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30話
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章生が用意してくれていた弁当は実際美味しかった。奏真は連れてこられたホテルの一室で、一口一口噛みしめながら弁当の味とともにInfinityの曲を、買ったブルーレイを再生して堪能していた。
ブルーレイはさすがに今回のツアーのものではなく前回のものではあったが、今まで知らなかった奏真としてはありがたい。前のもやはり演奏も歌もよかった。何より奏真が好みだと思ったのはベースの演奏だが、ギターボーカルをやっている葵も悪くない。
演奏だけでなく歌いながらのダンスも今回同様前回のコンサートでもあった。ダンスも皆、とても上手かった。奏真には到底できそうもない。
ついベースの人に目がいってしまうが、葵のこともこの中ではもちろん一番よく知っているのもあって目がいく。普段は奏真に対して文句ばかり言ってくる偉そうで小うるさい人だが、画面での葵は別人のように爽やかそうな顔をして踊り、演奏し、そして歌っていた。
弁当を食べ終わってもひたすらブルーレイを見ていた。見終わると満足げにため息つく。
食べ物と走ること以外にも興味が出た。今度街へ出たらCDショップとあとは本屋を回ろうと奏真は思った。そしてその後でチェックしていたスイーツの店といつもの店で食い倒れだとワクワクする。
元々食べ物に対してオタク気質なので、バンドにハマっても色々欲しくなる。ここへやってくる予定である葵にも、初めて早く会いたいと思った。
基本あまり話すタイプではないので上手く伝える言葉は持ち合わせていないが、とにかくバンドがよかったことだけでも伝えたい。
ようやくやって来た葵はいつものようにどこか偉そうだったが、元々そこは奏真にとってどうでもいい。久しぶりだなと言う葵にも「うん」と頷いた。すると何故か少し驚いている様子だった。
「な、何だよ、ご機嫌そうだな」
「うん、会えて嬉しいからな」
「っえっ?」
「会えて嬉しい」
「え……」
別にひそひそ話をしているのではないが葵は聞き直してくる。
「ライブの影響で耳、聴こえなくなってるのか? 会えて嬉しいと言ってるんだ」
そう言っても葵の反応はどこか妙だ。本当に一時的に耳が麻痺しているのかもしれない。奏真は仕方なく葵に近づいた。十センチ近くある身長差のため、背伸びをして葵の耳元に顔を近づけた。さすがにこれなら聞こえるだろうと思いつつ「会えて嬉しい」と再度口にする。するとようやく聞こえたのか葵が無言で奏真を引き離してきた。
「聞こえた?」
「……もう普通に聞こえる……」
「そうか、よかった。……でも何で顔、赤いの? 熱?」
それとも先ほどまでやっていたライブのせいで激しく運動した後のようになっているのかもしれない。ただ、葵は「くそ……お前にカッコ悪いとこ見られたくねぇのに」とよくわからない返事してきた。コンサートのことを言っているのだとしたら十分格好よかったと思うのだがと奏真は首を傾げる。
「……何の話?」
「何でもねぇよ! その、俺に会えて嬉しいんだな?」
「うん。言いたかったし」
「え、な、何を」
「バンド、よかった」
告げるとほんのり微妙な顔された。やはり言葉が足りなかったのかもしれないが、流暢に感動を伝えるには奏真的に限界がある。
そう思っていると葵にソファーへ座るよう促された。言われた通りに座ると葵も座り、「お前がバンド、気に入ってくれるとは思ってもみなかった」と少し驚いたように笑った。何となく嬉しくなり、奏真は頷いた。
「CDとブルーレイも買ったよ」
「マジかよ」
葵がさらに顔を綻ばせる。
「うん。葵、歌、ちゃんと上手いんだな」
「どういう意味だよ……! 当たり前だろ。俺、カッコいいだろうが」
「それはわからないけど……」
見た目を言っているのなら、多分皆格好いいのだろうが、正直その辺はわからない。
「は? でも上手いんだろ?」
「うん」
「円盤買うほどに」
「円盤?」
「CD」
「ああ、それは……葵も歌上手いしすごいなって思ったけど、何よりベースだっけ? あのカンジって人が演奏してる。あれが本当にすごかったから……」
「ベースゥ?」
葵は納得いかないといった何やら複雑そうな顔してくる。偉そうだからもしかしたら自分が一番に褒められないと納得がいかないのかもしれない。ただ奏真は嘘やおべっかは言えないのでそこはどうしようもない。
「はぁ……何であえてベースなんだよ」
「あえてとか言われても……」
聞いていて、いいなぁと思ったからとしか言いようがない。
「お前、カンジが好きとかねぇよな」
「……は?」
「いやだって気になんだろ!」
「……何で。ベースがよかったって言っただけ……」
それだけで人をそういう目線で好きになるなら、奏真は日々美味しいものを作っている人を見る度に好きになることになる。それは大変だろうなと微妙に思っていると、何故か葵がため息つきながら奏真を抱きしめてきた。
「……何」
「何って……。お前さぁ、俺がお前のこと好きだっつったの覚えてる?」
「うん」
いくら日々ぼんやり生きているとはいえ、そこまで忘れっぽくない。
「じゃあ何で俺が今お前を抱きしめてるかわかるだろうが」
「……、好きだから? のわりにため息つかれたけど」
「……淡々と返してくんなよ……。まぁ、そうだ。あと、俺はお前が好きなのに、お前が俺以外のヤツ褒めるからムッとなって、抱きしめたくもなるしため息もつきたくなんだよ」
そう言われてもという気持ちと、ムッとなるとため息はまだしも抱きしめたくなるものなのかという謎に思う気持ちと、他の誰かを褒める度に葵は抱きしめたくなるのかと不思議に思う気持ちになっていると、ますますギュッと抱きしめられた。
されるがままでいると「気持ち悪いとか何か嫌悪感ねぇの、お前」と言われた。
「……それは、ない」
「マジで……」
何故か驚かれた。奏真としては驚くくらいならいきなり抱きしめてこないで欲しい、とは思った。
ブルーレイはさすがに今回のツアーのものではなく前回のものではあったが、今まで知らなかった奏真としてはありがたい。前のもやはり演奏も歌もよかった。何より奏真が好みだと思ったのはベースの演奏だが、ギターボーカルをやっている葵も悪くない。
演奏だけでなく歌いながらのダンスも今回同様前回のコンサートでもあった。ダンスも皆、とても上手かった。奏真には到底できそうもない。
ついベースの人に目がいってしまうが、葵のこともこの中ではもちろん一番よく知っているのもあって目がいく。普段は奏真に対して文句ばかり言ってくる偉そうで小うるさい人だが、画面での葵は別人のように爽やかそうな顔をして踊り、演奏し、そして歌っていた。
弁当を食べ終わってもひたすらブルーレイを見ていた。見終わると満足げにため息つく。
食べ物と走ること以外にも興味が出た。今度街へ出たらCDショップとあとは本屋を回ろうと奏真は思った。そしてその後でチェックしていたスイーツの店といつもの店で食い倒れだとワクワクする。
元々食べ物に対してオタク気質なので、バンドにハマっても色々欲しくなる。ここへやってくる予定である葵にも、初めて早く会いたいと思った。
基本あまり話すタイプではないので上手く伝える言葉は持ち合わせていないが、とにかくバンドがよかったことだけでも伝えたい。
ようやくやって来た葵はいつものようにどこか偉そうだったが、元々そこは奏真にとってどうでもいい。久しぶりだなと言う葵にも「うん」と頷いた。すると何故か少し驚いている様子だった。
「な、何だよ、ご機嫌そうだな」
「うん、会えて嬉しいからな」
「っえっ?」
「会えて嬉しい」
「え……」
別にひそひそ話をしているのではないが葵は聞き直してくる。
「ライブの影響で耳、聴こえなくなってるのか? 会えて嬉しいと言ってるんだ」
そう言っても葵の反応はどこか妙だ。本当に一時的に耳が麻痺しているのかもしれない。奏真は仕方なく葵に近づいた。十センチ近くある身長差のため、背伸びをして葵の耳元に顔を近づけた。さすがにこれなら聞こえるだろうと思いつつ「会えて嬉しい」と再度口にする。するとようやく聞こえたのか葵が無言で奏真を引き離してきた。
「聞こえた?」
「……もう普通に聞こえる……」
「そうか、よかった。……でも何で顔、赤いの? 熱?」
それとも先ほどまでやっていたライブのせいで激しく運動した後のようになっているのかもしれない。ただ、葵は「くそ……お前にカッコ悪いとこ見られたくねぇのに」とよくわからない返事してきた。コンサートのことを言っているのだとしたら十分格好よかったと思うのだがと奏真は首を傾げる。
「……何の話?」
「何でもねぇよ! その、俺に会えて嬉しいんだな?」
「うん。言いたかったし」
「え、な、何を」
「バンド、よかった」
告げるとほんのり微妙な顔された。やはり言葉が足りなかったのかもしれないが、流暢に感動を伝えるには奏真的に限界がある。
そう思っていると葵にソファーへ座るよう促された。言われた通りに座ると葵も座り、「お前がバンド、気に入ってくれるとは思ってもみなかった」と少し驚いたように笑った。何となく嬉しくなり、奏真は頷いた。
「CDとブルーレイも買ったよ」
「マジかよ」
葵がさらに顔を綻ばせる。
「うん。葵、歌、ちゃんと上手いんだな」
「どういう意味だよ……! 当たり前だろ。俺、カッコいいだろうが」
「それはわからないけど……」
見た目を言っているのなら、多分皆格好いいのだろうが、正直その辺はわからない。
「は? でも上手いんだろ?」
「うん」
「円盤買うほどに」
「円盤?」
「CD」
「ああ、それは……葵も歌上手いしすごいなって思ったけど、何よりベースだっけ? あのカンジって人が演奏してる。あれが本当にすごかったから……」
「ベースゥ?」
葵は納得いかないといった何やら複雑そうな顔してくる。偉そうだからもしかしたら自分が一番に褒められないと納得がいかないのかもしれない。ただ奏真は嘘やおべっかは言えないのでそこはどうしようもない。
「はぁ……何であえてベースなんだよ」
「あえてとか言われても……」
聞いていて、いいなぁと思ったからとしか言いようがない。
「お前、カンジが好きとかねぇよな」
「……は?」
「いやだって気になんだろ!」
「……何で。ベースがよかったって言っただけ……」
それだけで人をそういう目線で好きになるなら、奏真は日々美味しいものを作っている人を見る度に好きになることになる。それは大変だろうなと微妙に思っていると、何故か葵がため息つきながら奏真を抱きしめてきた。
「……何」
「何って……。お前さぁ、俺がお前のこと好きだっつったの覚えてる?」
「うん」
いくら日々ぼんやり生きているとはいえ、そこまで忘れっぽくない。
「じゃあ何で俺が今お前を抱きしめてるかわかるだろうが」
「……、好きだから? のわりにため息つかれたけど」
「……淡々と返してくんなよ……。まぁ、そうだ。あと、俺はお前が好きなのに、お前が俺以外のヤツ褒めるからムッとなって、抱きしめたくもなるしため息もつきたくなんだよ」
そう言われてもという気持ちと、ムッとなるとため息はまだしも抱きしめたくなるものなのかという謎に思う気持ちと、他の誰かを褒める度に葵は抱きしめたくなるのかと不思議に思う気持ちになっていると、ますますギュッと抱きしめられた。
されるがままでいると「気持ち悪いとか何か嫌悪感ねぇの、お前」と言われた。
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