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28話
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「あんな演出予定じゃなかっただろが!」
今日のコンサートが終わり、控え室で着替えたりシャワーを浴びたりしながら、葵は柑治に文句を言っていた。
「アドリブだろ、つかたまにやってんだろ馬鹿か」
実際、ファンサービスの一環で主にこういったライブなどで、たまにメンバーの誰かが誰かにキスしたりやたらとくっついたりすることはある。葵もキスはしないが誰かとやたら近くで接することはある。観客の誰かに対して行うならよく思わないファンも出てくるが、メンバー同士だとむしろ喜ばれるのを葵も知ってはいる。
ただ、よりによって奏真が来ている時にと腹を立てていた。
「馬鹿って言うな! つかやるならゴンにでもしておけよ!」
「は? 何で俺を出すんだよ……」
言われた厳はシャワーで濡れた髪を乱雑にタオルで拭きながら心底心外だと言うように微妙そうな顔を向けてきた。一方、シャワー室から出てきたばかりの柑治は楽しげに口元を歪ませている。
「誰にやろうが別にいいだろ。クールなお兄さんがたまに見せる行為に観客も大喜びだっただろが」
「俺は大ドン引きだったわ……! つかクールなお兄さんはそういうことしねぇし今もタオル腰に巻いただけの恰好のままでいねぇ! っくそ。何も奏真がいる時にしなくても……」
ぼそりと呟いた葵の言葉は全員に聞こえていたし、全員が「むしろだからだろうな」と思っていたことには葵は気づいていない。
風太はだがすぐに関心を携帯電話へ移し、髪をタオルドライしながら電話をかけ始めた。そして恐らく彼女にだろう、楽しそうに話を始める。いつもなら間に入ってきて宥め役になる翠は今のところ止めるほどでもないと思っているのか、自分の髪を乾かす前に厳に気づくとタオルを髪に巻きながら近づいて行った。
「ゴン、いくら短くてもちゃんと扱いなね」
「すぐ乾くだろ」
「ダメだよ」
そして厳からタオルを奪い、美容師さながらの手つきで厳の髪をタオルドライしてからドライヤーで乾かし始めた。その様子に柑治は「スイはゴンに甘過ぎんだよ」と面白くなさそうに言ってから葵をニヤリと見てきた。
「もしかしたらお前のスイートくんは嫉妬してくれるかもだろ?」
「は? スイートくんとか止めろ、何だその言い方。それに……あいつは嫉妬なんてしねえよ」
「んなの、わかんねーだろ」
「わかるわ。あいつはある意味食い物が恋愛対象みたいなもんなんだよ!」
「んだそれ、ヤバ過ぎだろ」
笑いを堪えきれないといった顔で柑治は手を口元に当てている。葵も言った後でさすがにそこまではないな、と訂正しようとして「いやでもわりと間違ってねぇ」と微妙な顔になった。
「平凡な顔しながらぶっとんだやつだな?」
「平凡だけど平凡言うな。言っていいのは俺だけなんだよ!」
「おーおー。意外にもかわいいやつだよな、お前は」
かわいい、と言いながらも柑治は明らかに小馬鹿にしたような顔をしている。普段は基本的に面倒くさいとばかりにどうでもよさそうにしているのだが、たまにこうしてスイッチが入ったかのようにイキイキと人をからかってくる。
「何だと?」
「カンジ、あまりエンをからかわないで」
そろそろいい加減にしろ、という意味も込めてだろう。厳の髪を乾かし終えて今度は自分の髪をタオルドライし始めた翠が口を挟んできた。厳は呆れたような顔を柑治と葵に向けてため息ついている。それは葵としては少々忌々しかったので「童貞には関係ねぇだろ」と言いがかりとわかりつつも口にしておいた。
「てめぇ……俺のそこは関係ねぇだろが」
「じゃあお前もため息とかついてんじゃねぇよ」
「お前らが大人げないからだろが」
「俺はどのみちまだ大人じゃねぇんだよ、カンジにだけため息ついとけ!」
「あ? 自分でガキ宣言かよ……」
「ほら、ゴンもエンもいい加減にね」
翠は笑みを浮かべているが、葵も厳も微妙な顔をしながらも言われた通り大人しくなった。
着替えも済み、一旦ペットボトルの水や茶を飲み始めたところで章生が葵に声をかけてきた。
「焔、そろそろ」
「ああ」
煩い風太などに「どこ行くの」と聞かれる前にそこから出ると、葵は章生について待ち合わせている場所へ向かった。奏真はあらかじめ章生によって連れていかれていると葵も知っている。
「というか、何でホテルの部屋にしたんだ。別にどこか食事処の個室でも良かっただろう」
「ホテルのが安心して話せるだろが」
車の中で章生に言われ、葵は何を当たり前なといった風に言い返した。
「そりゃそうだけど。まぁ、あまり未成年としてどうかといった行動は控えろよ」
「あ? 何だよそれ。酒とかなら飲む気もねぇぞ」
「それは当然だ。セックスとかそういうことを言ってるんだ」
「……ッバ、っちょ、安里、おま、はっきり言い過ぎだろ……!」
顔が熱くなるのがわかりつつ、動揺を隠せないまま葵は後ろの席から運転中の章生を睨んだ。章生はバックミラーごしにチラリと葵を見てからため息つく。
「マネージャーとはいえ仕事絡みでは未成年のお前たちの保護者代わりでもあるんだ。だいたい、いまさらぼかしてどうする」
「……。つかエッチって未成年ってヤッたら駄目だったんかよ……俺、今までも普通につき合ってた女とヤッてきてんだけど……」
「……はぁ。俺はお前のそういうところが嫌いじゃないけど心配だよ。あとその辺こそぼかしてくれ。俺は聞きたくない」
「あぁ? お前から言ってきたんだろうが。つか、結局どういうことだよ。俺は法律的にヤッていいのか駄目なのか」
「だからそういうところはぼかせって言ってるんだ。ったく。あまり羽目を外すなってことだよ」
「それなら外したくても外せねぇよ。あいつがそもそもまず俺に興味持ってねぇし、どのみちヤりたくてもヤれねーよ」
舌打ちしながら言えば、一瞬だが吹き出すような音が章生の辺りから聞こえてきた。
「安里、今笑っただろ」
「気のせいだな。ほら、もう着くから帽子と眼鏡を忘れるなよ」
今日のコンサートが終わり、控え室で着替えたりシャワーを浴びたりしながら、葵は柑治に文句を言っていた。
「アドリブだろ、つかたまにやってんだろ馬鹿か」
実際、ファンサービスの一環で主にこういったライブなどで、たまにメンバーの誰かが誰かにキスしたりやたらとくっついたりすることはある。葵もキスはしないが誰かとやたら近くで接することはある。観客の誰かに対して行うならよく思わないファンも出てくるが、メンバー同士だとむしろ喜ばれるのを葵も知ってはいる。
ただ、よりによって奏真が来ている時にと腹を立てていた。
「馬鹿って言うな! つかやるならゴンにでもしておけよ!」
「は? 何で俺を出すんだよ……」
言われた厳はシャワーで濡れた髪を乱雑にタオルで拭きながら心底心外だと言うように微妙そうな顔を向けてきた。一方、シャワー室から出てきたばかりの柑治は楽しげに口元を歪ませている。
「誰にやろうが別にいいだろ。クールなお兄さんがたまに見せる行為に観客も大喜びだっただろが」
「俺は大ドン引きだったわ……! つかクールなお兄さんはそういうことしねぇし今もタオル腰に巻いただけの恰好のままでいねぇ! っくそ。何も奏真がいる時にしなくても……」
ぼそりと呟いた葵の言葉は全員に聞こえていたし、全員が「むしろだからだろうな」と思っていたことには葵は気づいていない。
風太はだがすぐに関心を携帯電話へ移し、髪をタオルドライしながら電話をかけ始めた。そして恐らく彼女にだろう、楽しそうに話を始める。いつもなら間に入ってきて宥め役になる翠は今のところ止めるほどでもないと思っているのか、自分の髪を乾かす前に厳に気づくとタオルを髪に巻きながら近づいて行った。
「ゴン、いくら短くてもちゃんと扱いなね」
「すぐ乾くだろ」
「ダメだよ」
そして厳からタオルを奪い、美容師さながらの手つきで厳の髪をタオルドライしてからドライヤーで乾かし始めた。その様子に柑治は「スイはゴンに甘過ぎんだよ」と面白くなさそうに言ってから葵をニヤリと見てきた。
「もしかしたらお前のスイートくんは嫉妬してくれるかもだろ?」
「は? スイートくんとか止めろ、何だその言い方。それに……あいつは嫉妬なんてしねえよ」
「んなの、わかんねーだろ」
「わかるわ。あいつはある意味食い物が恋愛対象みたいなもんなんだよ!」
「んだそれ、ヤバ過ぎだろ」
笑いを堪えきれないといった顔で柑治は手を口元に当てている。葵も言った後でさすがにそこまではないな、と訂正しようとして「いやでもわりと間違ってねぇ」と微妙な顔になった。
「平凡な顔しながらぶっとんだやつだな?」
「平凡だけど平凡言うな。言っていいのは俺だけなんだよ!」
「おーおー。意外にもかわいいやつだよな、お前は」
かわいい、と言いながらも柑治は明らかに小馬鹿にしたような顔をしている。普段は基本的に面倒くさいとばかりにどうでもよさそうにしているのだが、たまにこうしてスイッチが入ったかのようにイキイキと人をからかってくる。
「何だと?」
「カンジ、あまりエンをからかわないで」
そろそろいい加減にしろ、という意味も込めてだろう。厳の髪を乾かし終えて今度は自分の髪をタオルドライし始めた翠が口を挟んできた。厳は呆れたような顔を柑治と葵に向けてため息ついている。それは葵としては少々忌々しかったので「童貞には関係ねぇだろ」と言いがかりとわかりつつも口にしておいた。
「てめぇ……俺のそこは関係ねぇだろが」
「じゃあお前もため息とかついてんじゃねぇよ」
「お前らが大人げないからだろが」
「俺はどのみちまだ大人じゃねぇんだよ、カンジにだけため息ついとけ!」
「あ? 自分でガキ宣言かよ……」
「ほら、ゴンもエンもいい加減にね」
翠は笑みを浮かべているが、葵も厳も微妙な顔をしながらも言われた通り大人しくなった。
着替えも済み、一旦ペットボトルの水や茶を飲み始めたところで章生が葵に声をかけてきた。
「焔、そろそろ」
「ああ」
煩い風太などに「どこ行くの」と聞かれる前にそこから出ると、葵は章生について待ち合わせている場所へ向かった。奏真はあらかじめ章生によって連れていかれていると葵も知っている。
「というか、何でホテルの部屋にしたんだ。別にどこか食事処の個室でも良かっただろう」
「ホテルのが安心して話せるだろが」
車の中で章生に言われ、葵は何を当たり前なといった風に言い返した。
「そりゃそうだけど。まぁ、あまり未成年としてどうかといった行動は控えろよ」
「あ? 何だよそれ。酒とかなら飲む気もねぇぞ」
「それは当然だ。セックスとかそういうことを言ってるんだ」
「……ッバ、っちょ、安里、おま、はっきり言い過ぎだろ……!」
顔が熱くなるのがわかりつつ、動揺を隠せないまま葵は後ろの席から運転中の章生を睨んだ。章生はバックミラーごしにチラリと葵を見てからため息つく。
「マネージャーとはいえ仕事絡みでは未成年のお前たちの保護者代わりでもあるんだ。だいたい、いまさらぼかしてどうする」
「……。つかエッチって未成年ってヤッたら駄目だったんかよ……俺、今までも普通につき合ってた女とヤッてきてんだけど……」
「……はぁ。俺はお前のそういうところが嫌いじゃないけど心配だよ。あとその辺こそぼかしてくれ。俺は聞きたくない」
「あぁ? お前から言ってきたんだろうが。つか、結局どういうことだよ。俺は法律的にヤッていいのか駄目なのか」
「だからそういうところはぼかせって言ってるんだ。ったく。あまり羽目を外すなってことだよ」
「それなら外したくても外せねぇよ。あいつがそもそもまず俺に興味持ってねぇし、どのみちヤりたくてもヤれねーよ」
舌打ちしながら言えば、一瞬だが吹き出すような音が章生の辺りから聞こえてきた。
「安里、今笑っただろ」
「気のせいだな。ほら、もう着くから帽子と眼鏡を忘れるなよ」
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