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11話
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自覚すれば、落ち込むどころか仕事も何もかもが普段以上に楽しくイキイキとし出した気がする。自分で思っているだけでなく、プロデューサーやディレクターなどにも言われたので錯覚ではないと葵は思う。
男を、それも何を考えているのかよくわからないような平凡極まりない男を好きになるなど、自覚したら意味わからなさ過ぎてもっと落ち込むものかと葵は思っていた。
「いや……何考えてるか、はちょっと違うか?」
多分食べ物のことだ。余儀なく食べ物のことだ。間違いない。
そう思ったところでついニヤリとしてしまっている自分に気づく。ほんの少し前ならドン引きでもしていたはずだというのにと、我ながら呆れた。感情とは現金なものだなと思う。
そもそも、何故自分が奏真のような平凡極まりない見た目の男に惚れたのか、葵はさっぱりわからない。特徴といえば脳みその機能のほとんどが食い物へ行ってしまっているのではないかと思われる部分だが、いくらなんでもそんなところに惚れるポイントはないはずだ。
仕事柄、外見や中身が優れた相手と知り合う機会は多い。だというのに何故、となおさら不思議ですらある。一瞬、自分が蓼食い虫なのかと思ったが、葵が今までつき合ったことある女を思い返すと有名無名はさておき、皆整った顔だった。
「わかんねーな……」
「……そういうものだろ、好きになるってのは。考えても仕方がねーだろ」
考えていると厳が淡々と言ってきた。
新曲を出す関係でここのところ、単身の仕事よりもメンバーで動くことが多い。契約先に選曲してもらうための仮歌を終えてディレクターとの仮歌レコーディング打ち合わせも終え、本番レコーディングまでの曲合わせを最近はよくしていた。
当たり前過ぎることを言われ、葵は厳をムッと見た。
「何だよ、お前俺に意見するのかよ? 童貞のくせに」
「っはぁ? おま、今それは関係ねーだろ! っていうか何で知ってんだよ」
厳の強面の顔がみるみる赤くなる。適当なことを言ったつもりだった葵はポカンとした後に少し焦った。ちなみに周りも一瞬動作が止まっていたので内心「マジで」と思っていたはずだ。
「え、ちょ、その顔とその年でマジ……」
「お前よりは一つ上だけどな、そんな年とか言われるほどじゃねーだろ!」
「エン、それ以上はかわいそうだからやめなよ」
翠が少し笑みを抑えた表情で諭してきた。ただその表情のせいでむしろ厳は居たたまれないだろうし、基本優しいお兄さんである翠もそれをわかって言っているところがいい性格していると思われる。
「……あ、この雑誌、先月号じゃねぇか。フウタ新しいの買って来いよ」
絶対に一瞬驚いていたはずの柑治は既に興味がないといった風に持っていた雑誌をテーブルに投げている。
「えー、お菓子ないの?」
同じく驚いていたはずの風太は柑治の話を聞いておらず、差し入れを期待してキョロキョロしていた。
ほんと個性溢れるやつらだよなと自分を差し置いて葵は微妙な顔になる。このメンバーでグループ名をつける時も色んな名前が上がって決めるのに苦労した。挙げ句「五人だからもうFIVEとかでよくね?」となりかけたが、同じような名前のそれなりに有名なバンドがいたため却下となった。適当さすらあるというのに、自分たちじゃない誰かに命名されるのは全員一致でごめんだった。
「そしたらフランス語とかにすればいーんじゃね」
「フランス語……だと五はサンク、かな」
「パッとしねーな」
「じゃあイタリア語!」
「……チンクエ」
「ンフフ」
「ちんくえはねーだろ……!」
最終的に無限大という意味の「Infinity」に落ち着いた。好き勝手過ぎる皆とは一緒に仕事するのはいいが、やはり寮だろうが一緒の部屋で生活したいとは思えない。ただ、今思えば無意識なりにも好きだから、奏真となら一緒に住めると葵は思ったのかもしれない。
驚きの童貞はいい加減流しつつ、葵は厳の言った「好きになった理由を考えても仕方ない」的な言葉を取り入れることにした。
「エン、誰かを好きになる瞬間はね、好きなんだなと気づいた瞬間だよ」
後で翠にはそう言われた。なるほど、と思った。
だいたい、別に理由なんかどうでもいい。大事なのは自覚したということと、そしてこれからどうしたいかだ。もちろん、葵としてはつき合いたい。相手は男だけにおおっぴらにつき合えないが、どのみち葵たちは女とだろうがおおっぴらにできない。
とはいえ、と葵は奏真を思い浮かべた。険しすぎる道しか見えない。芸能人に疎いだけなら他にもいるだろうが、あれは別格過ぎる。
こうなったら強引だろうがガンガン行くしかねーな。
葵は章生が運転する車の後部座席でうんうん一人頷いた。
「焔……好きになったものをやめろとまでは言わないけど、くれぐれも無茶するなよ」
「わかってるよ! 軽率にスクープされるような馬鹿じゃねーよ」
「お勉強は馬鹿だろ」
「……うるせぇ」
「というか、それももちろんだけど、奏真くんにもってことだよ」
「この俺が好きな相手に無茶するわけねーだろ」
「無茶しかしないような顔、今してたけどな」
「んな顔してねーし。つかちゃんと前見て運転しろよな」
無茶はしない。強引に進めていくだけだ。
男を、それも何を考えているのかよくわからないような平凡極まりない男を好きになるなど、自覚したら意味わからなさ過ぎてもっと落ち込むものかと葵は思っていた。
「いや……何考えてるか、はちょっと違うか?」
多分食べ物のことだ。余儀なく食べ物のことだ。間違いない。
そう思ったところでついニヤリとしてしまっている自分に気づく。ほんの少し前ならドン引きでもしていたはずだというのにと、我ながら呆れた。感情とは現金なものだなと思う。
そもそも、何故自分が奏真のような平凡極まりない見た目の男に惚れたのか、葵はさっぱりわからない。特徴といえば脳みその機能のほとんどが食い物へ行ってしまっているのではないかと思われる部分だが、いくらなんでもそんなところに惚れるポイントはないはずだ。
仕事柄、外見や中身が優れた相手と知り合う機会は多い。だというのに何故、となおさら不思議ですらある。一瞬、自分が蓼食い虫なのかと思ったが、葵が今までつき合ったことある女を思い返すと有名無名はさておき、皆整った顔だった。
「わかんねーな……」
「……そういうものだろ、好きになるってのは。考えても仕方がねーだろ」
考えていると厳が淡々と言ってきた。
新曲を出す関係でここのところ、単身の仕事よりもメンバーで動くことが多い。契約先に選曲してもらうための仮歌を終えてディレクターとの仮歌レコーディング打ち合わせも終え、本番レコーディングまでの曲合わせを最近はよくしていた。
当たり前過ぎることを言われ、葵は厳をムッと見た。
「何だよ、お前俺に意見するのかよ? 童貞のくせに」
「っはぁ? おま、今それは関係ねーだろ! っていうか何で知ってんだよ」
厳の強面の顔がみるみる赤くなる。適当なことを言ったつもりだった葵はポカンとした後に少し焦った。ちなみに周りも一瞬動作が止まっていたので内心「マジで」と思っていたはずだ。
「え、ちょ、その顔とその年でマジ……」
「お前よりは一つ上だけどな、そんな年とか言われるほどじゃねーだろ!」
「エン、それ以上はかわいそうだからやめなよ」
翠が少し笑みを抑えた表情で諭してきた。ただその表情のせいでむしろ厳は居たたまれないだろうし、基本優しいお兄さんである翠もそれをわかって言っているところがいい性格していると思われる。
「……あ、この雑誌、先月号じゃねぇか。フウタ新しいの買って来いよ」
絶対に一瞬驚いていたはずの柑治は既に興味がないといった風に持っていた雑誌をテーブルに投げている。
「えー、お菓子ないの?」
同じく驚いていたはずの風太は柑治の話を聞いておらず、差し入れを期待してキョロキョロしていた。
ほんと個性溢れるやつらだよなと自分を差し置いて葵は微妙な顔になる。このメンバーでグループ名をつける時も色んな名前が上がって決めるのに苦労した。挙げ句「五人だからもうFIVEとかでよくね?」となりかけたが、同じような名前のそれなりに有名なバンドがいたため却下となった。適当さすらあるというのに、自分たちじゃない誰かに命名されるのは全員一致でごめんだった。
「そしたらフランス語とかにすればいーんじゃね」
「フランス語……だと五はサンク、かな」
「パッとしねーな」
「じゃあイタリア語!」
「……チンクエ」
「ンフフ」
「ちんくえはねーだろ……!」
最終的に無限大という意味の「Infinity」に落ち着いた。好き勝手過ぎる皆とは一緒に仕事するのはいいが、やはり寮だろうが一緒の部屋で生活したいとは思えない。ただ、今思えば無意識なりにも好きだから、奏真となら一緒に住めると葵は思ったのかもしれない。
驚きの童貞はいい加減流しつつ、葵は厳の言った「好きになった理由を考えても仕方ない」的な言葉を取り入れることにした。
「エン、誰かを好きになる瞬間はね、好きなんだなと気づいた瞬間だよ」
後で翠にはそう言われた。なるほど、と思った。
だいたい、別に理由なんかどうでもいい。大事なのは自覚したということと、そしてこれからどうしたいかだ。もちろん、葵としてはつき合いたい。相手は男だけにおおっぴらにつき合えないが、どのみち葵たちは女とだろうがおおっぴらにできない。
とはいえ、と葵は奏真を思い浮かべた。険しすぎる道しか見えない。芸能人に疎いだけなら他にもいるだろうが、あれは別格過ぎる。
こうなったら強引だろうがガンガン行くしかねーな。
葵は章生が運転する車の後部座席でうんうん一人頷いた。
「焔……好きになったものをやめろとまでは言わないけど、くれぐれも無茶するなよ」
「わかってるよ! 軽率にスクープされるような馬鹿じゃねーよ」
「お勉強は馬鹿だろ」
「……うるせぇ」
「というか、それももちろんだけど、奏真くんにもってことだよ」
「この俺が好きな相手に無茶するわけねーだろ」
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無茶はしない。強引に進めていくだけだ。
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