだからどうせろくでもない能力使ったに決まってる」

 すずはすかさず寿也に言ったが、ニャーニャー言うだけでは一言も伝わっていないだろう。鈴の姿で言えばいいのだが、何となく奏流の目の前で姿を変える気になれないのと、どのみちいくら邪魔な存在の奏流とはいえ本人が打ち明けていないのにすずが勝手に正体をばらすことはさすがにできない。なので猫の姿で思う存分言ってやった。
 ちらりと奏流がすずを見てきてそっと笑っている。おそらくすずが話している言葉も聞き取れているのだろう。なのに寿也にどころかすずにまであからさまにはそういった素振りを示してこない。そういうところがまた何を考えているのかわからないし忌々しいと思う。

「そんな細かいことはどうでもいいじゃない」
「いや、よくないだろ。俺の妹だぞ」
「俺が寿花ちゃんに何かひどいことでもすると思う?」
「さすがにそこまでは思わないけど……」
「だったらとりあえず俺のが先じゃない? まだ死にかけたことについて寿也の口から何も聞かされてないよ俺」
「そ、れはその……」

 奏流に対して寿也はたまにこうして上手くあしらわれているというか、振り回されているところがある。すずを優先的にかばってくれるおかげで小気味いいことに呆れた態度や素っ気ない態度を奏流に取っているところもちょくちょく見かけるが、気づけば流されたり振り回されたりしている。
 そういえば九郎に対してもそうだった気がする。寿也はあやかしたちに弱いのだろうか。

 ……でもオレには振り回されたりあしらわれてくれてない。単にこういうタイプに弱いだけか。

 納得いかないなと少し釈然としない気持ちになりながらも、もう一度引っかいておくか距離を取ってこたつに潜んでおくかどちらがいいだろうなどと考えていると、寿也がまた困ったような顔をすずへ向けてきた。多分九郎のことを言えなくて困惑しているのだろう。ただすずへ助けを求めてくれているかのようで嬉しくなり、迷うことなく引っかくどころか再度ガブリと奏流の足首あたりを噛んでやった。

「いった……!」

 その後寿也はとりあえず「年明けに発熱した上に高熱が続いたせいでどうやら死にかけたらしい」と簡単に説明することにしたらしい。奏流は「何でそんな熱が出んの」と納得していないようだったがその後で「まあインフルエンザとか拗らしたんかなあ」と、むしろ寿也に言い聞かせるように口にしていた。もしかしたらあやかしが絡んだかもしれないと何となく把握したのかもしれないし、本当にそう思うことにしたのかもしれないし、奏流の考えなどすずにはわからない。

「もう本当に大丈夫なの?」
「うん。熱が引いても体力はわりと持ってかれてたけど、退院する頃にはそれもどうにかなってったし、熱は何だったんだってくらい元気になってたよ」
「そうか。なら、うん、まあよかった」

 基本的に奏流が何を考えているのかなど全くわからないし、飄々とした性格も苦手だ。だが九郎と違って奏流は寿也のことを本気で心配してくれていたようにすずは感じられた。九郎もそれなりに心配はしてくれたようだが、それこそ神だからだろうか、それとも何千年と生きているあやかしだからだろうか、とてつもなく軽くて気安そうでありながら寿也、というか人間に対してどこか一歩引いている感じある。奏流はその点、人間との距離をそれほど空けようとはしていないように見えた。ただ、やはりすずとは違って深く踏み込もうとはしていないようにも見える。

 ……結局のところ、やっぱりこいつが何考えてんのかとか、よくわからない。

「何かすずちゃんが俺をじっと見てる。もしかしてようやくちょっと慣れてきてくれたのかも」
「……やめとけ」

 すずがぼんやり考え事をしている間に奏流がまた近づいてきていた。ふとそれに気づくと、すずはまた思い切り威嚇しながら爪を出した。
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