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12話
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最近、ほんの少しではあるが弟である唯翔が心を許してくれているような気がする。蒼羽はニッコリと微笑んだ。
とはいえ、もちろんそういう意味で心を許してくれているのではない。そもそも、そんなことはあり得ない。
数日前も、兄弟だから男だからという至極真っ当な理由以外にあり得ないと実感させられることがあった。眠っている唯翔を見ていたらキスしたくて堪らなくなったのだが、生憎自分で自分に踏みとどまるよう葛藤する前に、唯翔が目を覚ましてきた。その際に当たり前と言えば当たり前だが、明らかに蒼羽がキスするとは思っていなかっただけでなく、とてつもなく引かれた。
何をしてたのか聞かれて変に誤魔化すよりストレートに言ってやれとばかりに「あー、ちゅう」と答えたらとても複雑そうな顔をされた。
「あはは。そんな引かなくても」
「ひ、引くだろ普通……」
少し顔が赤いのは怒っているからか、それとも経験不足からくる戸惑いか。どちらにしてもかわいいと蒼羽は思った。
「俺の弟かわいいーって思ってつい」
「はっ?」
「だからぁ、んなに引くなって。冗談だよ」
「……ざけんな……」
「ゆい、俺があげたパンツ履いてくれたんだなーってよく見ようとしてたんだよ」
「パンツ……、……こ、れは、他に履くもんなかったから」
「そんでも履いてくれんならよかった」
これは本当。嬉しかった。
実際、履いてくれているのが嬉しくて見ていたら、無防備に眠っているのも相まってムラムラしてきた訳だが。本当に不味いと思う。どこの世界に弟に対してさらりとムラムラする兄がいる。
そして引かれている。そろそろ潮時かもしれない。唯翔には好かれたいのもあって誰とも軽い付き合いすらしなくなっていた。もちろん、自分が唯翔を好き過ぎて軽い付き合いすらできなくなっていたというのが一番合っている。
だがこのままだと本当に駄目だ。自分で自分を止められる自信なんてない。とても好きで、どうしようもなく好きで、それでも大切な弟でもあるのだ。傷つけたくないし、ただのエゴだが報われなくともせめて兄としては嫌われたくない。
「さっきから何、ひとりでにらめっこしてんだ?」
大型ショッピングモールのフードコートで高人が微妙な顔で聞いてくる。液体窒素で作るアイスの店が入ってきており、他の連中は皆それに夢中で戻ってこない。
「ゆいのこと、考えてましてねー」
「何でそんな口調なんだよ」
「最近はちょっと心を許してくれてんのよ」
「そもそも弟だろ。許すも許さないもなくねえか?」
呆れる高人に蒼羽は唇を尖らせる。
「俺を兄と思いたくねーっつってお前ん家に行ってたくらいなんだぞ」
「あ? あれまだそんなに引きずってんのか?」
「引きずってんのか別のことかわかんねーけど……あの後もゆい、しばらく素っ気なかったし……」
「ふ。お疲れ」
「今笑ったよな?」
「笑ったな」
「ぁあ? そこは『笑ってねえよ』って言えよ」
「あ? めんどくせーやつだな」
向き合いながら言っていると少し離れたところから「ママ、あのお兄ちゃんたちケンカしてるよ」という声が聞こえてきた。ママと呼ばれた女性は「こ、こら。みかちゃん、シーッ」と蒼羽たちを見ないようにして子どもに注意をしている。
「……、ケンカなんてしねーよな、俺ら仲よしだもんな。好きだよ高人」
微妙な気持ちになり、そう言いながら肩を組むと「やり過ぎだろ」と高人は蒼羽を見てそれこそ微妙な顔をして引き剥がしてきた。
「……とりあえずあれだ高人」
「どれだよ」
「素っ気なさが緩和されてきた気がして、ニコニコしてたんだよ」
「思い出してか? アオ……お前、けっこう痛いな」
「お前は失礼だよな」
「でもにらめっこっつったろ。ニコニコ以外の顔もしてたぞ」
「あー……」
それな、と蒼羽はため息を吐く。
「やっぱゆいのことばかり考えてんのもよくねーなぁってさあ」
ゆいのことをひたすら邪な風にも見ているしな、ということは心の中で付け足しておく。
「アオバくんにもそういう自覚あったのね」
「気持ち悪い言い方すんな。むしろ俺が気持ち悪いヤツみたいだろ」
「わかってんじゃねーか」
「……。ってことで彼女作ろっかなーってな」
「……ふーん?」
あははと明るく言えば何故か高人にジト目で見られた。まさか唯翔への気持ちがバレているはずないと思うのだが、何となく落ち着かない。
「本気だから。いい感じの子とか、わりとその辺にいるだろ」
「へぇ?」
「そ、れに今日なんて夢の中でだけどデートしてる夢見たしな。多分正夢」
「何だそれ」
今度は呆れられた。蒼羽は落ち着かないのを誤魔化すかのように、既に氷しかないプラスチックのコップに差してあるストローを吸い込む。辛うじて溶けかけているコーラ風味の氷水が吸い込まれる音がした。
「前みたいなチャラい付き合いじゃなくて本気っつーなら別に何でもいいけどよ……後悔だけはすんなよ」
「しねーよ」
「お前が真剣に思ってるもんは、お前の中では間違ってねーよ」
……俺の中で間違ってないだけじゃ駄目なんだよ。
「……ああ」
「自分の気持ち、もっと信じとけよ」
「……んだ、それ」
「別に」
高人はどうでもよさそうに答えると、蒼羽と違ってまだ入っている中身を飲んだ。タピオカ入りミルクティーのタピオカがストローに詰まる音が聞こえてくる。
「……たか、お前さぁ、何かいつも顔に似合わねーもんばっか頼むよな……」
「顔に似合わねーは余計なんだよ」
「現に真面目っぽい話してたっつーのに妙にフきそうだよ俺は! どうしてくれんだ?」
「あ? 知るか」
「ママー」
「みかちゃん、シー」
「……」
とりあえず蒼羽はまたそっと高人の肩を組んでおいた。
とはいえ、もちろんそういう意味で心を許してくれているのではない。そもそも、そんなことはあり得ない。
数日前も、兄弟だから男だからという至極真っ当な理由以外にあり得ないと実感させられることがあった。眠っている唯翔を見ていたらキスしたくて堪らなくなったのだが、生憎自分で自分に踏みとどまるよう葛藤する前に、唯翔が目を覚ましてきた。その際に当たり前と言えば当たり前だが、明らかに蒼羽がキスするとは思っていなかっただけでなく、とてつもなく引かれた。
何をしてたのか聞かれて変に誤魔化すよりストレートに言ってやれとばかりに「あー、ちゅう」と答えたらとても複雑そうな顔をされた。
「あはは。そんな引かなくても」
「ひ、引くだろ普通……」
少し顔が赤いのは怒っているからか、それとも経験不足からくる戸惑いか。どちらにしてもかわいいと蒼羽は思った。
「俺の弟かわいいーって思ってつい」
「はっ?」
「だからぁ、んなに引くなって。冗談だよ」
「……ざけんな……」
「ゆい、俺があげたパンツ履いてくれたんだなーってよく見ようとしてたんだよ」
「パンツ……、……こ、れは、他に履くもんなかったから」
「そんでも履いてくれんならよかった」
これは本当。嬉しかった。
実際、履いてくれているのが嬉しくて見ていたら、無防備に眠っているのも相まってムラムラしてきた訳だが。本当に不味いと思う。どこの世界に弟に対してさらりとムラムラする兄がいる。
そして引かれている。そろそろ潮時かもしれない。唯翔には好かれたいのもあって誰とも軽い付き合いすらしなくなっていた。もちろん、自分が唯翔を好き過ぎて軽い付き合いすらできなくなっていたというのが一番合っている。
だがこのままだと本当に駄目だ。自分で自分を止められる自信なんてない。とても好きで、どうしようもなく好きで、それでも大切な弟でもあるのだ。傷つけたくないし、ただのエゴだが報われなくともせめて兄としては嫌われたくない。
「さっきから何、ひとりでにらめっこしてんだ?」
大型ショッピングモールのフードコートで高人が微妙な顔で聞いてくる。液体窒素で作るアイスの店が入ってきており、他の連中は皆それに夢中で戻ってこない。
「ゆいのこと、考えてましてねー」
「何でそんな口調なんだよ」
「最近はちょっと心を許してくれてんのよ」
「そもそも弟だろ。許すも許さないもなくねえか?」
呆れる高人に蒼羽は唇を尖らせる。
「俺を兄と思いたくねーっつってお前ん家に行ってたくらいなんだぞ」
「あ? あれまだそんなに引きずってんのか?」
「引きずってんのか別のことかわかんねーけど……あの後もゆい、しばらく素っ気なかったし……」
「ふ。お疲れ」
「今笑ったよな?」
「笑ったな」
「ぁあ? そこは『笑ってねえよ』って言えよ」
「あ? めんどくせーやつだな」
向き合いながら言っていると少し離れたところから「ママ、あのお兄ちゃんたちケンカしてるよ」という声が聞こえてきた。ママと呼ばれた女性は「こ、こら。みかちゃん、シーッ」と蒼羽たちを見ないようにして子どもに注意をしている。
「……、ケンカなんてしねーよな、俺ら仲よしだもんな。好きだよ高人」
微妙な気持ちになり、そう言いながら肩を組むと「やり過ぎだろ」と高人は蒼羽を見てそれこそ微妙な顔をして引き剥がしてきた。
「……とりあえずあれだ高人」
「どれだよ」
「素っ気なさが緩和されてきた気がして、ニコニコしてたんだよ」
「思い出してか? アオ……お前、けっこう痛いな」
「お前は失礼だよな」
「でもにらめっこっつったろ。ニコニコ以外の顔もしてたぞ」
「あー……」
それな、と蒼羽はため息を吐く。
「やっぱゆいのことばかり考えてんのもよくねーなぁってさあ」
ゆいのことをひたすら邪な風にも見ているしな、ということは心の中で付け足しておく。
「アオバくんにもそういう自覚あったのね」
「気持ち悪い言い方すんな。むしろ俺が気持ち悪いヤツみたいだろ」
「わかってんじゃねーか」
「……。ってことで彼女作ろっかなーってな」
「……ふーん?」
あははと明るく言えば何故か高人にジト目で見られた。まさか唯翔への気持ちがバレているはずないと思うのだが、何となく落ち着かない。
「本気だから。いい感じの子とか、わりとその辺にいるだろ」
「へぇ?」
「そ、れに今日なんて夢の中でだけどデートしてる夢見たしな。多分正夢」
「何だそれ」
今度は呆れられた。蒼羽は落ち着かないのを誤魔化すかのように、既に氷しかないプラスチックのコップに差してあるストローを吸い込む。辛うじて溶けかけているコーラ風味の氷水が吸い込まれる音がした。
「前みたいなチャラい付き合いじゃなくて本気っつーなら別に何でもいいけどよ……後悔だけはすんなよ」
「しねーよ」
「お前が真剣に思ってるもんは、お前の中では間違ってねーよ」
……俺の中で間違ってないだけじゃ駄目なんだよ。
「……ああ」
「自分の気持ち、もっと信じとけよ」
「……んだ、それ」
「別に」
高人はどうでもよさそうに答えると、蒼羽と違ってまだ入っている中身を飲んだ。タピオカ入りミルクティーのタピオカがストローに詰まる音が聞こえてくる。
「……たか、お前さぁ、何かいつも顔に似合わねーもんばっか頼むよな……」
「顔に似合わねーは余計なんだよ」
「現に真面目っぽい話してたっつーのに妙にフきそうだよ俺は! どうしてくれんだ?」
「あ? 知るか」
「ママー」
「みかちゃん、シー」
「……」
とりあえず蒼羽はまたそっと高人の肩を組んでおいた。
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