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7話
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「何だ、ごうなの。てっきり兄さんかと思った」
短い間に葵が持った奏真に対するイメージとどうにも違う様子で携帯電話を取り出した奏真だったが、画面を見るなり気が抜けたようになりつつも電話に出ていた。そしてやはり葵のイメージよりも砕けた様子で、かけてきた相手に話している。
「あー、うん。外。え、何でいちいち言わなくちゃなの……うん、えー?」
誰と話してるんだ。
葵が何となく気にしていると携帯電話から耳を離した奏真が葵を見てきた。
「な、何だよ」
「ここ、どこ」
「は?」
「どこにいんのか聞かれてて」
「誰に」
「ごう」
「ごうって誰だよ……っ?」
淡々と話というよりは単語を放ってくる奏真に微妙な顔をすると、奏真は面倒そうにため息ついてきた。そしてあろうことか葵に携帯電話を渡してくる。
「おい、てめ……」
何考えてんだと突き返そうとしたが、電話口から声が聞こえてきて葵はつい答えてしまった。
「何……」
『そーま? どうしたんだよ』
「……何の用、つかあんた誰」
『え? あれ? むしろあんたが誰……俺はそーまの同居人だけど……』
同居人? どういう意味?
『あの、もしかしてうちのそーまが迷惑かけたとか? すみません、どちら様でしょうか……』
うちのそーま?
やたら心配そうな声がおずおずと聞いてくる。
あれ? まさかこいつと電話相手って、できてんの?
葵はバッと勢いよく奏真を見る。奏真は人に見知らぬ相手とのやり取りをさせることに対して気にもならないのか、今や嬉しそうに弁当を食べている。
え? この食い物バカが? 男と? え?
芸能人には案外ゲイも多いので男同士に関してあまり違和感はない。だが目の前のこの平凡そうな男がと思うと、違和感しかない。
というか、葵のことには全く関心がないくせに、誰か知らないが一般人に関心を持つのかと思うと妙にイライラする。食べ物にしか関心がないのならまだしも、何となく納得し難い。
『もしもし……?』
「……お前、誰。俺は蒼井焔だけど。こいつは今、スタジオにいんだよ、俺の仕事場」
向こうで章生がギョッとした顔をしている。恐らく「蒼井焔のイメージを壊すな」とでも言いたいのだろう。
『……っえ? お前、穂村?』
「は? マジお前誰だよ」
芸名を名乗ったのに本名を口にしてきた。学校のやつなのだろうか。
『あ、悪い。清田だよ。お前と同じクラスの……』
「あぁ? 知らねーよ」
「おい、焔!」
電話相手の声は聞こえていないであろう章生がやきもきしたように名前を呼んできた。葵は舌打ちしながら続ける。
「とにかく、桐……奏真の居場所に関しては余計な心配すんな。それにちゃんと連れて帰ってやる」
それだけ言うと、葵は返事を待たず電話を切った。そしてイライラと奏真に突き返す。
「お前、俺にスマホ渡してくるとか何考えてんの?」
「……説明が面倒だった」
「は? ふざけんな。そんなもん、俺のが面倒だろうが……!」
気にした様子もなくぱくぱく弁当を食べている奏真の胸ぐらをつかみかからん勢いの葵に「焔、さっきの態度は」と章生が口を挟んでくる。
「あー、もう! 大丈夫だっつーの! 電話の男、俺と同クラだってよ。知らねーけど。つかこいつの彼氏。同棲相手」
忌々しげに葵が言うと章生がポカンとした顔を奏真へ向けた。葵同様、この世界で仕事をしてそれなりに長い章生も別にゲイが珍しいはずないだろうから恐らく奏真が、というところに驚いているのだろう。
「え、奏真くん、男の子と同棲してるの」
「……は?」
奏真まで怪訝な顔をしてきた。
「は、じゃねーよ。同棲してるって言われたっつーの」
「同棲……?」
「つかまぁ、言ってきたのは同居人って言葉だったけどな。でも『うちのそーま』とか言われたんだぞ」
それでつき合ってないとは言わせないとばかりに葵が奏真を見ると、さらに怪訝な顔をしている。こんなに無表情そうな顔だというのにわりと表情豊かなのは一種の特技ではないかとさえ思える。
「……うちのってのは多分、ごうが幼馴染でずっと世話焼いてくるから」
「ノロケか?」
聞いてられないとばかりに葵が言い放つと微妙に睨まれた。睨みたいのはこちらだ、と思った後に「いや、何で俺が苛つかないとなんだよ」と納得いかない気持ちになる。
「それに学生寮の同室は同棲と言わない……」
「あ?」
……学生寮。学生寮? 学生寮。
一気に葵の中でパズルが組合わさって完成したような感覚になった。
「そ、そういや寮、あったな!」
何だよ、同棲じゃねーのかよ……。
「どうしたんだ焔。何かほっとしたような顔してるけど」
近づいてきた章生に言われ、葵は「はぁっ?」と章生を見る。
「してねーよ」
「まあいいけど。それより奏真くん、君のスマホを貸してくれるか番号を教えてくれないかな。先ほどかけてきた幼馴染くんにかけるから。きっと焔の説明じゃよくわからなくて心配してるだろうし、私からもう一度説明しておくよ。名前は何て言ったっけ」
「うん……ありがと、安里さん。清田剛だよ」
「てめ、安里の名前覚えんの、俺の名前覚えるより速いじゃねーか」
「……だって安里さん、いい人だし……」
「俺もいい人だろうが!」
「ちょっと君ら、もう少し静かにしてくれ。……あ、清田くん? 先ほどはうちの焔が失礼しました──」
短い間に葵が持った奏真に対するイメージとどうにも違う様子で携帯電話を取り出した奏真だったが、画面を見るなり気が抜けたようになりつつも電話に出ていた。そしてやはり葵のイメージよりも砕けた様子で、かけてきた相手に話している。
「あー、うん。外。え、何でいちいち言わなくちゃなの……うん、えー?」
誰と話してるんだ。
葵が何となく気にしていると携帯電話から耳を離した奏真が葵を見てきた。
「な、何だよ」
「ここ、どこ」
「は?」
「どこにいんのか聞かれてて」
「誰に」
「ごう」
「ごうって誰だよ……っ?」
淡々と話というよりは単語を放ってくる奏真に微妙な顔をすると、奏真は面倒そうにため息ついてきた。そしてあろうことか葵に携帯電話を渡してくる。
「おい、てめ……」
何考えてんだと突き返そうとしたが、電話口から声が聞こえてきて葵はつい答えてしまった。
「何……」
『そーま? どうしたんだよ』
「……何の用、つかあんた誰」
『え? あれ? むしろあんたが誰……俺はそーまの同居人だけど……』
同居人? どういう意味?
『あの、もしかしてうちのそーまが迷惑かけたとか? すみません、どちら様でしょうか……』
うちのそーま?
やたら心配そうな声がおずおずと聞いてくる。
あれ? まさかこいつと電話相手って、できてんの?
葵はバッと勢いよく奏真を見る。奏真は人に見知らぬ相手とのやり取りをさせることに対して気にもならないのか、今や嬉しそうに弁当を食べている。
え? この食い物バカが? 男と? え?
芸能人には案外ゲイも多いので男同士に関してあまり違和感はない。だが目の前のこの平凡そうな男がと思うと、違和感しかない。
というか、葵のことには全く関心がないくせに、誰か知らないが一般人に関心を持つのかと思うと妙にイライラする。食べ物にしか関心がないのならまだしも、何となく納得し難い。
『もしもし……?』
「……お前、誰。俺は蒼井焔だけど。こいつは今、スタジオにいんだよ、俺の仕事場」
向こうで章生がギョッとした顔をしている。恐らく「蒼井焔のイメージを壊すな」とでも言いたいのだろう。
『……っえ? お前、穂村?』
「は? マジお前誰だよ」
芸名を名乗ったのに本名を口にしてきた。学校のやつなのだろうか。
『あ、悪い。清田だよ。お前と同じクラスの……』
「あぁ? 知らねーよ」
「おい、焔!」
電話相手の声は聞こえていないであろう章生がやきもきしたように名前を呼んできた。葵は舌打ちしながら続ける。
「とにかく、桐……奏真の居場所に関しては余計な心配すんな。それにちゃんと連れて帰ってやる」
それだけ言うと、葵は返事を待たず電話を切った。そしてイライラと奏真に突き返す。
「お前、俺にスマホ渡してくるとか何考えてんの?」
「……説明が面倒だった」
「は? ふざけんな。そんなもん、俺のが面倒だろうが……!」
気にした様子もなくぱくぱく弁当を食べている奏真の胸ぐらをつかみかからん勢いの葵に「焔、さっきの態度は」と章生が口を挟んでくる。
「あー、もう! 大丈夫だっつーの! 電話の男、俺と同クラだってよ。知らねーけど。つかこいつの彼氏。同棲相手」
忌々しげに葵が言うと章生がポカンとした顔を奏真へ向けた。葵同様、この世界で仕事をしてそれなりに長い章生も別にゲイが珍しいはずないだろうから恐らく奏真が、というところに驚いているのだろう。
「え、奏真くん、男の子と同棲してるの」
「……は?」
奏真まで怪訝な顔をしてきた。
「は、じゃねーよ。同棲してるって言われたっつーの」
「同棲……?」
「つかまぁ、言ってきたのは同居人って言葉だったけどな。でも『うちのそーま』とか言われたんだぞ」
それでつき合ってないとは言わせないとばかりに葵が奏真を見ると、さらに怪訝な顔をしている。こんなに無表情そうな顔だというのにわりと表情豊かなのは一種の特技ではないかとさえ思える。
「……うちのってのは多分、ごうが幼馴染でずっと世話焼いてくるから」
「ノロケか?」
聞いてられないとばかりに葵が言い放つと微妙に睨まれた。睨みたいのはこちらだ、と思った後に「いや、何で俺が苛つかないとなんだよ」と納得いかない気持ちになる。
「それに学生寮の同室は同棲と言わない……」
「あ?」
……学生寮。学生寮? 学生寮。
一気に葵の中でパズルが組合わさって完成したような感覚になった。
「そ、そういや寮、あったな!」
何だよ、同棲じゃねーのかよ……。
「どうしたんだ焔。何かほっとしたような顔してるけど」
近づいてきた章生に言われ、葵は「はぁっ?」と章生を見る。
「してねーよ」
「まあいいけど。それより奏真くん、君のスマホを貸してくれるか番号を教えてくれないかな。先ほどかけてきた幼馴染くんにかけるから。きっと焔の説明じゃよくわからなくて心配してるだろうし、私からもう一度説明しておくよ。名前は何て言ったっけ」
「うん……ありがと、安里さん。清田剛だよ」
「てめ、安里の名前覚えんの、俺の名前覚えるより速いじゃねーか」
「……だって安里さん、いい人だし……」
「俺もいい人だろうが!」
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