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6話
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放課後、言われた通りついて行くと車の後部座席に乗せさせられた。てっきりその辺のどこかだと何となく思っていた奏真はぽかんと、後に続いて乗ってきた葵を見る。
「何だよその顔」
「……誘拐?」
「何でだよ! お前はこれからこの俺の仕事場について来んだよ」
仕事場、と聞かされて一気に奏真の中で面倒臭さが湧き起こる。それが顔に出ていたらしく「不満そうな顔すんな」と呆れられた。
「桐江、お前みたいなやつは無表情キャラが鉄板じゃねーのかよ。意外に表情に出るよなお前……」
「キャラ……? 鉄板……? 何言ってんのかわかんないんだけど。鉄板焼きのことなら確かに意外性ってあるよな……手軽な食材から高級食材まで──」
「お前、食いもんのことしか頭にねえの……?」
奏真が言いかけると葵がさらに呆れた顔を勢いよく向けてきた。すると運転席から笑い声が聞こえてくる。
「何笑ってんだよ安里」
座り直し、葵は前をじろりと睨む。奏真も前を見るが丁度自分の前席なので顔は見えない。ただ、前方のミラーの目と目が合った。
「初めまして、桐江くん。うちの焔が申し訳ないね」
「……初めまして……、でも、誰……?」
「ああ、これはまた申し訳ない。私は焔のマネージャーをしています、安里章生といいます」
章生がニコニコ体を乗り出して後ろを振り返ってきた。整えられた黒髪に黒縁眼鏡をかけている章生は真面目なサラリーマンといった風に見えた。
「えんって?」
「おま、マジでどこまで失礼なやつなんだよっ? 俺のことだよ!」
身を向けてきた葵が奏真の両肩をつかみ、揺さぶってくる。
「……え、でもあんた、穂村葵だって」
「芸名は蒼井焔っつっただろーが」
胸ぐらをつかみかからん勢いの葵に対し、ぐらぐら揺らされながら奏真はぼんやり考える。
「……そういえば……そんなことを言っていた、かも、しれない……」
多分。
「その顔、お前ほぼ覚えてねーだろ……!」
「焔、無理はやめろ。桐江くん、揺さぶられ過ぎてむしろ表情が無になってるぞ」
「……ちっ」
章生の言葉に、葵は奏真を離してきた。ようやくの解放に奏真はため息つく。それに対し、葵はじろりと睨んできた。
「じゃあ向かうからな」
まだ少し笑いつつ、章生は前を向き運転を始めた。
「俺、何であんたの仕事場行かなくちゃなの……」
今さら行きたくないと暴れる気にならないというか、そんな面倒なことをするくらいなら大人しくついて行ったほうがマシだし、そうしていると津田屋の弁当がもれなく食べられる。なので無言でぼんやりしていればいいのだが、さすがに理由が気になって奏真は隣の葵を見た。
「お前が俺を知らないとかふざけたこと言うからだろ」
「は、ぁ……?」
知らないことがどう関係あるのだと奏真は怪訝な顔をする。
「その真顔なのに不思議って顔やめろ、気が抜ける!」
「だって意味わからない」
「俺からしたらお前のが意味わかんねーよ」
だったら放っておけばいいのにと思うが、ステーキランチは美味しかったし弁当も楽しみなので口は閉じておく。
「俺が働いてるとこ見たらもうお前も俺に夢中になるだろうからな」
それにしてもあのステーキランチは本当に美味しくて夢中になったと奏真はしみじみ思う。
「多分もう俺を知らないなんてこと、言わせねーよ。最高の演技や歌を知れ」
ブランド肉じゃなくても最高の部位を最高の調理で仕上げてきている。奏真としては四つ星は堅い。
「って質問しておきながら聞いてんのかよっ?」
「え? あぁうん、最高の味だった」
「てめぇ……!」
「……君らはコントでもやってるのかな。焔、色んなものに手を出すなら芸人もやってみるか?」
運転をしながら章生が口を挟んできた。おかげで葵の関心が章生へ行ってくれて奏真は少しホッとする。あまり構われるのは面倒だし鬱陶しい。
「芸人は最近トラウマだからやめろ……!」
「トラウマ? 何でまた」
「るせぇ、何もかもこいつのせいなんだよ!」
だがまたすぐに奏真へ関心が戻ってきた。
「めんど……」
「聞こえてんだからな! この俺に向かってそういうこと言えんのほんとお前くらいだぞ……」
仕事場につき合わされるのは面倒臭いと思っていたが、むしろ奏真に構ってくることが当然ないので車内よりも楽だった。葵が何やらしている間、奏真はパイプ椅子に座って気持ちよくうたた寝させてもらった。
しかも本当に弁当が貰えた。次の出番まで時間があるからと控え室に行かされたのだが、そこに弁当が置いてあったのだ。
「……これが津田屋の弁当……」
「……おいてめぇ、涎垂らさんばかりに弁当見てんじゃねーよ。俺に対してはちゃっかり居眠りキメてやがった癖によ」
バレていた。
「……ったく。ほんとお前、どういう頭してんだよ。さっきのお前の立場になれるなら土下座してもいいって女とかすげーいんのに」
「よくわからないけど、俺は女じゃないし……」
「知ってんだよそんなことは! まぁ、いい……食えよ」
「うん」
「こういう時だけは素直だなっ?」
奏真が箸を手に取ろうとした時、携帯電話が鳴った。基本電話してくる相手は限られてるので奏真は速攻で電話を鞄から取り出す。その様子を葵はポカンとして見てきた。
「何だよその顔」
「……誘拐?」
「何でだよ! お前はこれからこの俺の仕事場について来んだよ」
仕事場、と聞かされて一気に奏真の中で面倒臭さが湧き起こる。それが顔に出ていたらしく「不満そうな顔すんな」と呆れられた。
「桐江、お前みたいなやつは無表情キャラが鉄板じゃねーのかよ。意外に表情に出るよなお前……」
「キャラ……? 鉄板……? 何言ってんのかわかんないんだけど。鉄板焼きのことなら確かに意外性ってあるよな……手軽な食材から高級食材まで──」
「お前、食いもんのことしか頭にねえの……?」
奏真が言いかけると葵がさらに呆れた顔を勢いよく向けてきた。すると運転席から笑い声が聞こえてくる。
「何笑ってんだよ安里」
座り直し、葵は前をじろりと睨む。奏真も前を見るが丁度自分の前席なので顔は見えない。ただ、前方のミラーの目と目が合った。
「初めまして、桐江くん。うちの焔が申し訳ないね」
「……初めまして……、でも、誰……?」
「ああ、これはまた申し訳ない。私は焔のマネージャーをしています、安里章生といいます」
章生がニコニコ体を乗り出して後ろを振り返ってきた。整えられた黒髪に黒縁眼鏡をかけている章生は真面目なサラリーマンといった風に見えた。
「えんって?」
「おま、マジでどこまで失礼なやつなんだよっ? 俺のことだよ!」
身を向けてきた葵が奏真の両肩をつかみ、揺さぶってくる。
「……え、でもあんた、穂村葵だって」
「芸名は蒼井焔っつっただろーが」
胸ぐらをつかみかからん勢いの葵に対し、ぐらぐら揺らされながら奏真はぼんやり考える。
「……そういえば……そんなことを言っていた、かも、しれない……」
多分。
「その顔、お前ほぼ覚えてねーだろ……!」
「焔、無理はやめろ。桐江くん、揺さぶられ過ぎてむしろ表情が無になってるぞ」
「……ちっ」
章生の言葉に、葵は奏真を離してきた。ようやくの解放に奏真はため息つく。それに対し、葵はじろりと睨んできた。
「じゃあ向かうからな」
まだ少し笑いつつ、章生は前を向き運転を始めた。
「俺、何であんたの仕事場行かなくちゃなの……」
今さら行きたくないと暴れる気にならないというか、そんな面倒なことをするくらいなら大人しくついて行ったほうがマシだし、そうしていると津田屋の弁当がもれなく食べられる。なので無言でぼんやりしていればいいのだが、さすがに理由が気になって奏真は隣の葵を見た。
「お前が俺を知らないとかふざけたこと言うからだろ」
「は、ぁ……?」
知らないことがどう関係あるのだと奏真は怪訝な顔をする。
「その真顔なのに不思議って顔やめろ、気が抜ける!」
「だって意味わからない」
「俺からしたらお前のが意味わかんねーよ」
だったら放っておけばいいのにと思うが、ステーキランチは美味しかったし弁当も楽しみなので口は閉じておく。
「俺が働いてるとこ見たらもうお前も俺に夢中になるだろうからな」
それにしてもあのステーキランチは本当に美味しくて夢中になったと奏真はしみじみ思う。
「多分もう俺を知らないなんてこと、言わせねーよ。最高の演技や歌を知れ」
ブランド肉じゃなくても最高の部位を最高の調理で仕上げてきている。奏真としては四つ星は堅い。
「って質問しておきながら聞いてんのかよっ?」
「え? あぁうん、最高の味だった」
「てめぇ……!」
「……君らはコントでもやってるのかな。焔、色んなものに手を出すなら芸人もやってみるか?」
運転をしながら章生が口を挟んできた。おかげで葵の関心が章生へ行ってくれて奏真は少しホッとする。あまり構われるのは面倒だし鬱陶しい。
「芸人は最近トラウマだからやめろ……!」
「トラウマ? 何でまた」
「るせぇ、何もかもこいつのせいなんだよ!」
だがまたすぐに奏真へ関心が戻ってきた。
「めんど……」
「聞こえてんだからな! この俺に向かってそういうこと言えんのほんとお前くらいだぞ……」
仕事場につき合わされるのは面倒臭いと思っていたが、むしろ奏真に構ってくることが当然ないので車内よりも楽だった。葵が何やらしている間、奏真はパイプ椅子に座って気持ちよくうたた寝させてもらった。
しかも本当に弁当が貰えた。次の出番まで時間があるからと控え室に行かされたのだが、そこに弁当が置いてあったのだ。
「……これが津田屋の弁当……」
「……おいてめぇ、涎垂らさんばかりに弁当見てんじゃねーよ。俺に対してはちゃっかり居眠りキメてやがった癖によ」
バレていた。
「……ったく。ほんとお前、どういう頭してんだよ。さっきのお前の立場になれるなら土下座してもいいって女とかすげーいんのに」
「よくわからないけど、俺は女じゃないし……」
「知ってんだよそんなことは! まぁ、いい……食えよ」
「うん」
「こういう時だけは素直だなっ?」
奏真が箸を手に取ろうとした時、携帯電話が鳴った。基本電話してくる相手は限られてるので奏真は速攻で電話を鞄から取り出す。その様子を葵はポカンとして見てきた。
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