金の鈴

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38話

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 今日は寿也に自宅からさほど離れていないカフェに連れて行ってもらう予定で、すずは朝から楽しみにしていた。昨日たまたま鈴の時に、以前寿也が持ち帰りしてきたコーヒーの店を見つけて入ったものの味わい方がわからなかったことを口にすれば「じゃあ一緒に行こうか」と言ってもらえたのだ。

「どうせならこないだと違う店に行ってみるか。紙のカップじゃない店」
「うん、行きたい」

 寿也が学校へ行っている間に、まだすずの姿のままユキの元へ向かった。
 ちなみに寿也の実家から帰ってきた際に用意したユキへの土産は鶏肉だった。それを選んでいた時、寿也はとても微妙そうな表情をしていた。何故そんな顔をしているのか聞けば「猫なら普通なのか? 土産に鶏肉って珍しいなと思って」と返ってきた。

「だって鈴の彼女に渡す土産だろ?」
「ユキは彼女じゃないよ。尊敬してる、頼りになる近所のお姉さんって感じ」
「そうなの? てっきり彼女かと思ったのに。俺、すずとユキさんの子どもがどんな毛色になるのかまで夢馳せてたのに」
「……」

 それを聞いた時はそれこそ鈴のほうが微妙な気持ちになった。ユキのことは好きだがそういう意識などしたことがないし、ユキもそうだろう。その上元々初めての飼い主である莉津子のことを好きだっただけに、生まれ変わった別の存在とはいえ同じ魂の人にそういうことを言われるのは複雑というか、表現し難い気持ちにどうしたってなる。

「ほら、すずは黒猫だからカラー因子はタビーパターンくらいなら持ってるだろけどほぼ完全に黒猫だろ。でもユキさんは白猫だから両親とかの影響でどんなカラー因子持ってるかによってどんな子ども生まれるかわからないじゃない。白黒のブチになるかもしれないし茶トラになるかもしれないしさ」
「……ちょっと何言ってるのかわからない」
「え、あ、そうか、ごめんごめん。にしてもユキさんって鶏肉が好きなの?」
「生きた鶏か死んだ人間かな」
「はい?」
「鶏肉好きだと思う、多分」
「ゆがくか何かして渡すのか?」
「ううん、生肉のまま」
「え。でも鶏肉って菌があるけど」
「猫は肉食だし、そもそもユキなら大丈夫だよ」

 何てったって猫鬼だし、と鈴は心の中で付け加えておいた。
 実際ユキは喜んでくれた。一緒に食べようとも言ってくれたが、鈴の体の時に散々調理された肉の味を覚えてしまっているのもあって生肉は遠慮しておいた。

「オレも食べられるけど、どっちかといえば調理された肉、美味しい」
「人間に慣れすぎたね」
「慣れても人間になれるわけじゃないけどね」

 そう返すとユキは静かに笑っていた。
 今日は特に用事があるわけではないが、寿也とのカフェへのお出かけが嬉しいのでそれを伝えたい。ユキは飼い猫だがこの時間は大抵いつも外の同じ場所でぼんやりと過ごしていることが多い。今日もそこへ出向けばユキがまだ少し弱めの日差しに当たりながら座っていた。

「ユキ姐」
「おはよう、すず」
「うん、おはよ、ユキ姐。聞いて。今日はオレ、寿也の学校終わってからカフェに連れていってもらうんだ」
「へえ」
「寿也と一緒に出かけるの、動物病院に連れてかれる以外だとこないだ寿也の実家へ帰ったのは別として初めてなんだ」
「まあ、猫を散歩に連れてくやつ、あまり見ないもんね」
「だろ。オレ、正体ばらしてよかったってすごく思ってる」

 ユキには寿也の実家へ行って起こったことなどを全部話していた。ユキは少々飽きれていたが「主から怖がられたり避けられなくてよかったね。あとあんたの主が死ななくてよかったよ」と言ってくれた。嬉しく思いつつ「ユキが言ってた土地神とか面倒なものいたけどね」と言えばまた静かに笑っていた。

「ユキ姐はカフェってとこ行ったことある?」
「ないねえ」
「じゃあコーヒーも飲んだことない?」
「死んだ人間の血なら飲んだことあるよ」
「そんなこと言ってないし」
「どんなのかは知ってるよ。黒い飲み物だろ。今の飼い主が家で飲んでるよ。私はあの匂い、あまり好きじゃないけどね。くしゃみが出る」
「そうなの? オレは別に嫌じゃないなあ。味は苦くて酸っぱいだけだったけど。っていうか家でも飲めるの?」
「そりゃ入れたら飲めるだろうよ」
「家で作れるの?」
「道具があればね」
「そうなんだ。寿也が作ってるとこ見たことなかったから店でしか飲めないものだと思ってた」
「まあ、そのおかげであんたは主と出かけられるんだからよかったじゃないか」
「うん、そうだね。楽しみだな。ユキも今度一緒に行ってみる?」
「いいよ、遠慮しとく」
「そっか。カフェ行くお土産なにか欲しい?」
「ふふ。旅行じゃあるまいし、この近所なんだろう? いちいちいらないよ。もし新鮮な人間の死体が転がってたら、その時は土産として持って帰ってきてよ」
「……あればね。ユキは警察の死体安置所にでも行ったほうがいいと思うな」

 微妙な顔で言えば「じゃあ今度そこへ連れていってくれるかい?」などと言われた。
 昼には寿也の家へ帰り、置いてくれているドライフードをカリカリと食べた。その後うとうと昼寝していたら寿也が帰ってくるのを感じた。慌てて体を起こし、玄関まで走って行く。

「すず。また迎えにきてくれてたんだな」
「おかえり、寿也!」

 ニャーとしか聞こえないのを承知で言った後、寿也が一旦手を洗ったりしている間に人間の姿になった。

「今回は服、着てるんだね」

 戻ってきた寿也が笑っている。

「裸じゃ出かけられないし」
「捕まっちゃうしね。よし、じゃあ行こうか」
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