金の鈴

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48話

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「ねえ、すず」

 ある日、とうとう奏流がすずに話しかけてきた。いや、今までも再三馬鹿みたいな口調で馬鹿にするかのようには話しかけてきたが、笑みを浮かべつつも真面目な様子で話しかけてきたのは少なくとも寿也を介して出会ってからは初めてだった。そろそろ桜の咲く時期ながらもまだ出ているこたつ布団の上に丸まっていたすずは、思わず頭を上げて猫のまま目を見開きポカンと口を開け、奏流を見た。すると少しおかしそうに笑われる。

「何、その顔」
「お前がオレに話しかけてきたからだ」

 猫のまま言葉を返すも、やはり今も理解しているようだ。すずを見るでなく台所で鍋の準備をしている寿也を見ながら「いつも話しかけてるじゃない」と返してきた。

「オレの言いたいこと、わかっているくせに」
「はは。……何か最近さ、寿也によく絡んでくる女性がいるんだけどね」

 それだけで奏流が何を言いたいのか何となくわかった。

「文車妖妃か……」
「文章妃って本人は名乗ってるけどね」
「ふみ、あきひめだぁ? なに人間ぶって……」
「ブーメランだけどね、浅見鈴くん」
「ブーメランが何だって?」
「まあ、それはどうでもいいんだけどさ、あともう一つどうでもいいけど章妃のおっぱい、大きいよね。ちょっとあれは顔を埋めてみた……」
「ほんとどうでもいいな……!」

 すずが思い切り言い返すと台所のほうから「何かすずが不穏な感じで鳴いてるけど。またお前、すずにちょっかいかけてんのか? 嫌がることやめろよ」という寿也の声が聞こえてくる。一応最初は奏流も手伝おうとしたようだがすずが鈴の時におそらく何か間違えたように、奏流も多分以前作る過程か作った結果に何か原因があったのだろう。寿也に「俺がするからお前はこたつの上拭いてて」と鈴が言われたより素っ気なく言われていた。どうやら猫系は机を拭くのが使命になる運命なのかもしれない。

「とにかくだね」

 ニコニコと奏流が続けようとしてくる。すずはじろりと見上げた。無視してもよかったが、今まであくまでも人間と猫といった関係での言動を貫いていた奏流が普通に話しかけてきたことがやはり気になる。

「やたら絡んでくるんだよ、寿也に。大学在学してるわけじゃないのにやたら大学に来るんだ。勉強はいいことだなんていいながらさ」
「それはもう聞いたけど。オレだって嬉しくないけど、大学行ってる寿也に干渉はさすがにできない。お前がどうにかすればいいだろ」

 実際嬉しくない。ただでさえ覚の存在ですら鬱陶しいのだ。覚のように人間を食べてしまうようなあやかしでない分、まだ付喪神の文車妖妃はマシなのかもしれない。噂がそこそこ立ったからと今のところ人間は襲っていないようだし危険ではないのだろう。ただ邪魔でしかないのは同じだ。だからといって一日中寿也に干渉するわけにもいかない。
 文車妖妃が寿也に構うのも多分覚が言うように何かあやかしが好むような匂いでもするのか、付喪神よりも確実に力のある九郎の力に惹かれてのことなのかもしれない。最初に寿也を襲おうとした時は寿也に引き寄せられたのではなく携帯電話のせいだった。だが今は違う。悪意がなければ背後にある九郎の存在も脅威ではなく引き寄せられる要素の一つになるのかもしれない。

「寿也もほら、男だからさあ、章妃に強く出られないみたい。あとはおっぱいのせいだろうな」
「ただの脂肪の塊じゃないか」
「これだから猫は」
「お前も猫のあやかしのくせに自分だけ違うみたいに言うな」
「それに章妃だけじゃない。さすがに大学へは来ないけど、お前も知ってるんだろ? カフェの店員。あのカフェ行くとこれまたやたら寿也に絡んでくる。この間はどこかへ出かけようなんて言ってきてたよ」
「覚め……やっぱりユキに食ってもらおう……」
「ほんとさぁ、サトリにまで懐かれて、寿也はタラシだよね」
「は?」

 何を言っているんだと呆れたようにまた見上げると、おかしそうに言っていた奏流が真顔になった。

「ねえ、すず。寿也はあやかしと人間の境界線に近づきすぎたんだと思うよ」
「……」
「本来あやかしは人間に存在を暗に知らしめながらも実体はバレないよう過ごすものだろ? 文車妖妃だって人間を襲った後は記憶を弄っていた」

 その通り過ぎて何も言えない。すずは黙ったまま奏流を見上げていた。

「なのにお前は寿也に正体をバラした。きっかけは山の神がからかってきたことだったかもしれないが、それでも向こうから正体をバラしてはこなかったんじゃない? お前からバラしたんだ。理由はどうあれ」

 そうだ。奏流の言う通りだった。九郎が寿也にも絡んできたが、すずが正体をバラすまでは九郎も正体を隠したままだった。すずが自ら正体をバラし、そして九郎の正体もバラした。理由はどうあれ、奏流の言う通りだった。何も言い返せない。むしろ正体をバラされてよく九郎は何も言わなかったなと今気づく。

「お前はあの人間を好き過ぎて度を超しちゃったんだよ。そして寿也を下手すれば危険な目に遭わせることになるかもしれないって自覚はある?」
「……あるよ……嫌ってほど、ある」

 自分のせいだということから全て、わかっている。

「今まではあの魂に出会ってもずっと猫のままでいられたのに、何でそうなっちゃったんだろうね」
「……」
「あまり寿也に構い過ぎるな」

 わかっている。何もかもその通り過ぎるしわかり過ぎるくらい、わかっている。だがはっきりそう言われるとすずはムッとして言い返したくなった。

「わかってるよ! でもお前に言われるいわれはない。大体何で昔からオレの周りうろちょろするんだよ。すごく邪魔。ほんと邪魔!」

 思い切り言い返すと、真面目な顔をしていた奏流がどこか悲しそうな顔をしてきた。
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