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10話
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真っ青な空が窓から見える。朝も早くから蝉の声が聞こえてくる。
この蝉時雨を、蒼羽は鬱陶しいと思ったことはない。今日も暑いだろうなと予感させては来るが、どこか耳に心地いい。
もそもそと起き上がり、蒼羽は部屋を出た。
リビングへ向かうと丁度家を出ようとしていた両親と出会う。見送りをした後で顔を洗い、パンを焼いた。食べてくれるかわからないが、ついでに唯翔の分まで卵とウィンナーを焼き、サラダを用意しておく。自分の分は焼く時に黄身を潰してからパンの上へ乗せて食べた。
母親の腹はまだ目立ってはいない。週数を聞いてもピンとこない蒼羽に、母親は「今はだいたい五ヶ月くらい」だと教えてくれていた。あと数ヶ月もしたらまた弟か妹ができるのかと思うと感慨深い。まさかこの歳で兄弟ができるとは思っていなかったが、今でもああしてできる限り朝も一緒に出勤している両親を見ていると理解できなくはない。
そして親に対しても、生まれてくるであろう弟か妹に対しても申し訳なく思う。
こんな俺でごめんなさい。
一番申し訳なく思わないといけないのは唯翔に対してだろう。邪な目で見てごめん、と。
味気ない気持ちでパンを食べ終わると、蒼羽は携帯電話を取りだし高人へ「どっか行こ」と送った。だが既読にすらならない。
「くそ。まだ寝てやがんな」
唯翔も寝ているのか部屋から出てこない。というか、相変わらず素っ気なくてあまり一緒にいてくれない。
「……兄ちゃんは欲求不満で爆発しそうだよ」
ちんこが、ではない。いや、もちろんそっちの欲求不満もあるが何より心が満たされない。
叶わない気持ちだとはわかっている。いずれどうにかしないといけないのもわかっている。だがせめて兄としてそばにいるくらい許してくれたっていいのではないかと誰ともなく言いたい。
まだ自分たちが小学生ならよかったのにと思う。そうしたら夏休みも一緒に遊んでくれたかもしれない。蝉を取ったり、ゲームをしたりプールへ行ったり。そして夏休みの宿題を一緒にやったり。
お互い高校生だと蝉は取らないしプールすら一緒に行ってくれない。ゲームも唯翔はしなくなったので付き合ってくれないだろう。
夏休みの宿題ならまだ可能性はあるだろうかと高人に「ゆいに夏休みの宿題一緒にやろうぜって言うの、兄としてどう?」と聞いたら「プッ」と吹かれただけだったため、実行していない。
ただ、まだ世間では子ども枠に入る未成年という年齢とはいえ体は結構大人である。そもそも純粋な気持ちで一緒に遊べないだろうと自分に突っ込みたい。
「小学生に戻りてえ」
そんな自分を戒めるため、蒼羽は外へ出た。高人からはまだ既読すらついていないし何をする訳でもないが、ぶらぶらしていたら気が紛れるかスッキリするかもしれない。
いっそナンパでもしてやろうかと思ったが、以前唯翔から「いい加減な付き合い」と指摘されたことが忘れられないため、やめた。どのみち唯翔以外と付き合いたいと今は思えないし、性的なことも唯翔以外としたくない。
いや、それは少し嘘ではあるけれども。
やろうと思えばできるだろうし、今でもたまに以前から自分の取っておきの「おかず」で抜いたりもしている。男なのでその辺はどうしようもない。ただ、気持ちがついていかないだろうとわかっていた。
コンビニエンスストアまで歩いて向かい、雑誌を立ち読みしていたら友だちに声をかけられた。そのまま遊ぼうかと思ったが、皆で海へナンパしに行くと聞いてやめた。
「来ねーの? 沢田がいたら成功率上がんのに」
「は? 俺をエサにすんのやめろよ」
「つか、今って沢田、彼女いなくなくね?」
「それともできたんか」
本当にいっそ、できればいいのに。
「いねーよ。ただその気にならねーだけ。楽しんでこいよ」
しばらく喋ってからアイスを買い、皆がらが悪くとも律儀に外で「暑い暑い」と言いながら食べた。その後、蒼羽は手を振って皆と別れた。
携帯電話を見ると既読はついているが返信がない。
これはゆりちゃんと一緒にいるな……。
高人はどう見てもいかついし、いい加減そうに見えて意外にも彼女を大事にする。なので百合華が一緒にいる時は緊急でもない限り返信もしてこない。
諦めて蒼羽はひとりでファーストフードの店に入った。そこで早めの昼飯として軽くハンバーガー二つとフライドポテトのLサイズとコーラのLサイズを平らげた。もしかしたら食べてくれるかもしれないと唯翔用にいくつか持ち帰りで買うと、店を後にした。
やっぱり、味気ねぇ。
ジャンクフードは好きだが、蒼羽は「あーぁ」とため息を吐く。
ひとりで食べるのはあまり好きじゃない。ひとりが嫌いというより、二人で食べたほうが美味しいと知っているからだ。両親共働きのせいで昔から家族団欒という訳ではなかなかったが、いつも唯翔が一緒だった。
俺がゆいのこと、邪な意味で好きってのと、兄と思いたくないとまで言われて無意識に変な態度とかになってんのかな……。
素っ気ない上に、夏休みだというのにあまり顔を合わさない唯翔を思う。
素っ気ないが、一応顔を合わせたら無視される訳ではない。だから唯翔が蒼羽に対して怒っているとかではないと多分思われる。怒っていたらむしろもう少しわかりやすい態度に出るはずだ。
「……はぁ。お兄ちゃんは寂しいぞ」
悲しい気持ちをあえて茶化すように呟きながら家に戻ってくると、リビングで唯翔が寝ていた。Tシャツに蒼羽があげたアラジンパンツを履いている。
……かわいい。
やるよ、とアラジンパンツをあげた時は「何これ。こんな変な形のズボン履かねーし」と微妙な顔をしていた。
「軽いし股下がめっちゃ深いけどそれがまた動きやすいんだって。ほんと楽だから」
「じゃあ兄さんが履けばいいだろ」
「俺も履くけどお勧めだからやるの。部屋着にいいって!」
本当に微妙そうだったのに履いている。かわいい。しかも無防備に眠っている様がまたかわいい。
……あーぁ。ほんと困る。好きだわ。
外からはひたすら蝉時雨が降り注いできて、まるで蒼羽の中に染み込むかのようだった。
この蝉時雨を、蒼羽は鬱陶しいと思ったことはない。今日も暑いだろうなと予感させては来るが、どこか耳に心地いい。
もそもそと起き上がり、蒼羽は部屋を出た。
リビングへ向かうと丁度家を出ようとしていた両親と出会う。見送りをした後で顔を洗い、パンを焼いた。食べてくれるかわからないが、ついでに唯翔の分まで卵とウィンナーを焼き、サラダを用意しておく。自分の分は焼く時に黄身を潰してからパンの上へ乗せて食べた。
母親の腹はまだ目立ってはいない。週数を聞いてもピンとこない蒼羽に、母親は「今はだいたい五ヶ月くらい」だと教えてくれていた。あと数ヶ月もしたらまた弟か妹ができるのかと思うと感慨深い。まさかこの歳で兄弟ができるとは思っていなかったが、今でもああしてできる限り朝も一緒に出勤している両親を見ていると理解できなくはない。
そして親に対しても、生まれてくるであろう弟か妹に対しても申し訳なく思う。
こんな俺でごめんなさい。
一番申し訳なく思わないといけないのは唯翔に対してだろう。邪な目で見てごめん、と。
味気ない気持ちでパンを食べ終わると、蒼羽は携帯電話を取りだし高人へ「どっか行こ」と送った。だが既読にすらならない。
「くそ。まだ寝てやがんな」
唯翔も寝ているのか部屋から出てこない。というか、相変わらず素っ気なくてあまり一緒にいてくれない。
「……兄ちゃんは欲求不満で爆発しそうだよ」
ちんこが、ではない。いや、もちろんそっちの欲求不満もあるが何より心が満たされない。
叶わない気持ちだとはわかっている。いずれどうにかしないといけないのもわかっている。だがせめて兄としてそばにいるくらい許してくれたっていいのではないかと誰ともなく言いたい。
まだ自分たちが小学生ならよかったのにと思う。そうしたら夏休みも一緒に遊んでくれたかもしれない。蝉を取ったり、ゲームをしたりプールへ行ったり。そして夏休みの宿題を一緒にやったり。
お互い高校生だと蝉は取らないしプールすら一緒に行ってくれない。ゲームも唯翔はしなくなったので付き合ってくれないだろう。
夏休みの宿題ならまだ可能性はあるだろうかと高人に「ゆいに夏休みの宿題一緒にやろうぜって言うの、兄としてどう?」と聞いたら「プッ」と吹かれただけだったため、実行していない。
ただ、まだ世間では子ども枠に入る未成年という年齢とはいえ体は結構大人である。そもそも純粋な気持ちで一緒に遊べないだろうと自分に突っ込みたい。
「小学生に戻りてえ」
そんな自分を戒めるため、蒼羽は外へ出た。高人からはまだ既読すらついていないし何をする訳でもないが、ぶらぶらしていたら気が紛れるかスッキリするかもしれない。
いっそナンパでもしてやろうかと思ったが、以前唯翔から「いい加減な付き合い」と指摘されたことが忘れられないため、やめた。どのみち唯翔以外と付き合いたいと今は思えないし、性的なことも唯翔以外としたくない。
いや、それは少し嘘ではあるけれども。
やろうと思えばできるだろうし、今でもたまに以前から自分の取っておきの「おかず」で抜いたりもしている。男なのでその辺はどうしようもない。ただ、気持ちがついていかないだろうとわかっていた。
コンビニエンスストアまで歩いて向かい、雑誌を立ち読みしていたら友だちに声をかけられた。そのまま遊ぼうかと思ったが、皆で海へナンパしに行くと聞いてやめた。
「来ねーの? 沢田がいたら成功率上がんのに」
「は? 俺をエサにすんのやめろよ」
「つか、今って沢田、彼女いなくなくね?」
「それともできたんか」
本当にいっそ、できればいいのに。
「いねーよ。ただその気にならねーだけ。楽しんでこいよ」
しばらく喋ってからアイスを買い、皆がらが悪くとも律儀に外で「暑い暑い」と言いながら食べた。その後、蒼羽は手を振って皆と別れた。
携帯電話を見ると既読はついているが返信がない。
これはゆりちゃんと一緒にいるな……。
高人はどう見てもいかついし、いい加減そうに見えて意外にも彼女を大事にする。なので百合華が一緒にいる時は緊急でもない限り返信もしてこない。
諦めて蒼羽はひとりでファーストフードの店に入った。そこで早めの昼飯として軽くハンバーガー二つとフライドポテトのLサイズとコーラのLサイズを平らげた。もしかしたら食べてくれるかもしれないと唯翔用にいくつか持ち帰りで買うと、店を後にした。
やっぱり、味気ねぇ。
ジャンクフードは好きだが、蒼羽は「あーぁ」とため息を吐く。
ひとりで食べるのはあまり好きじゃない。ひとりが嫌いというより、二人で食べたほうが美味しいと知っているからだ。両親共働きのせいで昔から家族団欒という訳ではなかなかったが、いつも唯翔が一緒だった。
俺がゆいのこと、邪な意味で好きってのと、兄と思いたくないとまで言われて無意識に変な態度とかになってんのかな……。
素っ気ない上に、夏休みだというのにあまり顔を合わさない唯翔を思う。
素っ気ないが、一応顔を合わせたら無視される訳ではない。だから唯翔が蒼羽に対して怒っているとかではないと多分思われる。怒っていたらむしろもう少しわかりやすい態度に出るはずだ。
「……はぁ。お兄ちゃんは寂しいぞ」
悲しい気持ちをあえて茶化すように呟きながら家に戻ってくると、リビングで唯翔が寝ていた。Tシャツに蒼羽があげたアラジンパンツを履いている。
……かわいい。
やるよ、とアラジンパンツをあげた時は「何これ。こんな変な形のズボン履かねーし」と微妙な顔をしていた。
「軽いし股下がめっちゃ深いけどそれがまた動きやすいんだって。ほんと楽だから」
「じゃあ兄さんが履けばいいだろ」
「俺も履くけどお勧めだからやるの。部屋着にいいって!」
本当に微妙そうだったのに履いている。かわいい。しかも無防備に眠っている様がまたかわいい。
……あーぁ。ほんと困る。好きだわ。
外からはひたすら蝉時雨が降り注いできて、まるで蒼羽の中に染み込むかのようだった。
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