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26話
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だから呼ぶのは嫌だったんだ、と結局奏真を呼んでおきながら葵はギリッと奥歯を噛みしめた。
奏真によって葵が奏真を「俺のもの」発言したと知った皆は、一瞬の内に盛り上がっていた。とはいえ翠は控えめに「よく言ったね」と嬉しそうに言ってきただけだ。だがそれがまた居たたまれない。そしてそれを上回る勢いで他が何より鬱陶しい。柑治と風太は忌々しくも大いに爆笑に近い勢いで受けていた。厳に至っては二人のように煩くはないが、よく言うよといった風に引いた様子で葵を見てきた。葵としては厳の反応が地味に一番居たたまれなかった。
今、目の前ではメンバーが奏真を取り囲むようにして、とにかく奏真を見ている。もちろん話しかけもしているが、ひたすら見ているのが葵にもわかった。葵もだが皆、身長があるから囲まれた奏真が埋もれている。
「至って普通だな……」
五人の中では二番目に大人のくせに、ちっとも大人げない柑治が微妙そうに呟いた。てめぇ、と胸ぐらのひとつでもつかみたいところだが、葵もその感想には実際のところ同意しかない。かわいくて仕方なく見えるようになった今でも、見た目は平凡だと葵も思っているし奏真本人にも口にしてしまっている。
ただ、自分以外の人に言われるのは腹が立つ。大人げねえんだよと葵が言う前にだが、厳がそれこそ微妙な顔を柑治へ向けていた。
「カンジ……お前は失礼なんだよ」
「あ? 間違ったこと言ってねーだろが。あと失礼なつもりで言ってねぇ。普通、別にいいだろが。むしろゴンが失礼な風に取ったんだろ」
明らかに思い切り発想が自分主体だろうがと葵でも微妙に思う中、そう言われて厳はぐっと詰まっている。
「お前がそんなつもりだろうが、そもそも言い方が失礼なんだよ、カンジ。初めまして、えっと、奏真くん。周りが煩くてごめんね。俺は翠」
「……いえ。初めまして」
「あっ、俺は風太だよ! 仲よくしてね!」
「は、あ」
「まーくんって何年?」
「え? あー、一年だけど」
「そーなんだ。俺の一個下なんだね! ここ、俺より下いなかったから新鮮ー」
「……はぁ」
「反応に困ってんだろ。だいたいこいつ、メンバーになるわけじゃねーんだからフウタより下だろうが関係ねぇし」
「ゴンゴンは発想がダメ!」
「何で今ので発想のダメ出し食らうんだよ……」
「ごんごん……?」
「……じゃねぇ。厳だ。……まぁ、よろしく」
「はぁ……」
奏真は「普通」と言われたことに関しては全くどうでもよさそうで、とりあえず囲まれての挨拶に少々辟易している様子だった。
「あ、これ……差し入れ……」
葵を見て一瞬ホッとしたような顔をしてきて、それが勘違いだろうが葵は嬉しく思っていると紙袋を差し出された。とりあえず今の表情は、渡しやすい相手がいてホッとしたからではないだろうかと微妙になりながらも、葵は受け取る。
「つか、お前も差し入れとかの発想あんのな」
「そもそもこいつが失礼だろ」
葵の言葉に、背後で柑治がまた何か言っている。それに対しては風太が「そりゃエンだし!」と楽しげに返していた。葵としても「来てくれてありがとう」と言うつもりだったのだが、気づけば口に出ていたのだ。普段はこれでもなるべく考えてものを言おうとしているつもりだが、奏真を前にするとつい考えも疎かになる。
ただ、奏真も特に気にしていないように頷いてきた。
「ごうが持っていけって」
あいつかよ。
内心微妙に忌々しく思いつつ、葵は無言で差し入れの紙袋を章生に手渡した。
「奏真くん、ありがとう。これは今日終わってから、皆に頂いてもらうね」
章生がマネージャーらしくというか大人らしく穏やかに笑みを浮かべながら奏真に告げている。
「おい、別に普通が悪いとか言ってねーからな」
柑治がそれで謝っているつもりかと言いたくなるほど偉そうに奏真をじっと見下ろしていた。だが奏真は特に驚くことも不快そうにすることもなく淡々と答えている。
「ああ、うん。別に俺も気にしてない……いちいち気にするのも面倒だし……」
「あー、それはわかるわ。面倒なのってうぜーもんな」
そして全然似ていない同士だと言うのに変なところで軽く意気投合している。葵がまたイライラと二人を引き離そうとしたら、その前に章生が前に出てきた。
「そろそろ準備しようか。奏真くん、お弁当は後でも大丈夫?」
章生は焦った様子もなく穏やかに時計を見ながら促してくる。ツアーの間、それぞれのマネージャーは交代制で皆の管理をしてくれている。受け持ちしていない日は休みを取っているか別の仕事をこなしていた。
また章生に連れられて、奏真は控え室を出ていった。結局ほとんど話せていない。一応今日、終わってから二人で会えるよう章生に段取りを頼んではいるが、葵は微妙な気持ちになった。
「いや、でもマジで普通だったな」
「カンジてめぇ、普通普通煩いんだよ……!」
まだ言うのかよ葵が睨むも、怯む様子なく葵からすればふてぶてしい顔で柑治は見返してきた。
「でも間違ってねーだろが。俺、もう顔忘れそうになってんぞ。エンって面食いじゃなかったっけかよ。何で?」
「るせぇな……俺だって知るか」
「何怒ってんだよ。別に普通が悪いっつってねー、っつってんだろが、面倒くせーな」
「面倒なら黙ってろよ……!」
「ほらもうそろそろいい加減にして気持ち入れかえるよ」
言い合いは日常茶飯事なので特に荒んだ空気でもなかったが、翠の言葉で全員が一気に仕事モードへと入っていった。
奏真によって葵が奏真を「俺のもの」発言したと知った皆は、一瞬の内に盛り上がっていた。とはいえ翠は控えめに「よく言ったね」と嬉しそうに言ってきただけだ。だがそれがまた居たたまれない。そしてそれを上回る勢いで他が何より鬱陶しい。柑治と風太は忌々しくも大いに爆笑に近い勢いで受けていた。厳に至っては二人のように煩くはないが、よく言うよといった風に引いた様子で葵を見てきた。葵としては厳の反応が地味に一番居たたまれなかった。
今、目の前ではメンバーが奏真を取り囲むようにして、とにかく奏真を見ている。もちろん話しかけもしているが、ひたすら見ているのが葵にもわかった。葵もだが皆、身長があるから囲まれた奏真が埋もれている。
「至って普通だな……」
五人の中では二番目に大人のくせに、ちっとも大人げない柑治が微妙そうに呟いた。てめぇ、と胸ぐらのひとつでもつかみたいところだが、葵もその感想には実際のところ同意しかない。かわいくて仕方なく見えるようになった今でも、見た目は平凡だと葵も思っているし奏真本人にも口にしてしまっている。
ただ、自分以外の人に言われるのは腹が立つ。大人げねえんだよと葵が言う前にだが、厳がそれこそ微妙な顔を柑治へ向けていた。
「カンジ……お前は失礼なんだよ」
「あ? 間違ったこと言ってねーだろが。あと失礼なつもりで言ってねぇ。普通、別にいいだろが。むしろゴンが失礼な風に取ったんだろ」
明らかに思い切り発想が自分主体だろうがと葵でも微妙に思う中、そう言われて厳はぐっと詰まっている。
「お前がそんなつもりだろうが、そもそも言い方が失礼なんだよ、カンジ。初めまして、えっと、奏真くん。周りが煩くてごめんね。俺は翠」
「……いえ。初めまして」
「あっ、俺は風太だよ! 仲よくしてね!」
「は、あ」
「まーくんって何年?」
「え? あー、一年だけど」
「そーなんだ。俺の一個下なんだね! ここ、俺より下いなかったから新鮮ー」
「……はぁ」
「反応に困ってんだろ。だいたいこいつ、メンバーになるわけじゃねーんだからフウタより下だろうが関係ねぇし」
「ゴンゴンは発想がダメ!」
「何で今ので発想のダメ出し食らうんだよ……」
「ごんごん……?」
「……じゃねぇ。厳だ。……まぁ、よろしく」
「はぁ……」
奏真は「普通」と言われたことに関しては全くどうでもよさそうで、とりあえず囲まれての挨拶に少々辟易している様子だった。
「あ、これ……差し入れ……」
葵を見て一瞬ホッとしたような顔をしてきて、それが勘違いだろうが葵は嬉しく思っていると紙袋を差し出された。とりあえず今の表情は、渡しやすい相手がいてホッとしたからではないだろうかと微妙になりながらも、葵は受け取る。
「つか、お前も差し入れとかの発想あんのな」
「そもそもこいつが失礼だろ」
葵の言葉に、背後で柑治がまた何か言っている。それに対しては風太が「そりゃエンだし!」と楽しげに返していた。葵としても「来てくれてありがとう」と言うつもりだったのだが、気づけば口に出ていたのだ。普段はこれでもなるべく考えてものを言おうとしているつもりだが、奏真を前にするとつい考えも疎かになる。
ただ、奏真も特に気にしていないように頷いてきた。
「ごうが持っていけって」
あいつかよ。
内心微妙に忌々しく思いつつ、葵は無言で差し入れの紙袋を章生に手渡した。
「奏真くん、ありがとう。これは今日終わってから、皆に頂いてもらうね」
章生がマネージャーらしくというか大人らしく穏やかに笑みを浮かべながら奏真に告げている。
「おい、別に普通が悪いとか言ってねーからな」
柑治がそれで謝っているつもりかと言いたくなるほど偉そうに奏真をじっと見下ろしていた。だが奏真は特に驚くことも不快そうにすることもなく淡々と答えている。
「ああ、うん。別に俺も気にしてない……いちいち気にするのも面倒だし……」
「あー、それはわかるわ。面倒なのってうぜーもんな」
そして全然似ていない同士だと言うのに変なところで軽く意気投合している。葵がまたイライラと二人を引き離そうとしたら、その前に章生が前に出てきた。
「そろそろ準備しようか。奏真くん、お弁当は後でも大丈夫?」
章生は焦った様子もなく穏やかに時計を見ながら促してくる。ツアーの間、それぞれのマネージャーは交代制で皆の管理をしてくれている。受け持ちしていない日は休みを取っているか別の仕事をこなしていた。
また章生に連れられて、奏真は控え室を出ていった。結局ほとんど話せていない。一応今日、終わってから二人で会えるよう章生に段取りを頼んではいるが、葵は微妙な気持ちになった。
「いや、でもマジで普通だったな」
「カンジてめぇ、普通普通煩いんだよ……!」
まだ言うのかよ葵が睨むも、怯む様子なく葵からすればふてぶてしい顔で柑治は見返してきた。
「でも間違ってねーだろが。俺、もう顔忘れそうになってんぞ。エンって面食いじゃなかったっけかよ。何で?」
「るせぇな……俺だって知るか」
「何怒ってんだよ。別に普通が悪いっつってねー、っつってんだろが、面倒くせーな」
「面倒なら黙ってろよ……!」
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