ドラマのような恋を

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35話

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 前回は食べ過ぎで横になっていた奏真が今日は浸かりすぎで横になっている。葵はため息と舌打ちを同時にしたいような気分で冷たく濡らしたタオルで奏真の足をくるんだ後、同じく濡らしたタオルを額に置いた。

「……ありが……」
「いい。マシになるまで喋んな」

 体は冷やさないほうがいいが、かといって暖めても体内の熱が逃げないため、バスタオルだけかけている。正直、葵としてはあまり奏真を見られない。

 風呂一緒に入ってたっつーのにバスタオル一枚かかってる状況に意識してんじゃねーよ俺。ベッドに横たわってんのはのぼせて弱ってるクソ馬鹿男だろーが……!

 奏真に対して呆れつつ自分に対しても微妙になりながら、葵はようやく自分も腰にタオルを巻いただけの状態から服を着た。どのみち弱っていなくとも何もできない。セックスどころか、キスすら嫌だと言われた。
 慌てて奏真を風呂から出し、ベッドに横たわらせていた。そして今、先ほど言われた「絶対嫌だ」が葵の心をぶん殴ってくる。

 何なのあいつ? 好きだって言われ触れられても気持ち悪がんねーのに、風呂だって一緒に入るってのに、平凡な顔だってのに……!

 ほんの少しでも期待させておきながら、一気に叩き落としてくる。葵はのぼせるどころか血の気が引きそうな気分でソファーへふらふらと腰を下ろした。
 何となく、少しはこちらに傾くまでもいかずともちらりと振り向く程度には気持ちの変化があるように思えた。だが結局変わりないのだ。今まで恋愛で挫折したことがない葵にとって、奏真はそびえ立つ山過ぎた。
 恋愛でも仕事でも、高い山だろうが絶対に道はあった。例え険しくとも難しくとも何とかその道を見つけ、一歩一歩歩いていれば気づけば山頂へたどり着けた。
 だが奏真はもしかしたら昔小さな頃読んだことのある童話に出てきた魔法の山なのかもしれない。全長が計り知れない長さだけでなく、全体がツルツル滑る氷や燃え盛る炎、ことごとく尖った針でできている山だ。誰も登れない山。

「……無理だろそれ……」

 諦めたほうが早いし楽だ。努力するだけ無駄だ。そもそも何故平凡極まりない、しかも男にこの自分が努力しなければならないのだ。何もしなくとも、いつも向こうから来てくれるというのに、何故。無駄だし無理だ。
 思い切りため息つきかけたところで、だが葵は舌打ちした。

 ざけんな、無理じゃねーんだよ。この蒼井焔が無理なわけあるか。コネも金も何もねぇとこから見た目と実力でここまで登ってきてんだぞ。ゼロだったコネも金も自分で作ってきたんだ。ざけんな。

 だいたい、童話の誰もが登れないはずの山も主人公は登った。頭と自分が作った縁を駆使して登り、捕らわれの姫を助けていた。

 ……俺はまぁ頭はねーけど。

 それでも登れないはずない。童話に登場するなら自分は絶対主人公のはずだ。今まで出たドラマでも大抵主人公だったし、脇役の場合は年齢的に合わなかっただけだ。その場合でも主人公を食う勢いで演じてきた。それだけの実力で、自分が持ち合わせているものだけでなく努力の積み重ねで、勝ち取ってきた。
 そんな主人公の自分がここで挫折するのはおかしい。
 一旦離れていたが、葵は奏真にまた近づいて様子を窺う。先ほどよりは楽そうに見えてとりあえずホッとした。

「っち。このクソが」
「……ほんと何で俺のこと好きなの……クソばかり言うくせに……」

 目元が額に乗せたタオルで見えないまま、ぼそりとした声が聞こえてきた。

「あぁ? つか、マシになるまで喋んなっつっただろが」
「……マシになったから言ってんだけど……」
「……なら、いい。じゃあとりあえず先に水飲め」

 また離れ、葵は冷蔵庫へミネラルウォーターを取りに行った。そしてキャップを外しながらまた奏真に近づく。

「……別に本気でクソだと思ってねぇ。好きだっつってんだろが……」

 ぼそりと呟きながら水を差し出す。奏真はゆっくりと体を起こしながら受け取ってきた。その際にバスタオルがずれて葵としては目のやり場に困る。
 水を何口か飲むと「……ありがとう」と呟きながら奏真はまた横になり、自らタオルを額に乗せた。やはりまだ具合がよくないのかと葵は思ったが、先ほどと違って様子は楽そうではある。

「……、……だったらそれらしくすればいいだろ」

 少ししてまた呟いてきた奏真だが、目が隠れているだけでなく元々基本的に淡々と話してくるせいで感情が読めない。

「は? それらしくって何だよ」

 キスしていいか聞いても嫌だと言ってくる相手にそれらしくとは、と葵はムッとした顔を向けた。

「……そんなの……知らない」
「はぁっ?」
「だいたい、俺は恋愛に興味ないし……誰かを好きになった経験すらない。わかるわけない」

 だったらどうしろと。

 そう思った後に葵はそれを口にするのを止めた。
 本当に何もわからないのだ。奏真は愛想もないし淡々としているが、適当に言っているわけではないと葵は思ったところだった。
 葵が今までつき合ってきた相手は、誰かとつき合うことに慣れていた。だから葵も気楽につき合えた。

「クソ。あー、いや、今のはお前に言ったんじゃなくてだな、……つか口、悪いんだよ! 仕方ねぇだろが! これが自然なんだよ!」
「逆ギレ……」
「うるせぇ……つかな、優しい話し方もできるけどそれ、ほんとの俺じゃねえから。そんなのでお前に好意持たれても嬉しくねぇの」
「……だからクソばかり言うあんたを好きになれ、と?」
「……いや……それは、ないなとは……俺も思うけ、ど、……、……ああもう、うぜぇ!」

 奏真と接していると調子が狂ってばかりだ。葵は横になっている奏真に覆い被さった。
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