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2話
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「穂村くんが続けて学校に来るの、珍しいね」
どうやらクラスメイトであるらしい女子に言われ、葵はニッコリ笑みを向けた。
「中々来られないけど、できるなら俺も学校に来たいからな」
「そうなんだー、偉いね」
「はは」
偉い、と同じ歳のやつに言われても反応に困る。褒められているにしても微妙に上からな感じも否めない。かといって苛立たしく思うのも大人げない。なので適当に相づちを打つように笑うと、葵は「用事あるから」とその場を離れた。
別に今日は学校へ来る予定でなかった。先ほどまで別の仕事があったし、これからこの後ドラマ撮りもある。そして本当ならば空いている時間に今日撮る分の台本をくまなく復習して完璧に本番をやってのける予定だった。
だが気になって仕方ない。
「あのレタス野郎に俺が誰かを明確にさせて自分が一体誰にぶつかってしまったのか自覚させねぇと気が済まない」
とはいえ、目立つ顔立ちではなかったからか、全然見つけられない。何とか思い出そうとするのだがどうしても浮かぶ顔がぼやけてしまう。
「……にしても見つけられなさすぎだろ……!」
女子に囲まれ、色々と話しかけられるパターンを様々なところで繰り返すこと数日、そろそろ「蒼井焔、まさかの休業へのカウントダウンか」などといった記事が下らない雑誌に載るのではと思い始めた頃、葵はようやく一つ思い出した。
「……そういやネクタイ、オレンジだった」
紺色のラインが入った制服のネクタイは、学年によって全体的な色が違う。今年で言うなら葵が所属する三年生は緑だ。そして橙色は一年生だった。
……この俺に叱りつけてきた、それもたかがレタス一枚ごときで叱りつけてきたやつが一年だ、と……。
最高に苛ついた。むしろ一見とてつもなくいい笑顔になりながら、葵は一年生の教室が揃うフロアへ向かう。
この学校は金持ちが多い。親か本人が芸能人というのは芸能コースがないのもありさすがにあまりいないが、有名人は少なくない。なので普通の学校に比べるとひどく騒がれることもないし、下手に撮影されたりSNSに書き込まれることもない。
だがそれでも「蒼井くんだ」「焔だ」「焔様だ」などと囁かれ、注目を浴びてしまうことは免れない。特に普段立ち寄ることのない別学年だからなおさらなのだろう。葵としてはいつもなら正直なところ「もっと眺めろよ」くらいは内心ニヤリとして思ったりするが、今はそれどころではなかった。
一年生だとわかってもクラスがわからないのですぐに見つからない。もちろん名前も知らないので聞きようもない。いくつ目かの教室へ来て、葵はようやく目当ての男を見つけられた。
教室の奥で誰かと話している平凡な男の顔を認めると、葵は近くの生徒に話しかけた。
「おい、あいつは何て言うんだ、あの一番後ろの席で人と話してるにも関わらず心ここにあらずといった顔つきのやつ!」
「っえ? え? あ、はい、……えっと、桐江のことでしょうか……?」
少し驚かれつつおずおずとした返事に葵は「ああ。そいつ、呼んでもらえないか」と少し口調を和らげて頼んだ。
「は、はい」
その生徒は男にも関わらず、頬を染めながら慌てて例の男を呼びに向かっていった。
これだよ、これだろ?
葵は澄ました表情のまま思う。
例え男であっても、普通はこういう反応見せてくるもんだろ? もしくは元々俺のことが嫌いっていうひねくれたやつならあからさまに挑戦的な態度を取ってくるか。だと言うのに、ほんとなんなの。
「……何ですか」
キリエ、と先ほどの生徒が呼んでいた例の男には、ただ単に呼ばれたと言われたから仕方なくやってきた、という態度しか見えない。
こいつ、本当に本当、正真正銘、マジで俺のこと、知らねーの?
「……数日前、ぶつかっただろ」
改めて顔を合わせれば違う反応が返ってくるものだと何故か思い込んでいた葵は、正直なところ何を言うか何も考えていなかった。少し動揺しつつとりあえずそこから言ったが、相手の反応が薄い。いや、薄いというか、真顔のまま少しだけ怪訝な顔をされた。
待て。え、ちょ、待て。おま……っ?
「数日前にぶつかっただろうが……!」
「は、ぁ」
俺のこと知らねーどころか数日前のことすら覚えてねーぞこいつ……!
「え? おま、本気か……? 俺だぞ」
「……?」
「……っちょ、こっち来い!」
あまりのことに、気づけば葵は目の前の男を廊下の隅まで引っ張っていた。普段なら目立ちたいが、今はむしろ目立ってはいけない気がした。
「例え俺を万が一知らなくても、いや、それすら宇宙に今まで行ってたのかよって言いたいところだが、とにかく知らなくてもな、俺に一度会ったら忘れられるわけないだろ……?」
「……? え、っと、あんたが? 俺を?」
「はぁぁぁ? ちげぇよ……!」
いや確かにある意味忘れられなかったが。葵が微妙な顔を向けても相手は真顔でいてほんのり怪訝そうにしたままだ。
「え、ほんとマジで……? あんだけレタスがどうこう言ってたのに?」
「……ぁあ、スペシャルデラックスサンド……」
またレタスかよ……! レタスで思い出すのかよ……! しかも真っ先に出てきたの、スペシャルデラックスサンドかよ……!
葵は目の前の相手にむしろ釘付けになった。
どうやらクラスメイトであるらしい女子に言われ、葵はニッコリ笑みを向けた。
「中々来られないけど、できるなら俺も学校に来たいからな」
「そうなんだー、偉いね」
「はは」
偉い、と同じ歳のやつに言われても反応に困る。褒められているにしても微妙に上からな感じも否めない。かといって苛立たしく思うのも大人げない。なので適当に相づちを打つように笑うと、葵は「用事あるから」とその場を離れた。
別に今日は学校へ来る予定でなかった。先ほどまで別の仕事があったし、これからこの後ドラマ撮りもある。そして本当ならば空いている時間に今日撮る分の台本をくまなく復習して完璧に本番をやってのける予定だった。
だが気になって仕方ない。
「あのレタス野郎に俺が誰かを明確にさせて自分が一体誰にぶつかってしまったのか自覚させねぇと気が済まない」
とはいえ、目立つ顔立ちではなかったからか、全然見つけられない。何とか思い出そうとするのだがどうしても浮かぶ顔がぼやけてしまう。
「……にしても見つけられなさすぎだろ……!」
女子に囲まれ、色々と話しかけられるパターンを様々なところで繰り返すこと数日、そろそろ「蒼井焔、まさかの休業へのカウントダウンか」などといった記事が下らない雑誌に載るのではと思い始めた頃、葵はようやく一つ思い出した。
「……そういやネクタイ、オレンジだった」
紺色のラインが入った制服のネクタイは、学年によって全体的な色が違う。今年で言うなら葵が所属する三年生は緑だ。そして橙色は一年生だった。
……この俺に叱りつけてきた、それもたかがレタス一枚ごときで叱りつけてきたやつが一年だ、と……。
最高に苛ついた。むしろ一見とてつもなくいい笑顔になりながら、葵は一年生の教室が揃うフロアへ向かう。
この学校は金持ちが多い。親か本人が芸能人というのは芸能コースがないのもありさすがにあまりいないが、有名人は少なくない。なので普通の学校に比べるとひどく騒がれることもないし、下手に撮影されたりSNSに書き込まれることもない。
だがそれでも「蒼井くんだ」「焔だ」「焔様だ」などと囁かれ、注目を浴びてしまうことは免れない。特に普段立ち寄ることのない別学年だからなおさらなのだろう。葵としてはいつもなら正直なところ「もっと眺めろよ」くらいは内心ニヤリとして思ったりするが、今はそれどころではなかった。
一年生だとわかってもクラスがわからないのですぐに見つからない。もちろん名前も知らないので聞きようもない。いくつ目かの教室へ来て、葵はようやく目当ての男を見つけられた。
教室の奥で誰かと話している平凡な男の顔を認めると、葵は近くの生徒に話しかけた。
「おい、あいつは何て言うんだ、あの一番後ろの席で人と話してるにも関わらず心ここにあらずといった顔つきのやつ!」
「っえ? え? あ、はい、……えっと、桐江のことでしょうか……?」
少し驚かれつつおずおずとした返事に葵は「ああ。そいつ、呼んでもらえないか」と少し口調を和らげて頼んだ。
「は、はい」
その生徒は男にも関わらず、頬を染めながら慌てて例の男を呼びに向かっていった。
これだよ、これだろ?
葵は澄ました表情のまま思う。
例え男であっても、普通はこういう反応見せてくるもんだろ? もしくは元々俺のことが嫌いっていうひねくれたやつならあからさまに挑戦的な態度を取ってくるか。だと言うのに、ほんとなんなの。
「……何ですか」
キリエ、と先ほどの生徒が呼んでいた例の男には、ただ単に呼ばれたと言われたから仕方なくやってきた、という態度しか見えない。
こいつ、本当に本当、正真正銘、マジで俺のこと、知らねーの?
「……数日前、ぶつかっただろ」
改めて顔を合わせれば違う反応が返ってくるものだと何故か思い込んでいた葵は、正直なところ何を言うか何も考えていなかった。少し動揺しつつとりあえずそこから言ったが、相手の反応が薄い。いや、薄いというか、真顔のまま少しだけ怪訝な顔をされた。
待て。え、ちょ、待て。おま……っ?
「数日前にぶつかっただろうが……!」
「は、ぁ」
俺のこと知らねーどころか数日前のことすら覚えてねーぞこいつ……!
「え? おま、本気か……? 俺だぞ」
「……?」
「……っちょ、こっち来い!」
あまりのことに、気づけば葵は目の前の男を廊下の隅まで引っ張っていた。普段なら目立ちたいが、今はむしろ目立ってはいけない気がした。
「例え俺を万が一知らなくても、いや、それすら宇宙に今まで行ってたのかよって言いたいところだが、とにかく知らなくてもな、俺に一度会ったら忘れられるわけないだろ……?」
「……? え、っと、あんたが? 俺を?」
「はぁぁぁ? ちげぇよ……!」
いや確かにある意味忘れられなかったが。葵が微妙な顔を向けても相手は真顔でいてほんのり怪訝そうにしたままだ。
「え、ほんとマジで……? あんだけレタスがどうこう言ってたのに?」
「……ぁあ、スペシャルデラックスサンド……」
またレタスかよ……! レタスで思い出すのかよ……! しかも真っ先に出てきたの、スペシャルデラックスサンドかよ……!
葵は目の前の相手にむしろ釘付けになった。
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