闇に光を

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1話

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 自信に満ちたところが昔から好きで。そして自分と違ってコロコロと変わる表情が好きだとずっと思っていた。
 幼い頃から手を引いて、いつだって自分の前を歩いていた大好きな存在。
 沢田 唯翔(さわだ ゆいと)は自分の兄である沢田 蒼羽(さわだ あおば)のことがずっと昔から大好きで憧れており、その背中を追いかけていた。
 蒼羽は明るくて喧嘩が強くて、でも優しくて。本当に頼れる大好きなお兄ちゃんだった。
 子どもの頃、大人しかった唯翔はたまに近所のガキ大将的な年上に弄られることがあったが、その度に蒼羽が助けに来てくれた。いつも「コラーッ、俺の弟いじめたらよーしゃしないからな!」と唯翔の前に立ちはだかり大きく手を広げる。相手は折れるか、立ち向かってきても蒼羽にすぐに負けていた。二つ上である兄の背中は、その背後に隠れていた唯翔にはとても大きく見えたものだ。
 いつの間にか蒼羽の髪の色は不自然なほど明るくなっていて、付き合う友だちも柄の悪そうなタイプが多くなっていたが、それでも中身は変わらなかった。
 唯翔の友だちが蒼羽を見て「礼儀正しいヤンキー」などと言っていたことがある。兄に対して何だよそれ、と言い返しはしたが、正直なところ言い得て妙だなとも思った。
 何で不良なんかやってんだと謎で仕方ないほど、蒼羽は変わらずいい兄だった。前に知らないお婆さんと一緒に横断歩道を渡っているところを見かけた時は「さすが俺の兄さん」と思った反面、その違和感しかない絵面に微妙にもなった。不良になったのは多分、何も考えていないだけかもしれない。
 いや、頭はいい。だが明るい性格のせいか、基本的に物事に対して軽いところはある。不良になったのも「楽しいし」とかそんなふざけた理由なだけの気がしてならない。
 とはいえそんなところも好きだと唯翔は思っている。自分には持ち得ない性格だ。それに軽いけれども人に対しては適当じゃない。不良だけれども曲がったことは好きじゃない。そんなところもやはりさすが兄だと思っていた。
 外見も唯翔とは違い、華やかで目立つ容姿をしていてそれにも憧れを持っていた。
 才能や容姿など、兄弟なら妬むこともあるらしいのだが、唯翔は一度も妬んだことがない。ずっと背中を見て追いかけていた。憧れ、追いかけ、見失わないようひたすら兄を、兄だけを見つめてきた。
 友だちにはブラコンと笑われたが、別に恥じるところは何もなかったので「そりゃあ俺は兄さんが大好きだしな」と頷いたら今度は苦笑された。

 だけれども。

 いつからなのだろう。本当に憧れてやまない兄を、いつから唯翔は見失い始めていたのだろう。いつから背中を追いかけたいと願わなくなったのだろう。
 泣かせたり困らせたりしたい訳じゃない。いつだって明るくて自信に満ちた兄が崩れる姿なんかは望んでいない。

 俺の理想の兄はそんなじゃなくて──

 唯翔は今年、高校生となった。新しい制服が嬉しくて仕方なかった。
 何が嬉しいって、兄である蒼羽と同じ制服がまた着られることだ。中学生の時も同じ制服を着て同じ学校に通えたのはたった一年間のことだったが嬉しかった。
 唯翔が一年生になると蒼羽は三年生になる。一番上の先輩という位置は格好がいいので悪くはないのだが、ただ一年しか同じ学校にいられないのは中学生の頃寂しかった。
 もちろん、同じ制服が着られるのが嬉しいだけあって今もそう思うのだが、そんな感情が今は素直に出ない。そもそも最近は昔のように蒼羽の後をついて回っていなかった。
 蒼羽が兄の理想から逸れたのかと言えば、即否定出来る。ヤンキーであろうがチャラついてそうであろうが、中身は昔からずっと変わらない兄だ。

 何を見失ったというのだろう。
 何が違う?
 何をもやもやとしている?
 何が、不満だというのだ。

 困らせたい訳じゃない。そういうのが見たいのではない。

 本当は、そうじゃなくて──

「……見たいとかそんなじゃなくて、ずっと俺は兄さんに頼られたかった」

 憧れていたからこそ、自分はずっと、そんな兄に頼られもしたかった。だが蒼羽はいつも唯翔の前では強がる。優しくて明るいだけじゃなく、いつだって「兄」であろうとする。
 今ようやく気づいたのだが、唯翔はそこが許せなかったようだ。

「だから、その大好きなお兄ちゃんを殴っちゃって家を飛び出しちゃったの?」

 蒼羽の友だち兼幼馴染みであり、よって唯翔とも幼馴染みである林 高人(ハヤシ タカヒト)が苦笑している。
 蒼羽と同じ歳の高人はいつもニット帽、主にロールアップワッチを被っており、見た目のいかつさも相まって一見怖そうなお兄さんにしか見えない。だが実際は面倒見のいいお母さんだ。とはいえ本人にそう言えば軽くだが殴られる。

「……殴るつもりなかったし、家を飛び出すつもりもなかったし」
「今頃、お前の兄さん家で泣いてるかもなあ」

 高人が悪い笑みを浮かべながら頭を振っている。唯翔はグッと喉を詰まらせた。

「あいつ、風邪で寝てたんだろ? 弱ってる時にそんなことやられたらきっついよなぁ?」

 確かに弱っている時は唯翔も人恋しくなる。というか正直なところ兄が恋しくなる。
 唯翔はぎくりとしつつ顔を逸らせた。
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