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11話
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朝起きてしばらくは部屋にこもって唯翔は勉強をしていた。
蒼羽はヤンキーと周りから見られがちだが、朝は大抵早い。現に今日も先ほど既に部屋を出る音が聞こえてきた。
時折聞こえてくる生活音に唯翔は耳を澄ませる。外では煩いほどに蝉が鳴いているのに気づいたが、窓を閉めてエアコンをかけているので微かに聞こえる程度だ。蒼羽が鳴らす生活音のバックミュージックになっている。
ぼんやりとそんな風に思っていると家の中が静かになった。恐らく蒼羽が出て行ったのだろう。友だちが多い蒼羽は夏休みもよく誰かと出掛けているようだった。ただでさえ家の中であまり顔を合わさないようにしているので、下手をすれば全く会わない日もある。
唯翔は部屋を出ると朝食をとりに向かった。案の定、蒼羽はいない。そして案の定、朝食が用意されていた。あとはパンを焼くだけの状態に、唯翔は複雑な気持ちになる。
もちろん嬉しい。蒼羽が唯翔のために作ってくれたのは凄く嬉しい。だが相変わらず世話を焼いてくる蒼羽にもどかしくもなる。
多分自分も悪いのだろう。料理ができるのなら蒼羽もわざわざ唯翔の分まで作らないかもしれない。これは普段の行動全般に言える気もする。
……結局、俺が頼りないから兄さんは甘えてくれないんだ。
だからといってこの間のように勝手に拗ねていい訳がない。とはいえ、それなら例えば料理ができるようになるべきだとは思うが、はっきり言って料理は得意じゃない。料理は無理でも掃除ならできるし普段も身重の母親の代わりによくやっている。
ただ掃除だとあまり兄さんにしてあげる感じがないんだよなぁ。
各自の部屋は元々各自で管理することになっているし、風呂場を綺麗にしたところで、皆が気持ちよくなるかもしれないが蒼羽に直接届くものでもない。それに蒼羽も掃除くらいできる。学生らしく勉強、と思ったところでいくら唯翔が勉強を進めても学年の違う蒼羽に教えられるものは何もない。ついでに一見頭が悪そうではあるが、蒼羽の成績は悪くない。
うん、あんななのに実は何でもできる兄さん、やっぱりカッコいい。
少しテンションを上げつつそう思った後に不甲斐ない自分と、そんな兄に邪な気持ちを抱いている自分に泣きたくなる。
甘えて欲しくても、自分なら自分に甘えたいとは思わない。そろそろ実の兄への想いに対して目を逸らさずに考えられるようにはなってきたが、だからといって気持ちが明るくなれるものでもない。
食後にリビングで今度は勉強を続けていた唯翔はごろりと転がった。エアコンは付けずに扇風機だけだが、過ごせない程ではなかった。
変な形のズボンを唯翔は片足をあげながらじっと見た。楽な格好だから暑苦しくもないのかもとぼんやり思う。
蒼羽がこのズボンをくれた時はまだ好きだとは自覚していなかった。それでも兄がくれたものが嬉しくて、文句を言いつつも蒼羽が大抵家にいないのをいいことにけっこう履いている。
兄さんならこんな変なズボンでも似合うだろなぁ。俺は似合ってなさそう。
蒼羽に対してのある意味劣等感とは似て非なることを考えていた唯翔はいつの間にかそのまま眠ってしまっていたらしい。だが何かの夢を見ていたのかもしれないが、目が覚めたとたんに一気に忘れた。
「に、兄さん?」
目の前に蒼羽の顔があった。意味がわからず、焦って起き上がろうとして顔がくっつくかと思った。その前につい思い切り体をばたつかせて逸らしてしまい、自分で自分がヘタレだと思う。
「……びっくりした。急に起きんだからよ」
「び、っくりしたのはこっちだし。何してたんだよ」
起こそうとしてたんだろうとはわかっていながらもつい文句を言うかのようになった。
「あー、ちゅう」
「ぁあ、ちゅ……、……は?」
ちゅうって、何。
新手の若者用語?
キス以外にどんな意味あんの?
「あはは。そんな引かなくても」
少なくとも真っ赤にはなっていないようでよかったと唯翔は内心ホッとする。
「ひ、引くだろ普通……」
嘘。引かない。
「俺の弟かわいいーって思ってつい」
「はっ?」
本当にキスなの?
つか、赤ちゃん感覚なの?
「だからぁ、んなに引くなって。冗談だよ」
「……ざけんな……」
心臓に悪いんだよ。
「ゆい、俺があげたパ ンツ履いてくれたんだなーってよく見ようとしてたんだよ」
「パンツ……、……こ、れは、他に履くもんなかったから」
「そんでも履いてくれんならよかった」
ヤンキーだというのに、表情が唯翔の中に染み込みそうなほどに優しい。唯翔は何故か泣きたくなった。悲しいとかじゃない。どちらかといえば嬉しいに似てはいる。
やっぱり俺の兄さんは兄さんだ。
別に明確に優しい言葉や態度をされた訳ではないが、妙にそう思った。
兄としても本当に好きだ。というか、兄としてだけ好きだったらよかったのに。
「ん、どうかしたのか」
「……別に」
「なら昼飯、食おうぜ」
昼飯……ここで自分が作ると言いたい。いや、言うべきだろう。だが作られない。お粥ひとつ作るのにもめちゃくちゃ苦労した上に完成させていない。
「ハンバーガーとか買ってきたんだ。ちょっと冷めてるかもだけど」
「え、あ、そうなの?」
「さっきひとりで食ってきたんだけど味気なくて。だから一緒に食ってくれよ」
「別にいいけど……、って兄さんはもう食ったんだろ」
「まだ食えんよ」
蒼羽がニッコリ笑う。
ああ、どうしようもない。好きだ。
青空と蝉の声を背景に、蒼羽の笑顔がまた唯翔に染み込んでくる。
蒼羽はヤンキーと周りから見られがちだが、朝は大抵早い。現に今日も先ほど既に部屋を出る音が聞こえてきた。
時折聞こえてくる生活音に唯翔は耳を澄ませる。外では煩いほどに蝉が鳴いているのに気づいたが、窓を閉めてエアコンをかけているので微かに聞こえる程度だ。蒼羽が鳴らす生活音のバックミュージックになっている。
ぼんやりとそんな風に思っていると家の中が静かになった。恐らく蒼羽が出て行ったのだろう。友だちが多い蒼羽は夏休みもよく誰かと出掛けているようだった。ただでさえ家の中であまり顔を合わさないようにしているので、下手をすれば全く会わない日もある。
唯翔は部屋を出ると朝食をとりに向かった。案の定、蒼羽はいない。そして案の定、朝食が用意されていた。あとはパンを焼くだけの状態に、唯翔は複雑な気持ちになる。
もちろん嬉しい。蒼羽が唯翔のために作ってくれたのは凄く嬉しい。だが相変わらず世話を焼いてくる蒼羽にもどかしくもなる。
多分自分も悪いのだろう。料理ができるのなら蒼羽もわざわざ唯翔の分まで作らないかもしれない。これは普段の行動全般に言える気もする。
……結局、俺が頼りないから兄さんは甘えてくれないんだ。
だからといってこの間のように勝手に拗ねていい訳がない。とはいえ、それなら例えば料理ができるようになるべきだとは思うが、はっきり言って料理は得意じゃない。料理は無理でも掃除ならできるし普段も身重の母親の代わりによくやっている。
ただ掃除だとあまり兄さんにしてあげる感じがないんだよなぁ。
各自の部屋は元々各自で管理することになっているし、風呂場を綺麗にしたところで、皆が気持ちよくなるかもしれないが蒼羽に直接届くものでもない。それに蒼羽も掃除くらいできる。学生らしく勉強、と思ったところでいくら唯翔が勉強を進めても学年の違う蒼羽に教えられるものは何もない。ついでに一見頭が悪そうではあるが、蒼羽の成績は悪くない。
うん、あんななのに実は何でもできる兄さん、やっぱりカッコいい。
少しテンションを上げつつそう思った後に不甲斐ない自分と、そんな兄に邪な気持ちを抱いている自分に泣きたくなる。
甘えて欲しくても、自分なら自分に甘えたいとは思わない。そろそろ実の兄への想いに対して目を逸らさずに考えられるようにはなってきたが、だからといって気持ちが明るくなれるものでもない。
食後にリビングで今度は勉強を続けていた唯翔はごろりと転がった。エアコンは付けずに扇風機だけだが、過ごせない程ではなかった。
変な形のズボンを唯翔は片足をあげながらじっと見た。楽な格好だから暑苦しくもないのかもとぼんやり思う。
蒼羽がこのズボンをくれた時はまだ好きだとは自覚していなかった。それでも兄がくれたものが嬉しくて、文句を言いつつも蒼羽が大抵家にいないのをいいことにけっこう履いている。
兄さんならこんな変なズボンでも似合うだろなぁ。俺は似合ってなさそう。
蒼羽に対してのある意味劣等感とは似て非なることを考えていた唯翔はいつの間にかそのまま眠ってしまっていたらしい。だが何かの夢を見ていたのかもしれないが、目が覚めたとたんに一気に忘れた。
「に、兄さん?」
目の前に蒼羽の顔があった。意味がわからず、焦って起き上がろうとして顔がくっつくかと思った。その前につい思い切り体をばたつかせて逸らしてしまい、自分で自分がヘタレだと思う。
「……びっくりした。急に起きんだからよ」
「び、っくりしたのはこっちだし。何してたんだよ」
起こそうとしてたんだろうとはわかっていながらもつい文句を言うかのようになった。
「あー、ちゅう」
「ぁあ、ちゅ……、……は?」
ちゅうって、何。
新手の若者用語?
キス以外にどんな意味あんの?
「あはは。そんな引かなくても」
少なくとも真っ赤にはなっていないようでよかったと唯翔は内心ホッとする。
「ひ、引くだろ普通……」
嘘。引かない。
「俺の弟かわいいーって思ってつい」
「はっ?」
本当にキスなの?
つか、赤ちゃん感覚なの?
「だからぁ、んなに引くなって。冗談だよ」
「……ざけんな……」
心臓に悪いんだよ。
「ゆい、俺があげたパ ンツ履いてくれたんだなーってよく見ようとしてたんだよ」
「パンツ……、……こ、れは、他に履くもんなかったから」
「そんでも履いてくれんならよかった」
ヤンキーだというのに、表情が唯翔の中に染み込みそうなほどに優しい。唯翔は何故か泣きたくなった。悲しいとかじゃない。どちらかといえば嬉しいに似てはいる。
やっぱり俺の兄さんは兄さんだ。
別に明確に優しい言葉や態度をされた訳ではないが、妙にそう思った。
兄としても本当に好きだ。というか、兄としてだけ好きだったらよかったのに。
「ん、どうかしたのか」
「……別に」
「なら昼飯、食おうぜ」
昼飯……ここで自分が作ると言いたい。いや、言うべきだろう。だが作られない。お粥ひとつ作るのにもめちゃくちゃ苦労した上に完成させていない。
「ハンバーガーとか買ってきたんだ。ちょっと冷めてるかもだけど」
「え、あ、そうなの?」
「さっきひとりで食ってきたんだけど味気なくて。だから一緒に食ってくれよ」
「別にいいけど……、って兄さんはもう食ったんだろ」
「まだ食えんよ」
蒼羽がニッコリ笑う。
ああ、どうしようもない。好きだ。
青空と蝉の声を背景に、蒼羽の笑顔がまた唯翔に染み込んでくる。
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