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10話
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「おい、ちょっと聞きてぇんだけど」
仮歌レコーディングの後で差し入れの菓子をバンドメンバーの五人で食べている時、葵は思い切って聞くことにした。
「何?」
バンドのリーダーである翠(すい)が穏やかな笑顔を向けてきた。年齢も五人の中で一番上の二十四歳だからか、落ち着いている。世間にも優しいお兄さんタイプとして知られている。ただし内輪では怒ると葵でも怖い。
翠の一つ下の二十三歳である柑治(かんじ)は気が強く、たまに口も出す。だが基本的には周りに任せてくるサブリーダーだ。ちなみに任せてくるのは頼ってくれているのではなく主に面倒臭いからだ。現に今も葵の話よりも先ほどから読んでいる音楽雑誌に興味がいっている。世間ではクールな兄貴分的な風に見られているが、大抵は面倒臭いだけの柑治には葵も別に返事を大して期待していない。
ついでに葵の一つ下の最年少、十七歳である風太(ふうた)も今は菓子に夢中で葵の話を聞いていなかったようだ。元気系と見られているが実際もそのままの風太は、少しテンポが遅れて翠や厳に気づき、違う意味で「何何?」といった風に周りを見ている。
翠のように穏やかにではないが、一見怖そうな顔を生真面目に「何だ」という風に向けてきた厳(ごん)は葵の一つ上の十九歳で、世間からは口数の少ない強面系男子と見られている。だが古風で真面目なだけだと葵は思っており、ある意味一番返事を期待していない。
ちなみに葵は焔として世間ではかわいく爽やかな弟系男子と見られている。あと、歌唱力や演出の格好よさで売っているつもりだが、全員見た目もいいので目上からは特にアイドルと見られがちだったりする。
「……シャツがはだけたままだと目のやり場に困って仕方なかったりするんだが、これはどういうことだ?」
思い切って聞くことにしたのはいいが、いざ聞こうにも何をどう聞けばいいかわからなくなった。とはいえ一から説明していくのも面倒な上に皆が根気よく聞くとも思えず、気づけば頭に浮かんだことを口にしていた。
「何、言ってんの?」
まだよくわかっていないといった風太も、思ったことをそのまま口にしてきた。
「どういう話なんだよ……」
厳は呆れたように葵を見てきた。
「うるせぇ、お堅いお前からは特に回答は期待してねぇ」
「んだと? エン、てめえ」
「ほらほら、言い合いする必要なんてないでしょ。あと話を聞いていた俺もあまり意味わかんないんだけど。だいたいいくらエンが女慣れしてるとしても、基本的には目のやり場に困ってもおかしくないんじゃないかな?」
葵と厳を宥めつつ、翠がニコニコしながら聞いてきた。
女ならな!
内心で即答しつつ、葵は顔を少し逸らした。いくら芸能界でゲイが珍しくはないとはいえ、自分は生まれてこのかた男に興味などなかった。ましてや平凡な変わり者など、例え女であってもごめんだ。
「お前らが俺の目の前で着替えてても別に俺は目のやり場に困らねえ、つか、興味ねえ」
「あったら困るわ」
今まで雑誌を読んでいた柑治が面倒そうに突っ込んできた。
「ねえ、っつってんだろ。雑誌そのまま読んでろ、進む話も進まねえ。面倒なら突っ込んでくんなよ」
同じく面倒そうに葵が言い返せばチッと舌打ちをしながら、柑治はようやく菓子に気づいたかのように一つ取って食べ出した。
「あ、ねえねえ! 要はその相手が女じゃねーってこと? エンが俺らには興味ないけど、どこぞの男には興味があるってこと?」
「フウタ、お前はもうちょっと真綿にくるんでもの言えよ、主に俺のために……!」
「つかフウタもエンもうるせえんだよ、もうちょっと静かにできねーのか」
少し大人の意見かのように柑治が言ってきたが、明らかに「雑誌に集中できねえだろ」と表情が物語っている。
「フウタは確かにはっきり言い過ぎかもだけど、結局はそういうことになるんじゃないのかな、エン」
「……ぅ」
「わぁ、やっぱそーなんじゃん? 俺様なエンをホモにした彼の顔見せてよ!」
「ホモって言うな! せめてゲイって言えよ。つか俺はゲイじゃねえ! お前の肌見ても何とも思わねーっつってんだろ! あと画像なんて持ってねーよ」
「どっちでもいーじゃん。ちゃんとテレビとか出る時は俺も言葉くらい気を使うしー。つか何で写真持ってねーの? 好きなんでしょ?」
菓子を頬張りながら風太がひたすら思ったことを口にしてくる。横で翠は楽しそうに笑い、厳はため息ついている。葵は顔が熱くなるのを感じた。
「す、す、好きとか今言ってくんじゃねーよ! いや、結果的にはそういうことなんだろけど、そもそもそうだとわからなかったから仕方なくお前らに聞いたんだろが!」
「んー? 仕方なくって。ぁあ! エン、俺ら以外に友だちいなさそうだもんねー」
「フウタ、当たっててもな、何でもかんでも口にすんな」
「ゴン、それだとてめーも同罪なんだよ! いねーんじゃねーわ!」
「ああくそ、てめーらマジでうるせぇ!」
「……全員煩いかな」
誰よりも静かな声で言ったにも関わらず、翠の言葉に一同は一気に無言になった。
「嘘、嘘。ごめんね。ゴンは煩くないよ」
「ってゴンだけかよ」
にっこり言い直す翠に柑治が呟いた。
「とにかく、好きな子できてよかったね、エン」
「……いいって言えんのこれ……」
微妙な顔で葵が翠を見るとニコニコ頷かれた。
「男だろうが女だろうが、好きな人ができるのはいいことだよ」
「そ、そっか。そうだよな」
何だか本当にそう思え、葵は笑みを浮かべた。背後で風太が「わー、単純……」とまた菓子を頬張りながら呟いていた。
仮歌レコーディングの後で差し入れの菓子をバンドメンバーの五人で食べている時、葵は思い切って聞くことにした。
「何?」
バンドのリーダーである翠(すい)が穏やかな笑顔を向けてきた。年齢も五人の中で一番上の二十四歳だからか、落ち着いている。世間にも優しいお兄さんタイプとして知られている。ただし内輪では怒ると葵でも怖い。
翠の一つ下の二十三歳である柑治(かんじ)は気が強く、たまに口も出す。だが基本的には周りに任せてくるサブリーダーだ。ちなみに任せてくるのは頼ってくれているのではなく主に面倒臭いからだ。現に今も葵の話よりも先ほどから読んでいる音楽雑誌に興味がいっている。世間ではクールな兄貴分的な風に見られているが、大抵は面倒臭いだけの柑治には葵も別に返事を大して期待していない。
ついでに葵の一つ下の最年少、十七歳である風太(ふうた)も今は菓子に夢中で葵の話を聞いていなかったようだ。元気系と見られているが実際もそのままの風太は、少しテンポが遅れて翠や厳に気づき、違う意味で「何何?」といった風に周りを見ている。
翠のように穏やかにではないが、一見怖そうな顔を生真面目に「何だ」という風に向けてきた厳(ごん)は葵の一つ上の十九歳で、世間からは口数の少ない強面系男子と見られている。だが古風で真面目なだけだと葵は思っており、ある意味一番返事を期待していない。
ちなみに葵は焔として世間ではかわいく爽やかな弟系男子と見られている。あと、歌唱力や演出の格好よさで売っているつもりだが、全員見た目もいいので目上からは特にアイドルと見られがちだったりする。
「……シャツがはだけたままだと目のやり場に困って仕方なかったりするんだが、これはどういうことだ?」
思い切って聞くことにしたのはいいが、いざ聞こうにも何をどう聞けばいいかわからなくなった。とはいえ一から説明していくのも面倒な上に皆が根気よく聞くとも思えず、気づけば頭に浮かんだことを口にしていた。
「何、言ってんの?」
まだよくわかっていないといった風太も、思ったことをそのまま口にしてきた。
「どういう話なんだよ……」
厳は呆れたように葵を見てきた。
「うるせぇ、お堅いお前からは特に回答は期待してねぇ」
「んだと? エン、てめえ」
「ほらほら、言い合いする必要なんてないでしょ。あと話を聞いていた俺もあまり意味わかんないんだけど。だいたいいくらエンが女慣れしてるとしても、基本的には目のやり場に困ってもおかしくないんじゃないかな?」
葵と厳を宥めつつ、翠がニコニコしながら聞いてきた。
女ならな!
内心で即答しつつ、葵は顔を少し逸らした。いくら芸能界でゲイが珍しくはないとはいえ、自分は生まれてこのかた男に興味などなかった。ましてや平凡な変わり者など、例え女であってもごめんだ。
「お前らが俺の目の前で着替えてても別に俺は目のやり場に困らねえ、つか、興味ねえ」
「あったら困るわ」
今まで雑誌を読んでいた柑治が面倒そうに突っ込んできた。
「ねえ、っつってんだろ。雑誌そのまま読んでろ、進む話も進まねえ。面倒なら突っ込んでくんなよ」
同じく面倒そうに葵が言い返せばチッと舌打ちをしながら、柑治はようやく菓子に気づいたかのように一つ取って食べ出した。
「あ、ねえねえ! 要はその相手が女じゃねーってこと? エンが俺らには興味ないけど、どこぞの男には興味があるってこと?」
「フウタ、お前はもうちょっと真綿にくるんでもの言えよ、主に俺のために……!」
「つかフウタもエンもうるせえんだよ、もうちょっと静かにできねーのか」
少し大人の意見かのように柑治が言ってきたが、明らかに「雑誌に集中できねえだろ」と表情が物語っている。
「フウタは確かにはっきり言い過ぎかもだけど、結局はそういうことになるんじゃないのかな、エン」
「……ぅ」
「わぁ、やっぱそーなんじゃん? 俺様なエンをホモにした彼の顔見せてよ!」
「ホモって言うな! せめてゲイって言えよ。つか俺はゲイじゃねえ! お前の肌見ても何とも思わねーっつってんだろ! あと画像なんて持ってねーよ」
「どっちでもいーじゃん。ちゃんとテレビとか出る時は俺も言葉くらい気を使うしー。つか何で写真持ってねーの? 好きなんでしょ?」
菓子を頬張りながら風太がひたすら思ったことを口にしてくる。横で翠は楽しそうに笑い、厳はため息ついている。葵は顔が熱くなるのを感じた。
「す、す、好きとか今言ってくんじゃねーよ! いや、結果的にはそういうことなんだろけど、そもそもそうだとわからなかったから仕方なくお前らに聞いたんだろが!」
「んー? 仕方なくって。ぁあ! エン、俺ら以外に友だちいなさそうだもんねー」
「フウタ、当たっててもな、何でもかんでも口にすんな」
「ゴン、それだとてめーも同罪なんだよ! いねーんじゃねーわ!」
「ああくそ、てめーらマジでうるせぇ!」
「……全員煩いかな」
誰よりも静かな声で言ったにも関わらず、翠の言葉に一同は一気に無言になった。
「嘘、嘘。ごめんね。ゴンは煩くないよ」
「ってゴンだけかよ」
にっこり言い直す翠に柑治が呟いた。
「とにかく、好きな子できてよかったね、エン」
「……いいって言えんのこれ……」
微妙な顔で葵が翠を見るとニコニコ頷かれた。
「男だろうが女だろうが、好きな人ができるのはいいことだよ」
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