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なぜかやたら恐縮して謝ってくる昌史を、智也はむしろなだめ、シャワーを浴びさせた。その間にコンビニエンスストアへ行き、適当に下着を買い、ついでにいくつかパンも買う。
運動部に入っていた頃はそれなりに食事にも気遣っていたが、大学に入ってからは一人暮らしになったのもあり、反動のようにいい加減になっているかもしれない。
家へ戻るとシャワーを終えた昌史が腰にバスタオルを巻いて途方に暮れたように立っていた。
「迷子の犬……」
「えっ? 何ですか」
「いや、何でもない。下着、買ってきたからこれ使えよ」
「す、すみません……そんなことまでさせてしまって。シャワーお借りする前に気づくべきでした」
見た目は気軽に女子とも遊んでそうなイケメンなのだが、どうやら昌史は思っていた以上に真面目なのかもしれない。急な外泊にもあまり慣れてないようにも思える。
「気にすんなよ、飯買うついでだし」
「と、とりあえずお金、払います。いくら……」
「いいって。大したもんでもないし」
「でも……」
「お前は俺の後輩なんだからこういう時は甘えとけって」
「……」
申し訳なさそうだった昌史だが、その上でなぜか納得いかなさそうな表情してきた。後輩という立場が納得いかないというのはさすがにないだろうし、甘えるのが嫌とかそういうのだろうかと智也はほんのり思う。
ま、そういうのだったら触れないで流すか。
「とにかく飯、食おう。おかずパンとか菓子パンだけど別にいいよな」
「は、はい。……あの、よかったらせめて俺が朝ごはん作ってもいいですか」
「え?」
「……駄目っすか」
「捨て犬……」
「えっ?」
「いや、何でもない。そんな顔すんなよ。驚いただけ。お前、料理できんの?」
「料理ってほどのものは……ちょっと冷蔵庫とか見ていいですか」
「ああ、そりゃ全然いいけど……俺、あんま料理しないから大したものないぞ」
さすがに全くしないわけではないが、コンビニエンスストアのお世話にはそこそこなっている。
智也の家はワンルームで、玄関から部屋へつながる廊下とも言えないスペースに小さなキッチンがある。場所を案内する必要すらない広さというかレイアウトなので、昌史も断りを入れた後に即、小さなシンク横にある小さな冷蔵庫を開けている。
「あ、でもちゃんと味噌とかあるじゃないですか」
「さすがにそれくらいあるわ」
「卵も。ネギもある。ピーマンも……ちょっとしなってるけど」
「いちいち言わなくていいし」
「じゃあちょっと台所お借りします」
「おう……」
買ってきたパンは昼食にするかおやつにしようと思いつつ、誰かが作った朝食など結構久しぶりのため、智也は思いのほかわくわくしていることに気づく。だが料理をソファー前のコーヒーテーブルに並べた後に「新婚さんみたい……」などと呟き、顔を少し赤くしている昌史の気持ちはわからない。
俺の百倍はモテて引く手あまたって感じなのに、ほんとよくわからないやつだな。
わからないと言えば、見た目だけならとてつもなくおしゃれなカフェ飯でも作りそうな容姿をしている昌史だが、作ってくれたのはおもいきり和食だった。
「すげーな。あんな貧相な冷蔵庫からこんな料理よく錬成できたな」
「錬成って……。別に大したものはないですし」
「普通に巻かれた卵焼きがあるだけで俺からしたらすごいよ。しかも何か入ってる」
「ネギです。あと、かつお節あったので出し巻き風にするのに入れたのと、みそ汁の出汁にも使いました。だしがらはレンチンでふりかけっぽくしてます」
「おお」
かつお節はたまにマヨネーズと混ぜてごはんのおかずとして食べていたくらいしか活用していなかった智也としては「おお」しか言えない。ちなみにかつお節はピーマンの上にもかかっている。すごい使いまわされていて、かつお節冥利につきるのではないだろうかと思った後に内心、「何だよかつお節冥利って。お前にかつお節の何がわかるんだ」と自分に突っ込んだ。
「すごいな。しかも美味い。マジ美味しいよ。お前、いい奥さんになるな」
「ほんとですか!」
冗談のつもりで言ったものの、目をキラキラさせながら見てきた昌史に、智也は微妙な顔になる。
「そこは何でってなるところだろ……」
「あ、えっと。そうですね」
昌史のことはそんなによくわかっていなかったが、亮人とはまた違うギャップの持ち主かもしれないと何となく思った。
モテるイケメンで、だいたいのことはそつなくこなしつつ気楽に軽く日々過ごしている。といったイメージを多分持っていたと思うが、今日でほぼ覆った気がする。イケメンというところは変わらないしモテているのはモテているのだろうが、本人はどちらかといえば純情で真面目なタイプな気がする。
「何かちょっとだけお前に対する好感度、上がったわ」
「ほ、ほんとですか!」
「……何でそんな喜ぶんだよ。さっきもだけど引くとか嫌がるとかそういうとこだろ」
「喜びますよそんなの!」
やっぱりちょっとよくわからないやつだなと智也は改めて思った。
ちなみにゲームで昌史の、というかイアンの好感度は上がりまくった。とはいえテストプレイするならとシナリオはそこまで教えてもらっていなかったので、その後ノーマルエンドを迎えた。それに対し昌史は少々不満そうだった。そんなにベストエンドが見たかったのかと苦笑する。
「じゃあ次は亮人攻略してね」
「名前……。クリスでしょ」
楽しそうな美恵に呆れた顔を向けたが、どのキャラのことを言っているのかはサークルメンバー全員がわかるのだろうなと苦笑した。
運動部に入っていた頃はそれなりに食事にも気遣っていたが、大学に入ってからは一人暮らしになったのもあり、反動のようにいい加減になっているかもしれない。
家へ戻るとシャワーを終えた昌史が腰にバスタオルを巻いて途方に暮れたように立っていた。
「迷子の犬……」
「えっ? 何ですか」
「いや、何でもない。下着、買ってきたからこれ使えよ」
「す、すみません……そんなことまでさせてしまって。シャワーお借りする前に気づくべきでした」
見た目は気軽に女子とも遊んでそうなイケメンなのだが、どうやら昌史は思っていた以上に真面目なのかもしれない。急な外泊にもあまり慣れてないようにも思える。
「気にすんなよ、飯買うついでだし」
「と、とりあえずお金、払います。いくら……」
「いいって。大したもんでもないし」
「でも……」
「お前は俺の後輩なんだからこういう時は甘えとけって」
「……」
申し訳なさそうだった昌史だが、その上でなぜか納得いかなさそうな表情してきた。後輩という立場が納得いかないというのはさすがにないだろうし、甘えるのが嫌とかそういうのだろうかと智也はほんのり思う。
ま、そういうのだったら触れないで流すか。
「とにかく飯、食おう。おかずパンとか菓子パンだけど別にいいよな」
「は、はい。……あの、よかったらせめて俺が朝ごはん作ってもいいですか」
「え?」
「……駄目っすか」
「捨て犬……」
「えっ?」
「いや、何でもない。そんな顔すんなよ。驚いただけ。お前、料理できんの?」
「料理ってほどのものは……ちょっと冷蔵庫とか見ていいですか」
「ああ、そりゃ全然いいけど……俺、あんま料理しないから大したものないぞ」
さすがに全くしないわけではないが、コンビニエンスストアのお世話にはそこそこなっている。
智也の家はワンルームで、玄関から部屋へつながる廊下とも言えないスペースに小さなキッチンがある。場所を案内する必要すらない広さというかレイアウトなので、昌史も断りを入れた後に即、小さなシンク横にある小さな冷蔵庫を開けている。
「あ、でもちゃんと味噌とかあるじゃないですか」
「さすがにそれくらいあるわ」
「卵も。ネギもある。ピーマンも……ちょっとしなってるけど」
「いちいち言わなくていいし」
「じゃあちょっと台所お借りします」
「おう……」
買ってきたパンは昼食にするかおやつにしようと思いつつ、誰かが作った朝食など結構久しぶりのため、智也は思いのほかわくわくしていることに気づく。だが料理をソファー前のコーヒーテーブルに並べた後に「新婚さんみたい……」などと呟き、顔を少し赤くしている昌史の気持ちはわからない。
俺の百倍はモテて引く手あまたって感じなのに、ほんとよくわからないやつだな。
わからないと言えば、見た目だけならとてつもなくおしゃれなカフェ飯でも作りそうな容姿をしている昌史だが、作ってくれたのはおもいきり和食だった。
「すげーな。あんな貧相な冷蔵庫からこんな料理よく錬成できたな」
「錬成って……。別に大したものはないですし」
「普通に巻かれた卵焼きがあるだけで俺からしたらすごいよ。しかも何か入ってる」
「ネギです。あと、かつお節あったので出し巻き風にするのに入れたのと、みそ汁の出汁にも使いました。だしがらはレンチンでふりかけっぽくしてます」
「おお」
かつお節はたまにマヨネーズと混ぜてごはんのおかずとして食べていたくらいしか活用していなかった智也としては「おお」しか言えない。ちなみにかつお節はピーマンの上にもかかっている。すごい使いまわされていて、かつお節冥利につきるのではないだろうかと思った後に内心、「何だよかつお節冥利って。お前にかつお節の何がわかるんだ」と自分に突っ込んだ。
「すごいな。しかも美味い。マジ美味しいよ。お前、いい奥さんになるな」
「ほんとですか!」
冗談のつもりで言ったものの、目をキラキラさせながら見てきた昌史に、智也は微妙な顔になる。
「そこは何でってなるところだろ……」
「あ、えっと。そうですね」
昌史のことはそんなによくわかっていなかったが、亮人とはまた違うギャップの持ち主かもしれないと何となく思った。
モテるイケメンで、だいたいのことはそつなくこなしつつ気楽に軽く日々過ごしている。といったイメージを多分持っていたと思うが、今日でほぼ覆った気がする。イケメンというところは変わらないしモテているのはモテているのだろうが、本人はどちらかといえば純情で真面目なタイプな気がする。
「何かちょっとだけお前に対する好感度、上がったわ」
「ほ、ほんとですか!」
「……何でそんな喜ぶんだよ。さっきもだけど引くとか嫌がるとかそういうとこだろ」
「喜びますよそんなの!」
やっぱりちょっとよくわからないやつだなと智也は改めて思った。
ちなみにゲームで昌史の、というかイアンの好感度は上がりまくった。とはいえテストプレイするならとシナリオはそこまで教えてもらっていなかったので、その後ノーマルエンドを迎えた。それに対し昌史は少々不満そうだった。そんなにベストエンドが見たかったのかと苦笑する。
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