ドラマのような恋を

Guidepost

文字の大きさ
5 / 65

5話

しおりを挟む
 その日は朝、登校した際やたら煩い時があった。

「うるさ……」

 いくら奏真が大抵のことに興味がなくとも、騒音には意識もいく。何事だと騒音の元を見れば、誰かを囲うようにして歩きながらキャーキャーと騒いでいる女子の塊がいた。

「もっかい歌って!」
「一瞬過ぎだよー」
「今のが今度の新曲のサビ?」

 そんな言葉が聞こえてくる。

「今ので終わり。それでも大サービスなんだからな。これ以上は買って聞いてくれ。もしくは今日収録する歌番で歌うからそれ放映されたら観てくれ」
「商売上手だー」
「絶対買うね」

 ……何だ、カラオケの話か……?

 カラオケは興味ない、と邪魔そうに見ていた奏真はそのままそそくさと歩き出す。多分朝からそんな感じで快適ではなかったので、ついてない日だったのかもしれない。だからスペシャルデラックスサンドのレタスを落としてしまう羽目になったのかもしれない。夜、剛に「レタス一枚落としてしまってスペシャルデラックスサンドを完璧な状態で食べられなかった」と言えば苦笑された。
 翌日、放課後部活を終えて帰ると冷蔵庫にレタスが入っていたので「違う、そうじゃない」と思いつつもレタスチャーハンとレタスの豚バラ炒めをいそいそと作ることにした。
 そんな感じで、全くもって食べ物のことしか覚えていなかったのだが、奏真は同じ人物と微妙に関わっていたらしい。奏真の教室までやってきた人物は何か小煩いことを言っていてあまり頭に入ってこなかったが、要は自分のことを知らない奏真が理解できない様子だった。どこぞの変な人物だと思ったが、教室にいた部活仲間が後で教えてくれた。相当有名な芸能人らしい。

「蒼井焔を知らないのってこの学校ではもしかしたら桐江くらいじゃないかな。お前らしいけど」
「ふーん」

 とはいえ別に知らなくても問題なかった。だが三日後、またその人物が教室へやって来た。さすがに面倒だと思っていたらその人物が、限定のため中々買えない学食のステーキランチのチケットをちらつかせてきた。食堂へ向かう途中、その人物は「これが食いたければ今日は放課後、俺にちょっとつき合え」とまたチケットをちらつかせてくる。

「……部活あるんだけど」
「休め」
「……」

 ステーキランチは食べたいが、部活へも行きたい。奏真が黙々と考えていると舌打ちが聞こえてきた。

「わかった。放課後つき合えば、さらに一般人には食べることできないロケ弁、それもこの俺すら認める『津田屋』の弁当も食わせてやる」
「行く」

 津田屋は奏真も知っている。創業四十年にはなる老舗の弁当屋だ。行くしかない。頷くと相手は満足そうに笑みを浮かべてきた。そしてステーキランチはやはり美味かった。

「……さすがシャトーブリアン……」
「は? 何だそれ。店の名前か?」
「違う。肉の部位」
「部位? サーロインとかみたいなのか?」
「そう。テンダーロイン……ヒレ肉の中でもほんの三パーセントしか取れない部分」
「へえ。たかが学食だってのにそんな肉使ってんのな」

 てっきりどうでもよさそうな反応が返ってくると思いきや、相手は乗ってきてくれた。

「……だから限定だし高いし。あとは多分ブランド肉じゃないからまだ手頃なんだと思う」
「なるほどな。つかお前変なことよく知ってんのな。俺のことは知らねーのに」
「……」

 名前、何だったっけ……この人。

 ステーキランチを食べさせてくれたし津田屋の弁当も食べさせてくれるらしいし、話も聞いてくれるしで、最初は奏真も変な人だと思っていたが、わりといい人なのかもしれない。

「え、んいくん?」
「は? 誰だよそれ……! 俺の名前言ってるつもりかよ、お前いくらなんでも失礼にもほどがあんぞっ? つか何か混ぜてくんな! 穂村だよ! 穂村葵!」
「そんな単純な名前だった……? もっとごちゃごちゃしてたような……?」
「それはお前が俺の話ちゃんと聞いてねーからだよ! 芸名と本名! んで今のは本名な」

 あと、意外にも律儀だ。

「ほむらくん……。穂村くん」
「な、何だよ」
「穂村く……」
「……おい。音読して覚えようとするなよ……! この俺の名前すら普通に記憶できねーとか、ほんと桐江の脳ってどーなってんの?」
「穂村くんは俺の名前覚えてんの」
「馬鹿にすんな。聞いたの三日前だぞ……」

 それはそうだが、それほど有名な芸能人とやらなら知り合いですらない一生徒の名前など覚えなさそうな気が何となくしたのかもしれない。
 肉を食べきり、奏真がぼんやり葵の皿を見ていたら微妙な顔をされた。

「おい。涎でも垂らしそうだぞ」
「垂らさないよ」
「素で答えんな。……ああくそ。落ち着かねえ。俺の残り、やるよ、食え」

 微妙な顔のまま、葵は自分の皿を奏真の前に押しやってきた。

「え、いいの?」
「そんだけ見られて食えるわけねーだろ。半分は食ったし、もういい。塩サバの小皿取ってくる」

 実際立ち上がって自ら取りに行った葵を奏真はぼんやり眺めた。やはり意外にもいい人なのかもしれない。そう思いながら遠慮なく葵の食べかけのステーキをひと切れ大きく切ると頬張った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...