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17話
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これからしばらくのスケジュールを思い、葵はため息ついた。もちろん仕事は大事だし好きだ。葵の最優先事項でもある。ただ、二ヶ月近くも奏真に会えなくなる。
「何度見てもスケジュールは変わらねーよ?」
風太がニコニコ言ってくる。実は非公開で一般人である彼女がいる風太は「お仲間」とばかりに葵にちょっかいかけてくる。
「るせえ。だいたいお前はツアー中、またうぜーくらいに連絡取んだろ、女に」
「そりゃそーだよ。エンは? まーくんとイチャイチャ電話すんの?」
「……わかってて言ってんだろ、てめ」
イライラと葵が睨んでも風太はどこ吹く風で、すでに差し入れの菓子を食べることに気が行っている。
イチャイチャどころか、と葵は舌打ちした。食い過ぎて太りやがれと風太に呪いかけた後、葵はまたスケジュール帳を睨んだ。
全国ツアーがある。何度見ても日程は変わらない。二ヶ月近くもあちこちを回らなくてはならない。
「おい、ジャム乗ってるやつ、ねーじゃねぇかよ」
葵が深刻に考えごとしているというのに、傍らではどうでもいいことにムキになっているやつがいる。ジャムといっても即興で演奏したりするジャムセッションのことでは当然、ない。
「カンジってジャムつきのクッキーが好きなんだっけ」
風太がニコニコ言っている横で丁度ジャムつきクッキーを口の中へ放り込んだ厳が微妙な顔で固まった。
「あ、てめぇ、俺のジャムのやつとってんじゃねぇよ!」
「別にカンジのってわけじゃないでしょ」
呆れたように笑っている翠を無視して、柑治は手を伸ばし厳の胸ぐらをつかんだ。そのまま自分の方へ引き寄せる。何されるか厳が理解する前に顔を近づけ、柑治は唇を合わせ舌を入れる。そして唖然と、というよりドン引きしている厳の口内からクッキーを奪い取り、ニヤリと笑った。
唇に手の甲を当て、「ほんとお前、最悪だな」と厳がますます微妙な顔で柑治を睨んでいる。
「俺のジャムのやつ、食うからだろ」
「ざけんな、どこにもお前の名前なんて書いてねーだろが」
「自分のもんには名前書くとかゴン、てめ、小学生かよ、ウケる」
「ぁあ?」
「はいはい、煩いよ。いい加減にしなね。言い合ってるほうが小学生みたいだから。あとカンジ、お前のなんて決まりはないからね?」
ニッコリ柑治を見る翠はやはり優しそうに見えるが、そこはかとなく怖い。柑治は「るせぇ」と顔を逸らしているが、見ていた葵はとりあえずほんのり翠から距離を取った。
だいたいこいつらのせいでもある、と葵は苛立たしげに思った。
芸能界には色んな性癖の人がいるから慣れている、というのもある。だがInfinityのメンバーたちの距離感がおかしいのも、葵の性的な境界線が曖昧になった原因ではないだろうかと思わざるを得ない。厳に深いキスもどきをやらかした柑治も別にゲイではない。された厳もだし、叱っている翠もそうだ。風太は言わずもがな。
周りがこんなで、むしろ未だに奏真に対してキスすらしていない自分を褒めたいくらいだと葵は思う。
ただ、二ヶ月は長い。正確には一ヶ月と二週間だが、長すぎる。奏真のことだ、ツアーを終えて葵が会いに行けば「……誰?」などと言いかねない。
葵は改めてスケジュールを確認した。ツアーまでにまだ少しだけ日はある。ツアーがあるため、しばらくはドラマやバラエティーなどの収録はあまりない。ツアーの合間に多少は入っているものの、始まるまではとりあえずなかった。
「……どっか出かけたいとことかねーのかよ」
翌日、また寮へおしかけた葵が奏真に聞くと「別にない」と即答された。
「クソが。……お前が好きそうなフードフェス的なのでもか?」
「どこ?」
「ここだ。明日明後日の土日に開催されるご当地どんぶり対決ってやつ」
「……見逃してた。チケットない」
「別に当日券でも行けんだろ。行くか?」
「行く」
「よし」
ニヤリと葵は笑った。開催地はここからだと日帰りは辛うじてできないことはない、という場所だ。朝は早くから出たらいいとして、ゆっくり過ごせば面倒がりの奏真なら帰るよりは泊まって行こうという葵の提案にサラリと頷くだろう。ホテルは先におさえてある。
別に奏真を襲おうと思ってなどいない。葵は有名人だ。些細なことですら問題になる。犯罪者のレッテルを貼られるつもりはない。
ただ、一晩ゆっくり奏真と過ごしたいだけだ。普段だと、どうしても時間が圧倒的に足りない。主に葵の仕事が多いからではあるが、たまに時間を見つけても「部活がある」「どこそこに食べに行く」と何度も断られている。
……これならさすがに俺と二人きりで過ごさざるを得ないだろ。
その後、奏真は剛に「明日この人とここに行ってくる」とそわそわしながら携帯電話の画面を見せていた。
「ちょっと遠くない?」
「朝、早くから出るから大丈夫」
「あー……。……、うん、そうだろな。でもそーま、起きられるのか?」
「ごう、起こして」
「え、嫌だよ、寝させてよ」
相変わらず葵からしたらイチャイチャしているようにすら見える。基本的に素っ気ない奏真が多少なりとも剛になついてそうに見えるせいだろうとわかってはいるが、とてつもなく気に食わない。
だが、残念だな、清田の野郎よ。明日、明後日は俺が奏真を独占だ。
そんな風に、実際剛からすれば思い違いも甚だしいことを葵が考えていると、その剛が葵をじっと見ていることに気づいた。
「何だよ」
「……そーまに変なこと、あまりしないでやってくれよ」
「は、はぁっ? てめえこそ変な想像は止めろ、クソが!」
心配そうな剛に対し、少し顔が熱くなるのを感じながら葵は思い切り睨み付けた。
「何度見てもスケジュールは変わらねーよ?」
風太がニコニコ言ってくる。実は非公開で一般人である彼女がいる風太は「お仲間」とばかりに葵にちょっかいかけてくる。
「るせえ。だいたいお前はツアー中、またうぜーくらいに連絡取んだろ、女に」
「そりゃそーだよ。エンは? まーくんとイチャイチャ電話すんの?」
「……わかってて言ってんだろ、てめ」
イライラと葵が睨んでも風太はどこ吹く風で、すでに差し入れの菓子を食べることに気が行っている。
イチャイチャどころか、と葵は舌打ちした。食い過ぎて太りやがれと風太に呪いかけた後、葵はまたスケジュール帳を睨んだ。
全国ツアーがある。何度見ても日程は変わらない。二ヶ月近くもあちこちを回らなくてはならない。
「おい、ジャム乗ってるやつ、ねーじゃねぇかよ」
葵が深刻に考えごとしているというのに、傍らではどうでもいいことにムキになっているやつがいる。ジャムといっても即興で演奏したりするジャムセッションのことでは当然、ない。
「カンジってジャムつきのクッキーが好きなんだっけ」
風太がニコニコ言っている横で丁度ジャムつきクッキーを口の中へ放り込んだ厳が微妙な顔で固まった。
「あ、てめぇ、俺のジャムのやつとってんじゃねぇよ!」
「別にカンジのってわけじゃないでしょ」
呆れたように笑っている翠を無視して、柑治は手を伸ばし厳の胸ぐらをつかんだ。そのまま自分の方へ引き寄せる。何されるか厳が理解する前に顔を近づけ、柑治は唇を合わせ舌を入れる。そして唖然と、というよりドン引きしている厳の口内からクッキーを奪い取り、ニヤリと笑った。
唇に手の甲を当て、「ほんとお前、最悪だな」と厳がますます微妙な顔で柑治を睨んでいる。
「俺のジャムのやつ、食うからだろ」
「ざけんな、どこにもお前の名前なんて書いてねーだろが」
「自分のもんには名前書くとかゴン、てめ、小学生かよ、ウケる」
「ぁあ?」
「はいはい、煩いよ。いい加減にしなね。言い合ってるほうが小学生みたいだから。あとカンジ、お前のなんて決まりはないからね?」
ニッコリ柑治を見る翠はやはり優しそうに見えるが、そこはかとなく怖い。柑治は「るせぇ」と顔を逸らしているが、見ていた葵はとりあえずほんのり翠から距離を取った。
だいたいこいつらのせいでもある、と葵は苛立たしげに思った。
芸能界には色んな性癖の人がいるから慣れている、というのもある。だがInfinityのメンバーたちの距離感がおかしいのも、葵の性的な境界線が曖昧になった原因ではないだろうかと思わざるを得ない。厳に深いキスもどきをやらかした柑治も別にゲイではない。された厳もだし、叱っている翠もそうだ。風太は言わずもがな。
周りがこんなで、むしろ未だに奏真に対してキスすらしていない自分を褒めたいくらいだと葵は思う。
ただ、二ヶ月は長い。正確には一ヶ月と二週間だが、長すぎる。奏真のことだ、ツアーを終えて葵が会いに行けば「……誰?」などと言いかねない。
葵は改めてスケジュールを確認した。ツアーまでにまだ少しだけ日はある。ツアーがあるため、しばらくはドラマやバラエティーなどの収録はあまりない。ツアーの合間に多少は入っているものの、始まるまではとりあえずなかった。
「……どっか出かけたいとことかねーのかよ」
翌日、また寮へおしかけた葵が奏真に聞くと「別にない」と即答された。
「クソが。……お前が好きそうなフードフェス的なのでもか?」
「どこ?」
「ここだ。明日明後日の土日に開催されるご当地どんぶり対決ってやつ」
「……見逃してた。チケットない」
「別に当日券でも行けんだろ。行くか?」
「行く」
「よし」
ニヤリと葵は笑った。開催地はここからだと日帰りは辛うじてできないことはない、という場所だ。朝は早くから出たらいいとして、ゆっくり過ごせば面倒がりの奏真なら帰るよりは泊まって行こうという葵の提案にサラリと頷くだろう。ホテルは先におさえてある。
別に奏真を襲おうと思ってなどいない。葵は有名人だ。些細なことですら問題になる。犯罪者のレッテルを貼られるつもりはない。
ただ、一晩ゆっくり奏真と過ごしたいだけだ。普段だと、どうしても時間が圧倒的に足りない。主に葵の仕事が多いからではあるが、たまに時間を見つけても「部活がある」「どこそこに食べに行く」と何度も断られている。
……これならさすがに俺と二人きりで過ごさざるを得ないだろ。
その後、奏真は剛に「明日この人とここに行ってくる」とそわそわしながら携帯電話の画面を見せていた。
「ちょっと遠くない?」
「朝、早くから出るから大丈夫」
「あー……。……、うん、そうだろな。でもそーま、起きられるのか?」
「ごう、起こして」
「え、嫌だよ、寝させてよ」
相変わらず葵からしたらイチャイチャしているようにすら見える。基本的に素っ気ない奏真が多少なりとも剛になついてそうに見えるせいだろうとわかってはいるが、とてつもなく気に食わない。
だが、残念だな、清田の野郎よ。明日、明後日は俺が奏真を独占だ。
そんな風に、実際剛からすれば思い違いも甚だしいことを葵が考えていると、その剛が葵をじっと見ていることに気づいた。
「何だよ」
「……そーまに変なこと、あまりしないでやってくれよ」
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心配そうな剛に対し、少し顔が熱くなるのを感じながら葵は思い切り睨み付けた。
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