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18話
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葵としては二人きりで出かけた先のイベントだし、デートということでゆっくり楽しめたらいいなと思っていた。別にキャッキャウフフといった風に過ごしたいと思っていない。お互い男だというだけでなく、そもそも葵がそういったつき合い方は無理だ。
ただ、奏真の食に対する欲を舐めていた。
「……まだ食うのかよ」
既に何食、奏真がどんぶりを食べているのかわからなくなっている。いくら器が通常より小ぶりとはいえ、少なくともそこに入っている食品の半分は米だ。そんなに炭水化物ばかりとれるかよと、葵は早々に遠慮させてもらっている。
だが奏真は留まることを知らないかのように食べ続けている。むやみやたらにというわけではなく、ちゃんと熟考して「さっきのとこれではどちらが美味しいか」を真剣に考えて投票している。
葵の言葉にはただ黙ってコクリと頷いてきた。ゆっくりイベントを楽しむという考えは甘かったようだ。デートどころではない。
……まぁ、こいつは楽しんでそうだし、いいけどさ。
とりあえず諦めたように葵はため息ついた。
「だからといって気持ち悪くなるまで食わなくてもいいだろが!」
その後イベントが終わり、会場にあるベンチで口を押さえている奏真には突っ込まざるを得なかった。
「……全部食べられなかった、悔しい……」
「おま、そのやる気はもっと普段の生活に取り入れろよ……」
普段の奏真は基本的にやる気が感じられないし投げやりにさえ見える。
しばらくそこに座っていたが、たまにチラチラ見られることに葵は気づいた。一応変装として帽子と眼鏡はしているし地味な格好もしているのだが、気づかれる可能性はある。葵一人なら別に気づかれてもちょっとしたファンサービスするが、今日は奏真とせっかく二人でいるのだ。気づかれたくない。
「おい、ちょっと動けるか? あまり注目浴びたくねーんだ」
無理やり催促はしたくないがと思いながら聞けば、奏真は「うん」と立ち上がった。
「大丈夫かよ。トイレ行くか?」
「いい、大丈夫……ここから離れよう」
「お、おぉ」
「バレそうなんだろ」
ぼそりと言ってきた奏真の言葉に、葵は黙ったまま目を見開いた。
食べ物や部活以外に全然興味なく、おまけに葵のことは知らない上に中々覚えてくれなかった。そんな奏真が今の状況を理解している。あり得なさに、軽率に感動しそうだった。そういう気遣いできることが意外過ぎて、軽率に抱きしめそうになった。
会場を出ると葵は「キツいんだろ、このまま帰るよりは休んだほうがいいだろ」と提案した。元々そのつもりではあったが、今は純粋にそう思っての提案だった。とはいえ計らずとも予定通りになったことになる。奏真はコクリと頷いてきた。
「……腹が苦しいからって休むような場所じゃない……」
予定していたホテルまでは幸い近かったため、頑張って歩いてもらった。そのホテルに着いてチェックインを済ませ、エレベーターに入ったところで奏真が呟いてきた。
「んなこと言っても。男同士でビジホやラブホのがおかしいだろが」
「……? いや、俺はカラオケとかネカフェとか……」
んなもん、過りもしなかったわ……!
周りに興味ないくせにいっぱしの普通男子高生みたいなこと言ってんじゃねーよ……!
微妙な顔で葵は奏真を見た。とはいえ確かに男同士ならそれこそ、そっちだろうなと言われて葵も納得する。
部屋に着いて入ってから、葵は取ってつけたように言った。
「カラオケとかネカフェは監視カメラついてんだろが。んなもんに俺は撮されるつもりはねーんだよ」
「あー」
奏真も納得したかのように呟くと、そのままふらふらとベッドまで向かった。そして横になっている。顔色は当初よりましになっている気はするが、まだまだ気分悪そうにしか見えない。
「おい、吐いてくるか? 水飲むか?」
「……いい、しばらくほっといて……」
「わかった」
ベッドに転がっている奏真を放置し、葵はソファーに座って持ってきていたコンサート用のMC台本を読み始めた。
コンサートでは曲を演奏し歌うだけでなくMCトークもある。それらは全てパッケージされていて、それを基本にして開催地に添った内容を葵たちはアドリブを交えて曲の合間などにトークする。それらトークにはちゃんと次の曲や演出に上手く入られるようなキューがあり、音響や照明、映像オペレーターたちはそれらを聞き逃さず操作に繋げている。
適当に話をしているようで、実はそうでもない。また、アドリブもいれていくので覚えればいいというものでもない。とはいえ覚えていなければ何も始まらない。
二人きりのはずがこうして一人で台本を読んでいるわけだが、葵としてはこういった過ごし方であってもそれなりに満足感あった。自分の好きな仕事しながら、傍らに自分の好きな相手がいる。中々にいい時間の過ごし方ではないだろうか。
……その相手は食い過ぎで息も絶え絶えだけどな。
少し微妙な気持ちになりはするが、いつも淡々としている奏真の冷静でない姿とも言えるしなと葵は台本を読みながら少し笑った。
ただ、奏真の食に対する欲を舐めていた。
「……まだ食うのかよ」
既に何食、奏真がどんぶりを食べているのかわからなくなっている。いくら器が通常より小ぶりとはいえ、少なくともそこに入っている食品の半分は米だ。そんなに炭水化物ばかりとれるかよと、葵は早々に遠慮させてもらっている。
だが奏真は留まることを知らないかのように食べ続けている。むやみやたらにというわけではなく、ちゃんと熟考して「さっきのとこれではどちらが美味しいか」を真剣に考えて投票している。
葵の言葉にはただ黙ってコクリと頷いてきた。ゆっくりイベントを楽しむという考えは甘かったようだ。デートどころではない。
……まぁ、こいつは楽しんでそうだし、いいけどさ。
とりあえず諦めたように葵はため息ついた。
「だからといって気持ち悪くなるまで食わなくてもいいだろが!」
その後イベントが終わり、会場にあるベンチで口を押さえている奏真には突っ込まざるを得なかった。
「……全部食べられなかった、悔しい……」
「おま、そのやる気はもっと普段の生活に取り入れろよ……」
普段の奏真は基本的にやる気が感じられないし投げやりにさえ見える。
しばらくそこに座っていたが、たまにチラチラ見られることに葵は気づいた。一応変装として帽子と眼鏡はしているし地味な格好もしているのだが、気づかれる可能性はある。葵一人なら別に気づかれてもちょっとしたファンサービスするが、今日は奏真とせっかく二人でいるのだ。気づかれたくない。
「おい、ちょっと動けるか? あまり注目浴びたくねーんだ」
無理やり催促はしたくないがと思いながら聞けば、奏真は「うん」と立ち上がった。
「大丈夫かよ。トイレ行くか?」
「いい、大丈夫……ここから離れよう」
「お、おぉ」
「バレそうなんだろ」
ぼそりと言ってきた奏真の言葉に、葵は黙ったまま目を見開いた。
食べ物や部活以外に全然興味なく、おまけに葵のことは知らない上に中々覚えてくれなかった。そんな奏真が今の状況を理解している。あり得なさに、軽率に感動しそうだった。そういう気遣いできることが意外過ぎて、軽率に抱きしめそうになった。
会場を出ると葵は「キツいんだろ、このまま帰るよりは休んだほうがいいだろ」と提案した。元々そのつもりではあったが、今は純粋にそう思っての提案だった。とはいえ計らずとも予定通りになったことになる。奏真はコクリと頷いてきた。
「……腹が苦しいからって休むような場所じゃない……」
予定していたホテルまでは幸い近かったため、頑張って歩いてもらった。そのホテルに着いてチェックインを済ませ、エレベーターに入ったところで奏真が呟いてきた。
「んなこと言っても。男同士でビジホやラブホのがおかしいだろが」
「……? いや、俺はカラオケとかネカフェとか……」
んなもん、過りもしなかったわ……!
周りに興味ないくせにいっぱしの普通男子高生みたいなこと言ってんじゃねーよ……!
微妙な顔で葵は奏真を見た。とはいえ確かに男同士ならそれこそ、そっちだろうなと言われて葵も納得する。
部屋に着いて入ってから、葵は取ってつけたように言った。
「カラオケとかネカフェは監視カメラついてんだろが。んなもんに俺は撮されるつもりはねーんだよ」
「あー」
奏真も納得したかのように呟くと、そのままふらふらとベッドまで向かった。そして横になっている。顔色は当初よりましになっている気はするが、まだまだ気分悪そうにしか見えない。
「おい、吐いてくるか? 水飲むか?」
「……いい、しばらくほっといて……」
「わかった」
ベッドに転がっている奏真を放置し、葵はソファーに座って持ってきていたコンサート用のMC台本を読み始めた。
コンサートでは曲を演奏し歌うだけでなくMCトークもある。それらは全てパッケージされていて、それを基本にして開催地に添った内容を葵たちはアドリブを交えて曲の合間などにトークする。それらトークにはちゃんと次の曲や演出に上手く入られるようなキューがあり、音響や照明、映像オペレーターたちはそれらを聞き逃さず操作に繋げている。
適当に話をしているようで、実はそうでもない。また、アドリブもいれていくので覚えればいいというものでもない。とはいえ覚えていなければ何も始まらない。
二人きりのはずがこうして一人で台本を読んでいるわけだが、葵としてはこういった過ごし方であってもそれなりに満足感あった。自分の好きな仕事しながら、傍らに自分の好きな相手がいる。中々にいい時間の過ごし方ではないだろうか。
……その相手は食い過ぎで息も絶え絶えだけどな。
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