ドラマのような恋を

Guidepost

文字の大きさ
30 / 65

30話

しおりを挟む
 章生が用意してくれていた弁当は実際美味しかった。奏真は連れてこられたホテルの一室で、一口一口噛みしめながら弁当の味とともにInfinityの曲を、買ったブルーレイを再生して堪能していた。
 ブルーレイはさすがに今回のツアーのものではなく前回のものではあったが、今まで知らなかった奏真としてはありがたい。前のもやはり演奏も歌もよかった。何より奏真が好みだと思ったのはベースの演奏だが、ギターボーカルをやっている葵も悪くない。
 演奏だけでなく歌いながらのダンスも今回同様前回のコンサートでもあった。ダンスも皆、とても上手かった。奏真には到底できそうもない。
 ついベースの人に目がいってしまうが、葵のこともこの中ではもちろん一番よく知っているのもあって目がいく。普段は奏真に対して文句ばかり言ってくる偉そうで小うるさい人だが、画面での葵は別人のように爽やかそうな顔をして踊り、演奏し、そして歌っていた。
 弁当を食べ終わってもひたすらブルーレイを見ていた。見終わると満足げにため息つく。
 食べ物と走ること以外にも興味が出た。今度街へ出たらCDショップとあとは本屋を回ろうと奏真は思った。そしてその後でチェックしていたスイーツの店といつもの店で食い倒れだとワクワクする。
 元々食べ物に対してオタク気質なので、バンドにハマっても色々欲しくなる。ここへやってくる予定である葵にも、初めて早く会いたいと思った。
 基本あまり話すタイプではないので上手く伝える言葉は持ち合わせていないが、とにかくバンドがよかったことだけでも伝えたい。
 ようやくやって来た葵はいつものようにどこか偉そうだったが、元々そこは奏真にとってどうでもいい。久しぶりだなと言う葵にも「うん」と頷いた。すると何故か少し驚いている様子だった。

「な、何だよ、ご機嫌そうだな」
「うん、会えて嬉しいからな」
「っえっ?」
「会えて嬉しい」
「え……」

 別にひそひそ話をしているのではないが葵は聞き直してくる。

「ライブの影響で耳、聴こえなくなってるのか? 会えて嬉しいと言ってるんだ」

 そう言っても葵の反応はどこか妙だ。本当に一時的に耳が麻痺しているのかもしれない。奏真は仕方なく葵に近づいた。十センチ近くある身長差のため、背伸びをして葵の耳元に顔を近づけた。さすがにこれなら聞こえるだろうと思いつつ「会えて嬉しい」と再度口にする。するとようやく聞こえたのか葵が無言で奏真を引き離してきた。

「聞こえた?」
「……もう普通に聞こえる……」
「そうか、よかった。……でも何で顔、赤いの? 熱?」

 それとも先ほどまでやっていたライブのせいで激しく運動した後のようになっているのかもしれない。ただ、葵は「くそ……お前にカッコ悪いとこ見られたくねぇのに」とよくわからない返事してきた。コンサートのことを言っているのだとしたら十分格好よかったと思うのだがと奏真は首を傾げる。

「……何の話?」
「何でもねぇよ! その、俺に会えて嬉しいんだな?」
「うん。言いたかったし」
「え、な、何を」
「バンド、よかった」

 告げるとほんのり微妙な顔された。やはり言葉が足りなかったのかもしれないが、流暢に感動を伝えるには奏真的に限界がある。
 そう思っていると葵にソファーへ座るよう促された。言われた通りに座ると葵も座り、「お前がバンド、気に入ってくれるとは思ってもみなかった」と少し驚いたように笑った。何となく嬉しくなり、奏真は頷いた。

「CDとブルーレイも買ったよ」
「マジかよ」

 葵がさらに顔を綻ばせる。

「うん。葵、歌、ちゃんと上手いんだな」
「どういう意味だよ……! 当たり前だろ。俺、カッコいいだろうが」
「それはわからないけど……」

 見た目を言っているのなら、多分皆格好いいのだろうが、正直その辺はわからない。

「は? でも上手いんだろ?」
「うん」
「円盤買うほどに」
「円盤?」
「CD」
「ああ、それは……葵も歌上手いしすごいなって思ったけど、何よりベースだっけ? あのカンジって人が演奏してる。あれが本当にすごかったから……」
「ベースゥ?」

 葵は納得いかないといった何やら複雑そうな顔してくる。偉そうだからもしかしたら自分が一番に褒められないと納得がいかないのかもしれない。ただ奏真は嘘やおべっかは言えないのでそこはどうしようもない。

「はぁ……何であえてベースなんだよ」
「あえてとか言われても……」

 聞いていて、いいなぁと思ったからとしか言いようがない。

「お前、カンジが好きとかねぇよな」
「……は?」
「いやだって気になんだろ!」
「……何で。ベースがよかったって言っただけ……」

 それだけで人をそういう目線で好きになるなら、奏真は日々美味しいものを作っている人を見る度に好きになることになる。それは大変だろうなと微妙に思っていると、何故か葵がため息つきながら奏真を抱きしめてきた。

「……何」
「何って……。お前さぁ、俺がお前のこと好きだっつったの覚えてる?」
「うん」

 いくら日々ぼんやり生きているとはいえ、そこまで忘れっぽくない。

「じゃあ何で俺が今お前を抱きしめてるかわかるだろうが」
「……、好きだから? のわりにため息つかれたけど」
「……淡々と返してくんなよ……。まぁ、そうだ。あと、俺はお前が好きなのに、お前が俺以外のヤツ褒めるからムッとなって、抱きしめたくもなるしため息もつきたくなんだよ」

 そう言われてもという気持ちと、ムッとなるとため息はまだしも抱きしめたくなるものなのかという謎に思う気持ちと、他の誰かを褒める度に葵は抱きしめたくなるのかと不思議に思う気持ちになっていると、ますますギュッと抱きしめられた。
 されるがままでいると「気持ち悪いとか何か嫌悪感ねぇの、お前」と言われた。

「……それは、ない」
「マジで……」

 何故か驚かれた。奏真としては驚くくらいならいきなり抱きしめてこないで欲しい、とは思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

期待の名探偵の頭脳は、俺に全振りされている。

さんから
BL
高校生探偵後輩×漫画描き先輩 部活の後輩・後生掛 清志郎は、数々の難事件を解決してきた期待の名探偵だ。……だけど高校に入学してから探偵の活動を控えているらしく、本人いわくその理由は俺・指宿 春都にあると言う。 「俺はイブ先輩だけに頼られたいし、そのために可能な限りあなたの傍にいたいんですっ」 いつもそう言って、しょうもないことばかりに推理力を使う後生掛。頭も見た目も良いコイツがどうして俺に執着してるのかが分からなくて──。

君に捧げる、魔法のレシピ〜さえない動画配信者の僕が、クラスの王子様的男子に恋をした結果〜

ryon*
BL
地味でおとなしい性格の高校生 佐藤 理人は、趣味でこっそりお菓子のレシピ動画を公開している人気配信者でありスイーツ研究家。 ある日理人は、幼なじみの太陽に味見用としてクッキーを手渡すところを、大路に見られてしまう。 しかも清雅は大の甘党で、理人が配信している動画の大ファンだったことが判明。 しかし清雅は、理人=推し配信者の『りとる』だとはまったく気付いていなくて……!?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...