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31話
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確かに自分でもつい抱きしめてしまった感はあった。別に奏真は実際のところ葵のものでもないし、好きだと思ってもらえているどころか関心すらほぼなさそうなのもわかっている。現に今もただ「……何」と聞いてきただけだ。
とはいえ、こちらは好きだと言っているというのにその反応はさすがにないと思う。
「何って……。お前さぁ、俺がお前のこと好きだっつったの覚えてる?」
「うん」
「じゃあ何で俺が今お前を抱きしめてるかわかるだろうが」
「……、好きだから? のわりにため息つかれたけど」
淡々と返すな、と揺さぶりたい。
「……淡々と返してくんなよ……。まぁ、そうだ。あと、俺はお前が好きなのに、お前が俺以外のヤツ褒めるからムッとなって抱きしめたくもなるしため息もつきたくなんだよ」
言いながら「あまり口にしてんじゃねぇよ」と葵は自分に突っ込みたくなった。これではただの情けない奴だ。
しかし奏真は相変わらず興味がなさそうだった。少々怪訝そうな顔をしているくらいだろうか。微妙な気持ちになりそうだったが、ふと、逆にこいつは不快感などはないのかと葵の頭に浮かんだ。
芸能界にいるのとあのメンバーと一緒にいることが多いのもあり少々麻痺していたが、普通は男に好きだと言われたり抱きしめられるなど不愉快でしかないのではないだろうか。
「気持ち悪いとか何か嫌悪感ねぇの、お前」
肯定されるのを見たくないのもあり、さらに抱きしめながら葵は聞いた。
「……それは、ない」
「マジで……」
ないの?
ガンガン行くとさえ思っておきながら、葵は素で驚いた。ないのは警戒心や関心が馬鹿みたいに薄いからだろうか。それとも、多少は可能性があると期待してもいいのだろうか。
少し体を離すと、葵はそっと奏真の手を握った。指を絡める。
「これも、気持ち悪くねぇの」
「……? うん」
手を、握っているんだぞ? 普通男同士で手なんて握らねぇだろうが!
そう言い聞かせたくなったが「ならやめて」「そうか、じゃあ嫌」などと言われたら後悔しか湧かなさそうで言えない。
奏真の手はいくら本人が細いと言えどもやはり男の手だった。女のような華奢で柔らかい感触はない。節のしっかりした硬い手だ。だが気持ちよかった。皮膚同士が合わさり擦れる感触や、自分ではない熱が伝わってきてどこかホッとする。
前にも少し触れたけど……やっぱこれで他のところに触れたら、擦れたらもっと気持ちいいよな。
体の関係なんて普通に何度も経験しているはずなのに、まるで味わったことがないみたいに感じながら、葵はそっと奏真の手のひらを指で擦った。
「……何でそんな風に触るの」
「気持ち悪いか?」
「気持ち悪いというより……くすぐったいんだけど」
他の部分に触れたらもっと擽ったいと思うのではないだろうか。それともそれを通り越して感じてくれるだろうか。
以前背中や腰に触れた後、奏真の唇に触れても奏真は怒らなかった。
……意味わからないみたいな反応はされたけどな……。
そしてその時に好きだとようやくかろうじて伝わった。かろうじて。
葵はそっと奏真の唇にまた指の腹を伝わせた。奏真の表情が少しだけぴくりと反応する。
「気持ち──いい?」
気持ち悪くないかと聞くのをやめて葵は言い直した。
「……わからない」
いつもなら「わからないのかよ!」と思うところだが、今は少し違う風に葵は思っていた。
気持ち悪いかと聞いた時は「悪くない」と奏真は答えていた。いい加減に受け答えしているのでは恐らく、ないのだ。いつも適当そうだし実際物事の半分以上は適当なのだろうが、人と話す時は奏真なりにその時思ったことを答えている。大抵あやふやなのは実際本人の中でも本当にあやふやなのだろう。変な反応の場合もこの間キスしていいか聞いた時のようにちゃんと本人なりの理由があるのだろう。
「悪くはねぇってことだな」
少し得意な気持ちになって言えば「……偉そう」と返ってきた。
「偉いからな。ああ、そういえばここの風呂、入ったか?」
嫌悪感も不快感もないならこちらもそれなりに思うところがある。
「……何で。入ってない。帰るつもりだし」
「入ってけよ。ここのって、ホテルのわりに広くて気持ちいいからよ」
一緒にあの狭い寮の風呂に入ったのはずいぶん前のような気がする。実際は数ヶ月前だが遠い昔のような気さえする。
あの時より関係は縮まっているかと言えば残念ながら全くなのだが、それでもどこかほんのり奏真が心をこちらに向けてくれている気はしている。それが例え今は恋愛的な感情でなくてもあまりに険しい道のため、悪くはないとさえ思えている。
「めんどくさい」
「コンサートと往復で汗もかいただろ」
「それは、うん」
「じゃあすっきりすんだろ。何なら俺が洗ってやる」
以前一緒に入った時は向こうも仕方なくといった流れだったし、葵も男への自分の感情に対して意識したてもあって童貞みたいに落ち着かなかった。それでもまた一緒に入りたいと思っていた。今がそのチャンスだろと葵の中で自分が訴えている。
前回ホテルに泊まった時、風呂へ入る段階ではまだ奏真もこちらの気持ちにちっとも気づいてくれていなかったのもあり、逆に一緒に入りづらかった。完全に二人きりな上に多少の罪悪感というのだろうか。
だが今は好きだとはっきり告げているし奏真もさすがに理解してはいる。その上で一緒に入られるなら、向こうもこちらの気持ちを承知なのに否定しないということで多少何をしてもいいのではないかという勝手な下心があった。
だがさすがは奏真というのだろうか。ある意味安定の反応だった。
「あんたが洗ってくれんの? んじゃまだ楽だし入る」
そこは冗談だろが……! クソが……! 好きだっつってんの、ほんっとわかってんのかよ?
明らかに完全に意識していない。向こうも承知などというのは甘かった。今の今まで葵は抱きしめたりほんの少しだが変な触れかたをしたというのに、奏真は完全に意識していなかった。泣いていいかもしれない。
もしくはそれをいいことに触りまくるといった外道な行動に走るか?
葵は微妙な顔で奏真を見た。
とはいえ、こちらは好きだと言っているというのにその反応はさすがにないと思う。
「何って……。お前さぁ、俺がお前のこと好きだっつったの覚えてる?」
「うん」
「じゃあ何で俺が今お前を抱きしめてるかわかるだろうが」
「……、好きだから? のわりにため息つかれたけど」
淡々と返すな、と揺さぶりたい。
「……淡々と返してくんなよ……。まぁ、そうだ。あと、俺はお前が好きなのに、お前が俺以外のヤツ褒めるからムッとなって抱きしめたくもなるしため息もつきたくなんだよ」
言いながら「あまり口にしてんじゃねぇよ」と葵は自分に突っ込みたくなった。これではただの情けない奴だ。
しかし奏真は相変わらず興味がなさそうだった。少々怪訝そうな顔をしているくらいだろうか。微妙な気持ちになりそうだったが、ふと、逆にこいつは不快感などはないのかと葵の頭に浮かんだ。
芸能界にいるのとあのメンバーと一緒にいることが多いのもあり少々麻痺していたが、普通は男に好きだと言われたり抱きしめられるなど不愉快でしかないのではないだろうか。
「気持ち悪いとか何か嫌悪感ねぇの、お前」
肯定されるのを見たくないのもあり、さらに抱きしめながら葵は聞いた。
「……それは、ない」
「マジで……」
ないの?
ガンガン行くとさえ思っておきながら、葵は素で驚いた。ないのは警戒心や関心が馬鹿みたいに薄いからだろうか。それとも、多少は可能性があると期待してもいいのだろうか。
少し体を離すと、葵はそっと奏真の手を握った。指を絡める。
「これも、気持ち悪くねぇの」
「……? うん」
手を、握っているんだぞ? 普通男同士で手なんて握らねぇだろうが!
そう言い聞かせたくなったが「ならやめて」「そうか、じゃあ嫌」などと言われたら後悔しか湧かなさそうで言えない。
奏真の手はいくら本人が細いと言えどもやはり男の手だった。女のような華奢で柔らかい感触はない。節のしっかりした硬い手だ。だが気持ちよかった。皮膚同士が合わさり擦れる感触や、自分ではない熱が伝わってきてどこかホッとする。
前にも少し触れたけど……やっぱこれで他のところに触れたら、擦れたらもっと気持ちいいよな。
体の関係なんて普通に何度も経験しているはずなのに、まるで味わったことがないみたいに感じながら、葵はそっと奏真の手のひらを指で擦った。
「……何でそんな風に触るの」
「気持ち悪いか?」
「気持ち悪いというより……くすぐったいんだけど」
他の部分に触れたらもっと擽ったいと思うのではないだろうか。それともそれを通り越して感じてくれるだろうか。
以前背中や腰に触れた後、奏真の唇に触れても奏真は怒らなかった。
……意味わからないみたいな反応はされたけどな……。
そしてその時に好きだとようやくかろうじて伝わった。かろうじて。
葵はそっと奏真の唇にまた指の腹を伝わせた。奏真の表情が少しだけぴくりと反応する。
「気持ち──いい?」
気持ち悪くないかと聞くのをやめて葵は言い直した。
「……わからない」
いつもなら「わからないのかよ!」と思うところだが、今は少し違う風に葵は思っていた。
気持ち悪いかと聞いた時は「悪くない」と奏真は答えていた。いい加減に受け答えしているのでは恐らく、ないのだ。いつも適当そうだし実際物事の半分以上は適当なのだろうが、人と話す時は奏真なりにその時思ったことを答えている。大抵あやふやなのは実際本人の中でも本当にあやふやなのだろう。変な反応の場合もこの間キスしていいか聞いた時のようにちゃんと本人なりの理由があるのだろう。
「悪くはねぇってことだな」
少し得意な気持ちになって言えば「……偉そう」と返ってきた。
「偉いからな。ああ、そういえばここの風呂、入ったか?」
嫌悪感も不快感もないならこちらもそれなりに思うところがある。
「……何で。入ってない。帰るつもりだし」
「入ってけよ。ここのって、ホテルのわりに広くて気持ちいいからよ」
一緒にあの狭い寮の風呂に入ったのはずいぶん前のような気がする。実際は数ヶ月前だが遠い昔のような気さえする。
あの時より関係は縮まっているかと言えば残念ながら全くなのだが、それでもどこかほんのり奏真が心をこちらに向けてくれている気はしている。それが例え今は恋愛的な感情でなくてもあまりに険しい道のため、悪くはないとさえ思えている。
「めんどくさい」
「コンサートと往復で汗もかいただろ」
「それは、うん」
「じゃあすっきりすんだろ。何なら俺が洗ってやる」
以前一緒に入った時は向こうも仕方なくといった流れだったし、葵も男への自分の感情に対して意識したてもあって童貞みたいに落ち着かなかった。それでもまた一緒に入りたいと思っていた。今がそのチャンスだろと葵の中で自分が訴えている。
前回ホテルに泊まった時、風呂へ入る段階ではまだ奏真もこちらの気持ちにちっとも気づいてくれていなかったのもあり、逆に一緒に入りづらかった。完全に二人きりな上に多少の罪悪感というのだろうか。
だが今は好きだとはっきり告げているし奏真もさすがに理解してはいる。その上で一緒に入られるなら、向こうもこちらの気持ちを承知なのに否定しないということで多少何をしてもいいのではないかという勝手な下心があった。
だがさすがは奏真というのだろうか。ある意味安定の反応だった。
「あんたが洗ってくれんの? んじゃまだ楽だし入る」
そこは冗談だろが……! クソが……! 好きだっつってんの、ほんっとわかってんのかよ?
明らかに完全に意識していない。向こうも承知などというのは甘かった。今の今まで葵は抱きしめたりほんの少しだが変な触れかたをしたというのに、奏真は完全に意識していなかった。泣いていいかもしれない。
もしくはそれをいいことに触りまくるといった外道な行動に走るか?
葵は微妙な顔で奏真を見た。
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