後輩の好意は重すぎて

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18話

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「そういえば最近は俺に文句言うのも飽きてきたのか? それとも小雪くんといるのが自然になった?」

 ふと祐理に言われ、高典は何とも言えない顔でばったり寮の廊下で会った祐理を見た。

「すごい顔だな。真似しろって言われても難しいかも」
「お前が変なこと言うからだよ」
「俺そんな変なこと言ったっけ」
「言った」
「でもお前、何か当たり前のようにあの子といるように見えるけど」
「目の錯覚だな」

 言い返しながら高典は内心とてつもなく微妙な気持ちになっていた。まさかそんな、と思いつつも確かに周太は相変わらず気づけばそばにいるし高典も追い返そうとはしていない。
 シャツがジュースまみれになった日はその後幸い何もなく、いや、シャツは犠牲になったとはいえ追い出せたものの、ひたすらまとわりつかれている。一時期顔を見せなかったことがもう懐かしい。ちなみにやはり新しいシャツを寄越してきた。
 ただ追い返そうとしていないのは、いくら言っても無駄だからという学習能力だと自分に言い聞かせる。
 当たり前のように見えるのは心底納得いかないし、いくら周太がそばにいることが相当多くなっていても今のところ周太の部屋にだけは何があっても絶対行っていない。言葉巧みに誘われても絶対にだ。

「でもあの子、いい子だろ……って何その今にも落ちそうな目。見開きすぎ」
「いい子? いい子って何語?」
「何語って……日本語だけど……。いい子だろ? 明るくて優しいし」

 確かにそれは否定しない。それは高典もそうだろうなと思う。だがそういうプラスな面をどれほど集めても、人の──いや高典の、だろうか、他の誰からも周太が人の話を聞かないと耳にしない──話を聞かない変態という事実は消えない。

「また変な顔してんぞ。だいたい小雪くん、命の恩人じゃないか」

 命? 何の? 

 心当たりが全くない。一瞬普段からあまり出してやってない自分のオタマジャクシを周太が出したことを婉曲して言っているのかと頭によぎって自分を見失いそうだった。

「今度はなんで頭抱えてるんだ」
「俺が俺でなくなりそうで」
「お前がまさか中二病的なこと言うとは、酒でも飲んだのか」
「心底違う。命の恩人って何。むしろ色々脅かされてるとかなら思い当たることしかないけど」
「え? 小雪くん、お前に言ってないの?」
「何を?」
「電車。ひかれそうになったの助けてくれたの、小雪くんだよ。俺が駅まで迎えに行った時もお前のそばにいてくれてたぞ」
「……は?」

 何だそれ、と高典は祐理に詰め寄った。そしてその後、気づけば周太の部屋まで駆けつけていた。つい先ほど「何があっても絶対」部屋に行かないと改めて思ったところだったというのにフラグかよと普段なら自分に突っ込んでいるところだ。だが今はそれどころではなかった。

「高典先輩! まさかあなた自ら俺の部屋まで来てくれるなんて」
「いいからちょっと入れろ」
「いくらでも。何なら泊まってってください。剣斗いないし」
「そんなことより、お前だったの?」
「え?」

 部屋に入ると両手で周太の肩をつかみ、高典は真剣な顔をして聞いた。周太は何のことかわからないといった顔をしていたが、思い当たることがあるのかふと目をそらす。

「何で言ってくれないんだよ」
「言ったら高典先輩、絶対そのアプリ探して消すだろうし」
「確かに俺は……って何の話? 何でアプリ?」

 うんうんと頷きかけ、高典は怪訝な顔になった。周太は周太でしまった、という顔をしている。

「……どういうこと?」
「……言い間違えました」
「間違えてないよな。そもそもお前人の話歪曲するし最後まで聞かないところあるけど、自分に都合いいことはちゃんと聞いてるし自分に都合いいように持ってくし」
「高典先輩の、俺のイメージがとても悪い気がするんですが」
「は? 今言ったよりもっと悪いイメージしかないからな?」
「ええ?」
「いいから説明しろ。アプリって何」
「……その……、ああそう、盗難や紛失用のセキュリティアプリです」
「今、いい風に言い換えたな? セキュリティアプリ、って……いやそれ絶対GPS機能ついたやつだろ……!」

 慌てて携帯電話を取り出して見るも、それらしいアイコンは見当たらない。電車事故の話をしたいというのにアプリが気になりすぎてとりあえず先にそれを追求したところ、ようやく判明した。
 確かに盗難紛失用のセキュリティアプリには違いないのだが、GPS機能はもちろんのこと、通話履歴やSNSログの確認、音声録画や遠隔操作でのカメラ撮影などといった機能もあるアプリのようだ。特定の位置に到達したら通知までしてくれるらしい。しかも隠れてインストールしてもホーム画面からアイコンを消すこともできる上に高典側には通知は一切届かない。

「だからお前怖いんだよ……!」

 思いきりドン引きしつつ、高典の目の前でそのアプリを消させた。道理でどこにいても場所を把握されていたなと顔を引きつらせる。おまけに通話やSNSまで見張られていた可能性しかない。

「安心してください。さすがに盗撮はしてません」
「何一つ安心できないんだよ……! ああもう。そんな話しに来たんじゃないのに」
「アプリでなければ何の話をされてたんですか? あと部屋の中で立ち話もなんですし、座りませんか」
「……ぐ。……、……じゃあお前がケントくんのベッドに座って。俺がお前のベッドに座るから」
「並んで座ればいいじゃないですか」
「絶対嫌」

 断固として嫌だと言えば、周太は別に無理強いすることもなく素直に剣斗のベッドに座った。とりあえず高典も周太のベッドに座り「電車に引かれそうになった時の」と口にする。
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