ドラマのような恋を

Guidepost

文字の大きさ
28 / 65

28話

しおりを挟む
「あんな演出予定じゃなかっただろが!」

 今日のコンサートが終わり、控え室で着替えたりシャワーを浴びたりしながら、葵は柑治に文句を言っていた。

「アドリブだろ、つかたまにやってんだろ馬鹿か」

 実際、ファンサービスの一環で主にこういったライブなどで、たまにメンバーの誰かが誰かにキスしたりやたらとくっついたりすることはある。葵もキスはしないが誰かとやたら近くで接することはある。観客の誰かに対して行うならよく思わないファンも出てくるが、メンバー同士だとむしろ喜ばれるのを葵も知ってはいる。
 ただ、よりによって奏真が来ている時にと腹を立てていた。

「馬鹿って言うな! つかやるならゴンにでもしておけよ!」
「は? 何で俺を出すんだよ……」

 言われた厳はシャワーで濡れた髪を乱雑にタオルで拭きながら心底心外だと言うように微妙そうな顔を向けてきた。一方、シャワー室から出てきたばかりの柑治は楽しげに口元を歪ませている。

「誰にやろうが別にいいだろ。クールなお兄さんがたまに見せる行為に観客も大喜びだっただろが」
「俺は大ドン引きだったわ……! つかクールなお兄さんはそういうことしねぇし今もタオル腰に巻いただけの恰好のままでいねぇ! っくそ。何も奏真がいる時にしなくても……」

 ぼそりと呟いた葵の言葉は全員に聞こえていたし、全員が「むしろだからだろうな」と思っていたことには葵は気づいていない。 
 風太はだがすぐに関心を携帯電話へ移し、髪をタオルドライしながら電話をかけ始めた。そして恐らく彼女にだろう、楽しそうに話を始める。いつもなら間に入ってきて宥め役になる翠は今のところ止めるほどでもないと思っているのか、自分の髪を乾かす前に厳に気づくとタオルを髪に巻きながら近づいて行った。

「ゴン、いくら短くてもちゃんと扱いなね」
「すぐ乾くだろ」
「ダメだよ」

 そして厳からタオルを奪い、美容師さながらの手つきで厳の髪をタオルドライしてからドライヤーで乾かし始めた。その様子に柑治は「スイはゴンに甘過ぎんだよ」と面白くなさそうに言ってから葵をニヤリと見てきた。

「もしかしたらお前のスイートくんは嫉妬してくれるかもだろ?」
「は? スイートくんとか止めろ、何だその言い方。それに……あいつは嫉妬なんてしねえよ」
「んなの、わかんねーだろ」
「わかるわ。あいつはある意味食い物が恋愛対象みたいなもんなんだよ!」
「んだそれ、ヤバ過ぎだろ」

 笑いを堪えきれないといった顔で柑治は手を口元に当てている。葵も言った後でさすがにそこまではないな、と訂正しようとして「いやでもわりと間違ってねぇ」と微妙な顔になった。

「平凡な顔しながらぶっとんだやつだな?」
「平凡だけど平凡言うな。言っていいのは俺だけなんだよ!」
「おーおー。意外にもかわいいやつだよな、お前は」

 かわいい、と言いながらも柑治は明らかに小馬鹿にしたような顔をしている。普段は基本的に面倒くさいとばかりにどうでもよさそうにしているのだが、たまにこうしてスイッチが入ったかのようにイキイキと人をからかってくる。

「何だと?」
「カンジ、あまりエンをからかわないで」

 そろそろいい加減にしろ、という意味も込めてだろう。厳の髪を乾かし終えて今度は自分の髪をタオルドライし始めた翠が口を挟んできた。厳は呆れたような顔を柑治と葵に向けてため息ついている。それは葵としては少々忌々しかったので「童貞には関係ねぇだろ」と言いがかりとわかりつつも口にしておいた。

「てめぇ……俺のそこは関係ねぇだろが」
「じゃあお前もため息とかついてんじゃねぇよ」
「お前らが大人げないからだろが」
「俺はどのみちまだ大人じゃねぇんだよ、カンジにだけため息ついとけ!」
「あ? 自分でガキ宣言かよ……」
「ほら、ゴンもエンもいい加減にね」

 翠は笑みを浮かべているが、葵も厳も微妙な顔をしながらも言われた通り大人しくなった。
 着替えも済み、一旦ペットボトルの水や茶を飲み始めたところで章生が葵に声をかけてきた。

「焔、そろそろ」
「ああ」

 煩い風太などに「どこ行くの」と聞かれる前にそこから出ると、葵は章生について待ち合わせている場所へ向かった。奏真はあらかじめ章生によって連れていかれていると葵も知っている。

「というか、何でホテルの部屋にしたんだ。別にどこか食事処の個室でも良かっただろう」
「ホテルのが安心して話せるだろが」

 車の中で章生に言われ、葵は何を当たり前なといった風に言い返した。

「そりゃそうだけど。まぁ、あまり未成年としてどうかといった行動は控えろよ」
「あ? 何だよそれ。酒とかなら飲む気もねぇぞ」
「それは当然だ。セックスとかそういうことを言ってるんだ」
「……ッバ、っちょ、安里、おま、はっきり言い過ぎだろ……!」

 顔が熱くなるのがわかりつつ、動揺を隠せないまま葵は後ろの席から運転中の章生を睨んだ。章生はバックミラーごしにチラリと葵を見てからため息つく。

「マネージャーとはいえ仕事絡みでは未成年のお前たちの保護者代わりでもあるんだ。だいたい、いまさらぼかしてどうする」
「……。つかエッチって未成年ってヤッたら駄目だったんかよ……俺、今までも普通につき合ってた女とヤッてきてんだけど……」
「……はぁ。俺はお前のそういうところが嫌いじゃないけど心配だよ。あとその辺こそぼかしてくれ。俺は聞きたくない」
「あぁ? お前から言ってきたんだろうが。つか、結局どういうことだよ。俺は法律的にヤッていいのか駄目なのか」
「だからそういうところはぼかせって言ってるんだ。ったく。あまり羽目を外すなってことだよ」
「それなら外したくても外せねぇよ。あいつがそもそもまず俺に興味持ってねぇし、どのみちヤりたくてもヤれねーよ」

 舌打ちしながら言えば、一瞬だが吹き出すような音が章生の辺りから聞こえてきた。

「安里、今笑っただろ」
「気のせいだな。ほら、もう着くから帽子と眼鏡を忘れるなよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

処理中です...