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14話
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走るのが好きなのは、もしかしたら体が無意識に帳尻を合わせているのかもしれない。
奏真の身長百七十センチに対して体重は五十五キロくらいだったかと思う。よく食べているわりに太らないのは部活のお陰かもしれない。一見、スポーツしなさそうに見えるらしいし、奏真も特に運動が好きとは言い切れないが、とにかく走ることは好きだと言えた。
ただし、特別速いというわけではない。短距離の記録はあまり計ったことがないがおそらく普通だと思われる。ずっとやっているのもあり長距離走が楽しく思えるというだけだ。有酸素運動でもあるので太らないのかもしれない。
長距離走の場合、筋肉中にある遅筋組織というものの割合が多く、体内の糖分を燃料にして筋繊維を動かす。要は有酸素運動だ。一本の筋繊維も細く、筋肉の質がとてもしなやかで柔らかい。長時間に渡って持続的なパワーを維持する性質を持っている。
それとともに、長距離選手はなるべくエネルギー消耗を抑えるため余計な脂肪や筋肉を走りこみで落とす。結果、体重が軽く、細い人が多い。おそらく奏真もそうだ。
とはいえ、別に奏真は難しいことは何も考えていない。というか考える頭を特に持ち合わせていない。ただ好きだから走っているだけだ。
頭はそんなによくない。悪くもない。見た目と同じく普通レベルだ。がんばればどうにかなるかもしれないのは今の高校に入れたことで証明しているかもしれないが、あまりがんばる気力もない。部活から奏真を知った人には長距離走者なのもあって努力が好きと思われがちだが、普段の奏真を知る人からはむしろよく受験をがんばれたなと思われている。
この高校を選んだのは寮に入っているとはいえ実家から近いからだ。家が好きというのも多少あるが、一番の理由は昔から好きな店が家周辺にいくつかあるからである。和菓子屋だったり洋菓子店だったり総菜屋だったり店の種類は様々だが、どれも通える範囲にあるこの高校は見逃せなかった。
そういう奏真なので、基本的に食べ物と部活以外、周りのことに興味ない。テレビもほぼ見ない。それもあって、葵のことも全然知らなかった。
今、その知らなかった芸能人に何故かつきまとわれている。最初は奏真と出会ったのは偶然ながらも、剛と友人だから接してくる機会が多いのかと何となく思っていた。だがそれは違ったようだ。
「何でこの俺があいつと友だちなんだよっ? 冗談じゃねえ」
「じゃあ何で部屋に来んの」
「はあ? お前に会いに来てんだろが」
何を当たり前のことをといった風に言われ、奏真は首を傾げた。今の内容のどこに当たり前なことがあっただろうか。それとも当たり前といった言い方に聞こえたが奏真の勘違いで、実は今から説明を始めるぞといった合図だったのだろうか。
だがその後に説明が続かないどころか「また無表情そうなくせにそんな怪訝な顔しやがる」と今度は呆れた顔された。
当然といった顔も、呆れた顔もされるいわれはない。ただ、反論するのも面倒なので奏真はまた携帯電話に意識を戻した。
携帯電話もSNSはほぼやらない。兄や剛からの連絡に気が向けば答える程度で、自分から発信することはない。ネットも今見ていたグルメイベントなどの情報を検索するくらいで、芸能どころか基本的なニュースすら見ることない。
「てめ、また無視かよ。おい、聞いてんのか? つかネットするなら俺の情報見ろ」
そして葵はとりあえず煩い。
「……」
「お? ようやく俺と向き合う……」
「煩い」
「ぁあっ? ……ん、そこ行きたいのか? 連れていってやろーか? 俺の車で。……いや、事務所の車だが……」
得意げに「俺の車」と言った後に何故か微妙な顔をして「事務所の車」と言いかえてきたのはよくわからないが、奏真は「行く」と即答した。電車より楽に行けるにこしたことない。
「じゃあ明後日な。その日なら俺は午後まで仕事だが、放課後迎えに来てやれる」
「平日は部活あるから無理」
「……は? 部活っておま……俺が迎えに来て、そんで俺の……じゃなくて事務所の車で行けるんだぞ?」
「部活あるから。やっぱり週末、ひとりで行く」
「俺と部活どっちが大事なんだ!」
「部活」
「はぁぁぁっ?」
「……うるさ……」
こんな調子で、やたらとどこかへ誘ってきたり、それを断ると怒る。何故つきまとわれているのか、基本的に物事に興味がなくともさすがに気になってくる。
「……穂村くん」
ある日もまた部屋へやって来た葵に、奏真はとうとう聞くことにした。
「葵」
「?」
「名字じゃなくて名前で呼べっつってんだろ」
「親しい人じゃないのに……?」
「おま……そろそろ俺でも泣くぞ?」
何を言っているのだろう、この芸能人。
「それより穂村くん、聞き……」
「葵」
「……」
「あ、お、い」
これでは埒あかない。
「……葵くん」
「呼び捨て」
「……、……葵」
「よし」
本当に面倒だなと思いつつも話が進まないので渋々言えば、思いの外満面の笑みが返ってきて奏真は少し驚いた。
「で、何だよ」
「え……? ああ。何であんた、俺につきまとうの?」
だがそう聞くと、またすぐにムッとした顔を向けてきた。
奏真の身長百七十センチに対して体重は五十五キロくらいだったかと思う。よく食べているわりに太らないのは部活のお陰かもしれない。一見、スポーツしなさそうに見えるらしいし、奏真も特に運動が好きとは言い切れないが、とにかく走ることは好きだと言えた。
ただし、特別速いというわけではない。短距離の記録はあまり計ったことがないがおそらく普通だと思われる。ずっとやっているのもあり長距離走が楽しく思えるというだけだ。有酸素運動でもあるので太らないのかもしれない。
長距離走の場合、筋肉中にある遅筋組織というものの割合が多く、体内の糖分を燃料にして筋繊維を動かす。要は有酸素運動だ。一本の筋繊維も細く、筋肉の質がとてもしなやかで柔らかい。長時間に渡って持続的なパワーを維持する性質を持っている。
それとともに、長距離選手はなるべくエネルギー消耗を抑えるため余計な脂肪や筋肉を走りこみで落とす。結果、体重が軽く、細い人が多い。おそらく奏真もそうだ。
とはいえ、別に奏真は難しいことは何も考えていない。というか考える頭を特に持ち合わせていない。ただ好きだから走っているだけだ。
頭はそんなによくない。悪くもない。見た目と同じく普通レベルだ。がんばればどうにかなるかもしれないのは今の高校に入れたことで証明しているかもしれないが、あまりがんばる気力もない。部活から奏真を知った人には長距離走者なのもあって努力が好きと思われがちだが、普段の奏真を知る人からはむしろよく受験をがんばれたなと思われている。
この高校を選んだのは寮に入っているとはいえ実家から近いからだ。家が好きというのも多少あるが、一番の理由は昔から好きな店が家周辺にいくつかあるからである。和菓子屋だったり洋菓子店だったり総菜屋だったり店の種類は様々だが、どれも通える範囲にあるこの高校は見逃せなかった。
そういう奏真なので、基本的に食べ物と部活以外、周りのことに興味ない。テレビもほぼ見ない。それもあって、葵のことも全然知らなかった。
今、その知らなかった芸能人に何故かつきまとわれている。最初は奏真と出会ったのは偶然ながらも、剛と友人だから接してくる機会が多いのかと何となく思っていた。だがそれは違ったようだ。
「何でこの俺があいつと友だちなんだよっ? 冗談じゃねえ」
「じゃあ何で部屋に来んの」
「はあ? お前に会いに来てんだろが」
何を当たり前のことをといった風に言われ、奏真は首を傾げた。今の内容のどこに当たり前なことがあっただろうか。それとも当たり前といった言い方に聞こえたが奏真の勘違いで、実は今から説明を始めるぞといった合図だったのだろうか。
だがその後に説明が続かないどころか「また無表情そうなくせにそんな怪訝な顔しやがる」と今度は呆れた顔された。
当然といった顔も、呆れた顔もされるいわれはない。ただ、反論するのも面倒なので奏真はまた携帯電話に意識を戻した。
携帯電話もSNSはほぼやらない。兄や剛からの連絡に気が向けば答える程度で、自分から発信することはない。ネットも今見ていたグルメイベントなどの情報を検索するくらいで、芸能どころか基本的なニュースすら見ることない。
「てめ、また無視かよ。おい、聞いてんのか? つかネットするなら俺の情報見ろ」
そして葵はとりあえず煩い。
「……」
「お? ようやく俺と向き合う……」
「煩い」
「ぁあっ? ……ん、そこ行きたいのか? 連れていってやろーか? 俺の車で。……いや、事務所の車だが……」
得意げに「俺の車」と言った後に何故か微妙な顔をして「事務所の車」と言いかえてきたのはよくわからないが、奏真は「行く」と即答した。電車より楽に行けるにこしたことない。
「じゃあ明後日な。その日なら俺は午後まで仕事だが、放課後迎えに来てやれる」
「平日は部活あるから無理」
「……は? 部活っておま……俺が迎えに来て、そんで俺の……じゃなくて事務所の車で行けるんだぞ?」
「部活あるから。やっぱり週末、ひとりで行く」
「俺と部活どっちが大事なんだ!」
「部活」
「はぁぁぁっ?」
「……うるさ……」
こんな調子で、やたらとどこかへ誘ってきたり、それを断ると怒る。何故つきまとわれているのか、基本的に物事に興味がなくともさすがに気になってくる。
「……穂村くん」
ある日もまた部屋へやって来た葵に、奏真はとうとう聞くことにした。
「葵」
「?」
「名字じゃなくて名前で呼べっつってんだろ」
「親しい人じゃないのに……?」
「おま……そろそろ俺でも泣くぞ?」
何を言っているのだろう、この芸能人。
「それより穂村くん、聞き……」
「葵」
「……」
「あ、お、い」
これでは埒あかない。
「……葵くん」
「呼び捨て」
「……、……葵」
「よし」
本当に面倒だなと思いつつも話が進まないので渋々言えば、思いの外満面の笑みが返ってきて奏真は少し驚いた。
「で、何だよ」
「え……? ああ。何であんた、俺につきまとうの?」
だがそう聞くと、またすぐにムッとした顔を向けてきた。
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