金の鈴

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47話

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 猫の声を聞いた時点ですずだとわかった。不思議なもので「ニャー」と鳴いているだけでは何を言っているのかわからないにも関わらず、猫の区別などつきそうもないというのに以前からすずの声はわかった。別にすずがあやかしだからとか寿也がすずや九郎と絡んだからとかは関係ないと思う。皆がそうとも言えないが、多分飼い主だからこそだろう。

「すず、来ちゃだめだ……!」

 目の前にいるのはどう見ても鬼女だ。いくらすずがあやかしとはいえ、猫又が鬼に敵うとは基本楽観的な寿也でも思えない。
 だがすずは構わず駆けつけてくると寿也の前に立ちはだかり、大きな体と二つに分かれた尻尾を持つ猫又となって鬼女に対して威嚇した。鬼はすずに気づくも緩やかに変化していく様子は変わらない。その内、恐ろしい形相から人間のような見た目に変わっていった。寿也はまた少し唖然としながらそれを見ていた。ような、と付けたのは普通の人間というよりは例えるならコスプレをした人間に近い風だからだが、こんな状況でこんな風に思う自分がそれこそ鈴の言う無防備なのかもしれないなどとほんのり微妙な気持ちで思った。

「騒ぐな猫又。私はもうこの人間を襲わん」

 鬱陶しそうに言い放つ鬼女に、すずは威嚇するのをやめたが警戒は解いていないようだ。ただ人が歩いている様子がないとはいえ、万が一この状況を誰かに見られるのはまずいのではないかと寿也は心底思う。

「誰かに見られたらよくないんじゃないか? すず、この鬼女さんもそう言ってるんだし猫か人間の姿に一旦ならないか」

 寿也が言うと、すずは唖然としたように思い切りあんぐりと口を開けてきた、気がする。猫又とはいえ顔は猫なのであまり個性的な表情を読み取りづらい。

「人間、私を鬼女などと気やすく呼ぶな。そもそも鬼ではないわ」
「でも俺、あなたの名前とか知らないですし。あとあなたもできれば目元や口元などにインパクトのある濃いメイクやコスプレ感のある衣装をやめていただければと思うのです、が」

 恐ろしい形相ではなくなったとはいえ鬼らしき存在に対してつい口が滑った。今度こそ鈴の言う無防備だろうと寿也は確信を持って思いながら手で口を覆った。
 またとんでもない形相に戻るかと危惧したが、鬼女もぽかんと口を開けた後に笑いだした。

「人間の分際で何て口を私に利くのか。いいだろう。その無礼ながらに向こう見ずな態度に笑わせてもらった。それに免じて言うことを聞いてやろう」



 その後、気づけば寿也の家で三人、膝を突き合わせていた。今日一番のあり得なさだ。

「寿也は本当にもう……」

 しばらくぶつぶつとそんな風に言っていた鈴だが、今はじろりと鬼女、もとい文車妖妃ふぐるまようひを睨みながら「いくらすることがないからってつまらないことを」などと文句を言っている。
 文車妖妃というのは江戸時代に書かれた作品に出てくるあやかしらしいと寿也はこっそり携帯電話で検索して知った。とはいえ目の前にいるということは物語の中の存在ではなく実在したあやかしということになる。
 その作品では火事などの非常時に本や手紙を入れて運ぶための文車の付喪神として書かれながらも、古い恋文にこもった怨念や情念などが変化した妖怪ともあった。

「することがないというのは楽観視できないのだぞ。私たちみたいなのは人間から忘れられたりしたら存在意義がなくなる。下手をすれば消えてしまう」
「消えるんですか? 死ぬってこと?」

 つい寿也は口を挟んだ。

「死にはせん。ただ、この地からは消える。ただの低能なあやかしのほうが気楽なものだ。付喪神など、なるものではないな。だからたまにこうして存在を知らしめてやる」
「にしても勝手に人の携帯に迷惑メールみたいにラブレターみたいなもの送り付けて、それを消してしまう人間を襲うってどうなんですか……。本来は気持ちを込めたラブレターを相手が心なく捨ててしまってその手紙に込められた気持ちが執念となって鬼になるんじゃないんですか。それならまだしも、それじゃあただの当たり屋じゃないですか……」
「神やあやかしなんてそんなもんだよ寿也」

 鈴がつまらなさそうに横からため息をついてきた。

「恋文を消す人間を片っ端から襲いはせんぞ。さすがにキリがないわ。送った人間が無防備にも携帯を外で歩きながら見ている場合に私は呼ばれるよう、設定していた」
「あ」

 確かに珍しく「歩きスマホ」をしていたなと寿也は思った。鈴が生温い表情で寿也を見てくる。もしかしたらまた内心「無防備すぎる」などと思っているのかもしれない。

「と、とりあえず最近たまに起きていた変な事件って文車妖妃さんのせいだったんですね」
「そうだ。殺してはいないだろう? ちゃんと手加減してやったんだ。感謝してもらいたいくらいだ」
「当たり屋に感謝する人は基本いません……。にしても手紙じゃなくてスマホに送り付けてたんですよね。なのに何で倒れていた人の周りには燃えた紙のあとがあったんだろ」
「私が散らしてやった。私のやったことだと知らしめるためにな」
「……」
「何だその変な顔は。結果、噂になっていたのだろう? 多少でも話題になったわけだ。お前の耳にも入っていたのだろう? これでまたしばらく私は存在していられる」

 にっこりと笑う文車妖妃は今や人間の姿になっているのもあって寿也は少し落ち着かない。大学生になって最初の頃は彼女もいたが最近は本当にいないままなので、この部屋に女性がいることが落ち着かないのだろう。相手は鬼のような形相をする存在だとわかっていても致し方ない。
 あと気の強そうな美人といった顔の作りもさることながら、気を抜けば主張の激しい胸に目が行ってしまいそうになる。着物から飛び出てくるのではないかとそわそわ、いや、ハラハラしてしまう。別に寿也は胸派でもなければ巨乳好きでもないが、目の前にあると気になるのは男の性だと思う。ちなみに鈴は元々が猫だからか、同じ雄でありながらこれっぽっちも興味なさそうではあった。
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