闇に光を

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2話

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「だ、だって看病しようとしたら、あいつそんなことしなくていいって言うし、欲しい物ないかって聞けば何もいらないから好きなことしてろって……。俺そんな頼りにならないのかよって……つい」

 本当にカッとなったのだ。唯翔は逸らせた顔を俯き気味にし、高人に言いながらもさらに落ち込んだ。
 改めて口に出して言えば、かなり子どもっぽいことをしてしまったと思う。だけれども、たった二歳の差なのに頼ってもらえないことに切ないほどの苛立ちを覚えていた。

「あー……お前ら兄弟って本当めんどくせーよなあ」

 高人は微妙な顔をしてくる。

「俺、別に面倒じゃねーよ」
「めんどーだよ、お前は」

 見た目はいかついくせに少し笑みを浮かべながらも諭すように言う高人を、唯翔はムッとした顔で見た。

「煩いな、オカン」
「オカン、言うな」
「……俺は置いといて」
「置いとくのかよ」
「兄さんは何が面倒なんだよ」
「お前のお兄ちゃんは言葉が足りねーかな」

 言葉が足りない?

 唯翔は怪訝な顔をした。

「足りないのは俺に対する甘えや依存だろ」
「依存って何だよ」

 苦笑しながら、高人は自分の携帯電話を取り出している。先ほどからそういえばずっと振動音がするなと思っていた。

「出ないのかよ」
「うーん」

 高人はため息を吐きながら苦笑している。

「何だよ、百合華からじゃないのかよ。喧嘩でもしたのか」
「お前らと一緒にすんな。あと、俺の可愛い彼女呼び捨てにしてんじゃねーぞ。お前、お兄ちゃんだけじゃなく俺やユリカに対してもえらそーだけど、俺ら年上な?」
「バイブ煩いんだけど」
「聞けよ……。ったく。スマホかけてきてんの、お前の大好きな大好きなお兄ちゃんだぞ」

 微妙な顔をした高人が携帯電話の画面を唯翔に見せてきた。そこには確かに『あおば』と表示されている。

「……っ」
「出ればいーの?」

 高人が今度はニヤニヤしてきた。唯翔は舌打ちをしながら顔を背ける。

「舌打ちかよ。どーすんの。お前出る?」
「……出ない。兄さんに、兄だと今は思いたくないって捨て台詞吐いてきたし」
「言い過ぎだろ……。とりあえず一回出るからな」

 高人に無言で頷くと、唯翔は少し離れたところへ移動して体を抱えるようにして座った。

「おぅ」
「あー、ここにいる」
「いや、いーけど。……んなことねーって。売り言葉に買い言葉的なあれだろ」
「まー、お前足りねーもんな」
「そっちじゃねーよ」

 高人が蒼羽と話している。ところどころは何を言っているのかは予想がついた。
 しばらくすると「じゃーな」と高人が電話を切る。それを隅からじっと見るとまた微妙な顔をされた。

「……何だよ」
「そう言いたいのは俺な? アオ、まぁ予想通りだろけどめちゃくちゃ心配してんぞ」
「兄ぶって……」

 チッと舌打ちをすると高人が近づいてきてしゃがんでくる。知らない人が見たら、どう見ても真面目な学生に因縁でもつけにきた、がらの悪いヤンキーにしか見えないだろう。高人は顔を近付け「お兄ちゃん大好きなくせに」と笑ってきた。

「俺を頼ってくれないから好きじゃない」
「……なぁ、普通は兄に対して、頼ってくれないなんて不満に思わねーって知ってた?」

 ニヤリと笑いながら言ってくる高人を唯翔はジロリと睨んだ。

「何が言いたいんだよ」
「お前はアオのこと大好きだよなってこと」
「何度も聞き飽きたんだけど」
「ほんと自覚ねーな。俺が言ってんのはお兄ちゃん大好き唯翔くんの話じゃねーぞ。蒼羽大好き唯翔くんの話だからな」

 こいつは一体何を言ってるんだ?

 意味がわからなくて微妙な顔で高人を見ると微妙な顔をし返された。

「何言ってんだみたいな顔で見てくんな」
「だって何言ってんだよ? 何が違うんだよ」
「俺がユリカのこと好きなよーに、お前はアオが好きなんだよ」

 高人が百合華を好きなように……?
 ってどういう……。
 ……。
 ……っ?

「はっ? 本当に何言ってんのっ?」

 後退りをしようとして、背後が壁だと思い出した。後退りできない代わりに唯翔は高人を睨む。
 高人はおかしくなったのではないか。相手は兄だ。それも完全に血が繋がっている。

 そんな兄さんを、好き……?
 俺が……?

 心臓がドクドクと脈打つ。
 確かに昔から、自信に満ちたところや自分と違ってコロコロと変わる表情が好きだとずっと思ってはいた。だがそれは兄として好きで憧れているだけで他の感情なんてない。はずだ。

「高人、おかしいんじゃないの」
「おかしいのは俺かー?」

 高人はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて唯翔を見てきた。腹立たしいと唯翔はまた高人を睨む。

「自分の感情、決めつけねーでよく考えてみろよ。だいたいお兄ちゃん大好きなくせに頼ってくれねーからってつむじ曲げる弟ってのが違うだろ。甘えさせてくれねーって拗ねるならまだしもよ」
「何で俺が甘えさせてくれないって拗ねるんだよ。むしろ甘えて欲しいって言ってんだろ」
「だからそれな」

 甘えて欲しいという気持ちのどこがおかしいのかわからない。大切な兄だからこそいい格好つけたりしないで弟である自分に甘えて欲しいと思うことの、どこがおかしいのか。

 ……。
 ……見失っているのはこの辺りなのか。

 泣かせたり困らせたりしたくない。明るくて自信に満ちた蒼羽でいて欲しい。それでいて、唯翔を頼って欲しい。

 この気持ちは弟の持つ感情じゃなかったのか?
 ……好きな相手への、気持ち……? 

 ぼんやりと考えていた唯翔は、いきなり自分の顔がおかしなほど熱くなるのを感じた。
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