ドラマのような恋を

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32話

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「皆とは仲いいの?」

 湯船に浸かりながらふと聞けば、葵は何の話だ、といった表情で奏真を見てきた。
 風呂は葵が言ったように広かった。ホテルの風呂は狭いところが多いため、ただでさえ寮の部屋についている風呂が狭いのもあってあまり好まないのだが、ここは洗うスペースも広いしゆったりと入られる。
 ところでいざ頭や体を洗ってもらおうとしたら葵は「お前ふざけんなよ」とキレ出した。

「何で怒られんの。あんたが言ったくせに」
「冗談に決まってんだろが」
「え……、全然笑えなかったけど」
「っ煩い、笑わせるための冗談じゃねぇ」

 歌や演奏、ダンスは凄いが、相変わらず奏真にとって葵は理不尽だ。

「だったら別に入らなかったのに……」
「……お前な、俺がお前好きっつったの、ほんとわかってんの?」
「何で今それが出てくんの」
「クソが……! お前ほんっとわかってねぇな。男同士に惑わされ過ぎてんじゃねぇよ。俺が誰か女を好きになったって考えてみろ。そんでそいつに風呂で体洗ってやるっつってるとこ考えてみろ、馬鹿が!」

 言い方が本当に偉そうだなと思いながらも一応言われたことを考えてみた。というか考えるまでもない気がする。

「……体洗うも何も、風呂に一緒に入る時点で駄目じゃないか?」
「そうだろうが! そうなんだよ! 今、それと同じ状態なんだよ!」
「でも俺、男だけど……」
「だぁかぁら! 俺はお前が好きだっつってんだろが……! そりゃ他の男の裸とかクソほど興味ねぇけどな、好きな相手なんだよ、男もへったくれもあるかよ」

 ああ、そうか……。

 奏真はようやく理解した。確かに恋愛として「好き」なら相手を性的にも見るということだ。
 基本的に男女という概念が染みついているからか、全くピンときていなかった。いくら葵が好きだと言っても「男同士」だから特に何があるでもないと奏真は自然と勝手に思い込んでいた。

「……え、ってことは、じゃあ俺、貞操の危機……?」

 渋々体を洗っていた奏真はその手を止めて葵を見た。同じく体を洗っていた葵は微妙な顔をしてくる。

「……今さら過ぎだろ……」

 ふと目がいった、泡にまみれた葵の体は奏真と違ってかなり引き締まっていた。きっと歌やダンス、そして芝居の稽古で日々体も鍛えているのだろう。
 男の体だ。どう見ても男だ。そして自分も頼りない体つきとはいえ、やはりどうしても男の体であり、男だ。お互い男だ。
 そう思いながらも、妙に落ち着かなくなってきた。性的に見られていると理解したからだろうか。それとも他に理由があるのだろうか。奏真はよくわからないまま、全身が熱くなるのがわかった。

「こ、困る、んだけど……」
「……おい。急にそんな顔すんな。俺が困る」
「……は?」
「……クソ。安心しろ、無理やり何かしたりしねぇよ。俺は誰もが知ってる蒼井焔だぞ。だいたい無理やりするならお前にキレながら説明せずに好き勝手やらかしてるっつーの」

 ため息つきながら、葵はシャワーで泡を流し始めた。動くたびに、体の筋も明確に動いているのがわかる。まだ落ち着かない感じのままなので、奏真はとりあえず目を逸らして自分の体を洗うことに専念した。
 先に湯船に入られてしまい、奏真は慌てて自分もシャワーで流していく。そうしないと背後から見られるかもしれない。もちろん葵が自分で言ったように何もしないだろうとわかっていても、無防備なところを見られるのはなおさら落ち着かなさそうな気がした。
 偉そうで自分主体といったイメージしかない葵だが、無理やり何もしないと言うならきっと本当に無理やりなことはしないだろうとは奏真も思える。なので落ち着かないといえども体を流し終えると自分も湯舟に入った。

「お前さー、まだ理解してねぇんじゃねーだろうな?」

 同じ湯に浸かる葵がまた微妙な顔で見てきた。

「理解したし……。でも葵が無理に何もしない、って言うなら本当にしないと思ってるから……」
「そ、そうかよ。……にしても緊張したり嫌がったり照れたりしねぇの?」
「しないとわかってて緊張しないし嫌だと思わない。あと俺が照れるのは違うだろ……」
「やんわり俺の心砕いてくんな」
「……?」

 また何の話だと奏真は首を傾げた。兄はともかく、幼馴染というのもあるが剛なら大抵奏真の言葉足らずな話をある程度理解してくれるし奏真も剛の言っていることはわりとわかる。だが葵はよく何を言っているかわからなくなるし、葵も奏真が言っている言葉をあまりわかってくれなかったりする。

 ……なのに何で葵は俺を好きになんか……?

 好きだと言われてからもちゃんと理解したつもりでしていなかったからか特に意識していなかったが、どう考えても奏真が好かれる要素はないに等しいとしか思えない。男であることを何とか捨て置いておいたとしても、人好きするような性格ではないことくらい自分でもわかっているし見た目も本当に普通だ。好きになる要素が全くわからない。
 かと言って「何で好きに?」と聞いて万が一延々と理由を聞かされるのは疲れそうで嫌だ。
 そんなことをバスタブに腕を乗せ、そこに顎を乗せながら考えていると、ふとライブの時に柑治が葵にキスをしたことを思い出した。どう考えても普通なら男同士キスはしない気がする。奏真を好きだと言っておきながらそういえばあれは何だったのかと思うと聞きたくなった。だが口から出ていたことは冒頭の言葉だった。
 まるでオブラートに包んだような言い方に、基本あまり物事を気にすることがないのだが珍しく妙に意識してしまったのだろうかと奏真は内心自分に首を傾げた。

「何だよ急に」
「……皆、仲よさそうだったし」
「は? いや、まあ険悪とかじゃねぇけど……別に仲よしこよしとかでもねぇ」
「ベースの人とは?」
「ぁあ? お前、マジであいつのこと好きとかじゃねえだろうな?」
「俺は恋愛に興味ないから」
「否定するにしてもそれは俺に面と向かってはっきり言うなよ……! ったく。カンジと仲、いい訳ねぇだろうが。あいつだぞ」

 また微妙な顔された。そんなにこちらに対して微妙な気持ちになるのに本当に何故自分を好きになったのだと奏真としては謎でしかない。

「あいつって言われても俺、あの人のこと知らないし。それにあんた、あの人とキスしてただろ」

 ようやく肝心のことを奏真が口にした途端、葵が湯舟に顔を突っ込んでいた。
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