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5話
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彼女がもうすぐ来るしとにかく帰れと高人に言われ、唯翔は渋々自宅へ戻った。だが蒼羽にどんな顔をすればいいかわからない。暴言を吐いただけでも気まずいというのに、高人のせいで気づかなくてよかったことに気づかされてしまった。
気づいたとはいえ、それを高人に認めるのは釈然としないというか、そもそも兄に変な感情を持っているなどと、いくら高人から指摘されたとはいえ堂々と認められる訳がないし、まだ自分でも納得していないというか、受け入れられていない。
「訳わかんないこと言うな」
高人にもそう言って誤魔化した。ただ高人は「そうか」と頷きつつもニヤニヤとしていたので腹立たしい上に落ち着かないのもあり、まだ家には帰りたくなかったが素直に言われた通り、帰ることにしたのだ。
台所を覗くと、作りかけていた粥もどきはなくなっていた。鍋だけじゃなく、皿も洗ってあるのを見て、唯翔は少し青くなる。
……兄さん、まさかあれそのまま食ってないよな……?
風邪が胃腸にきたと確か言っていた。だというのに不完全な粥もどきなどを食べたら余計酷くなるか気持ち悪くなるのではないだろうか。
しかも薬を飲んだ痕跡がある。慌てつつも念のためリビングを覗く。やはりいなかったので唯翔は蒼羽の部屋へ向かった。
「っあ、っつっ?」
一応ノックしたが返事がないので勝手にドアを開けて部屋に入ったとたん、唯翔はとてつもない熱気にやられそうになった。
外よりも暑い。どういうことだと戸惑ったがすぐにハッとなり、蒼羽が眠っているベッドのそばにあったエアコンのリモコンを手にした。
「……何で暖房……?」
とりあえず冷房に切り替えた。その際にドライの項目に目がいき、そういえば母親が除湿しろと蒼羽に言っていたことを思い出す。
「間違えんなよ……」
もう少し室温を下げてからドライにしよう、それまではここにいてもいいだろうかと思いつつ、唯翔は呆れたように蒼羽を見た。
よくこんな熱気の中眠られると思う。熱中症になるんじゃないのかと微妙になりながら蒼羽を覗き込んだ。しっかりしているし頼りになる兄なのだが、たまにこうして抜けたところもある。
……そこがまた──
かわいい、と思いかけて唯翔は戸惑った。まさか自分が兄をそういう目で見ているとはと、どうにも半信半疑になってしまう。
ため息を吐きながら蒼羽を改めて見ると、さすがに熱気がこもる中で布団に丸まっているはずもなく、思い切り布団をめくり上げて眠っている。室温を下げているしとその布団をちゃんとかぶせようと唯翔は手を伸ばした。
その際に蒼羽が寝返りをうった。もちろん寝返りくらいだれでもうつだろうが、今はどうにも気まずいために思わずギクリとする。その上、蒼羽の喉からほんのり漏れた「ん……」という声にドキリとした。
色気もへったくれもない白いTシャツだというのに微かに捩れたシワすら妙に落ち着かない。
……どう見ても男なのに……。
いや、その前に兄だ。
唯翔が自分に対して微妙な気持ちになっていると、蒼羽が横を向いて上になった方の腕をもそもそと動かし出した。そして横に置いてある抱き枕に触れると腕を回して落ち着いたのか、また動かなくなった。
ふと見ると、先ほどまで暑かったせいか首筋に汗が伝っている。タオルを取ってきて拭いてあげたほうがいいだろうかと思いながら、唯翔はそこにつ、っと人差し指を這わせた。小さな汗の玉が指に吸い付く。
……って俺、何やってんだ……。
慌てて布団を被せると、唯翔は蒼羽の部屋から出た。いつの間にか蒼羽の部屋は冷房が効いていたようで、今では廊下のほうがむわっとしている。体からじわりと汗が滲むのを感じた。
馬鹿じゃないのか?
心の中で自分に言う。心臓がそれこそ馬鹿みたいに速く鼓動していた。
意味がわからない。
意味が、わからない。
意味が、わからない……!
ひたすら頭の中でぐるぐると同じ言葉が回っている。どくどくと脈打つ心臓は今にも胸を破って出てきそうだった。
とりあえず自分の部屋へ逃げるように入った。そしてエアコンもつけずにベッドへ突っ伏す。
ふと蒼羽の首筋に触れた指を見た。そのままそれを口に含む。しょっぱいかと思ったが、あまり味はわからなかった。いや、むしろほんのり甘い気がする。
「って馬鹿か! 汗が甘いとか、糖尿病かよ……」
そもそも舐めるとか、自分はもしかして変態なのだろうかと唯翔は少し泣きそうになった。
「……俺……」
もぞ、っと俯いたままベッドの上で足を動かす。心臓や内臓がそわそわとしているというのだろうか。じっとしていられないような感じがして、だけれども暴れたいのではなくてむしろぎゅっと体を抱えた。
「俺……兄さんのこと、好き……なの……?」
誰に問う訳でもないが小さな声に出してみる。すると顔がものすごく熱くなり、頭が沸騰しそうになった。
……あぁ、やっぱり、好きなんだ……。
どうしよう。
さらに体を丸めながら、ますます泣きそうな気持ちになった。だが蒼羽の部屋のエアコンを冷房にしたままなのを思い出した。
「ヤバ……兄さんの風邪、悪化するかも……!」
慌てて体を起こし、一度大きくため息を吐いてから部屋を出て、また蒼羽の部屋へ向かった。
蒼羽の部屋に入ると、今度は寒いのか被せていった布団に丸まっている蒼羽に気づく。
……クソ、かわいい……。
冷房をドライに変えてから、布団に埋もれている蒼羽の額にそっと触れた。手ではあまり熱は感じられなかった。
薬、効いてたらいいな……。
「……殴って……ごめんな……」
顔を近づけて小さく囁くと、唯翔は蒼羽の耳に一瞬だけ唇をつける。そして真っ赤になると、部屋を出て蒼羽のためにスポーツドリンクを買いに外へ出た。
気づいたとはいえ、それを高人に認めるのは釈然としないというか、そもそも兄に変な感情を持っているなどと、いくら高人から指摘されたとはいえ堂々と認められる訳がないし、まだ自分でも納得していないというか、受け入れられていない。
「訳わかんないこと言うな」
高人にもそう言って誤魔化した。ただ高人は「そうか」と頷きつつもニヤニヤとしていたので腹立たしい上に落ち着かないのもあり、まだ家には帰りたくなかったが素直に言われた通り、帰ることにしたのだ。
台所を覗くと、作りかけていた粥もどきはなくなっていた。鍋だけじゃなく、皿も洗ってあるのを見て、唯翔は少し青くなる。
……兄さん、まさかあれそのまま食ってないよな……?
風邪が胃腸にきたと確か言っていた。だというのに不完全な粥もどきなどを食べたら余計酷くなるか気持ち悪くなるのではないだろうか。
しかも薬を飲んだ痕跡がある。慌てつつも念のためリビングを覗く。やはりいなかったので唯翔は蒼羽の部屋へ向かった。
「っあ、っつっ?」
一応ノックしたが返事がないので勝手にドアを開けて部屋に入ったとたん、唯翔はとてつもない熱気にやられそうになった。
外よりも暑い。どういうことだと戸惑ったがすぐにハッとなり、蒼羽が眠っているベッドのそばにあったエアコンのリモコンを手にした。
「……何で暖房……?」
とりあえず冷房に切り替えた。その際にドライの項目に目がいき、そういえば母親が除湿しろと蒼羽に言っていたことを思い出す。
「間違えんなよ……」
もう少し室温を下げてからドライにしよう、それまではここにいてもいいだろうかと思いつつ、唯翔は呆れたように蒼羽を見た。
よくこんな熱気の中眠られると思う。熱中症になるんじゃないのかと微妙になりながら蒼羽を覗き込んだ。しっかりしているし頼りになる兄なのだが、たまにこうして抜けたところもある。
……そこがまた──
かわいい、と思いかけて唯翔は戸惑った。まさか自分が兄をそういう目で見ているとはと、どうにも半信半疑になってしまう。
ため息を吐きながら蒼羽を改めて見ると、さすがに熱気がこもる中で布団に丸まっているはずもなく、思い切り布団をめくり上げて眠っている。室温を下げているしとその布団をちゃんとかぶせようと唯翔は手を伸ばした。
その際に蒼羽が寝返りをうった。もちろん寝返りくらいだれでもうつだろうが、今はどうにも気まずいために思わずギクリとする。その上、蒼羽の喉からほんのり漏れた「ん……」という声にドキリとした。
色気もへったくれもない白いTシャツだというのに微かに捩れたシワすら妙に落ち着かない。
……どう見ても男なのに……。
いや、その前に兄だ。
唯翔が自分に対して微妙な気持ちになっていると、蒼羽が横を向いて上になった方の腕をもそもそと動かし出した。そして横に置いてある抱き枕に触れると腕を回して落ち着いたのか、また動かなくなった。
ふと見ると、先ほどまで暑かったせいか首筋に汗が伝っている。タオルを取ってきて拭いてあげたほうがいいだろうかと思いながら、唯翔はそこにつ、っと人差し指を這わせた。小さな汗の玉が指に吸い付く。
……って俺、何やってんだ……。
慌てて布団を被せると、唯翔は蒼羽の部屋から出た。いつの間にか蒼羽の部屋は冷房が効いていたようで、今では廊下のほうがむわっとしている。体からじわりと汗が滲むのを感じた。
馬鹿じゃないのか?
心の中で自分に言う。心臓がそれこそ馬鹿みたいに速く鼓動していた。
意味がわからない。
意味が、わからない。
意味が、わからない……!
ひたすら頭の中でぐるぐると同じ言葉が回っている。どくどくと脈打つ心臓は今にも胸を破って出てきそうだった。
とりあえず自分の部屋へ逃げるように入った。そしてエアコンもつけずにベッドへ突っ伏す。
ふと蒼羽の首筋に触れた指を見た。そのままそれを口に含む。しょっぱいかと思ったが、あまり味はわからなかった。いや、むしろほんのり甘い気がする。
「って馬鹿か! 汗が甘いとか、糖尿病かよ……」
そもそも舐めるとか、自分はもしかして変態なのだろうかと唯翔は少し泣きそうになった。
「……俺……」
もぞ、っと俯いたままベッドの上で足を動かす。心臓や内臓がそわそわとしているというのだろうか。じっとしていられないような感じがして、だけれども暴れたいのではなくてむしろぎゅっと体を抱えた。
「俺……兄さんのこと、好き……なの……?」
誰に問う訳でもないが小さな声に出してみる。すると顔がものすごく熱くなり、頭が沸騰しそうになった。
……あぁ、やっぱり、好きなんだ……。
どうしよう。
さらに体を丸めながら、ますます泣きそうな気持ちになった。だが蒼羽の部屋のエアコンを冷房にしたままなのを思い出した。
「ヤバ……兄さんの風邪、悪化するかも……!」
慌てて体を起こし、一度大きくため息を吐いてから部屋を出て、また蒼羽の部屋へ向かった。
蒼羽の部屋に入ると、今度は寒いのか被せていった布団に丸まっている蒼羽に気づく。
……クソ、かわいい……。
冷房をドライに変えてから、布団に埋もれている蒼羽の額にそっと触れた。手ではあまり熱は感じられなかった。
薬、効いてたらいいな……。
「……殴って……ごめんな……」
顔を近づけて小さく囁くと、唯翔は蒼羽の耳に一瞬だけ唇をつける。そして真っ赤になると、部屋を出て蒼羽のためにスポーツドリンクを買いに外へ出た。
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