ドラマのような恋を

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16話

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「風呂、出たよ」

 奏真が声をかけると、今までテーブルの椅子に座って携帯電話を見ていた相手がどこか少し困った顔で見上げてくる。そして開いた口を閉じ、また意を決したかのように開いてきた。

「そーま……」

 あのさ、と言いづらそうにしている様子に奏真は首を傾げた。

「何、ごう」
「……あの、ひょっとして……いや、その、あの……」

 こんな剛は珍しい。奏真は黙ったままポカンと剛を見続けた。

「……あー……お前、な? その、……お前、お前と穂村ってつき合ってんの……っ?」

 だがあまりに予想外のことを言われ、奏真は引き続きポカンとした。

「あ、いや、聞いても別に言いふらしたりとかしないぞ? 黙ってるし。ただな、心配なのとその、意外なのとで、な……」
「意味わからない」
「え? あれ? つき、合って……?」
「ない」

 何故つき合っていると思ったのか、奏真には謎過ぎた。男同士だからというより、そもそも奏真がそういうことに興味がないことを知っていそうなものなのにと怪訝に思う。

「あ、そうなのか……。お前と穂村、最近よく一緒にいるしほら、何かこう、妙に近い時とかあるだろ……? 前に風呂まで一緒に入ってたし」
「男同士なんだから風呂くらい別にどうってことない……」
「いや、あんな狭い風呂には俺ならあまり一緒に入りたくないかな……邪魔だしむさ苦しい。そりゃ芸能人はまた違うかもだけど」

 剛が微妙な顔している。

「別に何とも思わないけど。あと近いってのは多分演技してる時だと思う……」
「は? 演技?」

 奏真はコクリと頷いた。

「え、いや。演技って何」
「……練習、したいんだってさ」
「別にそーま相手じゃなくても……っていうかそーまだと練習相手にならないだろ」

 基本的には近所のお兄ちゃん的な感じで奏真に甘い剛だが、こういうところはストレートだ。歯に衣を着せない。これが実の兄である奏一朗だとおそらく「さすが俺のかわいい弟」と、演技など何一つできない奏真を無駄なくらい褒めてくる。

「素人の反応見たり、どんな素人相手でも対応できるようにって練習らしい」
「な、なるほ、ど……? まぁ、いいや……とにかくつき合ってはいないんだな」

 剛の言葉に奏真はまたコクリと頷く。

「そうか。ならうん、いいんだ」

 剛がニッコリ微笑む。

「何が?」
「本当に、何がいいんだ? てめ、まさか奏真狙ってんじゃねーだろうな?」
「っは?」

 剛が引いたような顔した。奏真も怪訝な顔を向ける。そこにはいつの間にか葵がいた。

「穂村、いつの間に……どうやって入っ」
「穂村、さん、だろが」
「……はぁ。……穂村さん、どうやって入ったんだよ」
「鍵開いてたけど」
「あー……。にしても普通勝手に入って来ないだろ」
「うるせーな。俺ほど誰にでも顔が知られてて不審者からほど遠いやついねーだろーが。つか質問に答えろよ」
「質問?」
「お前、奏真狙ってんの?」
「は……、いやいや、そーまは幼馴染みだし。っていうか男だし」
「んなもん、狙ってねえ理由になんねーよ」
「ならないって言われても……っていうか穂村、……さんってひょっとしなくてもそーまのこと……」

 剛が困った顔している。普段から剛には世話になっている上に、何と言っても幼馴染みだ。助けてあげたいのは奏真としても山々だが、何から助ければいいのかわからない。いや、葵からとはわかるが、葵が何に対して文句を言っているのかがよくわからない。
 狙っている、とは。ふと、昔に奏一朗と剛とで行った祭りのことを思い出した。そこに「射的」というのがあった。景品を狙って射つゲームだ。

「俺、撃たれる謂れはないけど」
「お前は何の話だよっ?」
「そーま……射的じゃないから」

 剛が微妙な顔のまま笑ってきた。葵は大抵何言っているのかわからない上に奏真が言っていることもわかってくれない。その点、剛はそこそこわかってくれるので楽だと思う。
 じっと葵を見れば、何故か一瞬怯むような表情をしてきた。やはりよくわからない人だなと奏真は思う。

「何だよ」
「穂……葵は面倒臭いと思う」
「何でだよ……!」

 ムッとした後に葵はため息ついてきた。そして奏真をじっと見てくる。

「こいつと俺、どっちが好きなんだ」

 やはりわからない。

「……質問の意味わからないけど、どっちかと言われればつき合いの長いごうが好きだ」
「ぁあ?」

 思ったことを告げれば、葵が今度は剛のほうを向いた。

「ちょ、また面倒事が」

 奏真からは見えないが、葵の表情を見た剛がまた困ったような微妙そうな顔している。

「とりあえずごう。お風呂、空いたから。俺、買ってきた雑誌読むから部屋引っ込む」
「あー……うん。でも穂村、さんも一緒に連れてって」
「え、何で」
「いや、だって俺と二人にさせないで。もしくは穂村……さん、帰って」
「時間作ってわざわざ来てるってのに帰るかよ!」
「じゃあもう別に構わないんで、そーまの部屋へ一緒に行ってくれ……それこそ有名なあんたならまぁ、無茶や酷いことはしないだろうし」
「ごう、何の話……」

 とうとう剛までよくわからないことを言い出したと奏真が言う横で、葵が「あ、当たり前だろうが! この俺を何だと思ってんだよ、つかお前はあんたなんて俺を呼ぶな」と憤慨しつつ顔を赤くしていた。
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