金の鈴

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39話

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 一緒にカフェへ行くのをとても喜んでいるようだったので、てっきり鈴はコーヒーが好きなのかと寿也は思っていた。
 人間でも適量ならいい影響あるものの飲み過ぎるとよくないと言われているカフェインは、人間よりはるかに小さい猫にとってほんの少しでも大量摂取することとなりかなり毒だ。しかしマタタビとまではいかなくともその中枢神経を作用する興奮剤を好むのかコーヒーが好きな猫は意外にいると聞いたことがある。
 てっきりそういった絡みで鈴もコーヒーを好むのかと思っていたら一口飲んだ後に何とも言えない表情をしている。

「あれ? やっぱり駄目?」
「これも前に飲んだのと同じように酸っぱくて苦い。これ、塩入れたらきっと和らぐと思うんだけど」
「はは。入れる国もあるかもしれないけど、ここら辺では基本入れる人は滅多にいないんじゃないかな。砂糖とミルクは?」
「わからないけど、じゃあ入れる」

 入れた後に恐る恐る口にしてから「少しマシになったかも」と鈴は寿也を見てきた。

「味わい方がいまいちわからないもののコーヒーは好きなんだと思ったよ」
「匂いは好きだよ。あと飲むと何となく心地よくもなるのも。でも味はそんなにかな」
「ここのは結構美味しいんだけどな」

 特にこだわっているというほどではないが、寿也はコーヒーが好きだ。だが自分で入れてもちっとも美味しく感じられないので、気軽に外でテイクアウトしたりこうしてカフェで飲んだりしている。今も鈴の反応を楽しく思いつつ味わって飲んでいると、鈴が不意に何かに反応したように頭を上げてきた。何もない壁の辺りを見つめている。猫の姿だったら髭が前にぴくりと張り出していただろう。

「鈴?」
「……何でもない」
「ほんと? そういえば実家にいる時もよく虚空を見つめてた気がする。あれ、家でもたまにしてるだろ。てっきり幽霊でも感じてんのかなとか思ったけど」

 寿也の家でも猫の姿で天井の辺りをじっと見つめていたり、実家でだとどこを見つめているのかさえわからないこともあった。

「寿也の家は多分、何か物音が聞こえたりして耳を澄ませてるんだと思うけど」
「音?」
「人間の姿になって実感してるけど、猫の聴力はかなり発達してるよ。だから寿也が何も聞こえてなくてもオレには聞こえてることもある」
「なるほどな」
「でも寿也の実家にいる時は多分ストレスかな」
「え?」
「九郎の阿保狐のせいで」
「あ、ああ……、でもそんなに?」
「ほんとうざいから」

 素っ気なく言い放つと、鈴はまたピクリと反応したもののすぐに何でもない様子でコーヒーに口をつけ、少し眉をひそめている。

「まだ苦い?」
「ちょっとね。酒は美味しいのにな」
「じゃあコーヒーに合いそうな、何か甘いもの頼もう」

 寿也は笑みを浮かべながらメニューを鈴に見えるように開いた。

「何食べたい?」
「寿也が食べたいもの」
「ふーん。そうだな、俺は鈴が食べたいものがいいな」
「……じゃあこの黒いケーキ」
「ガトーショコラね。あ、丁度出てきた人いる。すみません」

 奥から出てきた店員を呼ぶと、すぐに気づいてくれてやって来た。何度かこの店に来て見かけたことのある店員だ。

「はい」

 やって来た店員はじっと寿也を見てくるとにこやかにメモを取ろうとした。

「あ、このガトーショコラ一つと、あとコーヒーもう一杯頼もう……そうだな、ルンゴで」
「ガトーショコラとルンゴですね、ありがとうご……っひ?」

 ごひ?

 メニューを見ていた寿也は怪訝に思って店員を見た。にこやかだった店員はどこか少し驚いたような顔をしていたがハッとなり「ありがとうございます。しばらくお待ちください」と告げるとばたばた去って行った。

「……どうしたんだろう」
「さあ」

 素知らぬ顔をしている鈴を、だが寿也は見直した。さあ、と返事するのがやたら早かった気がする。

「ないとは思うけど鈴、何かした、とか?」
「オレが? 知らない人間に?」
「そ、そうだけど……でもじゃあほんとどうしたんだろ」
「ネズミでもいたんじゃないかな」
「そっか。……じゃなくて、いや、店内にいたらいたで問題だからな? そんなわけないよ」
「……確かに昔に比べてネズミを見かけないんだ。飲食店の裏とかだとたまに見かけるけど。何でだろ。オレの栄養分だったのに」
「え、やっぱ猫ってネズミ食べるの?」
「野良猫してた時期も結構あるからね。ネズミ、けっこう美味しいよ。柔らかくてジューシーだけどしっかりした肉質で。味は豚や鶏肉に似てるけど濃厚だな。でもクセも臭みもなくて」
「そ、そうか」
「寿也食べてみたい? ならオレ、探してくるけど」
「いや、遠慮しとくよ」

 苦笑しながら寿也は手を振った。
 しばらくして先ほどの店員がコーヒーとケーキを持ってきてくれた。失礼しますと言いながらテーブルに置く時に寿也を見てくる。何だろうと思っていると「コーヒーとケーキはそれぞれどちらに」と聞かれた。なるほど、だから見てきたのかと納得し「ケーキはそっちに、コーヒーは俺にください」と答えた。
 店員がまた離れて行くと鈴が「あいつと話さないほうがいいよ」などと言ってくる。

「話すも何も、注文してそれを持ってきてくれただけだけどね? にしても、何で?」
「……何でも」

 何となくムッとしたような顔をしてから鈴はがぶりとケーキに食らいついた。その後でコーヒーを飲み、どこか嬉しそうな顔に変わった。
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