14 / 20
14話
しおりを挟む
目が覚めると既に昼前だった。
おかしい。
蒼羽は微妙になる。何故この時間なのか。夏休みに入ってからはいつもやたら早くに起きていたというのにおかしい。多分これは高人に言えば「小学生のガキか」と馬鹿にされるやつだ。
ただ、登校日ではあるが確か早めに終わった気がする。ならもう行かなくていいか、と蒼羽はまた枕に突っ伏そうとしたが二度寝の気分でもなかった。
だれた様子で台所へ向かい、パンは焼かずにそのまま食べた。その後棒アイスを齧りながら窓の近くでぼんやり外を見ていると青空に入道雲が襲い込むかのように出ていた。
……夏よなぁ。
年寄りみたいにしみじみしてアイスを食べ終えた後に唯翔を思い浮かべた。
夏休みはもうすぐ終わるというのに、今年は唯翔と海へもプールへも一緒に行けなさそうだ。去年まではまだ嫌がったり渋々ながらでも高人たちと一緒なら来てくれた。だが今年は高人と一緒でも拒否される。
ここ数日は少し心を許してくれているしと昨夜も「海行こ」と再挑戦してみたが「やだ」と即答された。
やはり彼女を作るべきなのだろうか。もちろん今までのようにいい加減な付き合いは駄目だ。唯翔に嫌われるかもしれないし、そもそも自分自身がそういう付き合いをしたくなくなっている。
それでも唯翔をそういう目で見ないようにするには新しい恋が一番いいだろうということはわかる。
「ただ問題はその気になれねーってことなんだよなあ……」
理屈ではわかっている。かわいい大事な弟なのだ。そんな唯翔を邪な目で見ているなんて唯翔にも両親にも生まれてくる弟か妹にも申し訳ない。それでもここまで誤魔化してきたが、そろそろキツい。
だから諦めないといけないが、そう簡単に諦められないのでむしろ他に好きな人を作る。
理屈では簡単だ。だが実際は難しい。
……人ってどーやって人を好きになんの?
気がつけば唯翔が好きだった。それ以外はよくわからない。あれだけ女の子と遊んでおきながら、情けないことに「本気」は唯翔以外わからない。普段さんざん煩く騒いでいても、本気の付き合いはどうしていいかもわからない。
蒼羽は入道雲を見ながらひたすら蝉時雨に耳を傾けた。エアコンはつけていないので開け放っているというのに、そして扇風機が回る音とともに蝉の声は響いているというのに、何となく青と静寂の空間に閉じ込められているような感じがする。ひたすら汗は流れるけれども清々しくて、そしてどこか切ない。
そんな風に思った後に寝転びながら苦笑した。
あー……俺もお前らみたいに叫びてーわ。
好きだって。熱烈に求愛してーわ。
きっとそんな機会はないけれども。
ますます切ない気持ちになり唸りつつ転がっていると携帯電話に着信があった。見ると高人からだ。
「……何」
『サボってんじゃねーよ。あと愛想ねーな。もっと愛情込めろよ』
「声聞きたかったわダーリン」
『……気持ち悪さしかないな……』
「何がしてーの?」
『さっきユイと喋ってたんだけどな』
「えー、いいなあ、俺も喋りてーわ」
『……俺と?』
「いや、ここはゆい一択だろ……?」
『まあ俺からしたらどっちの選択もねーけどな』
本当に何でかけてきてんだよ、と蒼羽は微妙な顔で携帯電話を耳から話して画面を見た。だがまた高人が何か言ってきたのでスピーカーモードにする。
『お前が最近いい感じの子、見つけたらしいって言っといた』
「は? 何の話?」
『そんな感じの話、お前してただろ』
本当に何の話だと思ったが、ふとこの間ショッピングモールで話していたことを思い出した。
「何勝手に色つけてんだよ。いい感じの子とか、わりとその辺にいるだろとは言ったけど……!」
『あとデートするとも言ってたと言っておいた』
「夢見たっつっただけだろ……! 何なの、俺を社会的に抹消する気なの?」
『大げさだな。弟に冗談のつもりで言っただけだろ?』
確かに大げさだ。高人に言われてハッとなる。普通に考えたらそうだろう。冗談だ。兄の戯れ言を弟に告げても、だから? で終わる話だ。唯翔は真面目だから「またか」と呆れるだろうが、それだけの話だ。
だが蒼羽は唯翔が好きだ。だからとても焦った。
「お、大げさだけど大事な弟にまたあいつはチャラいことをって呆れられるのは切ないからですね……」
『……なんか空の具合がおかしいな。ユリカ探しに行くか……』
「って聞けよ……!」
『ユイ、思い詰めたような顔でどっか行ったぞ。家に帰って来たら慰めてやれよ』
「な、んかおかしいだろその流れ……!」
というか思い詰める?
唯翔が何故そんな反応をするのか。思い詰めるほど、蒼羽の女ぐせが悪いとでも思われているのか。
『じゃーな』
「あ、おい!」
待て、と言おうとしたら既に電話は切れていた。
たか、何がしてーの……。今、ウチの兄弟事情は俺のせいで敏感なんだから下手に触れないでそっと労るように触って欲しい。
そんなことを考えつつ、唯翔が気になって仕方がない。
「何なのよ……」
ため息を吐きながら外を見ると、確かにいつの間にか空が危うい。全然明るいのだが、何となくおかしい。おまけに土が燻っているような匂いがする。
雨降んのかな。
蒼羽がそう思うのとポツリとくるのは同時だった。通り雨かと思うような明るかった空も重苦しい色になっていく。気づけば蝉の声も聞こえなくなっていて、雨は次第に酷くなっていった。
おかしい。
蒼羽は微妙になる。何故この時間なのか。夏休みに入ってからはいつもやたら早くに起きていたというのにおかしい。多分これは高人に言えば「小学生のガキか」と馬鹿にされるやつだ。
ただ、登校日ではあるが確か早めに終わった気がする。ならもう行かなくていいか、と蒼羽はまた枕に突っ伏そうとしたが二度寝の気分でもなかった。
だれた様子で台所へ向かい、パンは焼かずにそのまま食べた。その後棒アイスを齧りながら窓の近くでぼんやり外を見ていると青空に入道雲が襲い込むかのように出ていた。
……夏よなぁ。
年寄りみたいにしみじみしてアイスを食べ終えた後に唯翔を思い浮かべた。
夏休みはもうすぐ終わるというのに、今年は唯翔と海へもプールへも一緒に行けなさそうだ。去年まではまだ嫌がったり渋々ながらでも高人たちと一緒なら来てくれた。だが今年は高人と一緒でも拒否される。
ここ数日は少し心を許してくれているしと昨夜も「海行こ」と再挑戦してみたが「やだ」と即答された。
やはり彼女を作るべきなのだろうか。もちろん今までのようにいい加減な付き合いは駄目だ。唯翔に嫌われるかもしれないし、そもそも自分自身がそういう付き合いをしたくなくなっている。
それでも唯翔をそういう目で見ないようにするには新しい恋が一番いいだろうということはわかる。
「ただ問題はその気になれねーってことなんだよなあ……」
理屈ではわかっている。かわいい大事な弟なのだ。そんな唯翔を邪な目で見ているなんて唯翔にも両親にも生まれてくる弟か妹にも申し訳ない。それでもここまで誤魔化してきたが、そろそろキツい。
だから諦めないといけないが、そう簡単に諦められないのでむしろ他に好きな人を作る。
理屈では簡単だ。だが実際は難しい。
……人ってどーやって人を好きになんの?
気がつけば唯翔が好きだった。それ以外はよくわからない。あれだけ女の子と遊んでおきながら、情けないことに「本気」は唯翔以外わからない。普段さんざん煩く騒いでいても、本気の付き合いはどうしていいかもわからない。
蒼羽は入道雲を見ながらひたすら蝉時雨に耳を傾けた。エアコンはつけていないので開け放っているというのに、そして扇風機が回る音とともに蝉の声は響いているというのに、何となく青と静寂の空間に閉じ込められているような感じがする。ひたすら汗は流れるけれども清々しくて、そしてどこか切ない。
そんな風に思った後に寝転びながら苦笑した。
あー……俺もお前らみたいに叫びてーわ。
好きだって。熱烈に求愛してーわ。
きっとそんな機会はないけれども。
ますます切ない気持ちになり唸りつつ転がっていると携帯電話に着信があった。見ると高人からだ。
「……何」
『サボってんじゃねーよ。あと愛想ねーな。もっと愛情込めろよ』
「声聞きたかったわダーリン」
『……気持ち悪さしかないな……』
「何がしてーの?」
『さっきユイと喋ってたんだけどな』
「えー、いいなあ、俺も喋りてーわ」
『……俺と?』
「いや、ここはゆい一択だろ……?」
『まあ俺からしたらどっちの選択もねーけどな』
本当に何でかけてきてんだよ、と蒼羽は微妙な顔で携帯電話を耳から話して画面を見た。だがまた高人が何か言ってきたのでスピーカーモードにする。
『お前が最近いい感じの子、見つけたらしいって言っといた』
「は? 何の話?」
『そんな感じの話、お前してただろ』
本当に何の話だと思ったが、ふとこの間ショッピングモールで話していたことを思い出した。
「何勝手に色つけてんだよ。いい感じの子とか、わりとその辺にいるだろとは言ったけど……!」
『あとデートするとも言ってたと言っておいた』
「夢見たっつっただけだろ……! 何なの、俺を社会的に抹消する気なの?」
『大げさだな。弟に冗談のつもりで言っただけだろ?』
確かに大げさだ。高人に言われてハッとなる。普通に考えたらそうだろう。冗談だ。兄の戯れ言を弟に告げても、だから? で終わる話だ。唯翔は真面目だから「またか」と呆れるだろうが、それだけの話だ。
だが蒼羽は唯翔が好きだ。だからとても焦った。
「お、大げさだけど大事な弟にまたあいつはチャラいことをって呆れられるのは切ないからですね……」
『……なんか空の具合がおかしいな。ユリカ探しに行くか……』
「って聞けよ……!」
『ユイ、思い詰めたような顔でどっか行ったぞ。家に帰って来たら慰めてやれよ』
「な、んかおかしいだろその流れ……!」
というか思い詰める?
唯翔が何故そんな反応をするのか。思い詰めるほど、蒼羽の女ぐせが悪いとでも思われているのか。
『じゃーな』
「あ、おい!」
待て、と言おうとしたら既に電話は切れていた。
たか、何がしてーの……。今、ウチの兄弟事情は俺のせいで敏感なんだから下手に触れないでそっと労るように触って欲しい。
そんなことを考えつつ、唯翔が気になって仕方がない。
「何なのよ……」
ため息を吐きながら外を見ると、確かにいつの間にか空が危うい。全然明るいのだが、何となくおかしい。おまけに土が燻っているような匂いがする。
雨降んのかな。
蒼羽がそう思うのとポツリとくるのは同時だった。通り雨かと思うような明るかった空も重苦しい色になっていく。気づけば蝉の声も聞こえなくなっていて、雨は次第に酷くなっていった。
0
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
魔法学校の城に囚われている想い人♡を救い出して結婚したい天才有能美形魔術師(強火執着)の話
ぱふぇ
BL
名門魔法学校を首席で卒業し、若くして国家機関のエースに上り詰めた天才魔術師パドリグ・ウインズロー(26歳)。顔よし、頭脳よし、キャリアよし! さぞかしおモテになるんでしょう? ええ、モテますとも。でも問題がある。十年越しの想い人に、いまだに振り向いてもらえないのだ。そんな片思い相手は学生時代の恩師・ハウベオル先生(48歳屈強男性)。無愛想で不器用、そしてある事情から、魔法学校の城から一歩も出られない身の上。先生を外の世界に連れ出すまで、全力求婚は止まらない!
26歳魔術師(元生徒)×48歳魔術師(元教師)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる