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15話
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「何であんた、俺につきまとうの?」
言うに事欠いてそれか。
本気で泣きたくなりそうだと思いながら葵は微妙な顔を奏真へ向けた。
「いくらそう思ってても、普通そのまま口にしなくねーか?」
「……」
無表情そうなのに「何言っているのかわからない」といった顔をしてきたのがわかる。
「だいたい、親しくねーってのも何だよっ? 一緒にふ、風呂まで入った仲だろうが……!」
「あれは本気にするとは思ってなかったし……」
「ぁあ?」
こんなことってあるのだろうか。自分の仕事状況に天狗になっているつもりはない。歌も演技も、まだまだだと日々稽古や練習を欠かさない。体だって細めの引き締めた体を維持すべく努力している。スキンケアすら怠らない。それでも自分は芸能人だと自覚している分、十分な実力と外見を持っている自信もある。
そんな自分と一緒にいて、ちょくちょく好きであろうもの、この場合は食べ物だがそれを貰い、そして風呂まで一緒に入って尚「親しくない」と言ってくる奏真が理解できない。他の誰かなら今の時点で既に親しくないどころか落ちている。むしろ何度もベッド行きだと思う。
いや、でも……と葵は気を取り直した。自分はまだはっきり言葉にしていない。好きだと告げていない。
普通ならそれでも向こうから落ちてくるが、この奏真を普通だと思ってはならないし、そもそも男相手は葵も初めてだ。色々と勝手が違うのかもしれない。
「……何でつきまとうかってな、奏真」
葵は真剣な顔を作った。肩に手を添えながらじっと奏真を見つめる。
「お前が好きだからだよ」
愛しげな目で見つめながら甘く、だが囁くよりは少しだけしっかりとした口調で告げた。
よし、これで完璧だろ。
最高の表情と声で言ったはずだ。いくら男同士でもくらりとくるはずだ。どうだとばかりに奏真を窺うとだが、それこそ無表情で葵を見ている。
「おい、何だよその反応……」
「いや、興味なくて……」
「失礼過ぎるだろ……!」
これはない。これはないだろうっ?
本気で泣きそうな気持ちにとらわれそうだ。告白してそこまで素っ気ない返事をもらうやつなど、一般人ですらあまりいないのでははいだろうか。
「……わかった」
「あ?」
何がわかったというのだろうかと葵は奏真を見る。
「素人の反応が見たいのか」
何の話だ。
「俺ほど素人ってやつはいないだろうし……」
だから何の話だ。
もしかして、と葵は顔が少し赤くなる。まさか芸能人だからというのもあって普通に恋愛をしたことがないと思われているのだろうか。
「俺は別に素人童貞じゃねーぞ……!」
思わず言えば、思い切り怪訝な顔をされた。
「……何の話……?」
「それはこっちのセリフなんだよ……!」
「……? あんたは演技の練習相手になれって言いたいんだろ……」
「……は?」
興味ない──
素人の反応──
演技の練習相手──
……こいつ、まさかさっきの告白を演技だと思ってやがる……っ?
「俺、演技とかにほんと興味ないけど……だいたい何で俺なの……それこそごうのほうがいいんじゃない?」
よし、泣こう。
実際は泣かなかったが、葵は痙攣でも起こしそうな口元を一旦引き締めると奏真を睨んだ。
「何でそうなんだよ……!」
「だってごうのほうが多分演技しやすい」
そこじゃない。
葵はため息が出た。こんなに上手くいかないことなど今までなかった気がする。デビューする時ですらもっと簡単だったような気がする。
だが、とふと気づいた。演技の練習と思っているならいるで、都合いいこともあるのではないだろうか。
もちろん、一番いいのは告白を告白として受け止めてもらい、気持ちを返してもらうことだ。だが間違いなく今の奏真は葵に興味ない。これだけは間違えようない。興味ないからこそ、いくら演技と思っていても気合いの入れた告白にも素でいられるのだろう。
だったら、練習だと勘違いしたままでも今はいいのではないだろうか。
後から考えたら「いや、よくねーだろ」と自分に突っ込みを入れていただろうが、なにぶん葵も奏真の素っ気なさすぎる対応に思ったより傷ついていた。
「……お前のその反応が面白いから新鮮なんだよ。練習、これからもつき合え。そしたらまた美味いもんいくらでも持ってきてやる」
「……あまり面倒なのは嫌」
「……りょーかい」
葵はニッコリ微笑んだ。そして奏真を引き寄せる。
「……何の役」
「好きっつっただろ。俺は今まで女としかつき合ってきてねーのに男を好きになって戸惑ってんだよ」
少なくとも今は何も嘘は言っていない。
「……戸惑いつつも、相手につき合ってもらいたいと思ってる。……あー、そういう感じを練習したいためのエチュードだ。だから台本はない」
顔を近づけた。
「エチュード……?」
「即興劇のこと」
「俺はどうしたらいいの」
赤くもならなければ淡々としたままの奏真に葵はため息がまた出そうだった。このままキスしてやろうかとさえ思う。
「……もしかしたら自分も好きになるかもしれない。その前提で自由に対応してくれ」
「……無理過ぎる」
「次、ここに来る時は六甲堂の豆大福」
「……あんまくっつかないで」
豆大福の言葉に、奏真が地なのか演技なのか、言葉を返してきた。
「無理。本当にお前が好きなんだ。考えてみてくれ」
そう言いながら葵はぎゅっと奏真を抱きしめる。裸まで既に見ているが、初めて奏真を今葵は抱きしめている。正直ちょっと感動した。相手がどうにもままならない奏真だからだろうか。
男だからもっとゴツゴツしていると何となく思っていた。だが案外そうでもない。柔らかいとは言えないが、奏真だからだろうか。華奢な感じが悪くない。
好きな相手を抱きしめることがこんなに嬉しくて気持ちいいとは思わなかった。抱きしめられた理由が不純だが、それでも今はよしとする。
「俺はやっぱ即興だろうが何だろうが演技無理。あんたが勝手に演じたらいいよ……俺が何も反応できなくてもいいならだけど」
後で奏真に言われ、そろそろどんなことでも嬉しく思えそうになっている葵は「……それはそれで好きにできるのでは?」と思わず舞い上がり「かしこまりました!」と言いそうになった。
言うに事欠いてそれか。
本気で泣きたくなりそうだと思いながら葵は微妙な顔を奏真へ向けた。
「いくらそう思ってても、普通そのまま口にしなくねーか?」
「……」
無表情そうなのに「何言っているのかわからない」といった顔をしてきたのがわかる。
「だいたい、親しくねーってのも何だよっ? 一緒にふ、風呂まで入った仲だろうが……!」
「あれは本気にするとは思ってなかったし……」
「ぁあ?」
こんなことってあるのだろうか。自分の仕事状況に天狗になっているつもりはない。歌も演技も、まだまだだと日々稽古や練習を欠かさない。体だって細めの引き締めた体を維持すべく努力している。スキンケアすら怠らない。それでも自分は芸能人だと自覚している分、十分な実力と外見を持っている自信もある。
そんな自分と一緒にいて、ちょくちょく好きであろうもの、この場合は食べ物だがそれを貰い、そして風呂まで一緒に入って尚「親しくない」と言ってくる奏真が理解できない。他の誰かなら今の時点で既に親しくないどころか落ちている。むしろ何度もベッド行きだと思う。
いや、でも……と葵は気を取り直した。自分はまだはっきり言葉にしていない。好きだと告げていない。
普通ならそれでも向こうから落ちてくるが、この奏真を普通だと思ってはならないし、そもそも男相手は葵も初めてだ。色々と勝手が違うのかもしれない。
「……何でつきまとうかってな、奏真」
葵は真剣な顔を作った。肩に手を添えながらじっと奏真を見つめる。
「お前が好きだからだよ」
愛しげな目で見つめながら甘く、だが囁くよりは少しだけしっかりとした口調で告げた。
よし、これで完璧だろ。
最高の表情と声で言ったはずだ。いくら男同士でもくらりとくるはずだ。どうだとばかりに奏真を窺うとだが、それこそ無表情で葵を見ている。
「おい、何だよその反応……」
「いや、興味なくて……」
「失礼過ぎるだろ……!」
これはない。これはないだろうっ?
本気で泣きそうな気持ちにとらわれそうだ。告白してそこまで素っ気ない返事をもらうやつなど、一般人ですらあまりいないのでははいだろうか。
「……わかった」
「あ?」
何がわかったというのだろうかと葵は奏真を見る。
「素人の反応が見たいのか」
何の話だ。
「俺ほど素人ってやつはいないだろうし……」
だから何の話だ。
もしかして、と葵は顔が少し赤くなる。まさか芸能人だからというのもあって普通に恋愛をしたことがないと思われているのだろうか。
「俺は別に素人童貞じゃねーぞ……!」
思わず言えば、思い切り怪訝な顔をされた。
「……何の話……?」
「それはこっちのセリフなんだよ……!」
「……? あんたは演技の練習相手になれって言いたいんだろ……」
「……は?」
興味ない──
素人の反応──
演技の練習相手──
……こいつ、まさかさっきの告白を演技だと思ってやがる……っ?
「俺、演技とかにほんと興味ないけど……だいたい何で俺なの……それこそごうのほうがいいんじゃない?」
よし、泣こう。
実際は泣かなかったが、葵は痙攣でも起こしそうな口元を一旦引き締めると奏真を睨んだ。
「何でそうなんだよ……!」
「だってごうのほうが多分演技しやすい」
そこじゃない。
葵はため息が出た。こんなに上手くいかないことなど今までなかった気がする。デビューする時ですらもっと簡単だったような気がする。
だが、とふと気づいた。演技の練習と思っているならいるで、都合いいこともあるのではないだろうか。
もちろん、一番いいのは告白を告白として受け止めてもらい、気持ちを返してもらうことだ。だが間違いなく今の奏真は葵に興味ない。これだけは間違えようない。興味ないからこそ、いくら演技と思っていても気合いの入れた告白にも素でいられるのだろう。
だったら、練習だと勘違いしたままでも今はいいのではないだろうか。
後から考えたら「いや、よくねーだろ」と自分に突っ込みを入れていただろうが、なにぶん葵も奏真の素っ気なさすぎる対応に思ったより傷ついていた。
「……お前のその反応が面白いから新鮮なんだよ。練習、これからもつき合え。そしたらまた美味いもんいくらでも持ってきてやる」
「……あまり面倒なのは嫌」
「……りょーかい」
葵はニッコリ微笑んだ。そして奏真を引き寄せる。
「……何の役」
「好きっつっただろ。俺は今まで女としかつき合ってきてねーのに男を好きになって戸惑ってんだよ」
少なくとも今は何も嘘は言っていない。
「……戸惑いつつも、相手につき合ってもらいたいと思ってる。……あー、そういう感じを練習したいためのエチュードだ。だから台本はない」
顔を近づけた。
「エチュード……?」
「即興劇のこと」
「俺はどうしたらいいの」
赤くもならなければ淡々としたままの奏真に葵はため息がまた出そうだった。このままキスしてやろうかとさえ思う。
「……もしかしたら自分も好きになるかもしれない。その前提で自由に対応してくれ」
「……無理過ぎる」
「次、ここに来る時は六甲堂の豆大福」
「……あんまくっつかないで」
豆大福の言葉に、奏真が地なのか演技なのか、言葉を返してきた。
「無理。本当にお前が好きなんだ。考えてみてくれ」
そう言いながら葵はぎゅっと奏真を抱きしめる。裸まで既に見ているが、初めて奏真を今葵は抱きしめている。正直ちょっと感動した。相手がどうにもままならない奏真だからだろうか。
男だからもっとゴツゴツしていると何となく思っていた。だが案外そうでもない。柔らかいとは言えないが、奏真だからだろうか。華奢な感じが悪くない。
好きな相手を抱きしめることがこんなに嬉しくて気持ちいいとは思わなかった。抱きしめられた理由が不純だが、それでも今はよしとする。
「俺はやっぱ即興だろうが何だろうが演技無理。あんたが勝手に演じたらいいよ……俺が何も反応できなくてもいいならだけど」
後で奏真に言われ、そろそろどんなことでも嬉しく思えそうになっている葵は「……それはそれで好きにできるのでは?」と思わず舞い上がり「かしこまりました!」と言いそうになった。
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