恋愛ゲームは続行中

Guidepost

文字の大きさ
9 / 20

9

しおりを挟む
 亮人そっくりのクリス攻略を始めたが、クリスの妙に淡々とした話し方などまで亮人に似ており、つい笑ってしまう。時折亮人とやり取りしているみたいだとさえほんのり思ったりもした。

「このシナリオさあ、林くんが考えたんっすか? それとも外山さん?」
「私が考えたやつもあるし林くんが考えたのもあるよ。何で?」
「いや、だってアキにすげー似てるなって思って」
「まあ参考にしたし。うふふ、アキトモかあ」
「……そこ、変な呼び方しないでください」
「確かに私はあえて選ぶならマサトモ派だけど」
「そういうことじゃない……! かけ合わせて端折るなっつってんっすよ。もしくはキャラ名で呼んでくださいよ。俺らの名前じゃなくて」
「別にいいでしょ。そのほうがサークルメンバー内でも親しみやすいしわかりやすいんだし。っていうか佐久間くんは似てるんだとして、辻村くんは似てなかったの?」

 暖簾に腕押し、糠に釘とは本当にこのことだなと智也はため息ついた。

「ったく。イアンも辻村くんに似てましたよ。でも俺、クリスがアキに似てるって思うほど辻村くんのこと知らなかったし」

 プレイを始めた頃より今はもう少し昌史のことも知るようになった気はするし、何ならそこまで知らなくともプレイ当初に昌史が夢に出てきたわけだが、そんなことを今口にして望美たちを喜ばせる気はない。望美は美恵ほどBLを愛好しているわけではなさそうだが、嫌いではない時点で智也からすれば五十歩百歩だ。

「幼馴染BLも悪くないなあ、そう聞くと」
「そもそも俺らは本気でそういうんじゃないんで現実に持ち込まないでくださいよ。あと外山さんは男女ものの乙女ゲーが好きなんでしょ。だったら純粋に女主人公で楽しみましょうよ」
「それはそれ、これはこれ」
「そんなウチヨソ言い出すオカンみたいな……」

 呆れた顔していると、伸行が「俺も会話に入れてくださいよ」と入ってきた。相変わらず望美に全くそういう関心を持たれていないようだが、諦める気はさらさらないようでもある。

「そういえば林くんは自分に似たアンディのシナリオ、よく書けたな」
「ああそれ! いやー俺に似たキャラとかさすがに俺もわからないんで、アンディルートはほぼ望美先輩に任せてしまいました」
「あ、そうなんだ」

 へえ、と智也が頷いていると望美が楽しそうに微笑んできた。一見ゆるふわ系の見た目だけにかわいいが、中身を知っているので智也としてはほんわかできない。

「何すか、今の笑み」
「何でもないよ。あ、友だちの返信きた。私、そろそろ帰るね」
「えっ、待って望美先輩! 俺も一緒に……」
「一緒にって、私これから友だちと会うんだけど」
「お、送るんで! ほら、外は薄暗くなってきてるし」
「? 別にいらないけど」
「そんなぁ! 送らせて!」

 相変わらず全然これっぽっちも意識されていない伸行が少々不憫で、智也は「こいつうるさいから俺としても作業の邪魔だし、送らせたげてくださいよ外山さん」と助け舟を出す。

「えー? 別にいいけど。じゃあちょっとカバン取ってくるね」

 望美がロッカーへ向かうのを見てから、伸行が目を潤ませながら智也に抱きつきかねない勢いで礼を言ってきた。

「マジありがとうです智也先輩。邪魔って言われたのはさておき、ほんっと恩にきます」
「……まあ、がんばって」
「はい! あ、お礼には全然ならないんだけど心の準備的に」
「何の?」
「クリスルート終わったらアンディルートもするでしょ?」
「まあ、やらされるだろな」
「シナリオ、俺噛んでない分ね、多分アンディルートが一番居たたまれない内容だと思うんで、智也先輩もがんばってください」
「は? いや、何をがんばれと……って、そんな心の準備いらないんだけど!」
「へへ。じゃあ、俺もがんばってきます!」
「がんばるが違う……! はぁ。とりあえずお前はほんと、がんばれ」
「はい!」

 元気だけはいっちょ前といった感じの伸行は、嬉しそうに望美の後を追っていった。それを苦笑しながら見送ってから、智也は昨日自宅でプレイしていて少々気になっていた箇所のプログラム修正を続ける。それが終わると確認もかねて部室でゲームを少しプレイしていた。

「今は佐久間先輩のルートされてるんでしたっけ」
「っわ。辻村くん、いつからいたんだよ。来てたなら先に声かけてよ」

 突然ゲームのことを言われ、ちょうど修正箇所をプレイしていて集中していた智也は、結構びっくりしながら声がしたほうへ頭を上げた。

「すみません。何か集中されてるっぽかったから。でも全然気づかれなくてつい、声かけたくなって」
「まあいいけどさ。あとアキのルートじゃなくてクリスな。お前も自分に似た攻略キャラいんのにその辺受け入れすぎじゃないか?」
「当然ですよ」

 何が当然なんだと思ったが、口にする前に昌史が続けてきた。

「今、どこまでやってんですか」
「えっと、まあわりと好感度高くなってきてな。今まではアキに似すぎてて笑えるレベルだったけど、昨日くらいからクリスの話し方がやたら甘くてさ。絶対アキ、言わなさそうすぎてそれはそれで笑えるっつーか」
「……」

 笑いながら言えば、昌史は妙に真剣そうな顔を近づけてゲームの画面をじっと見てきた。ちょうど画面ではクリスが大福にチョコレートをかけたような、やたら甘いけど智也的に違和感しかないようなセリフを吐いているところだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...